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第九話  情け

大体の方針が決まったようだが、幸太郎の財布に対する弁済が問題だ。

親たち四組は、その費用について顔を突き合わせて話した。

そりゃあ、未成年とは言え刑事事件に匹敵すなる。

警察に話が行ったらすぐに手が後ろに回る。

タダで済む問題じゃないよ。

何十万円と言う被害が出ている。

幸太郎もよく持ってたな。

さすがボンボン。


幸太郎んちは、家が太いからなあ。

親戚も金持ちがおおいらしい。

荻野目の子分たちは、転校でお茶を濁すつもりのようだが、そうはいくか。

私は暗い笑みを浮かべていた。

絶対に許さん。

私の視界から消してやる。


校長の白髪が一日でめっきり増えた。


翌日、憔悴しきった校長は、さらなる衝撃を受けるのである。


「こ!これは!」

荻野目たちによる強姦事件。

相手が男性であっても、強姦は成立する。

しっかりした証拠映像があるのだからな。

いったいいつごろからやっているのかはわからないが、少なくともこのクラスになってからだ。

あいつらの性知識がどのくらいのものか知らないけど、やりゃあできるもんだよ。

そのへん、どうなってるのかね?

荻野目姉妹は常習犯だし。


被害者がだれか、校長には解説書で教えてやった。


さあ悩め。


親たちが、再度呼び出された。

今回は荻野目父も混じっている。

と言うか、全員両親がそろってた。

そりゃまあ、大問題だものな。

子供たちは自宅で謹慎中。

その中で、今回の暴行映像が提示された。


「ひい!」

未知やすえの母親が、顔を青くして悲鳴を上げる。

あ、吐いた。

「う・うげえええ」

末成の母親も、もらい下呂だわ。

「おうえええええ」

透過光エフェクトなしだもんで、校長室は悲惨なもんだ。

あはは


きたねえなあ。

「おげええええ」

荻野目チチも盛大にしてらっしゃる。

うははははは

酸っぱいにおいの校長室は、それどころじゃない事態に陥っていた。

だれもが凍り付いたように画面を凝視している。

荻野目姉妹が未知やすえが末成由美が、幸太郎の上で腰を振っている。

そのうえで、幸太郎の財布から金を盗っている。


父親たちまでが、床に手をついて必死で我慢している。

「おうっおうっ」

オットセイじゃね〜し

あんたたちの子供は、ここまで外道に堕ちたんだよ。


しかも、もっととんでもないことが起こっていた。

未知やすえが自宅でトイレに駆け込んでいた。

そう、アレじゃないですか?

「うげええ、なによこのきぼぢわるいの!」

あ~あ~

やっちゃったね。

やればできる。


こののちの事態については、ご想像の通り。

荻野目姉妹のグループは、壊滅。

担任はその任を解かれ、再教育システムに組み込まれ、県の施設に移動。

異動じゃないよ、移動だ。

つまり、その施設からは出られない。

校長は、この年度末を持って勇退。

教育長もその進退伺を出したそうだ。

町長は知らぬ顔の半兵衛だわ。


ば~かば~か、その程度で済むわけね~だろ。

私が計画して実行したんだ。

これを全世界にばらまかれたら、どうなさるおつもり?

