第二十六話 派閥
新規入学をすると高校ではオナ中で集まることが多い。
私たちも、どっちか言うとそんな雰囲気だ。
みどりと数吉と馬淵慎二が私の机に来てわあわあやってる。
お弁当の時間になると、暇そうなやつがうちのクラスを覗きに来る。
ゴールデンウイーク明けには、楽しい実力テストがあるんだ。
中学の習熟度とか見るんだって。
そんなもの、入試でわかってるだろうよ。
めんどくさい。
今日もみどりが弁当広げながらその話をふるので、ケツを叩いてやることにした。
「四月なんてあっという間に過ぎるんだから、対策するなら今のうちだよ。」
「どうするんだ?」
「慎二、サッカー部のセンパイに、去年のテスト持ってないか聞いてきなよ。」
馬淵伸二は入学初日からサッカー部に入った。
モノ好きとは思うが、やる気があっていいね。
「そんなもんどうするんだ?」
伸二は腕組んで首をひねる。
「過去問あれば、どんなもんが出てくるかわかるもん。」
「なるほど。」
「たまに先生は交代するけど、ほとんど過去問から外れることはないさ。」
数吉がうなずく。
「たしかに傾向は似たようなものになるな。」
「そうそう、だれだって面倒なことはしたくないからね、去年のデータを使うさ。」
「さすがサヨ。考えてるな。」
過去問あれば対策は早い。
伸二はさっそく先輩の教室を目指した。
「あいつはフットワークが軽いからいいな。」
数吉は伸二の背中を見ながらつぶやく。
「あんたが遅いだけじゃないの?」
「サヨはきびしいなあ。」
「へん、あんたは部活しないのかい?」
「いま検討中。」
「あ、私も制服もらった先輩に過去問もらってくる。」
「小夜!」
伸二が手を伸ばしたけど、届かなかった。
私は二年の教室を目指す。
中学時代に比べて、足取りの軽さと言ったらない。
階段二段飛ばしでも平気だ。
一年生は三階、二年生は二階、三年生は一階に教室がある。
生徒はお弁当を持ってくるか、購買でパンを買うか、コンビニで買ってくるかで過ごす。
学校を出ていくわけにはいかないから、コンビニ派は朝が勝負だな。
「牧村先輩いらっしゃいますか?」
教室の外から声をかけた。
「だれ?あんた。」
「朽木小夜ですが?」
「はあ?朽木ったらもっと丸かったじゃん。」
「えへへ、ダイエットがうまく行きました~。」
「あほう!そう言うことはあたしにも教えてくれよ。」
「やりますか~?かなりきついですが。」
「う、ぼちぼちにするか…」
「そうですね、体重半分になりましたが、死ぬほど苦しかったです。」
「う…そいつは…」
「あ、その節はお世話になりました、おかげさまで無事卒業できました。」
「そうかい?それは良かった、あんたも苦労したね。」
先輩にはおおむね全部話したからねえ。
「そいでですね、一年生の実力テストの過去問貸してもらえませんか?」
「過去問?やだよあんなひどい成績のやつなんか。」
そんなにひどいのかなあ?
「点数とか見なくても好いようにできませんか?」
「じゃあ、コピーして白テープでいろいろ消してくるよ。」
「ありがたい!これは差し入れです!」
後ろ手から、モンブランの入った箱を出した。
「これなに?」
「モンブランきらいですか?」
「…好き」
「ではどうぞ、食後のデザートに。」
「わかったわかった、明日には渡してやるよ。」
「かたじけない!よろしくお願いします。」
賄賂を受け取った以上、だましはなしだぜ。
過去問五枚ゲットだぜ。
「三年の先輩のは手に入りませんかねえ?」
「そこまでマメな先輩はいたかなあ?」
「もしあったら、モンブラン追加しますが。」
「わかった、聞いてみるよ。」
「かたじけねえ。」
私はそそくさと二年の教室を後にした。
「牧村、だれよ?」
「オナ中の後輩さ、なかなか悲惨なことになってたんだけどな。」
「なにが?」
「いじめの標的にされてたんだよ。」
「へえ、かわいいのにな。」
「中学の時は、太って顔もパンパンで、チビデブブスだったんだよ。」
「信じられない。」
「頑張って痩せたのか?いじめで痩せたのかは知らんがな。」
「あんたみたいに柔道でもやればよかったんちゃう?」
「そうだな~、あたしもあとちょっとで県大会優勝できたのにな~」
「おしかったねえ。」
「あそこで一〇〇キロ越えはずるいよな。」
「まったくだ。」
先輩は体重を武器に柔道で有段者になってる。
「愛だよアイ。」
牧村先輩は体育大学を目指してるらしい。
大会で好成績を残して、推薦枠を取れるといいね。
なんて思った時もありました。
「小夜!いるか?」
放課後、突然牧村先輩がやってきた。
「なんですか?牧村センパイ。」
