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第五話 金融業者

堂本弁護士は、すぐに金融屋の会社に出向いた。

中京市まではうちから六十キロくらい離れている。

山の上にお城のある井ノ口市に事務所のある堂本法律事務所からは、約一時間。

そんな事務所から、車で向かったそうだ。

カツカツと足音の響くロビー。

「邪魔すんで~」

「邪魔するなら帰ってや~」

「あいよ~って、なんでやねん」

定番ギャグかましてから、話は本題だ。


「清塚さんはいらっしゃいますか?」

「はい、どちら様でしょうか?アポイントメントはおありですか?」

受付の若い娘がにこやかに聞く。

隣のちょっと年かさの娘?さんが、顔色を変えて前に出る。

「欅さん、この方の対応は私がするわ。」

「でも乃木坂さん」

「いいの、すぐに清塚さんを内線で呼んで。」

「ははい」

「堂本先生いらっしゃいませ。」


「乃木坂さん、そんなにあわてなくてもいいですよ。」

「はい、こちらでおかけください。」

明るいエントランスの応接セットに案内した。



「なにい~堂本だとう!」

受話器の声に耳がキーンとする。

「はい、いま乃木坂さんが対応しています。」

「すぐ行く!くれぐれも失礼のないようにな。」

言うなりがちゃりと内線が切れた。

「んもう、なんなの?」

欅は少しふくれて応接に目を向けた。

普段強気な乃木坂が、ぺこぺことあたまを下げてお茶を出している。

乃木坂さんがお茶?

珍しいこともあるものだ。


エレベーターが止まると、ドアが開くのももどかしく、清塚は飛び出した。

「堂本先生!お久しぶりです。」

ソファに駆け寄ると、深々と頭を下げた。

「あの清塚さんが?頭を下げる?」

しんじられない心持ちで様子をうかがう。


堂本弁護士は、一通の契約書をテーブルに出した。

「これは…」

清塚には見覚えのある契約書だった。

なにせい危ない橋を渡っている自覚がある。

「会議室に行くまでもない、清塚さん、これはどう言うことかな?」

堂本弁護士の言葉に、動揺を隠しながら答えた。

「どういうこと…とおっしゃると?」

「おとぼけはなしにしましょうよ、刑事事件にするおつもりですか?」

「…」

清塚は、額に脂汗をにじませている。

「確かに印鑑証明もあり、登録された印鑑が押されている。」

「…」

「しかし、この署名は?」


「せ・先生!」

「詐欺罪は執行猶予がないんですよね。」

ごくり

清塚ののどが鳴った。

「許されざることですが?」

「…」

清塚は、汗をぬぐう余裕もないようだ。

「彼女が支払った金は、全額返還していただこう。そのかわりご主人から取り立てするなら目をつむるよ。」

「本当ですか?」

「すでに調査は開始している。居所はすぐに割れるさ。」


「返済されるなら如何様にも。」

「ならばここに現金を積んでもらおうか。」

堂本弁護士は、テーブルを指さす。

「…」

「君の裁量なら三百万円くらいどうとでもなるだろう?」

「は・はあ」

「ここは黙ってやりたまえよ、手が後ろに回る前に。」


「清塚くん、堂本先生のおっしゃる通りにしたまえ。」

清塚の肩越しに声が聞こえた。

「これは秋元次長、お久しぶりですね。」

「堂本先生、おいでになるなら一言くださいよ。」

「ははは、声掛けたら若造に押しつけて逃げるじゃないですか。」

「おやおや、そんなことはございませんよ。」

秋元は軽く肩をすくめて見せた。

「まあよろしい、この件はおまかせくださいますか?」

「どうなさると?」

「羽田さんか宮川さんにお願いしてもよいですが。」

裏社会の大物である。


「…臓器を?」

「さあ?北国の海は寒いでしょうね。」

「…」

「清塚くんは、海好きですか?」

「まままさか」

「なんだ、迷惑料は決めてなかったからねえ、秋元さんはお好き?」

「いえ、カニは好きですよ。」

「蟹工船って、昭和の巨匠ですか?はっはっは。」

堂本は、どうしてもこの二人を船に乗せたいらしい。


「せ、先生、このくらいで。」

秋元は手のひらを開いて見せた。

「ケタは?」

「うぐ!」

「しょうがないですね、この話はなかったことに。」

「ど・どうか全部でこれでは?」

「…ふむ、私も鬼ではないので、その辺で手を打ちましょうか。」

 堂本は顎をなぜながら言った。


テーブルには、分厚い紙袋があった。

「清塚さん、あまり阿漕なことはよしましょうね。今回は私だから握ってあげられましたけど、何度もはないですよ。」

「肝に銘じて。」

それでもやるのが金融屋ってものですよ。

でも、契約書はそのまま?

