野菜も大事(6)
カルダールがいい感じにあちこちの根回しや新しい冬の副業(?)に熱心な農家や新規素材を作りたがる工房を見つけてくれたお陰で、冬が終わる前に温室栽培の試行が大々的に王都近辺の農家で始められた。
大したもんだね〜。
私は適当に報告を受けつつ、ビニールシート製造の工房で問題があった時に魔法陣の修正とか手伝う程度で済んでしまった。
ちなみに日本でよく問題だった燃えるゴミと燃えないゴミの分別は、基本的に物は使い尽くすこちらの世界では問題にもならなかった。
ちょっと穴が開いた時に修理に使える粘着テープをビニールシートの素材で作って販売し、それではどうしようもないぐらい破けたら小さいサイズに切って雨合羽やテーブルクロス的な使い方をし、更にそれにも使えなくなったら工房に持って来たら安値とは言え買い取って複製時の素材として使うと言う流れが出来ていた。
実際、素材的には古くてもボロくても新品とほぼ同じだからね。
樹脂よりも魔力効率が良いぐらいだった。
と言う事で、今日は最初の温室栽培農家であるフィルスビのところに来て、普通に温室だけで作った野菜を見て回って試食をする予定だったのだが……。
「お前のせいだな!!!!」
5棟も作られた温室の中を見て回っていたら、その一つから出て来た時に突然ローブを着た中年男にイチャモンを付けられたのだ。
「はぁ?
せいだって何が?」
知らんぞこんなおっさん。
「キルズナ魔術師。
今まで散々温室栽培の為の魔術なんて自分には相応しくない、嫌で嫌でしょうがないがレグナ侯爵の依頼だからしょうがないから来てやっているんだ、感謝しろと仰っていたじゃないですか。
新しく温室を複数比較的安価に建てられる様になった事で、無理やり栽培魔術を使わなくても毎日の野菜を提供できる様になりました。ですから貴殿の助けがなくても大丈夫ですと侯爵にお伝えしましたから、あちらに戻れる様になったのでしょう?
何を怒っておらっしゃるんです?」
フィルスビが慇懃だが冷たい声音でイチャモンを付けて来たおっさんに対応する。
あ〜。
この人が、性格が悪すぎて温室に隔離されてた魔術師ね。
温室栽培に必要ないって叩き返されたら、『じゃあクビね』とでも言われたのかな?
「お前が余計なことをしたから、私が不要だなんて言われることになったんだ!!」
相変わらず私の方を睨みつけながらおっさんががなりたてる。
なんでフィルスビじゃなくて私に文句を言うんだろ?
確かに、温室栽培の仕組みを変えたのは私のインプットが大きいとは思うけど、直接その侯爵とやらに送り返したのはフィルスビじゃない?
まあ、魔術師が一般の農家を襲いかかったりしたら問題だ。ここで更に逆上して攻撃してきたら困るんで、私を標的にするのは良いけどさ。
と言うか、良くはない。
急いで脳裏で防御結界系の術を探しながら、時間稼ぎをしようと口を開く。
「温室栽培で魔術を使うなんて、不本意だと散々文句を言っていたと聞きましたし、侯爵家に戻って魔術師としてそちらで働くなり、この際独立して魔術院での依頼を受けたらどうですか?
最近はお手頃な値段の魔道具が多数作られるようになったせいで魔石の需要が供給を大幅に上回るようになってきたらしくて、魔石の充填だけでも十分に食べていけるらしいですよ?
もしくはそれこそ栽培魔術の魔法陣を特許登録したらそれもお金になるかもだし」
魔道具を使うことで傲慢で煩い魔術師と付き合わなくて済むとなれば、ちょっとぐらい高くても喜んで買う農家は多いんじゃないかな。
と言うか、そう言う魔道具ができたら農業ギルドが大量に買って農家に貸出サービスでも始めそう。
「煩い、うるさい、五月蝿い〜〜!!!
私にそんな魔術学院を卒業したてな新米の様な仕事をやれなんて、馬鹿にしているのか!!」
おっさんがなんか妙にニュアンスを変えて同じ言葉を叫びながら頭を掻き毟った。
「経験豊かなら色々と仕事の口はあるでしょう。
魔術院はいつでも依頼を受けてくれる人を探している様ですよ?」
あそこに顔を出すと、いつも依頼を振り分ける部署で忙しそうにあちこちの魔術師に連絡を取っているし、うっかり廊下で会ったりすると『どうですか、一つ?!』と誤解を招きそうな言葉で依頼を受けさせようと絡まれるので、相変わらず魔術師への依頼は受けてくれる魔術師より多い筈。
「魔石の充填ばかり頼んできおって、あいつらは馬鹿にしている!!
私の有能さに恐れをなして、依頼を受けて貢献度を上げるのを防ごうとしているんだ!!」
ギリっとおっさんが更にこっちを睨んできた。
あ〜。
依頼先で依頼主に変な言い掛かりでも付けて、クレームが来たのかな。
あんだけ忙しそうなのに依頼先として外されるなんて、何をやったんだか。
まあでも、忙しいからこそやらかした魔術師の後始末に謝罪しに行く暇なんてないのか。
「依頼斡旋の部署の人たちって忙しくて大変なんですよ〜。
ちゃんと依頼の説明を聞いて丁寧に依頼先と対応しますって約束して一度ケーキでも持っていけば、また依頼が来る様になるかも?」
心を入れ替えればね。
思わず以前色々と面倒で尻拭いの被害を受けた同僚を思い出してちょっと嫌味っぽい言葉が口から漏れてしまった。
「ふざけるな!!
ファイアランス!!」
突然、視界が真っ赤な炎で埋め尽くされた。




