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学長室からの帰り道、教会の前を通るとヴァイオリンの音色が流れてきた。
それを聴いていると不思議な気持ちになり、自然と足が教会に吸い寄せられていく。
「お姉様、少し聴いていきますの?」
「うん、綺麗だなと思って」
どうやらノアも夢見心地なようで、私達は手を繋いで教会に入っていった。
ステンドグラスから射し込む夕日が照らし出す教会は荘厳な雰囲気に包まれており、その片隅でヴァイオリンを弾いている男子学生が佇んでいた。
「おや……聴かれてしまったか。この時間ならもう誰もいないと思っていたんだけど」
男子学生は儚げな雰囲気を纏っており、風に吹かれたら飛んでいきそうだ。喋りかけられた私達ははっとして辺りを見回す。
「そうか、君達もまたかかってしまったんだね。なんとか抑えられるように努力はしているんだけど……」
「どういうことですか?」
「僕の旋律には魅了の効果があるみたいなんだ。それでよく通る人が魅了されてしまうから人のいない時を選んで弾いていたんだよ」
「チッ……お姉様、帰りますわよ」
「今絶対舌打ちしたよね」
「あはは、ごめんね。これからはまた別の場所で弾くことにするよ……」
なぜかまたノアの機嫌が悪くなってしまった。帰ったらどうして機嫌が悪いのか聞くことにしよう。
学生は皆、寮で暮らすことになっている。部屋には家格による違いはないが、まあまあ広いので裕福な人は大抵家から使用人を連れてきたりしている。
私達は二人で一部屋を使い、使用人も連れてこないことに決めていた。ノア曰く、二人きりなら色々できるらしい。
何をする気なのかは知らないが、二人でよかったと思う。
「あああお姉様の少し汗ばんだ鎖骨素晴らしいですわあああ!」
こんな主人の姿は、使用人の人も見たくないだろう。本当に。
ノアが言うには私は湿ることによって魅力が三倍になるらしいのだが、正直よく分からない。お風呂中とはまた違うらしい。
「……とりあえず、お風呂入ろう?」
「待って下さいお姉様、もう少しだけ堪能させて下さい!」
胸に顔をうずめて吸われてしまった。ノアが幸せそうだから悪い気はしないのだが、なんだか恥ずかしい。
結局お風呂に入ったのはしばらくしてからだった。
「ノアって、お風呂の時は普通だよね」
「お風呂場は危ないですし、それに何かこう……違うんですの」
「違う?」
「はい。全裸と靴下には天と地の差がありますわ」
「そうなんだ……それで、その被ってるのは?」
「お姉様の脱ぎたて白タイツですわ」
「汚いよ、どうして被っちゃったの」
「そこに蒸れたタイツがあったからですわ」
「そう……怖いから恍惚の表情で話さないでね」
ノアは私の汗や涙も遠慮なく舐めてくるから心配だ。『お姉様の分泌液はおしなべて聖水なのですわ!』と力説されてからは夜のお花摘みも一人で行くようにした。
家事はやること別に分担でこなすことになっている。料理は私があまり得意ではないので
「あまり得意ではない……? 家のキッチンを爆破しておいてあまり得意ではないと……?」
あまり得意ではないのでノアにしてもらい、洗濯や掃除はノアだと一向に進まないので私がやることにした。
「仕方ありませんわよね。お姉様の下着や抜け毛を前にして平静を保てるノアはこの世に一人もおりませんわ」
「一人ぐらいはいて欲しかったな」
正直、洗濯や掃除に関しては魔法で一発なので私だけ負担が少ないと思う。
「だから、私も一緒に料理するよ」
「お姉様、包丁で刺されたらいくら私でも怪我をしてしまいますわ」
「刺さないよ?」
キッチンを追い出された。なんでだろう。
しばらくすると、美味しそうな匂いが部屋に漂ってきた。この匂いは実家から送ってもらった食材で作った私の好物だろう。
私は魔法でお茶をいれて、食器をテーブルに並べておく。
「ありがとうございます、お姉様。好物の香りでワクワクしている姿も素敵ですわ」
ノアが料理を並べてくれて、私達は手を合わせてから食べ始める。手を合わせるのは元々無かった習慣だが、ノアの真似をしているうちに慣れてしまった。
ノアは私の知らないことをたくさん知っている。産まれてからずっと一緒にいるのに、一体いつ覚えたのだろうか。
今日の昼のこともあるし、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか、と思う。
だから、私はこう切り出した。
「ノア、何か私に隠してることってない?」
「……な、何もありませんわ?」
明らかに目が泳いでいる。嘘が下手すぎやしないだろうか。
「大事なことだよ。学院に入れる年になったんだし、そろそろノアの秘密を教えて欲しいと思ったの」
「うう、お姉様の勘は鋭いですわ。分かりました、お話しましょう」
よかった、話してくれるみたいだ。ノアは一拍置いて、普段と違う真面目な表情で話し始める。
「……昔から定期的に発生していたお姉様の下着がなくなる事件、あれの犯人は全部私ですわ」
「うーん、それじゃないかな」




