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「そう言えば、盗んだ下着はどうしてるの?」
「劣化しないように時魔法で保存してから使用しておりますわ」
「言いたいことが多すぎるよ」
私達は今、学長に教えてもらった私達の専属教員の研究室に向かっている。寮で目覚めるのは新鮮だったし、ノアの朝ごはんも美味しかった。
朝から私の大好物のスイーツを作ってくれたのでつい下着泥棒の件は許してしまったのは内緒だ。
「ほらお姉様、着きましたわ」
「ちょっと緊張するね」
特別研究室と書かれた扉を開くと、爽やかな香りが漂ってきた。
「わあ……」
ブラインドの隙間から射し込む日の光に照らされた室内は薄暗く、壁一面に魔法書や様々な薬品が所狭しと並べられている。
奥の一角にはここの主のものだろうか、大量の賞状や杯が無造作に置かれており、名誉には興味が無い人なのだろうと分かった。
しかし、肝心の先生がいない。
何も無くてもしばらくは見ていられる程雰囲気の良い室内だが、初日から不在というのは不安になってくる。
「素敵なお部屋ですわね」
「うん、物が多いのに調和してる……芸術みたい」
「薄暗い部屋だとお姉様の絶対領域が五倍魅力的に見えますわ」
「あんまり人前でスカートめくらないでね?」
さて、どうしよう。学長にはこの部屋しか教えられていないし、先生を探そうにも名前も顔も分からない。
まさか終業時間までここで何もせず過ごすことになるのかと思い始めた頃、部屋の扉が開いた。
「いやはや、すまんのう。演習場を直しに行ったら予想以上にぶっ壊れておってな」
「……幼女?」
「幼女ですわ」
「お主らも人のこと言えんじゃろうが」
入ってきたのは私達と同じぐらいの背丈の女の子だった。透き通るような銀色の髪と角度によって色の変わる目は私達と似た雰囲気を感じる。
「ふむ、二人のことは既に聞いておるぞ。わしはトワ・プロムナードと言う。トワ先生で構わんよ」
「トワ先生、その家名は……」
「うむ、わしはお主らのご先祖さまじゃ。敬うとよい」
トワ先生は私達のご先祖さまだったみたいだ。それなら、雰囲気が似ていたことも納得できる。
「いや、トワ先生って何歳なの? 私の記憶ではそんな名前の人は私から見て六親等以内にはいなかったはずだけど」
「うむ、わしは十七歳じゃぞ」
「見た目も中身も無理があるよ」
「トワ先生は五百歳ちょっとですわ、お姉様」
「む、わしの年齢を知るか。もしやおとぎ話でも読んだか?」
「そんなところですわ」
ノアがさらりと答えたということは、トワ先生も物語の登場人物なのだろう。
「それはさておき、お主らは何を学びにここに来た? わしの子孫であるならば、魔法など学院に入らずとも存分に振るえるであろう」
トワ先生の目が一気に鋭くなる。私達を試しているんだと直感した。
確かに、私達にはここでの一般課程は必要ないだろう。私達が軽々と満点を取った入試問題の一部には卒業生ですら解けない程の問題がいくつか混ざっていたとノアに聞いた。
「お姉様と子を成す魔法を学びに来ましたの」
「ほう! なかなか面白いことを考えておるのう。わしも協力するから記録を取らせてくれ」
「ありがとうございます。勿論構いませんわ」
ん? 今何か悪寒が……
……しかし、私の目的は一般課程ではない。魔法研究の最高峰であるここでしか分からないことを知るために来たのだ。
「時の魔法の解き方について」
「ああ、それは無理じゃ」
「えっ」
こともなげに言われた。
「語弊があったか。お主らにかかっている時の魔法を解くことは不可能じゃ」
「どうしてですか?」
「前提として、時魔法はかけた本人にしか解くことはできぬ。これは対象が本来の時の流れから外れるためじゃな」
「なら、私なら解けるんじゃ……」
「無理じゃ。それはお主のかけた魔法じゃないからの」
「私の魔法じゃない?」
なら一体誰の魔法なんだろう。
「お主は魔導書を見ただろう。『時の魔法』じゃったか」
「はい、見ました」
「あれは、わしに近しい才を持つ者の前にしか現れぬ。そして、本には細工がされていての。開いた者に時魔法をかけるようにしたんじゃ」
どうしてそんなことを。
「後継者探しじゃ。百を超えた辺りからこの仕事が面倒になってきておったんじゃがな、わしに迫る能力を持った後任を立てる必要があったんじゃ」
「つまり、才能を持った子孫を探すためにあの本を仕掛けたんですか?」
「その通り。見事に才能も技術も申し分無い子孫がかかってくれおったわ」
そう言って先生は笑う。本を開いたのは私の不注意だけど、この人のことは殴りたい。私の今までの苦労はなんだったんだ。
「まあ、そう案ずるな。もう五百年も経ってしまったんじゃ、今更他の誰にもわしの代わりは務まらんよ」
「じゃあ本当にかかり損じゃないですか」
「そんなことは断じて無い。魔法を研究するにあたり、時間が多すぎるなんてことはありえんからの」
確かに、そうかもしれないが……
「詫びと言ってはなんじゃが、わしの五百年をお主らに伝授してやろう。学長へは話を通しておく、三年とは言わず十年でも二十年でもわしの元で学ぶとよいぞ」
わしらには時間がたっぷりあるからの、と先生は笑った。確かに、魅力的な提案だ。あの本を始めとして私の理解の外にあったことを沢山知っているであろう先生から学ぶことは数え切れないほどあるだろう。
「ノア、一緒にいてくれる?」
「もちろんですわ。私がお姉様から離れることなんてありませんわ」
「ありがとう。では先生、妹ともどもよろしくお願いします」
「うむ!」
あっ、そう言えば。
「あの本に時の魔法をしかけたのって先生なんですよね?」
「うむ、そうじゃぞ?」
「なら、先生なら私達にかかった魔法が解けるんじゃ……」
「さらばっ」
先生はぼふんと煙を出して消えていった。あの魔法は後で教えてもらおう。




