第一話 妄執の果て
旧シリーズが書き終わってもないのに、突然舞い降りた新シリーズ。
なにやってるんだか?
でも、神様が書けっておっしゃるので、速攻書きました。
面白いと思っていただけたらありがたいです。
プロローグ
ポツリポツリと冷たい雨の雫が頬を打つ。
たった今降り始めた雨は、私の頬に付いた赤い雫を洗い流す。
私の周りには、横たわる女生徒たち。
小さな声でうなっている者もいる。
私は無造作に、リーダー格の一人・梨沙の下腹部に靴先を蹴り込んだ。
恥骨の上に、深く喰い込む。
「ぎゃ‼」
なんだ、まだ意識があるのか。
彼女の股間から、無様に経血がほとばしり、土塊の上に赤い模様を広げた。
スカートも赤く染まる。
「生理かよ、ごくろうさん。」
女生徒たちの数は、八人。
一人として声を上げるものもいない。
「もう終わりかな?」
誰も答えない。
その上に、遠慮会釈も無く雨が降り注ぐ。
いつの間にか土砂降りだ。
「私はいつもぐしょ濡れだったよ。」
私は足元が悪くなる体育館裏に、別れを告げる。
ようやく長年の憂さが晴れた。
「いっちょまえの女の幸せなんか来ると思うなよ。」
私は、積年の恨みから抜けたとも思えなかった。
執念深いやつだよね。
今回一度で済むと思われても困る。
暗い感情だけが支配する。
第一話 妄執の果て
「ぐふ!ぶふううう」
「きゃはははは、ほんとうのブタみたい‼」
江藤梨沙は、うずくまる私を見て高笑いをあげた。
女子トイレはアンタッチャブルだ。
男性教師も入ってこられない。
張り倒されて、水をかけられ、いきなり蹴られた。
みぞおちに入ったつま先に、胃からせり上がるものがある。
「ぐふううう」
たまらず吐き出される胃液が黄色い池になる。
「うわー吐いた〜ブタのくせに〜」
たしかに私は太っている。
こいつらにちびデブブスと言われる。
橘和泉が、私の髪を掴んで引っ張った。
つられて、上体を持ち上げると、また地面に叩きつけられた。
「これに懲りたら、ナマイキな目を向けるんじゃないよ、貧乏人。」
さすがに八人に囲まれると抵抗ができない。
生来臆病者で生きてきた十五年。
太っているから、動きが鈍い。
制服は横幅縦幅ともに大きいが、身長は一四〇センチと少し…
足も太けりゃ手も太い。
オマケにお尻も大きい。
でも手足は短いのさ。
おかげでパンツも、グンゼのおばちゃんパンツしかはけない。
それも、ぶっかけられた水のせいでべしょべしょだ。
かわいいパンツをはいてみたい。
女子更衣室の片すみに隠しておいたバッグには、着替え一式が入れてある。
実は卒業する先輩を拝み倒してもらってきた。
それも一人や二人じゃない。
できるだけ大きい先輩を突撃してきた。
こうなることが予想されたからだ。
当ってほしくはなかった。
どちらにせよ、他人の制服では小さいからできるだけ大きな先輩のをもらったのに、横幅が足りないんじゃないか。
ムダにせり出したオナカが恨めしい。
太った余韻で、胸も大きそうに見えるが、たいしたものではない。
もうしわけ程度のブラで十分。
それも胴回りが太ましいから、おばちゃんベージュのブラしかあかん。
のろのろと着替えるよ。
制服がよれてると、バレると言って余計に殴られるから。
涙なんか出ないよ。
帰ったらすぐに洗濯だな。
セーラー服って、アイロンかけにくいし。
ウール織のスカートは、アイロン間違えるとテカテカにテカる。
変なスキルだけ伸びてる。
こんなのはスキルって言うのかね?
