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第十話 平和なクリスマス

十二月に入ると町はクリスマス飾りでキラキラし始める。

田舎町だって、街角には小さなツリーが飾られて、電飾に輝いている。

これがモレラに行くと、もっと凄まじい。

ここだけ別世界で、華やかと言うかなんと言うか。

自然と心もうきうきしそう。


私のラックが凄まじい仕事をしているのだろう。

オスカルが運に全振りしておけと言った意味が分かった。

私の安全が確保されているんだ。


江藤理沙は、若干よろよろしながら登校してきた。

この二週間における、体力の消耗がどれほどだったのかがよくわかる。

げっそりと削げたほほに、インフルエンザの猛威を感じた。

もうヘロヘロな感じ。

痩せコケた頬に、目だけが異様にギラギラしてる。


連日の下痢と嘔吐で、体力は激減。

手足も一回り小さくなったような。

アレはヤバい。

なるべく近づかないようにしよう。

って言うか、私にからむ体力も惜しいような感じ。

さすがに、今日は絡んでこなかった。

あの体力では、年内暴れることはないだろう。

二十二日の月曜日から登校したって、一日すぎれば冬休みだ。

ごくろうさん。


マスクをしながら、目だけがぎょろぎょろしている。


そりゃあ、橘和泉も横山みずほもまだ休んでいる。

よほどひどいんだろう。

年内はムリか?

下手したら入院しているのかも?

彼女らも、連日連夜下痢嘔吐。


荻野目姉妹の騒動のせいで、江藤グループのことなんかだれも気にしていない。

いることすら忘れ去られているのかもしれない。


校長なんかはアタマが真っ白になってしまったが。

終業式、生徒一同ざわついたもんだよ。


「小夜ちゃん、校長先生頭が真っ白ね。」

「そりゃあ心労だろうね。荻野目グループの後始末で胃に穴が開いてるんじゃない?」

「そりゃあかわいそうだね。」

松本さやかが、暢気なことを言う。

あの映像を見たら、そんなこと言ってられないぞ。

死ぬまで外には出せないけど。

さすがに、あれは罪悪感が満載だった。

幸太郎を守ろうとして、結果あいつらの未来がくるってしまった。


まあ、同情はしてないけどね。


自業自得を地でいってる。

「ねえ、あのウワサ知ってる?」

みどりがいっそう声を潜めた。

「なにが?」

「未知やすえが妊娠したって。」

「げえ、なにそれ。」

さすがに私もおどろいた。

「お母さんと一緒に産婦人科から泣きながら出てきたところを見たんだって。」

だれが見たんだ?

校長が口止めできないと、とんでもないことになるぞ。


「うわ~、ヤバいなんてもんじゃないね。」

みどりがつぶやく。

「そうだね。」

さやかもそりゃ同情の余地がない。

「ばかなんだよ、やればできるなんて当たり前なのに。」

私は、にべもなかった。


「どゆこと?」

さやかが首をひねる。

「あいつら、本番やってたんだよ。」

「うそ!」

「あわわ」

さやかがみどりの口を押えた。

「幸太郎泣いてたよ。」

「そうか~、幸太郎君がパパ?」

「それは言うな、だれにも言うな。」

幸太郎の名誉のためにも、それは漏れてほしくない。


「「わかった」」

二人は本当にわかっているんだろうか?

私は心底あせったわ。

やがて終業式も終わり、いよいよ入試は本番を迎える。

この冬休みは、ガリベン一直線だな。

クリスマスまであと三日、ケーキは予約してない。

だって二人でワンホール食べられないよ。

あれでお母さんはかなり甘党なんだけど。

でも、小さめのブッシュドノエルを買おう。

水郷市のケーキ屋さんで探してくるよ。


シュトーレンもいいな。

小さい癖に、二千五百円もするんだけどな。

今の私たちには余裕だよ。

貧乏性との綱引き大会なんだけどね、あはは。

堂本弁護士さまさまだ、足を向けて寝られない。

ただ、借金が帳消しになって、余剰金ができたのはうれしい。

税金もってかれるかな?

あとで堂本弁護士に聞いておこう。

対策も教えてくれるだろう。


オスカルに相談と言うか、報告したら複雑な顔してた。

『人間はいつまでたっても愚かだね。』

そうだな、十五年しか生きてないから、それ以上のことはわからない。

『それでいいんだ、まだまだ人生は長いから。』

うん。

『とりあえず、小夜は一生くいっぱぐれはないさ。』

そうなんだ~。

あの宝石だけで、一億円をはるかに超えそうだもんね。

『のんきだね。』

まあね、この一か月でいろいろあったさ。

気持ち的に平穏を求めてもふしぎではあるまい。


それからは、ゴブやオークを狩っては、魔法の練習に明け暮れた。

もちろん、受験勉強も忘れていない。

つか、頭が冴えて、どんどん知識が蓄えられてる気分。

オスカルは、脳の活性化が進んでるからだと言う。

それで記憶力が上がるのか。

同時に理解力も爆上がり。

はっきり言って、高校入試なんて悩む理由が見つからない。

試しに弘文堂で高校の参考書を見てみたら、するすると内容が理解できた。


これヤバい。


高校三年間遊んでしまいそうだ。

新しい目標を考えないとな~。

つか、今から高校の内容なんてやってもしょうがないだろ。

あ・いや意味がないわけじゃないな。

今は、中学の復習をしっかりやっておくべきだってことさ。

受験だからね。

あ~どうしようかな?