その辺もよく考えておけよ。

あ、ショックが大きすぎて、思考回路がショートしてる。


ごめんよ、この後もっと恐ろしいことが起こるんだよ。


江藤理沙たちのインフルエンザは根が深く、二十日もかかってようよう布団から出られた。

世間はすでにクリスマスの色が濃い。

私は、オークを何頭か狩って、お小遣いを貯めた。

そんなとき、堂本弁護士から連絡が来た。

ちょっと戻るが、十二月十四日のことだ。

時に元禄十五年十二月十四日江戸の夜風を震わせて響くは山鹿流儀の陣太鼓

てなもんよ。


「は?全額?」

「ええ、返した金額に迷惑料を含めて五百万円です。」

母と私はドスンと椅子に落ちた。

「ええ、これに二十二パーセントかけまして百十万円が成功報酬ですので、のこり三百九十万円をお返しします。」

「あああ」

「はああああ」

私たちは、言葉を忘れた。

なんという剛腕か。


「あ・それと、旦那さんの住処がわかりましたが、どうされます?」

「あわわわ」

「落ち着いて、朽木さん。」

母はアタマが追いつかない様子だ。

私の方が先に落ち着いた。

「もちろん、離婚届にハンコ押させます。」

「はい。」

「そのうえで、慰謝料と養育費をぶんどります。」

私は力強く言い切った。

「そうですね。」

堂本弁護士は、半笑いだ。


「そして、気のすむまでぶん殴りたい!」


本気だよ。


「あ・それ賛成!」

母親も賛成した。

ぜったいぶん殴る。


「よろしいでしょう。ではそのように手配しますね。」

コラコラ、弁護士が暴行に賛成するんじゃない。


母は、深く頭を下げる。

「堂本先生、ほんとうにありがとうございました。」

「いえいえ、まだこれからですよ。」

力強い言葉に、思わずうるっと来た。

「せいいっぱいぶん殴りましょう!」

コラコラ。

「「あははははは」」

私たちは、久しぶりに心から笑った。


翌日、堂本弁護士に連れられて向かったのは、意外や関ケ原町だった。


天下分け目のあの場所ですよ。

「こんな近くに?」

「ええまあ、うまく入り込めたようです。」

「灯台下暗しってやつですか。」

言ってみればとなり町で、盲点だった。

「ここであいつはのうのうと暮らしていたの?」

私が聞くと、堂本弁護士は肩をすくめた。

「そうですね、うまく仕事を見つけて、愛人と暮らしてますよ。」

「ちくしょ~!」

母と二人でそのアパートの前に来ると、黒塗りの車が三台ほど停まっている。


しかも黒服着た、いかつい面々も降りてきた。

一台に四人乗っていたようだ。

「先生、そろいました。」

「そうですか?裏の出入りも?」

表には四人、裏手にも四人。

羽田社長の車の周りに四人。

「はい、完璧です。」

「けっこうですね、羽田さんは?」

「は、こちらの車です。」


黒服は慇懃に堂本先生を案内した。

「これは羽田社長、こんにちは。」

社長と言うけど、ド迫力な様子は、どう見てもカタギには見えない。


「おお、先生、今度はお手数でしたな。」

両手を広げて豪快に笑う姿は、堂々としている。

「いえいえ、そちらさまも溜飲を下げていただきたいです。」

「もちろんですよ。」

「こちらは、縁者のお子さまですが、先にこの子にけじめを取らせたいのです。」

私は黙ってこぶしを見せた。

「そうかそうか、存分におやりなさい。」

羽田社長はにこにこ笑ってくれた。


こういう顔をすると、かっこいいイケオジさんなんだけどな。

私は、にっと笑ってみせた。

「ありがとうございます。」

羽田社長は、少し驚いたような顔をした。

普通はこんなにまっすぐ見返しては来ないそうだ。

あはは、死線をくぐった数がちがうよ。

オーガだって一匹二匹じゃ足りない。


堂本弁護士は、安っぽい鉄の階段を上って、部屋の前に立つ。

カンカンと安っぽい鉄板の音がする。

軽くノックして、返事を待った。

「誰だよ日曜日に~」

ドアにはチェーンすら付いていない安普請。

堂本弁護士は、ドアノブを持ってがっと開いた。

「おわああ」

そこには、たたらを踏んでコンクリの廊下に転がり出るクソ親父の姿があった。

前よりも少し痩せたか?

