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「煙で視界を遮ったのにも関わらず魔力の残滓を読み取りわしをとらえるとは、流石はわしの弟子じゃ」
「話をそらさないで下さい」
「はい」
トワ先生は研究室の天井から吊るされていた。
「お姉様、もういいじゃありませんの」
「仕方ないなあ」
先生を降ろしてあげる。
「全く、酷い目にあったわい」
「誰のせいですか、誰の」
「だって周りの奴らが皆死んでいくのが寂しかったんじゃ。時流の外側にいるわしにとって人の寿命はなんとも短すぎる」
見た目は幼女でも先生は五百歳だ。今までに何度も辛いことがあったのだろうが……
「でもそれ、私達もそうなりますよね」
先生は口笛が得意ではないようだ。
「お姉様と永遠に共に過ごせるなんて素敵ですわ」
「魔法は解かなくてもいいです」
「お主、さては妹に弱いな?」
「えふん。さっきの消える魔法を教えてください」
「ほおーん?」
先生はしばらく不快な笑みをこちらに向けていたが、私が天井に吊るす魔法陣を展開すると快く転移の魔法を教えてくれることになった。
「お主の姉、怖いのう」
「無表情で怒るところも素敵ですわお姉様」
先生が指を振ると研究室の中心に机と椅子が現れ、お茶もいれられる。机は普段から置いておくと手狭になるのでしまっていたらしい。
先生は再度指を振り、紙と羽をを出して説明を始める。
「して、転移魔法についてじゃが。お主ら、この点と点を結ぶ最短距離は分かるか?」
離れた二つの点が描かれた紙を受け取り、私はそれらを結ぶ直線を描いた。曲がらない道が最短距離になるのは当然だ。先生は満足気に頷き、同じものを次はノアに渡す。
「こうですわ」
直線を書くのだろうと思っていた私は真後ろから叩かれた時のような衝撃を覚えた。
ノアは、点と点がちょうど重なるように紙を折り曲げてしまったのだ。
「これで、距離は無くなりますわよね?」
「うむ、流石じゃな。リリンの解答は模範的なもので、大抵の人はそう答えるじゃろう。だが、転移魔法に必要なのはノアと同じ発想じゃ」
つまり空間と空間を重ねて、層をずれるような考え方なのか。ちょっと悔しい。
「むっとするお姉様も可愛いですわ」
「リリンにも伝わったようじゃの。こうして空間を操作する魔法を昔は空間魔法と呼び、魔法体系の一つとして扱われておった。転移魔法はその一部にすぎんよ」
昔と今の魔法の考え方は相当違うみたいだ。先生は懐かしむような顔で語る。
「昔は良かったのう。最近の若い者ときたら属性魔法ばかりを優遇し、それ以外を全て無属性魔法とまとめてぞんざいに扱っておる」
ノアは隣で何か魔法を唱えたと思うと、視界が瞬いて私はノアの膝の上にいた。
「だいたい分かりましたわ。他人も転移させられますのね」
「ノア、驚くからやめてね。あと服の下から手を突っ込んでお腹をまさぐるのもやめてね」
「確かに悪用されれば危険な魔法も多かったが、皆一様に廃れさせてしまうのはいかがなものじゃ? 研究すらせんというのはあまりにも酷い。まったく、嘆かわしい……」
「ノア、お胸ならいいとも言ってないよ」
「ならどこをまさぐればいいんですの」
「人前でまさぐるのはやめて欲しいかな」
「ゆえに!」
何やらぶつぶつ言っていた先生が突然叫んで、私達を指さす。
「お主らの力が必要なのじゃ。お主らにわしの知りうる全てを伝えることで、古来の魔法体系を廃れさせずに存続させる」
「努力はします、面白そうですし。でも、先生は死なないならいいんじゃないですか?」
「嫌じゃ。わしはお主らに今の仕事を継いで隠居生活がしたい」
わしの代わりはいないって自分で言ってたのに。
「まあそれはおいおい考えていくとして、どうじゃ。今日はどうせなら転移魔法で寮に戻ってみるのもいいじゃろう。それをもって今日の授業は終わりとする」
「緩いんですね」
「そんなことを言えるのはお主らだけじゃ。あとそうじゃの、この部屋には自由に入れるようにしておくから、遊びにでも避難でも何時でもきてくつろぐがいいぞ」
「ありがとうございます」
お礼を言って、私達はそれぞれ転移魔法で寮に戻る。考え方さえ分かっていれば、魔法はかなり自由に再現可能なのだ。
今日の授業は終わったが、まだ昼前だ。昼食は食堂に行くかここで作るのか聞こうと隣を見たが、誰もいない。慌てて周囲を見回すと、足元から声が聞こえてきた。
「お姉様の小さなおみ足に踏まれるこの感覚……たまりませんわっ」
「どうして私の下にいるの?」
「転移しました」
「先生もまさか転移魔法をこんなことに使われるとは思わなかっただろうね」
その後私達の間で転移魔法を悪用しないという決まりができたことは言うまでもない。