お母さんには心配かけたくないから、ぜんぶ隠してるけど、どっかでバレるよね。
知らない土地に逃げることもできないから我慢するしかない。
私たちには母の実家もないんだ。
中京市の親戚は、みんな亡くなった。
父親は、オンナ作って借金残して消えた。
家も借家だったから明け渡した。
朽木小夜 十五歳になったところ。
卒業まであと四カ月。
ガマンだ。
アイツらは、揃ってアホ私立高校しか行けない。
勉強嫌いだからな。
私は、県下一の進学校に合格できる。
塾なんか行かなくても、ド真剣勉強すればなんとかなる。
ただし、目立たないように適当に手は抜いてる。
ここで目立っては、元も子もない。
実力はあとで、新聞の例題で確認できるのだ。
(この地域限定らしいけど。)
それなら常時満点取れるのさ。
もちろん行き先は、公立でないといけない。
母子家庭では、ぜいたくはできないから。
着替えが済んだら、女子トイレにスマホを回収に行く。
用心深く様子を伺う。
これも、お金がないから九八〇円で契約してる。
得体のしれない(メーカー不明の)機械だ。
「良かった、うまく写ってる。」
ただ黙ってやられていると思うなよ。
なけなしの金で買った、中古のボイスレコーダーも録れてる。
コイツを壊されても良いように、マイクロSDにコピーを取る。
勝負は、二月だ。
その日は、それ以上の追い込みはなかった。
おかげで、平和だった。
連中に押し付けられた掃除を済ませて帰路についた。
今週もなんとかしのいだな。
あしたは土曜日だ、一日中しこしこ勉強できる。
勉強だけが、私を救うと信じている。
田舎県の田舎町中学だから、通学路はほとんど田んぼ道。
その脇には寂れた神社が二〜三軒あって、糺の森がこんもりしている。
関ヶ原の合戦に負けた西軍の兵士が、山を越えて逃げてきて、この辺で力尽きたらしい。
だから、触っちゃいけない地藏さまとか散在してる。
普通の民家の軒先に、触るな危険の塚がある。
民家の庭に、切ると祟られる木が立っている。
そう言う、古いだけが取り柄の田舎町だ。
帰り道の田んぼの中に、ちょっと広い糺の森がある。
つか、そこら中にあるんだが。
とんでもない町だよな。
ここの神社にも、さわると祟られると言われる六地蔵がおわす。
なんで神社なのに地蔵?っていう疑問はチャイする。
そういうものには、いっさい近寄らない迷信深いJCなんですよ。
用心深く、六地蔵のそばを通過しようとしたとき、田中さんちのハチ(雑種犬人懐こい)がいた。
目が合うと、むちゃくちゃ追いかけてくるのだ。
雑種のオスで、しつこい。
むちゃくちゃしつこく追いかけてくるのだ。
「あっち行けよ‼」
私は手を振って追い払おうとしたが、よけいにうれしそうにしっぽをふる。
せっかく着替えたのに、また制服を汚されるじゃないか。
よだれ出すな!
私は振り返って逃げた。
アカン‼着いてくる。
ハチは体重二〇キロくらいだが、力が強い。
むちゃくちゃ飛びついてくるので、避けようとしたら押されてしまう。
そのまま六地蔵の横の祠に、頭からぶつかってしまった。
「いってーなー‼」
私は、ほこらの扉をぶち破ってしまった。
「アカン、祟られる‼」
やべーよやべーよ。
うわ〜ぬけない!
私は、頭から祠に突っ込んだ。
ケツ丸出しだ。
メガネどこいった?
まあ、デブJCのへそも隠れるオバサンパンツなんか誰も見たくはないか。
はあ…
ふとももには、セルライトも溜まってるしな。
自分で言ってて情けない。
私は、足をバタバタさせて、祠から抜けようとしたんだけど、そこで違和感に気がついた。
祠の向こう側に、糺の森が見えない。
向こう側は、芝生の庭に洋館が建ってる。
なんだこりゃ?
9と3/4番線じゃないよ。
でも、確かに日本には見えないな。
はなはだ冷静に観察するが、なかなか立派な館だ。
家と言うより館。
ビルフラン様の館よりは小さいが。
レンガ積みの二層建て。
二階建てと言うには一階と二階の部分がズレている。
右側折れてるし。
ずっと芝生が続いている。
向こうのかなり行ったところに、生垣があって、
庭と外が隔てられている。
ケツ丸出しで、そんなこと見ていたら、ポンっと放り出された。
私の体が丸いから、コロコロ転がって壁に当たって止まる。
アタマが下で、ケツが上。
また丸出しですよ。
「いって〜」
殴られたり蹴られたりは慣れているけど、痛いものは痛い。
ゴロゴロ転がって、家に当たって止まった。
「なんだコレ?ここどこだ?」
「ちょ!待てよ!」
キムタクじゃね〜し。
レンガで作られた家は、洋館っぽい二階建てでかなりデカい。
私の尻よりデカい。
私は、パンツ丸出しで転がっているが、洋館からは誰も出てこなかった。
「ちぇっ、せっかくセクスィ~なのに。」
私はスカートの泥を払いながら立ち上がった。
「これが祟りなのかなあ?」
見知らぬところに放り出されて、ひととおりパニックになって変な踊りを舞っていたらしい。
そのうち落ち着いて来たら、景色の美しさにどうでもよくなった。
洋館は二階建てっぽいが、平坦ではない。
向かって右側がL型にせり出しているし、二階は少し下がっている。
長いバルコニーになっているのか?
