4
「下着泥棒の件は後でまた話すとして、私が知りたいのはノアの知識についてだよ。ノア、私の知らないことをたくさん知ってるでしょ?」
「ああ、そっちですの。それは私が転生者だからですわね」
「転生者?」
「元の私は別の世界で死んで、お姉様の妹として生まれ変わったのが今の私ですわ」
あっけらかんとした顔でとんでもないことを教えてくれた。生まれ変わりなんて信じられないけど、ノアがこういう時に嘘をつかないことは知っている。
「なるほど、それで時々よく分からないことを言ってたんだ」
「ちなみに、ここは私が前世プレイしていた乙女ゲームの世界ですわ」
「ごめん、よく分からない」
詳しく聞くと、どうやらここはノアが前世見た創作物語の世界……ということらしい。ノアが主人公で、私が悪役令嬢だと言った。
「今日話した三人の男子学生、覚えております?」
「うん、覚えてるよ」
ノアに舌打ちされてた印象しか残ってないけど。
「基本的には彼らと私が恋愛する話ですわ」
「えっ、ならあんなに邪険にしたらだめじゃない?」
「構いませんわ。私が目指しているのはお姉様ルートですもの」
どうやら彼らの他に私とノアが恋愛する話もあるらしく、それを目指すらしい。
「お姉様と恋愛するにあたって、男は邪魔な存在ですわ」
「えっと、悪役令嬢っていうのは?」
「その名の通り、悪役の令嬢ですわ。恋敵ですわね」
「私がそれなの?」
今のところ、誰かと恋愛する予定はないのだが。
「はい。お姉様は私が選んだ男性との恋愛をことある事に邪魔してくるんですの」
「物語の私、酷いお姉さんだ」
「でもそれは私への愛故になのですわ! お姉様は他の人に私を取られたくなくて、ついつい邪魔をしてしまいますの」
突然ノアが早口になった。
「端々に見え隠れする私への愛情と過去の自責に押しつぶされるお姉様のストーリーは涙無しには語れませんのよ?」
「のよ? って言われても」
「誰もが思うであろうお姉様を救いたいという願いを攻略ルートの一つとして実装したメーカーは天才ですわ。ラストのイベントスチルで私とお姉様が抱き合うシーンを見た時の達成感と充足感は何事にも変え難い感動を呼びますわ」
「うん、そうなんだ……」
お茶が美味しいな。実家から茶葉をたくさん持ってきてよかった。
「というわけで!」
「わっ、なに?」
「お姉様、私と恋愛いたしましょう?」
ノアは微笑んで手を差し伸べてくる。その手を取るのは構わないが……
「ノアとはずっと一緒だから、今更恋とか愛とか気にしなくてもいいんじゃないかな?」
恋愛の到達点は家族なのだから、既に家族の私達がわざわざやることでもないと思う。
「違いますの! 家族と恋人には下着と水着程の差がありますわ!」
ノアの中ではかなり違うらしい。
「私はお姉様とデートもしたいし、キスもしたいし、あわよくばえっちなこともしたいんですわ」
「普段のはえっちなことじゃなかったの……?」
これ以上何をされるというのだろう。でも確かに家族でデートやキスはしないかもしれない。
それに、私と恋愛することでノアが喜んでくれるならこれ以上のことはないだろう。
「分かった。私、ノアと恋愛するよ」
「やったー!」
ノアに抱きしめられた。そんなに嬉しかったのだろうか。私はノアの頭を撫でながら、気になっていることを聞くことにした。
「私達が恋愛する物語の結末はどんな感じなの?」
「そうですわね。お姉様の知りたい結論から言いますと、呪いは解けませんわ」
「そっか……」
「落胆されるお姉様はひとまわり小さく見えて可愛いですわ。呪いは解けないと言っても幸せな結末になりますし、そもそも物語のお姉様と今のお姉様はかなり違いますのよ?」
「と言うと?」
「まず、物語のお姉様は魔法が上手じゃありませんわ。全力でも、あの的を撃ち抜くので精一杯というところですわね」
物語の私と今の私はかなり違うという言葉は本当のようだ。話を聞いていくとどんどん違う所が出てきた。
「物語のお姉様は今のお姉様より能力が全体的に低いんですの。勉強も魔法も、人一倍頑張ってやっと私にギリギリ追いつけない程度でしたわ」
今の私が天才なのはノアが転生者であることに関係しているかもしれない、とのこと。
「物語のお姉様は自分に自信がなく、ずっと自身を責めておりました。お姉様と違って、少し崩したら壊れてしまうほどでしたのよ」
そこも可愛い所ですわ、とノアは言う。無敵か。
「ともかく、お姉様とお姉様はこんなに違いますわ。今のお姉様ならきっと簡単に呪いを解く方法を見つけてしまいます」
「そうなんだ、よかった」
「私は今のままがいいと言っておりますのに……」
呪いの話をするとノアはいつもそう言う。私に負担をかけないための方便だということは分かっていても、そのおかげで今まで潰れずに生きてこられたのは事実だ。
ノアは、変態だけど優しい妹なのだ。
「いいです、お姉様。幼さとは輝きなのですわ。老若男女の中で幼女のみが持ちうる一瞬の輝きは珠玉のもので、その時を逃せば二度と手に入らないものですの。お姉様はみすみすその輝きを逃がしてしまおうと言っているのと同じですわ。私が求めてやまないのは……」
やっぱりただの変態だったかもしれない。