無精ひげを生やしてステテコ姿だ。


「年末の集金ですよ。」

堂本弁護士の声に、クソ親父は不機嫌そうに答えた。

「はあ?なんだと。」

「いけませんねえ、ちゃんと支払いをしてくれませんと。」

「支払いだあ?そんなもん…」

クソ親父が何か言う前に、私が右フックをたたき込んだ。

ごきりと鼻の骨の折れる音がする。

「ふぎゃ!」

鼻血をだばだば流しながらこっちを見る目は、すでに怯えたものだった。


堂本弁護士は、わざとらしく両手を前に出して言う。

「ああ、暴力はいけませんよ(棒読み)」

私はそれを無視した風で、冷たく言い渡す。

「クソ親父、私の養育費を払いなさい。」

驚愕に顔が歪んだ。

「お・おふぁえはしゃよ!」

「そう、あんたの娘の小夜だ。」

ぎろりと睨む。


威圧スキルが発動して、親父は小さく震えた。

その顔を土足で踏む。

「なにを騒いでるのよぉ~」

愛人の女が呑気にドアから顔を出した。

「ひっ」

鼻血を出して顔を押さえている親父を見て悲鳴を上げた。

コンクリの廊下は、血糊で赤く染まっている。


「あんたも、おかあさんに慰謝料払え!」

クソ女の前に立ち、仁王立ち。

ぱしいっとはたいてやったら、涙こぼしながらその辺に倒れた。

こいつも鼻血吹きやがった。

逃げられないように、足の骨に一撃くれる。

ぽきっといい音がした。

「うぎゃあああ」

良い声だな。

クソ女は足を抱えて転げまわる。

「もう逃げられないよ。」

その前に仁王立ちして睨み下ろす。

「ひいいい」


クソ親父は、それでも逃げようと私たちの隙間を伺う。

腹が立ったので、腹部にニ・三発ケリを入れてやったら吐いた。

朝飯前だったせいか、胃液しか出てこない。

「ぐえええええ」

腹を押さえながら、私たちの足の間に目をさまよわせる。

逃げ道を探しているのだろう。


しかし、堂本弁護士の後ろには黒服の集団がいて、どこにも逃げられない。

「おい、クソオヤジ、この離婚届にサインしろ。」

私は、持っていた離婚届を出した。

「住所は前のところだぞ、間違えるな。いや、間違えてもあと何枚もある、書き直しは簡単だ。」

住所の件があるので、名前だけ書かせて拇印を押させる。

念のため二枚用意した。

そこへお母さんも上がってきた。

血だらけの顔を見ていぶかしんだが、同情はしないようだ。

あえて左手を握って、振り下ろした。

ごきい!

「あいえええええ」

折れた鼻の骨を叩いたようで、なんとも言い難い悲鳴が漏れた。


「あ~すっきりした。」

お母さんも晴れ晴れした顔で言う。

「ほら、早く書け、ちょうど血も出てるから、拇印押せるよ。」

血判を押させて、離婚届はめでたくゲット。

「さて、慰謝料と養育費だけど~。」

部屋の中を見回しても、何もない。

いつでも夜逃げできるように、極力荷物は少ないようだ。

「先生、どうやって慰謝料取るんですか?」

「そのために羽田組の社長にご出馬願ってるんです。」

「は?」

「お嬢ちゃん、ちょっとすまんな。」


社長が上がってきた。

「おい、サンピン」

「ほへ?」

「なかなか楽しいことしてくれたのう。わしらを出し抜けると本気で思ったのか?」

見下ろす目は、限りなく冷たい。

「なめられたものよ。貸した金は返してもらうぞ。」

うわ。すっげえ迫力。

この雰囲気は、出し入れ自由なんだな〜

「…」

向こうで愛人がぎゃーついているが、ぜんぜん気にしてない。

「カシラ、あれを黙らせろ。」

静かに言う。

すぐさま何人かで取り囲んでげしげしやられる。

もううめき声すら出なくなった。


「へい、こちらの損害はこのくらいで…」

カシラってなに?

「若頭、ここはこのくらいでどうでしょう?」

堂本弁護士が、電卓を見せた。

「ほほう、いいですな。」

「では、二人の腎臓で…」

「ふむふむ。」

かちゃかちゃと、電卓をたたく音がする。


「よし、それで行け。」

「へいっ」

「ちょうどいい、足が折れているなら逃げられないよな。」

黒服たちは二人を担いで車に乗せた。

「先生、このくらいでどうでしょう?」

電卓をたたいて見せる。

「では、肝臓も加味してはどうです?」

「おお、ではこれで。」


商談はまとまったらしい。

「お二人は、満足いただけましたか?」

「はい、すっきりしました。おかあさんは?」

「ええ、長年のわだかまりが落ちた気がします。」

「それはけっこうですね、では今日はこれで戻りましょう。」

「あの、二人は?」

「ええ、ちょっと商談がありますので、彼らには別の場所で。」

ケムに巻くように、車に乗せられた。


父親たちを乗せた黒い車が走り出すと、羽田の社長が振り返った。

「お嬢ちゃん、なかなかの威圧感だったね。なにかやってる?」

「ヤットウを少し。」

「ほほう。もし就職先がなかったら声をかけておくれ。」

社長は名刺をくれた。

「社長、相手は子供ですよ。」

「子供なものか、あの子には生死をかけた勝負が見えるよ。」

「ご冗談を。」

「冗談ねえ…」


社長も車に乗って去っていった。


「さて、我々も帰りましょうか。」

私たちも、堂本弁護士の車に乗り込んだ。

後日、堂本弁護士が届けてきた小切手には、三千万円の値が付いていた。

「ちょっとおつりが出ちゃいましてね、意外といい値段で売れたんですよ。」

「はあ?」

「ですから社長の損失分を抜いたら、これだけ余ってしまってね、お二人に返すのがスジと言われまして。」

「あの、成功報酬は?」

「ああ、羽田社長からいただいてますよ。」

堂本弁護士が笑って渡してきた。


「ま、いただいておいてくださいよ。あの二人が返済した金の残りです、慰謝料ですよ。」

なにやらとんでもないことに巻き込まれた気がする。

「この話は、これにて終了です。」

「ありがとうございました。」

私たちは、深くお礼を言った。

あの二人は、ちゃんと生きているそうだ、念のため。



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