細長い窓が並んでいるけど、端のほうは大きな掃き出しだ。
広大な庭がぐるっと柵で囲まれている。
柵に沿ってポクポク歩いてみるが、ヒトの気配がない。
最近に空き家になったのかね?
少し戻ると、玄関はせり出していて、車寄せの屋根がある。
デカいにはちゃんと訳があるんだな~。
玄関は明けっ放しだ。
雨は入らないが、ケモノが入ったらどうするんだよ。
私は、パニック映画なんかは見たことがないので、この屋敷が危険なのかどうかはよくわからない。
わからないが、明るいエントランスからは不気味な様子は見られない。
好奇心は猫を殺すか〜(笑)
まあいい、どうせ帰り道がわからんのだ。
この家が使えりゃ儲けものさ。
雨風しのぐのはだいじたよ。
田舎町には、空き家が山ほどあるからな、見た目は気にはならないし。
「ふむ、中もきれいだが誰もいないなあ。」
入れば広いホール。
私の住んでる町営住宅ならすっぽり入るな。
急にバタンと玄関が閉まった。
「しまった!」
シャレじゃね〜し。
そのときにアタマの中に声が聞こえた。
『この館の所有権を取得しますか?』
ヤカタの所有権?
イエスオアノーってか?
そんなもん、イエスじゃ!
家くれるなら、なんでもいいわ。
なんせ産まれてこの方借家住まい。
親父は女作って逃走だ!
いずれ見つけて養育費をふんだくってやる。
目指すは東大、法学部だな。
弁護士取って、追い詰めてやる。
『あなたを館の所有者に設定します。館にあるものはすべてマスターのものです。』
ははあ?
安物の異世界モンかよ。
気味悪いな。
私は、左奥のほうに向かって歩き出した。
歩くにつれ、この屋敷の情報がアタマに入ってくるのだ。
この屋敷は、高名な魔術師の屋敷らしい。
角部屋に着くと、広い応接室のようだ。
リビングかな?
狭い町営住宅住まいの身としては、この部屋だけで暮らせそうだね。
趣味のいいソファがまんなかに置いてある。
座ると、テーブルに湯気の立つお茶のカップが現れた。
「これを飲めと?」
どことなく機械仕掛けのようにも感じる。
お茶のカップを持ち上げると、よい香りが鼻をくすぐる。
飲んだこともないような、すっごいよい香りだ。
えい、ままよ!と口をつけた。
そしたら、向かいのソファに金髪のオトコが座った。
『やあよく来たね。ぼくの後継者さん。』
なんだよ、立体映像か?
私の考えたことに反応した。
『そのようなものさ』
AIプログラムが走ってるようなものかな?
『そうだね、この屋敷を手に入れたキミは、神にも悪魔にもなれる。それほど強大な魔力を得ることができるんだ。』
はあ?魔力って、なによ。
『魔力は魔力さ。キミの心臓の横に感じないかい?』
肋骨のまんなかに、なんか熱いものが感じられる。
『そう、それが魔力さ。』
この屋敷が魔力タンクなのか?
『そんな感じ。離れても平気。心の深いところで繋がってるから。』
廊下に飾ってあるヘンな武器とか、農具とかも私のもの?
『そうだよ、そしてこれを君に。』
なんだか黒い箱みたいなものを渡された。
『無限アイテムボックスだよ。』
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
無限?
『そう、大きさに制限はないから。』
夢のアイテムだなあ。
『ぼくの研究の成果だよ。うまく使ってくれたまえ。』
わかった。
ここで暮らすしかないからなあ。
『え?帰れるよ。』
ほんとう?
『キミを引っ張った扉は、この屋敷に定着させたからね。部屋の隅にある扉は持っていって設置すればいい。』
どこでもドアかよ。
『キミの国の最大貨幣は…これか。じゃあ、アイテムボックスに換金機能を追加しておこう。』
それも最初からプログラムしてあるんでしょ。
『おや、かしこいね。』
定番じゃん。
私は、深くうなずいてやった。
コロコロした私と、向かいに座るイケメンの図は、ちょっと不思議な風景だろう。
つか、イケオジ。
『とりあえず、ドアをアイテムボックスに入れてごらん。』
言われて私は立ち上がる。
黒い四角をちかづけると、しゅるんと吸い込んだ。
『オーケー』
すごいじゃん、手間いらない。
『そうだね、そのへんに置いてあるアイテムも入れておくといいよ。』
なるほどね、つかえそうな道具は入れてあるとありがたい。
『おいおいこちらでの暮らし方も教えてあげるよ。』
グッジョブ。
ねえ、お金になりそうなものはあるの?
