野菜も大事(5)
カルダールはフィルスビと話し合って使い易いサイズの温室の量産化と、興味を示す農家を探して温室野菜のお手頃な値段での流通に関して商業ギルドと農業ギルドとで根回ししておいてくれると約束した。
で。
「このビニールシートですが。
生産方法を特許登録した上で、こちらが選んだ工房で温室以外の利用法も考えた商品を作らせて、販売しても良いんですね?」
翌日にはすちゃっと手早く特許関係やその他の契約書類を持ってきていた。
どうもカルダールは温室栽培よりもビニールシートが気になるらしい。
「ええ。
もっと薄くとか分厚く丈夫にとか、好きなように研究してくれても良いですよ。
雨除けの魔道具を使わないなら傘として使うのも良いんじゃないですかね。
それとか、安く入手できるなら家の食卓のテーブルクロスの上の敷いたらソースとかが溢れてもさっとシミにならずに拭き取れるし」
ちょっと安っぽく見えるけどね。
高いテーブルクロスを使っているのは一般家庭よりも高級レストランや金持ちの家だろうけど、そう言うところには微妙に向かないよね〜。
うちの下宿先はどうだろ?
やはり、ちょっとあの立派で上品なダイニングルームには似合わないかな。
ビニールシートを使うぐらいだったら、薄いガラスカバーを固定する方が良いだろう。
「なるほど。
馬車の御者の雨除けにも良いかもしれませんね」
カルダールが嬉しそうに言った。
そういえば、こっちは車じゃなくて馬車だから、中に乗っている人はまだしも、御者は雨ガッパで濡れ鼠になるんだっけ。
お貴族様が降りる部分は雨除けの魔道具があって扉を開けて階段っぽいのを引き出すと自動的に雨を弾く事が多いのだが、御者の席はちょっと屋根があるかな〜程度で降ったら基本的にびしょ濡れなんだよね。
初めてあれを見た時は唖然とした。
こちらの魔道具って言うのは高級品扱いなのだ。
まだ単純に熱を発するだけのコンロならまだしも、雨を弾くなんて言う機能は高くて、魔道具を買っても貴族様の分しか使わないのが常識らしい。
まあ、これから魔道具の大部分が魔術師ではなく一般の職人によって作られるようになれば、徐々に値段が下がり庶民用にも普及していくと思うが。
◆◆◆◆
「お久しぶりで〜す」
カルダールの持ってきた契約書諸々をサインした後、私も魔術院の方で根回しをするべきかとアフィーヤのところに顔を出した。
「おや、本当に久しぶりだね。
どうしたんだい?」
アフィーヤが書類から目を上げて聞いてきた。
あれ〜?
そんなに久しぶりだったっけ?
そう言えば、暫く複式簿記の話とかで時間を取られていたから、こっちには顔を出して無かったかも?
……考えてみたら、魔術院の会計ってどうしているんだろ?
かなり特殊な上に、どんぶり勘定になってそうな気がする。
でもまあ、こっちは下手に組織内の新入りが口を出すべき話じゃないよね。
「今度、新しい素材を作る魔道具の特許申請をしたので一応知らせておこうと思いまして」
ビニールシートと、それを作るための魔道具を机の上に出して見せる。
特許登録の方は、カルダールが先ほど準備してくれていて私が署名した書類を王宮の該当部署へ今日中に提出するだろう。そのうちこっちにも話が流れてくる筈だが、知らせておく方が印象が良いだよね?
「透明な……ガラスと違って布みたいな素材なんだね」
ビニールシートを手に取ってアフィーヤが興味深げに手を透かして見た。
「水や空気をほぼ通さないので、温室栽培用に使って欲しくて開発したんです。
木材から樹脂を抽出するのがこちらの魔道具。
で、それを材料として使って私が錬金で作ったビニールシートを複製するのがこの魔道具です」
アフィーヤの部屋の暖炉にあった薪を一本拝借して、実演して見せる。
ヒーターみたいな魔道具はあるのだが、実際に木を燃やす暖炉の方が好きな人が多いので、暖炉が残っている部屋は多い。
まあ、お偉いさんじゃないと暖炉のスペースを取れないから応接スペースのある部屋持ちじゃないと無理だけどね。
「複製の魔道具って……。
随分と効率が良いじゃないか。
これだったら他の物の複製にも使えそうだね」
樹脂から作り出されたビニールシートを手に取ってアフィーヤが言った。
げ。
「もしかして、これって生地とかの安い複製に使えちゃいます??
機織り工とかの職を奪う気はないんですけど」
服や布が安くなるのは良い事だが、機織りの機械化は近代の地球でかなり急激な産業の変革をもたらして、失業者急増と言うような社会的な問題や格差の拡大、機械化の遅れた国での貿易赤字など、色々と問題を引き起こしたと歴史で習った気がする。
「複製の魔道具だとどうしても細部の再現がいまいちだから、これみたいにぬべっとした素材じゃないとそれほど使えない……と言うのが常識なんだが。
まあ、カルダールの方でこれを使っているならそこら辺も注意を払うだろうさ。
これでガラスの代わりに温室を作るのかい?」
アフィーヤが私の心配を横に振り払って、元の温室の話に戻った。
「ええ。
温室そのものが比較的安上がりに作れるので、魔術師を使った今みたいな詰め込み式生産じゃなくて済むと思うんですよ。それで、もう少し時間が掛かる代わりに普通の野菜より多少高い程度で生産・流通できると期待しています。
……温室栽培をやっている魔術師の人の仕事が無くなるかもですが。彼らにも特許登録とか魔石生産の話は伝わっていますよね?」
仕事がなくなっても収入を得る方法があるって分かっているよね?
魔術院からの知らせを全部無視してたらどうなのか知らないが。
「ふん。
温室栽培をやるようなのは農業が好きな変わり者か、性格が悪すぎて魔術師として働けないようなクズさ。
魔石作りをやるのと大して差がないから、大丈夫だろう」
アフィーヤが鼻を鳴らして言った。
クズだからこそ、ぼっちで方向転換に必要な情報が流れてこないんじゃないかと心配な気も?
まあ、業界団体として魔術院がなんとかしてくれるでしょう。
最近は魔石需要が全然賄えてないみたいで、もっと頑張って作って欲しいって連絡が定期的に入ってきてるからね。




