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幼い頃の出来事だ。まだダンスも習っていない頃の私は、早く大人になりたかった。
幼稚舎の子達と比べても体の小さい方で、みんなから小さくて可愛いと言われた私が小さいことに劣等感を覚えるのに、そう時間はかからなかった。
それだけならありふれた話なのだろうが、私の生家であるプロムナード家は少々特殊な家だ。
ある日のこと、家で二人でかくれんぼをしていた私は書庫に隠れることにした。
隠れ場所を物色している途中で、端の方の本棚のうちの一冊がきちんとしまわれてない事に気づいて、私はなんとはなしにその本を押し込んだ。
すると、音もなく本棚が扉のように開き、地下へと続く階段が現れたのだ。
私はすぐにこれをノアに伝えた。私達はずっとなにをするにも常に二人だったからだ。
かくれんぼは中断し、二人で手を繋いで地下へ降りていく。
薄暗く乾燥した階段は三十を数えた所で終わり、目の前には鉄の扉が佇んでいた。
重そうな扉は二人の力でもすんなりと開き、飛び込んできた景色は今まで見たこともないような分厚い本の山と古びた机だった。
ノアは戻ろうと言ったが、私は偶然見えた背表紙に書かれた表題に心を奪われた。
『時の魔法』と書かれたその本を手に取り、私は頁をめくっていく。この本には、体の時を進め成長させる方法が記述されているかもしれない。そう思った。
はたして、その願望とも言える予想は当たった。数百もの項目の中から時を進める魔法を見つけた私は、読めるはずもない古代文字の内容がすらすらと頭に入っていたことなど気にかけていなかった。
そういえば、ノアはこの時ずっと私の後ろで髪の毛に顔を埋めて吸っていた。ノアはこの頃から既に変態だった。
普通の子供であれば時の魔法を見つけたところで使えるわけがないのだが、良くも悪くも私にはそれができる魔力と技術が備わってしまっていた。
プロムナード家は、天才の家系らしい。だからこそ、普段は軽薄な父も危険な魔法書を私達に見せないように地下に隠していたのだろう。
しかし、私は見つけてしまった。
原理も理解していない幼い子供が見よう見まねで発動させた魔法がちゃんと発動するわけもなく、魔法は意図しない形で発動した。
空中に描いた魔法陣からは黒い光が溢れ、瞬く間にそれは視界の全てを覆い、世界から色が失われた。
唯一色を失わなかった私達は急いで地下から書庫へ戻り、部屋の外を覗いた。
とんでもないことをしてしまった私にお父さんが慌ててこちらに来る光景が見えると思っていたが、見えた光景は予想とずっと違うものだった。
色を失った廊下では、白黒のメイドが洗濯物を運んでいる体勢のまま止まっていたのだ。
冗談だと思いたかった。私へのおしおきの一環なのだと。しかし、呼んでも叩いてもメイドは返事をしてくれなかった。
執務室で何かを書きながら止まっているお父さんを見てようやく私がしたことの重大さを実感した。
私は世界を止めてしまったのだ。
頭の中が真っ白になり、ずっと隣にいてくれたノアに抱きついて泣きじゃくった。
ノアは何も言わずただ私を抱きしめてくれて、私が泣き止むと涙をなめ取ってくれた。
この時もノアはいつも通りだった。物語でこの状況が何とかなることを知っていたのだろう。
泣き疲れた私は眠ってしまっていたようで、目を覚ますと私はノアと共にベッドの上にいた。世界の色も、戻ってきていた。
メイドがおやつを持ってきてくれるのを見て、また泣きそうになってしまったのを覚えている。
私はこれに懲りて、二度と身長を伸ばしたいと思うことはなくなった。心に傷をおってしまったのだろう。
それからしばらくは何事もなく生活していたが、数年経った後にあることに気づいた。
私達の体がずっと変わらないままなのだ。
不審に思ったお父さんはすぐに私達を医者に見せ、原因は魔法であることが分かった。更に詳しく調べたところ、私達はあの時からずっと時の流れに取り残されてしまっているらしい。
私達は再びあの部屋を訪れ魔法書を開いたが、あの時読めた文字は今度は何も読めなくなっていた。
お父さんは私達をお城に連れて行き偉い魔法使いの人にみせたが、その人にも私達のことはどうにもできなかった。しかし、お城で魔法研究の最高峰である学院の話を聞くことができた。
あの頃から、私は魔法の勉強に明け暮れた。学院に絶対入学するために、私達の呪いを解くために。
私が今までずっと潰れなかったのは、ノアの存在によるところが大きい。幼い頃から常に変わらないで隣にいてくれるノアは、私の心の支えだ。
……でも、それとこれとは話が別である。
「お姉様! 後生ですわ! もう二度と下着を盗んだりしませんから!」
「だめ、おしおきだよ」
「一週間お風呂別々の刑だけは勘弁ですわあああ!!」