「おお、ちょっと付き合えよ、ジャージ持ってこい。」
「はあ」
「じゃあサヨちゃん、あたし先に行くね。」
「ああさやか、すぐ行くから。先生に伝えて。」
「あいよ。」
「なんだよ、先生って。」
「あ、ピアノの先生ですよ、今日はレッスン日で。」
「か~!お上品だなおい。」
「けっこうハードですよ、スパルタくるし。」
「へえ~。」
「で?なんで着いてくるの?みどり。」
「そりゃあ興味があるからだよ。」
「そうか、お前柔道に興味あるのか?」
「そらみろ~」
「ええ?今から行くのは柔道部?」
「牧村先輩はエースだからね。」
「へ~、すごいね。」
「ははっすごかろ?」
牧村先輩が胸を張ると、おっぱいより大胸筋がすごい。
「小夜、おまえ変なこと考えただろう。」
「いえ、おっぱいより大胸筋がすごいなんて思ってません。」
「思ってるじゃねーか!」
アタマぐりぐりするのやめて。
体育館の二階には柔道場と剣道場がある。
「ここだ、ジャージに着替えて来いよ。」
「は~い。」
ぱぱっと着替える。
最近はスポブラとTシャツを着こんでるから、ジャージにしても早い。
「一年は~河瀬・岸いるか?」
「「はい。」」
「ちょっとこいつに受け身させてくれ。」
「うわ、牧村先輩、こんな華奢な子つぶれますよ。」
河瀬と呼ばれた子が、私を見て言う。
「いいから、受け身なら大丈夫だろう。」
「はあ~い、こっちきてええと…」
「朽木です。」
「朽木さん、こんな感じで…」
「ほうほう、こうかな?」
岸恵子が河瀬小春に聞いた。
「この子経験者なの?」
「いや、教えろと言われたから未経験者だと思う。」
「それにしてはきれいじゃない?」
「うまいな…」
二人は中学からの経験者だし、試合もこなしてきている。
ま、ロンたちほど強くもなさそうだけど。
「岸、ちょっと組んでみろ。」
「ええ~?道着も着てないのに?」
「まあ、襟だけでいい。」
「う~ん、朽木さん立てる?」
「あ・大丈夫。」
「朽木、岸のえり持ってみ。」
「こうですか?」
「そうそう、そこで引き付けてこうだ。」
「引き付けて、ほいさあ!」
ばん!
岸は何が起こったかわからなかった。
あまりの速さに視界が着いて行かなかった。
「おお!見ただけでやれるのか!すごいな!」
「まさかまさか、中学三年間やってきたんだよ、投げられるにしてもきっかけも見えなかった。」
「河瀬、ちょっとここに立って。」
牧村先輩が河瀬さんを立たせた。
「はい。」
「朽木、見てろ。」
「河瀬、内股いくぞ。」
「はい」
型を見せるだけだから、きつくもない投げだ。
私は見よう見まねで、岸に内股をかける。
「こう?こうかな?」
ばん!
「え?え?なんで?」
私は正確に牧村先輩が見せた内股を再現してみせた。
たぶん、本家より早く。
岸は、自分の状態もわからないうちに畳に寝ていただろう。
これが、フィジカルブーストの力だ。
赤く塗ったら通常の三倍速く動けるのだ。
一年生のジャージがえんじ色だしな。
「こんちくしょう!」
岸は立ち上がって、私の襟と袖をつかんできた。
私は、軽くその手をはたき落して、右手で袖をつかんで軽く腰に乗せる。
思い切り回転して、岸を肩から畳に落とした。
「ぐへっ!」
岸の女の子らしくないうめき声が漏れた。
「岸~、シロウトに投げられてるんじゃないよ。」
牧村先輩があきれたように言った。
「この子、シロウトじゃないです!ぜったい段持ちだ!」
「朽木、そうなのか?」
「いや、今日初めてです。」
「ほ~う、なにかやってる?」
「ヤットウを少し。」
「へえ、無手は初めてか。」
「ええ、間合いがわかりづらいです。」
「なるほどなあ、私のやったのを見ただけでまねるってえものは、ちょっと信じられないよ。」
「まあ、運がよかったんですよきっと。」
「運…ねえ」
「じゃあ、ちょっとやってみよう。」
牧村先輩が私の前に立つ。
「ここをこう持って、こうする。」
私の視界がぐるりと回る。
「ほえ~、面白い!」
私は笑って立ち上がった。
「えっと、こうして…こうですか!」
「お!おい!」
ぎゅうんと牧村先輩が回転する。
ばあん!
派手な音に、道場にいるみんながこっちを見た。
「なるほど、うまく腰に乗せるんですね!」
「たまげた、八十五キロ級の私を簡単に回した!」
「脚力には自信があるんです、てへ。」
私が笑って見せると、牧村先輩が迫る。
「朽木、柔道やれよ!」
「ええ~?私はピアノやるんです!」
「そう言うなよ。」
「あ!レッスンの時間が!失礼します!みどり、行こう。」
私はみどりの手を引いて、柔道場を後にした。
「くつき~!」
牧村先輩が手を伸ばして叫ぶ。
しらんがな。




