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第二話 換金

あれだけいじめられても私が痩せることはなかった。

土曜日は何もなくてうれしい日だ。

お母さんは夜勤が入っているので、今日はゆっくり寝るらしい。

私は朝ごはんを用意して、リンク済みの異世界ドアを押し入れで出した。

お母さんは押し入れなんか覗かないしね。

町営住宅とはいえ、部屋は三つあって私の部屋もある。

異世界ドアを見られなくて済む。


おにぎりもってドアをくぐった。

なにしろ食べるものがご飯しかなかった。

しょうがないから、塩おにぎりだよ。

海苔もない。

幸いラップはケータイ屋にもらったやつがある。


『お、来たね。』

おはよう。

『君のステータス画面の見方はわかる?』

ステータス?

『君のレベルとかスキルとかが見えるはずだよ。』

そうなんだ。

『ステータスと呼べば見られるから、レベルくらいは気にしてね。』

わかった。


ステータスを見ると、スライム三つではレベルも上がらないらしい。

ラック?運の良さもあがるのかい?

『それはけっこう重要だよ。』

そうなんだ。

『しばらくはスキルポイントが入ったら運に振っておくといい。』

そう?

『きっといいことがあるよ。』

そうだね。


オスカルの言うことももっともだ。

リビングから柵を見ると、子供が立っている。

こども?

『ああ、あれはゴブリンだ。』

げえ、ぶっさいくやな~。

どっこもかわいい所がない。

『まあね、あれはいい儲けになるよ。』

なるの?どうやって倒すの?


『そうだね、じゃあウオーターランスでも撃つか。』

水槍?

『そうそう、自分の手のひらの前に槍を作る感じで。』

ぬぬぬぬぬ

かき~ん

『凍っとるやん。』

マイナス百六十℃に設定してやったさ。


行け!

ぎゅうんと飛んで、ゴブリンの腹に突き立った。

『おお、おみごと。』

ぐぎゃ~と悲鳴を上げて、ゴブリンは前のめりに倒れた。

あれ?消えないよ。


『ゴブリンになると消えないんだよね。』

どうするのよ。

『とりあえず胸をナイフで切り裂いて、中から魔石を取り出すの。』

え~、それはいやだなあ。

『でも、そうしないと魔石が取れないよ。』


良い手があるんだ。

私はゴブリンをアイテムボックスに収納する。

『あら~そのまま収納?』

そして、魔石ちょうだい。

黒い四角から魔石だけ出てきた。

血もついていない。


良い手だろう?

『すごいな、こんな使い方は考えつかなかった。』

ふふふ。

ラノベで読んだんだ、成功してラッキー。

さて、買い取りだ。


換金

ゴブリンの魔石は五五〇〇円だった。

スライムよりはマシだけどな。

柵の周りだけで、ゴブリンが十匹も出てきた。

スライムは五匹。

つまり五万五千円と一万七千五百円=七万二千五百円の儲け。

すごい、私の一年分のお小遣いだ。


ビンボーっていやだなあ。

それでも毎日とんかつ食べてもいいって生活、うれしいなんてもんじゃない。

毎日節約して、一円もケチって暮らしてきた。

なんか感覚が狂いそうだよ。

問題は、残ったゴブリンの死体なんだけど、これどうする?

『穴掘って燃やしちゃえば?』

そんなんしてもいいの?

町じゃあその辺でごみ燃やしたら叱られるんだけど。


『大丈夫だよ。ついでに炎系の魔法を練習しよう。土系魔法もいっしょに。』

お・おう。

よし、やってやるぜ。

柵の外に穴掘りど~ん!

って、浅い浅い!

もっと深く掘りたい。


『ほら、周りに盛り上げて。』

はいっ!

ごそごそ、こうかな?

『そうそう、うまいよ。』

深さが一メートルを越えた。

外側に土を盛り上げたので、倍くらい深い。

よっし、やるかあ。


私はアイテムボックスからゴブリンを取り出して穴に突っ込んだ。

『さあ、火を出すんだよ。ファイヤー』

がぼん

あれ?燃えない?

『ちがーう!もっと温度高く!』

温度高い…青白くなれ~

ぼぼぼぼぼぼ


一気に炎が高くなる。

煙が高く上がった。

『できたねできたね、おみごと。それでいいんだ。』

私は褒められると伸びる子なんだ。

どんどん温度が高くなる。

ごおおおおお

ゴブの油に火が点いたらしい。

『も・もういいもういい、それ以上上げると…』


ぼがああああんん!


穴の中が爆発した…


げほげほ、ちくせう。

『温度上げすぎて、燃焼ガスに引火したんだ。』

オスカルは涼しい顔して立ってる。

あははははは

たーのーしーいー!

