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第三話 借金

オークの魔石は二〇五〇〇円になった。

角も三〇〇〇円くれた。

ありがたいや。

肉が二五〇〇〇円だって、食えるのかい?

顔見れば豚だけどな。

すごいな、オーク一頭で四八五〇〇円だよ。


ここでがんばったら、クソ親父の借金もすぐに返済できるかも?

お母さんもバカだよねー、あんな奴の連帯保証人なんかにされるから。

そのうえで、あっさりトンズラ〜しやがった。

それも、もう少しで終わりそう。

淡い期待に胸躍るね。

『借金あるの?』

親父が金借りてから逃げたんだよ。

『あら~、それは困るね。』

まったくだよ、うちなんかずっと貧乏なんだよ。

『そうか~、こっちにおいで。』

オスカルは前に立って屋敷に入る。


まあ、悪いことはないだろうと、あとについて家に入った。

『これ開けて。』

オスカルは影みたいなものだから、物理的に触れられないんだ。

いま、いきなり理解した。

一斗缶くらいの木の箱をぱかりと開けると、中には宝石がぎっしり。

『これも君のものだよ。』

う~ん、これを換金するって、ウチの近くの買い取り●吉で売るのか?

未成年では買い取りできないよ。


『なに言っているんだ?君のアイテムボックスに入れてみれば換金できるだろう?』

おお!そうか。

現金化できるんだ。

すごいね。

『これだけあれば、なんとかなる?』

なるなる、ついでに家も買えそうだよ。

『それなら、これも君のものだから、換金して使うといい。』


ぐすっ涙が出るよ。

でもいきなり借金がなくなったら、お母さんが驚くよね。

『う~ん、そのへんはわからないなあ。きみのところの世界とは常識がちがうから。』

そりゃそうだ、何もかも一緒とはならんわね。

『オーク二匹とか比べようもないけど、どうする?』

まあ、ひとつ換金してみようか。

『そうだね。』


私は、一番上にある赤い宝石を持ち上げた。

パチンコ玉より少し大きいくらいで、透き通った赤。

ルビーの約五カラット以上?

千五百万円っておい!

こんなもん、どうせよって言うのよ。

『安いかい?』

高すぎるのよ。


『じゃあその下のちっこいやつはどう?』

これ?

白っぽい宝石…ダイヤじゃん

ほんの三ミリくらいなんだけど。

百五十万円…

ぐえええ、こんなちっこいのに?

『まあ、けっこういいものが出たからね。』

どこで?

『ダンジョン』


はいはい、わかったよ。まあ、百五十万なら換金しておこう。

『使えそう?』

うん


ただ、どうやってごまかすかな?

『そこは任せるよ。』

しょうがないな。

『あ、オーク討伐したから君のレベルが上がってると思うよ。』

レベル?

『ああ、たぶんレベル一〇を越えたんじゃないかな?』

それってどうなるの?

『若干体に変化が出るよ、耐久性が上がるとか、筋力が上がるとか。』

殴られても痛くないとか?

『あとでチェックしておくといいよ。運に極振りしてね。』


運ねえ、あ、そうだ宝くじなら未成年でも買えるか。

実際は、親がいないとアウトですが。

そうしたら高額当選したって、お母さんに説明できる。

なにがいいかな?

窓口で聞いてみよう。

こういう時太ってると、年齢不詳でごまかしやすいのよね。


そう言うものかなあ?(作者の疑問)


さっそく戻って見に行こう。

ちょうど今日は貰い物のジャージだから、ますます年齢不詳だ。

学校ジャージだと、校名が書いてあるからアウトだよね。

私は住宅に戻って、ケッタ(自転車)を出して池野町のB●Gに走った。

この辺だと、宝くじ売り場はB●Gにしかない。

ウソウソ、大野町にもあったじゃん。

オレンジの貧乏くさいプレハブには、何枚も当選しました!とか貼ってある。

ステータス画面で、運のところにステータスポイントを張り付ける。

ちょうど五〇〇になってる。


売り場には、当選二千万円とか書いてあるが、そこまでいらない。

えっと、スクラッチくじ・これだな。

財布から万札出して、窓口に出す。

スクラッチくじは、一枚二〇〇円だ。

「全部スクラッチくじで。」

「はいよ~。」

かちゃかちゃと音が聞こえる。

「ありがとうございます。当たりますように。」

「ありがとう。」


さっさとそこを離れた。

ぐずぐずしてると中学生だとバレる。

自転車に乗って、ひたすら走る。

自販機でスポドリ買って飲んだ。

田んぼ道に江藤梨沙はいないから、焦る必要なないんだけど。

でも気になる。

このなけなしのくじ券を取られるのは困るから。

ましてや当選券だったらシャクの種だよ。


用心深くしてしすぎじゃない。

まあ、無事に帰れたんだけど。

家に帰って十円玉でこすりまくる。

うはははは

見ろミロ、二十万円当たりだよ。

まだまだ~

さて、こいつをどう換金するかが問題だね。


お母さんはお金の管理が、ちゃらんぽらんだからね。

だからクソ親父に、いいように借金押し付けられるんだ。


人がいいのか、すぐだまされるし。


仕事から帰った母親には、くじを買ったことだけを報告した。

「ふ~ん、当たるのかねえ?」

「わかんないけど、買わなきゃ当たらないよ。」

「そりゃそうだ。」


夕ご飯食べてから、がしがし勉強だ。

今日は驚くほどすんなり頭に入る。

一方通行出口なし、ずんずん頭に知識が溜まる感じ。

やればやるほど実になる。

よ~しよ~し、この分なら東大理科三類にでも入るか?