「債権主は父親ですよ。」

連帯保証人を母親に設定していたようですね。

「じゃあ、あとはよろしくお願いします。」

「「ははっ」」


あっさりと金融業者の事務所を後にする。

この弁護士かなりあくどい。


しかも、法律ギリギリのところでおいしいところを持っていく。

小夜にとっては福の神だった。

これもラックがいい仕事をしたのだろう。


幸運と言えば、十二月に入って江藤理沙と橘和泉がインフルエンザに罹患した。

おかげで横山みずほなんか隠れる木がなくてしおれている。

人の陰に入らないとなにもできないのか?

ほかの連中も隅に固まって、ダベっているだけだ。

そのうち一人二人と罹患して、教室にいなくなった。

ま~私としてはありがたいよね。

トイレで殴られないだけでも、洗濯の手間が減る。

世間が平和で、どう生きたらいいのかわからない。


私はこんなに緊張して暮らしていたのか。


でも、まだまだ油断はするな。

山本みどりがこちらに視線をよこすが、私は首を横に振って拒否する。

油断をするな。

そういうことである。

あのグループで、いちばん目立たないのは兵頭まこである。

今年のうちに二人くらいつぶしておくのもいいかもしれない。

こいつも根性ババ色である。


町には三件だけコンビニがある。

めったに買い物なんかしないけど、公共料金を払うのに利用している。

ためたくないから、なるべく早く払い込みをするんだ。

「え~どうしようかなあ」

甘ったるい、妙な声を出してくねくねしている兵頭まこがいた。

田舎町高校のアホヤンキー二人に声をかけられたようだ。

おもしろいので陰から撮影をしてみた。

当人、まんざらでもなさそう。


アホウ、八人の中ではいちばんブスのくせして、もったいぶるな。


やがて二人と話しているうちに、ワンボックスがやってきた。

たぶんヤンキーのどちらかが電話で呼んだのだろう。

アホ面したやつが運転してる。

やべえ。

あれに乗せられたらシャレにならんぞ。

とりま、ナンバーと人相はゲットしよう。

そうしてギリギリ粘ってから、コンビニの入り口に向かう。

当然、ヤンキーはチビデブブスの私には見向きもしない。

ちょっと兵頭のよこを通る。


「あんた輪姦(マワ)されたいの?」

「へえ?」

兵頭は動揺している。

私から声をかけられるとは、思ってもいなかったんだろう。


「なんだドブス!」

「おーこわいこわい、あんた車に乗ったら最後だからね。」

「おい!」

「なんだよ、おめーら顔撮ったからな、さらされてーか?」

「なんだと?」

クルマから、運転手の変なモヒカンの入れ墨ヤロウが降りてきた。

でかいが、ハラ出てるし腹筋ゆるゆるだ。

私は大股でコンビニの横に移動する。


「こっちだ、来いよ。」


入れ墨モヒカンは、黙ってついてくる。

しかも後ろから頭を狙ってこぶしを落としてきた。

すっと横に移動すると、スカくらってたたらを踏む。

フィジカルブーストはいい仕事をする。

ついでにケツにケリくれてやると、面白いように顎からこけた。

「ぐおお、クソがあ!」

バイオレ~ンス(笑)

オーガに比べたらてんでてんでだ。

寝てるうちに鼻の下(人中と言う)に靴先をくれてやる。


手加減しない。


ここは痛いよ。

鼻血吹いてる。

ついでに顎を横に蹴る。

ごきっといい音がして昏倒する。

ま、起きても立ち上がれないよ。

脳が揺れてるから。

さて、高校生に向き直ると、こぶしを固めて迫っていた。


「ひゅ!」

空気を吐いてしゃがみ込み、足払いをくれる。

思い切り一回転して背中から落ちた。

「ごへえ」

「ゴマ味噌つけて焼くのか?」

これはしばらく息ができない。


「次」

「こいつ!」

プリン頭がこぶしを振り回すので、軽く下がってテンプルに右フック。

このへんは、はじめの一歩で勉強した。

がきん!


一撃で白目むいた。

くるりと体勢を回し、コケてるゴヘエの股間を踏む。

手加減しない。

ぐにゅっと嫌な感触。

「うぎゃ」

痛すぎると悲鳴も短い。

「ちぇっ、このコンビニしばらくこれねえじゃん。」


「く・くつき…」

兵頭まこは震えている。

「あ?まだいたのか、さっさと逃げろ。こいつら、噂の強姦魔だ。」

「こ・こいつが」

「さっさと行け!」

「う、うん」

兵頭は逃げ出した。

私はコンビニの前の緑電話から一一〇番した。

『はい事故ですか事件ですか?』

「コンビニの横に強姦魔がのびてます。」

『強姦魔?」


そこでがちゃりと切る。

誰も見てないよな?

ちょうどここには人がいない。

あいつらも、だから来たんだろう。

レジからは死角だしね。

見えないように車を止めたんだ。

面白いから、ミニバンをえいっと収納する。

すげえな、簡単に入っちゃう。

まあ、オーガが入ったくらいだからな。

これで悪さはできないだろう。


こいつらは、お互いに殴り合ったように配置する。

手をクロスカウンターみたいに並べた。

よし、これでいい。

      

さっさと支払いだけして、帰ろう。


捕まっちまえバカヤロウ。

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