煤と灰で白黒まだらの顔になってしまった。

それを見て、オスカルも笑う。

『よし、それじゃあクリーンの魔法だ。』

クリーン?

『そう、こうだ。』


む~ん~、魔法の流れが見えた。

クリーン

私の顔の煤や灰がはがれている。

制服もきれいになった。

おお、すごい。

すんげえきれいだ。

『今日はこのくらいでどうかな?』

うん、大丈夫だわ、七万円も儲かったし。

『そう?よかったね。』


私は、財布ごとアイテムボックスにしまった。


夜中、なんだか脛や肩がしくしく痛む。

筋肉痛かなあ?

なんちゅうか、成長痛ってやつ?

あいかわらずでかい尻だ。

横向きで寝てると、背中も痛む。

うとうとしてたら朝になってた。


いかん、母が帰ってくる。

夜勤は朝八時までで、そこからスクーターで帰ってくる。

パタパタと言う排気音とともに、母は帰ってきた。

「おかえり。」

「ただいま。」

母は、首のマフラーを外してフックにかける。

「はい、お味噌汁。」

「お、かっちけねえ。」


卵焼きを出して、ごはんをよそう。


「いや~昨夜はてんてこ舞いだったわ~、交通事故が三件もあってさー、スプラッタ祭りだったよ。」

「ご飯の時に言う話じゃないよ。」

「あはは、もう慣れただろう。」

「ちぇっ」

「そう言えば学校はどうなの?模試は?」

「ああ、大丈夫、模試はばっちりさ、県立高校のトップクラスにもオーケーだわ。」

「おお、わが娘は天才だあ。」

「ばかいってんじゃないよ、あたしは秀才にしかなれないさ。」


「娘がクールで悲しいよう。」

「ばかね、あたしは図書館に行ってくるけど、母さんは寝るんだろう?」

「ああ、気を付けて行っておいで。」

「わかった。」

いい娘だろう?

親には心配かけたくないんだ、看護師って収入は悪くないんだよ。

実際に夜勤とかも手当は厚い。


これで親父の借金がなければね。

ほとんど半分は持ってかれる。

怖いお兄さんが来て取り上げるんだ。

私たちのご飯の分だけ残る。

電気・ガス・水道・下水道

公共料金って本当に腹立つ。

まだ、お母さんの健康保険が使えるだけマシだ。


切り詰めて切り詰めて暮らしている。

そこで、十二万円の収入はありがたい。

オスカルさまさまだな。

ゴブリンくっせえけど、我慢できる。

クリーンの魔法はすっげえ助かる。

トイレで紙がいらない。

お茶碗洗わなくてもいい。


母さんが布団に入ってから、流しの茶碗にクリーンをかけると、流しまでピカピカになった。

すっげえ。

私はリビングにクリーンかけてから、異世界のドアをくぐった。

あ!

すごい、地球でも魔法が使えるんだ!

そのことに今更気が付いた。

そこをオスカルに聞いてみた。


『それはそれは、まあ転移門が使えるのだから、魔法の質が同じなんだよ。』

質が同じ…なるほどね。

『今日もゴブリンが来てるよ。』

うえ~ゴブリンかあ、あいつらくっさいんだよね。

『しょうがないよ、魔物ってそういうものだもの。』

そうかあ?

『いちいちクリーンかけるのも疲れるよ。』

それもそうか。


でもなんでこんなにゴブリンがいるの?

『ここは、人里離れた場所だからね、冒険者が間引いているわけでもない。』

そうかあ、ここって冒険者がいるんだ。

『そりゃあいるさ。』

冒険者ギルドもあるの?

『ああ、ここから一〇キロくらい行ったところに町があるんだ。』

へえ、十キロかあ。

ケッタ(自転車)なら二〇分ぐらいだね。

『さあ、やろうか。』


ゴブ一〇匹やったころに、奥からもっと大きい影が見えた。

ゴブの足をひっつかんで、頭からがじがじ齧りだした。

あ!ちくしょう、あたしの魔石を食うな!

アイスランス!

ごごごごご

五本出た。

顔一面剣山になってる。

そのまま後ろにバターンと倒れた。


うわ~、効いてるゥ~。


でも、柵から遠いなあ。

『ゴブとかいないから、少し出てみる?』

それしかないか。

私は、柵を越えて外に出た。

ついでにゴブもアイテムボックスに吸い込む。

五匹か、ムリしないで儲けだ。


こいつは?