医者なら儲かる。

弁護士も儲かりそうだが。

そのうち決めよう。


翌日昼 女子トイレ


「ぐえええ」

また殴られてる。

痛そうな顔しているけど、実は痛くない。

耐久性が上がっているからか、さしたるダメージもない。

演技だけだ。

「あら、財布に二〇〇〇円入ってるじゃない、お昼代にカンパね。」

「そ・それは参考書の…」

「おだまり!」

背中を踏まれた。


「や・やめてよう。」

せいいっぱい情けない声を出す。

マヤっているのには訳がある。

「ふんっ行くわよ。」

梨沙は、財布を放ってトイレから出て行った。

梨沙はまだいい、アホだから。

問題は横山みずほ。

こいつは、おとなしそうに梨沙の陰に隠れているが、実に汚い根性の持ち主だ。

油断はならない。

こいつが出ていくまでは、うずくまっていた方がいい。


「小夜ちゃん…」

山本みどりが個室から出てきた。

おかっぱショートのやせっぽち。

「しゃべるな、まだ声が聞こえる。」

梨沙たちの話す声が廊下から聞こえてくる。

「あたしと話してると、あいつらにやられるから、知らんふりしてろ。」

「でも…」

「いいから、あんたまでいじめられたらアカン。」

「…」


こいつは気が小さいけどいいやつだ、あいつらの毒牙にかかってはいけない。

「あたしの仲間だと思われちゃいけないから、もう少し後から出ておいで。」

山本はうなずいて個室に消えた。

私はウチポケットのボイスレコーダーを確認する。

よし、入ってるな。

新しく買った高性能なやつだ。

トイレの隅には、こいつも新しいHDレコーダー。

ハイビジョンでばっちり。


オークのおかげで、機材が充実してきたんだ。


カネはないとみじめだが、なくてもなんとかなるもんだ。

気を付けよう。

機材は十万円もしていないけどね。

オークの儲けで十分だ。

余計なものは、アイテムボックスに入れてしまっておくのさ。


レベルアップのせいか、盛り上がっていたほほ肉が少し減って、目が見やすくなってる。

足も若干(じゃっかんだけど)細くなったような?

メガネの当たりが少ない。

気のせいかねえ?

続々とたまる証拠映像。

見てろよ外道ども。

あんたらは、髪の毛一本残してやらない。

今日は水かぶってないから、そのまま購買のパンを買いに行く。

給食なんか残ってないさ。


ちぇっ、クリームパンしか残ってないじゃないか。

それでも、パンを二個ゲットできただけマシか。

給食なんて、食えたらラッキーてなもんよ。

理科室裏のひとっけのない所で、パンと牛乳で腹を満たす。

今までは金がないから水呑んで過ごしたが、今週からはなんと金がある。

せめて二月までがまんだ。

二月の入試が過ぎたら、行動を開始する。


外道の血は流し切るぞ。


暗い情熱だけが生きる力だ。

お母さんは私が守る。

見てろよ外道ども。

午後の授業は担任からだ、こいつも破滅させてやる。

お前なんか、教師の資格はない。

『朽木~面倒を起こすな。』

の一言で、全部握りつぶした。


もちろん、録音は録ってある。

逃がすものかよ、くくく。

内申はめちゃくちゃ書ける訳ではない。

校長も見るからな。

試験成績は上の下に収まるように調整している。

文句はあるまい。


泥水をすすってでも生き延びるか、クビくくるかはあんた次第だ。

首くくってもなんら罪悪感はないがな。

悪事覆滅

私はひたすら下を向いて、ノートにペンを走らせる。

板書には、間違いが二か所。

あとで写真に撮れるかな?