ああ、もう大丈夫だから、みどりとか誘って図書館行こう。

冬休みの宿題なんか、さっさと片付けてしまうのだ。

あいつ数学ダメだから少し鍛えてやる。


さやかも幸太郎も呼んでやる。


そうなんだよ、最近疲れないんだよ。

体力も爆上がりなのよね?

気を付けないとな。

ブーストかかりっぱなしだと、因縁付けたチンピラとか爆散しそうで怖い。

むやみやたらと殴らないけど。

それにやたらとお腹がすく。

これも体の変化なのか?


図書館前で待ち合わせしたんだけど、寒いね~。

これで一月になったら、地面が凍るよ。

オスカルの家は、ヴィラ=ホーネルと言うらしいけど、浮遊の魔法で上昇したら向こう側(北方向)に大きな湖があった。

家の庭から向こうは黒い森、家からは少し斜面になっていて、湖まではかなりなだらかな傾斜になってる。

この辺もコッツウォルズのなだらかな丘陵を思わせる。

雪が降ったらすごい眺めだろうな。

お母さんを連れていけないのが残念だよ。

こっちの世界も広いね。

私は日本すら満足に旅行したことがないんだけどね。

家と学校とスーパーぐらいしか知らない。

水郷市までは、電車が一時間に二本ぐらい出てる。


高校になったら、あれで通うのか。

お母さんみたいにスクーターが欲しいな。

そしたら高校まで通える。

考えたら、私の頭ならどこでも入れるけど、勉強するならどこでもいい。

通いやすい所の方が、ずっといいじゃないか。

考え違いをしていたな。

学校だって、国立なら井之口市にだってあるし、東京に行かなくてもいい。

京都とか大阪には興味あるな。

うちからなら日帰りできるな。


みどりに相談してみよう。

とりまググってみたら意外と近い。

水郷市からJRで行けるのか。

快速なら二〇〇〇円前後だな。

ふむ、ちょっと興味ある。

飛翔が使えればすぐなのに、まだレベルが足りないとかで教えてもらえないんだよ。

でも、こっちで使う訳にもいかないか、あはは。


そんなことを考えていると、みどりとさやかが自転車でやってきた。

時間も九時だし、良い感じだ。

幸太郎も自転車できた。

「おはよう。」

「「「おはよう」」」

みどりの数学を教えていると、けっこう復習になっていいね。

十時になってちょっと休憩。

京大について話すと、三人は驚いている。

いわく

「高校受験もまだなのに、もう大学?」

みどりはかなり現実的なことを言う。


「そこまで見据えて高校を選ばなきゃ、だめなんじゃないの?」

さやかはクールだな。

「ぼくもそこまでは考えてなかったよ。いま入れる学校で必死だ。」

「いま入れる?」

私が聞くと、幸太郎はうなずく。

「池野高校でどうかと言われてる。」

「ははあ、まあ程度は悪くないわね。」

「ていうか、もう少し頑張らないとだめだよ。」

「だいじょうぶだって、幸太郎くんなら。」


「油断は禁物だよ。」

「そう?」

「僕は不安だ。」

「実は私も通えるところと言うと、池野高校じゃないかと思ってる。」

「え~、小夜ちゃんなら北高だって余裕でしょう?」

「だけど、通学に四十分も電車に乗って、そこからまだ歩くと遠いんだもん。」

「下宿は?」

「ヤダ。」

「うわ~わがまま者がいる。」


「でも、田舎町高校はいやだ。」

「なんで?」

「勉強キライな奴が多い。」

「う~ん、それはそうかも。梨沙たちが受けるって言ってたし。」

「はあ?あいつ私立じゃないの?」

「ああ、なるほど。近所だしね。」

「インフルエンザで休んだ分、かなりきびしいらしいよ。」

「そりゃそうだ。あのアタマじゃね。」


「ひどいなあ、ふふふ。」

「よし、じゃあ幸太郎くんの底上げするかあ。」

「よろしくお願いいたします師匠。」

「うは~」

幸太郎は呑み込みは悪くなかった。

ただ、やり方がまずいだけで。

さやかもけっこうできる。


問題はみどりのアガリ症だけだね。

考えすぎるな~って言ったけど、どこまで効くかわからない。

もちつけば、どうと言うことはないんだけどな。

みどりとさやかに、一教科だけでも百点取らせるにはどうしたものかね?

五教科全部は難しいか。

そりゃそうだよ。


私には言語理解スキルがあるから、英語なんかネイティブスピーカーと同じくらいわかる。

県下でも珍しい全教科一〇〇点を目指すか?

できないことはないな。

幸太郎は塾に行ってるからいいね。

みどりとさやかも行ってる?

カネのあるとこはいいなあ。

まあ、ウチもこの年末から裕福になったけどさ。

塾なんか必要ない。

昼になって、私はおにぎりを取り出す。

図書館では食べられないから、外に出なきゃ。

ちょっと寒いけど、公民館のロビーならいいかな。


自販機コーナーであったかいお茶を買って座った。

三人は家が近いから戻るらしい。


京都の大学見てみたいな。

年末年始の電車なんて混んでるだろうな。

でも行ってみたい。

みんなを誘っても、ダメなら一人で行くか。

身軽なもんだし。


ところがどすこい。

三人は着いていきたいと言う。

お、おう。

親の許可がとれてからな。

家出みたいなのは困るし、連絡も取れないのはイヤ。

私と一緒に居れば、ラックが効いてトラブルにはならないと思うけど。


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