『オークだよ。』

へえ、こいつがオークか。

顔にぐさぐさ槍が刺さってる。

手にはゴブの足が握られてる。

そのままアイテムボックスに入れて戻ろうとしたとき、身体の右側にひゅっと風がきた。

あ?


振り返ったら、も一匹オークがいた。

風の正体はオークの手に持たれた丸太だった。

やべ~!

くっ

左に向けて飛ぶ。

ころころ転がる。

自分の体の丸さが利点になってる、すげえな。

ぶうんと頭の上を丸太が走る。


膝を立てて一気に後ろに跳んで、オークから離れる。


はあはあ

オークの腹に向けてミサイル飛ばす。

アイスランス!

どかどか!


慌てて柵の中に戻ると、オークが振り回す丸太はがいんがいんと跳ね返される。

『こっちは防壁が効いてるから大丈夫だよ。』

そう言う問題か!

がん!がん!

丸太がへし折れた。

もういっちょうアイスランス!

顔めがけて打ち出したら、一本が目に刺さった。

そのまま頭の後ろに抜けた。


オークがぶっ倒れたのは柵のすぐ横。

はあはあ

私は、お尻から芝生に座り込んだ。

ちくしょう、めっさ怖かった。

あんな丸太、当たったら痛てえじゃ済まされない。


収納


やっと落ち着いて来た。

落ち着いたら、右手の肘がズキズキしてきた。

あいた~なんか血が出てる。

気づかなかったな、緊張してたからか。

かなりひどいよこれは。

血もだらだら垂れてる。

オスカルも目を丸くして言う。

『あら~、これはヒールの魔法を使おう。』

ヒール?


『怪我が治ることを考えて、魔力を放出。』

傷口洗うか、クリーン。

そんでもって、傷口を修復する。

む~、細胞構築~

ヒール!

みょみょみょ

お!

傷が治ってきた。

すごいね、こんなに治ってる。


『小夜の魔力は強力だからね、思っただけでけっこう構築できるね。』

そうなのか?

ヒールなんて考えたこともなかった。

もともと看護師の娘だからね、人体構想には門前の小僧習わぬ経を読むだよ。

『面白いことを言うね。』

日本には、ためになる言葉が多いんだよ。


どこに何があるかわかっていたら、そこに魔力を集めればいいんじゃない?

『それはそうだね。』

そう言うことだよ。

『君は稀代のヒーラーになれるね。』

でへへ

そんなに褒めるなよ。

その気になっちゃうよ。


『オークは住民の食料にもなるんだよ。』

へえ~、あんなん食べるの?

『まあね、けっこううまいんだ。』

へえ、そいじゃたくさん獲るといいね。

『君みたいに簡単に倒せる人はいないんだよ。』

そうなん?

『君の魔法はずば抜けているからね。並の冒険者では勝てない。ただ、まだ経験が足りないね。』

そうだね、荒事には慣れてるつもりでいたよ。

『そうかい?オークの一撃をもらったり、まだまだ油断があるね。』


うは~、耳が痛い。

おにぎりをかじりながら、ヴィラ=ホーネルのお茶を飲む。

あまり合うとも思えないけど、まあいいよ。

こんど、緑茶も用意する。

貧乏性はそう簡単には治らないさ。

バローで高い鶏の竜田揚げとか買い込んでおくといいかもね。

ここで、鶏さくとか言わないのは、田舎町は田舎過ぎてそういう店がないからなんだ。


落ち武者町長、なんとかしてくれ。


町にデートスポットもないから、高校生たちは行くところもない。

そりゃあコンビニ前でうろうろするしかないよね。

大野町のクマドナルドに行くのだって、ケッタマシーンじゃ遠いんだよ。

高校生も、三年生になるとおうちの軽トラで出かけるらしい。

就職に有利とか言って、自動車の免許取るんだよ。

田舎町には田舎町の暮らし方があるんだな。

今日も儲かったから、いろいろ買い込もう。


『オークはどうする?』

そうだなあ、あ、こういうのはどうかな?

オークのヒレ肉出して。

黒いアイテムボックスに頼むと、ヒレ肉がぞろりと出てくる。

デカい!

豚肉の三倍くらいあるよ。

『ああ、あの応用なんだ。』

そう、部位だけで取り出し可能だ。


『僕の時代には、そんな使い方は考えつかなかった。』

時代は移るもんだよ。

『あはは、君の方がずっと賢者らしいよ。』

笑うなよ、兵が見てる。

『あはははは』

ヒレカツ、ヒレステーキ、焼豚とかなにかいいものができるかな?

『君の料理の腕はすごいよね。』

ずっと台所に立ってりゃねえ。

クソ親父が逃げてからは、台所は私がやってる。


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