赤丸でよく目印をしておく。

バカな奴だ、三流大出身の教師なんか、そんなもんだ。


ふう、よかった。

囮の財布に騙されてくれて助かった。


自分の手を見ると、なんだか厚みが減ったような気がするなあ。

ただ、ひたすら罵倒とビンタに耐えて今週も過ぎる。

ヒールはこっちでも有効で、内臓に対する攻撃には即時対応できる。

しかも、反射神経が上がっているので、瞬時にダメージを軽減するウケができてる。

人間が成長するには、試練が一番なのかもしれない。

本当なら私はもっとお花畑な思考になっていたろうに。

どうしようもなくシニカルに育ってしまったのは梨沙のせいだ。

ただ、あいつの誤算は、私が執念深い性格だったってことさ。


泣き寝入りするようなメンタルでなかったと言うこと。


木曜日に家に帰って、五十枚のくじをチェックする。

クラッチくじはけっこう高額になってきた。

ヤバい、五万円を越えるとみずほ銀行に行かなくちゃ。

全部で百万円近い。

これでお母さんが苦労しなくて済む。


母が日勤から帰ったのは夜七時過ぎだった。

「ええ!百万円!う・ウソ…」

「ウソじゃない、ほらこれ見て。」

「…本当だ」

「お母さん、これ換金に行ける?」

「ででででも…」

「しっかりして、これで借金が返せるんだよ。」



「そ・そうなんだ。」

「お金に余裕があるから、弁護士頼むんだ。」

「弁護士?」

「女子供じゃなめられて、ちゃんと白紙にできるかわからないじゃない。」

「う・うん。」

「しっかりしろよ、あたしたちの未来がかかってるんだ!」

「わ・わかった。」

「高額当選は、みづほ銀行に行くんだ。」


母親は、しっかりと小夜の目を見つめた。

「うん、明日行ってくる。」

「頼むよ、これが貯金通帳と印鑑。しっかりしとくれ。」

母親は力強くうなずいた。

私は運が強い、それをいまこそ活用する。

実に小さなあたりまで含めると、百五万円。

助かった。


あのスカタンな母親も、今回はしっかり仕事を果たしてくれた。

山の上にお城のある井之口市にある、みずほ銀行にうまくたどり着いたようだ。

スクーターでも迷わず行けたようでなにより。

そりゃまあ、大通りに面してるんだからこれで間違えるやつが…

いたんだよ、見落として何回も回ってやっとたどり着いたらしい。

運転免許と保険証はちゃんと持ってるか確認したし。

私が学校に行っているうちにやってくれた。

まあ、伊達や酔狂で看護師やってるわけじゃない。

あのスカタンな母親でも、そのくらいはできるさ。


お金の入った通帳をテーブルに開いて見せた。

「やった!」

「やったねえ。」

「明日、金融に強い弁護士を訪ねるよ。予約は取った。」

「あたしも?」

「当たり前だ、お母さんが話すんだよ。」

「うえ~、わかんないよう。」


ヘタレたこと言うな!

やくざ一歩手前の金融屋には、顔色を変えてもらおうか。

土曜日だと言うのに、働き者の弁護士はにこにこと対応してくれた。

「堂本です。」

「朽木ですよろしくお願いします。」

「娘の小夜です。」

「よろしく。」

娘の私にも手を出してきた。

固く握り返す。


「いてててて、君強すぎ。」

「へ?普通に握ってますけど。」

「すごい握力だね。」

「そうかなあ?」

弁護士の先生は、右手を振っている。

「これが契約書です。」

「ふうむ…お借りしてもよろしいですか?」

「はい。」


「これ…、払いすぎですよ。」

「へ?」

「一目でわかりますが、この金利はグレー過ぎます。」

「そうなんですか?」

「ええ、かなりのところまで取り返せますね。」

「よ・よろしくお願いします。」

「もちろん、腕が鳴るなあ。」

 弁護士にっこにこ。

 成功報酬二十二パーセントだからね、腕をぐるんぐるん回してるよ。


その日は、こまごまとした打ち合わせをして、事務所を後にした。

「すごいね小夜。お金が戻るって。」

「一円でも戻るなら万々歳だね。」

「ほんとに。」

「いい先生に当ったね。」

「見つけた私を褒めてよ。」

「まったくだ、えらいよ小夜。」

「えへへ~」


ネットでグルグルしただけなんだけどな。

でも、私の第六感にビシっと来たのは堂本弁護士だったんだ。

私のラックに全振りで任せた。


こうして、私たちは街でおいしいお昼ご飯にありつけた。

ファミレスだって、私たちにはごちそうだ。

「おいしいね。」

「ほんとだ。」

「苦労したね、お母さん。」

「小夜のおかげで、全部解決だ。」

「それは弁護士の先生が、全部解決してくれてからだよ。」

「うん。」

「それでも未来は明るいよ。」


お母さんは、深いため息を吐き出した。

どれほどの苦労と心労だったろうか。

お母さんは、まだ手に職があったから働き口はあった。

田舎街の総合病院と言う、願ってもない職場だ。

これには多分に運が良かった。

人手不足のおり、夜勤もオーケーの人材は「喉から手が出るほど」欲しかったらしい。

中京県中京市の西から、この田舎町に逃れてきた。


クソ親父の悪い付き合いから逃れるためでもあった。

田舎の公営住宅に入れたのも僥倖であった。

新築住宅ができたので、退去したばかりの住宅があったのだ。

役場の建設課で、細々と聞き込んでうまく滑り込めた。

それと言うのも、新築の四階建てアパートに申し込みが殺到していて、古い住宅には応募がなかったんだ。

おかげで、こちらは家賃二五〇〇〇円のくたびれた住宅に入れた。

なに、住めば都だよ。

台所のほかに三部屋もあるんだ。


ラッキーだったよ。

ま、ちょっと山の方にあるから、おかあさんは中古スクーターを買った。

それで総合病院まで通ってる。

動けばいいって言ったら、色の褪せた赤いスクーターが出てきた。

これでも四サイクルだから新しいんだって。

知らないよそんなもの。

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