『う~ん、換金アイテムか~、そこの武器もってついておいで。』
私は、壁の干し草フォークをはずした。
男は(オスカルと言うらしい。)先に立って館を出ていく。
『この柵は、結界になっているからドラゴンでもない限り入ってこられないよ。』
ドラゴンねえ、来るの?
『住処が違うから、まず来ない。』
よかった。
柵のそばまでくると、水色のぷよぷよしたのが動いている。
スライム?
『よく知っているね、ブルースライムだよ。』
水属性か…
『まあ、その槍でつつけばいい。やってみ。』
まあ、スライムくらいなら。
干し草フォークでつつくと、びよんと飛び跳ねてしゅうしゅうと崩れた。
弱い!
『なんでいるのかよくわからないけど、たまには役に立つんだよ。』
どんな?
『トイレの汚物分解とか。』
なるほどねえ。
エコだな。
『それ拾って。』
これ?
緑色の卵みたいなのが落ちてる。
『スライムの核だ。』
核…
『これをアイテムボックスに入れて。』
私は言われた通り、卵をアイテムボックスに入れた。
『換金セット。』
アイテムボックスは、金額を表示する。
三五〇〇円?
『足りないな、もっと探そう。』
私たちは、柵に沿って歩いていく。
あ!いる。
私はすぐに走り寄って、槍で串刺し。
しかも二匹もいた。
ザクザク(MS06改)
やった、核二つ。
『それも換金だ。』
しめて一〇五〇〇円だ~。
『よし、一万円越えた、これで現金化できるよ。』
どうするの?
『現金化』
ひらりとアイテムボックスからお札が出てきた。
なんかヨレたお札ね。
『新札なんかシリアル番号とかで困るだろう。日銀の金庫から引き出してるんだよ。』
なるほど、使用済み券ね。
『そうそう。』
私は受け取って財布にしまう。
貧乏な母子家庭には、一万円は大金だ。
『よし、なかなかうまいぞ。今日はこれくらいでいいだろう。』
いいの?
『明日から少し魔法の訓練をしよう。』
わかった、やってみる。
『ようし、いい子だ。』
褒められるのは慣れてないから赤面する。
褒められて、こころなしか体も軽い。
『今日はお帰り。』
はい、そうします。
いつになく素直な返事が出た。
オスカルは、やさしい人だ。
私は、リビングに戻って、異世界ドアを開けた。
向こうは六地蔵の祠だ。
すごい、ぜんぜん壊れていない。
私のデカイ尻が当たったのに、倒れても居ない。
たぶん、オスカルが治してくれたんだな。
予定外の収入があったので、スーパーで大振りなとんかつを二枚買った。
うれしいな、年に何回もできないぜいたくだ。
よし、こいつとカレーでカツカレーだ。
まてよ、味噌カツ定食ってのも捨てがたい。
鼻歌歌いながら家路を急いだ。
さすがにあいつらも、自宅を襲うような無法はできない。
安心な夕ご飯である。
地元の総合病院で看護師をしている母は、そこそこ稼いでいる。
それなのにビンボーなのは、クソ親父が借金残して逃げたからだ。
ちくしょう。
それでもあと二百万円くらいで返済できる。
そうしたら、あとは楽できる。
「なにがあったの?」
「ああ、ちょっとお手伝いしたらお小遣いくれたのでぜいたくした。」
「そう?よかったわね。」
「うん。」
これで母はけっこう美人なんだよ。
親父が離婚届置いて行かなかったから、まだ夫婦なんだ。
だから再婚もできない。
失踪扱いにしてもらったから、あと半年くらいで離婚にできる。
クソ野郎が、なにもまともなことができない野郎だ。
お母さんも私もそんなに大食いじゃない。
それなのに、なんであたしは太るんだ?
ご飯食べて、お風呂入ってさて勉強だ。
でも、昼間の収入があたまにこびりついて離れない。
ほんの一〇分くらいで一万円も儲かった。
あれをもう少し続けていたら、もしかして十万円くらいになったのでは?
そう思うと、勉強が手につかない。
しょうがないので、その日はもう寝てしまうことにした。




