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第二十四話 パンを焼こう

春休みもあと少し、世間は晴れてる。

今日は、朝からみどりとさやかがパンを造りにやってくる。

あれ?

となりのクラスの中島恵がいるよ。

「どしたの?」

みどりが笑う。

「パンつくりと言えばメグちゃんです。」

「どうも〜(笑)」


なるほど、菓子慶のムスメか〜。

コイツは盲点だったね。

昭和初期から店を構えるおまんじゅう屋さん。

菓子慶は、あんこが自慢のお店だ。

ばあちゃんの炊くあんこが絶品なんだよ。

それを、うす皮で包んで蒸すと、めちゃくちゃおいしい菓子慶まんじゅうになる。

メグは、三代目だがお菓子よりパンつくりが好きらしい。


「あんこは、好きだよ。」

そうかい?

「アンパンなら、人には負けないよ。」

「なるほど、私は、つぶあんが好きだ。」

「「おお?同志!」」

みどりとさやかが手を上げる。

きのう届いた、ダイニングテーブルは、広くてがっしりした木製なやつだ。

椅子も、それに合わせてしっかりしてる。


「コーヒーのひと〜」

手が上がらない。

「紅茶のひと〜」

「「「は〜い」」」

今日は、紅茶か。

私は、棚からトワイニングの缶を出す。

この前買っておいたやつだよ。

ザクスさんには、きっちり十個渡したからね、これはおうち用の一品。


とっておきの、ムーミンのティーポットに、コゼーもムーミンママ。

私はリトルミイさんで、みんなのはムーミン、スナフキン、スノークのお嬢さん。

「すご〜い、ぜんぶムーミン!」

中島恵が躍り上がらんばかりに喜んでいる。


「小夜ちゃん、テーブルも新しくなったのね。」

さやかが、テーブルに手を置いてなぜた。

「あんまり何もないから、あわてて買いに行ったのさ。」

「すごいな〜」

「これでも、成り金っぽくならないように気をつけたんだよ。」

「だいじょうぶだよ〜(笑)」


「んで先生はなにを教えてくれるんかな?」

「え〜今日は、ちぎりパンにしましょう。」

「ちぎりパン?」

「そう、かんたんに作れて失敗が少ないから。」

「へえ〜そうなんだ。」

「材料はそろってる?」


「強力粉とドライイースト、無塩バター、牛乳、あ・秤。」

「だいたいあるわね。砂糖と塩もあるわね。」

「は〜い、あります〜」

「おけー、お茶飲んだらやるわよ。」

みんなお茶を飲んでから、エプロンを付け始める。

「はい、これをこねるわよ。」

メグは、以前の私ほどじゃないけど丸い。

エプロン付けて、テキパキと指示を飛ばしている。

人の準備だけでなく、自分の分もきっちり仕上げているのは流石だ。

「みんな牛乳パックは持ってきたわね。」


全員が空の牛乳パックを出した。

これを縦に四つに切ると、形ができます。」

へえ〜こういう使い方は初めてだね。

「四隅を組んで、四角い箱にします。」

「メグたんこう?」

「そうそう、うまいよ。」

一次発酵を待つ間に、牛乳パックの形ができあがる。

なかなかうまいなメグ。

指導になれてる、ほかでも結構やってるみたいね。


みどり~なんで線が描いてあるのに斜めに切る?

さやか~、切り口ががたがたしてるぞ。


「そのまま団子にしてもいいけど、今日はロールします。」

みどりもさやかもお家の手伝いしてないのか?

イマイチぎこちない。

やってるうちに慣れてきたかな?

タネをケッパーで切り分けて、9つの固まりにする。

それを細長くもんでひもにする。

紐になったやつをを軽く伸ばして、くるくるとまく。

「巻いたやつを、形に並べて行けばオッケーよ。」

メグはキッチンペーパーを形に敷いて種を乗せた。


「なんか少ない〜」

さやかが不満そうだ。

「それ、まだ二次発酵で膨らむから気にしないで。」

「ふうん、そうなんだー。」

かなりがさがさしてるんだけどね。

「これでいいのかな?」

「小夜ちゃんじょうずにできてるわよ。」

「よかった〜」


「オーブンは…百八十℃いい感じね。」

二次発酵して、形にちょうどいい具合に膨らんだタネを、オーブン皿に乗せてゆっくりと中に納める。

うちのは二段にできるから、全員分を一気に納めた。

「これだけ大きいオーブンだと、熱ムラなくて良いね。」

「熱ムラねえ。」


「小さいと、すぐに熱が下がっちゃうから、焼き上がりが心配になるわ。」

「なるほどねえ。」

オーブンが大きいから、だいたい十五分前後で焼き上がるそうだ。

「お茶のむ暇もないわねえ。」

みどりは手についた粉をはたいている。

「今のうちにみんな手を洗おう。」


私の声に全員シンクに向かった。

蛇口が二口あると便利だね。

私はお風呂場の洗顔で手を洗う。

「さやかもこっち来る?」

「うん」

意外と爪の中まで小麦のネバネバが入り込んでる。

爪ブラシでゆっくり落とす。

こんなもんあわててこすっても落ちやしないよ。


焼き上がったので、テーブルの上に段ボールを広げて、鉄板を乗せた。

「わあ!」

全員がパンの香りに顔をほころばせる。

「すごーい、パンになってる!」

「みどり、私たちはパンを作ってるんだよ。」

「えへへ」

LDKが、パンの香りで満たされてしまった。


お母さん帰ってきたら、わあわあ言ってうるさいかも。


パンを食べながらお昼の代わりにする。

サラダとかスープとか作り置きしておいて良かったわ。

小さいハンバーグにシャウエッセンもあるわよ。

「すご~い、小夜ちゃんこんなの作ったの?」

メグも驚く。

「え?こんなの丸めて焼いただけだよ。」

「いやいや、それこそ下ごしらえとかいろいろあるでしょう。」

「ああそれ?大量に作って冷凍してる。」


「ほえ~」

さやかがフォークを握って口を開けている。

それぐらいお手伝いしろよ。

彼氏ができてお弁当作るとき泣くぞ。

「だいたいあんたらは、家の手伝いとかしないの?」

「え~、田植えとか?」

農家か!

「田植えはやるねー。稲刈りとかも。」


「いやいや、お母さんのお手伝いとかだよ。」

「しないね~。」

「みどり、それでいいのか?」

「え~だって特にやることないもん。」

「洗濯とかは?」

「う~ん」

「こらこら、もう子供じゃないんだから。」


「小夜ちゃん、お母さんみたいなこと言う~」

「さやか~、いかんいかん、苦労が見えてる。」

「あはは~」

オシンこりっくになっちゃうよ。

「ウチは洗濯機が洗いから乾燥までやってくれるよ。」

「それか~!」

最近の高い機械が、お手伝いの機会をうばう。

「うんま~。」


パンには牛乳でしょう。

完成品と牛乳で試食をしていたら、おもむろにメグが切り出した。

「そう言えば荻野目たちのグループ、結局矯正施設行きが決まったって。」

メグの声に、全員が凍り付いた。

さやかが震える声で聞いた。

「ほんとう?」


「確かなソースだよ。」

メグはかなり冷たい声で言うと、緑が頭を抱えた。

「うわ~お金返して終わりにはならないか~。」

緑の声に、メグは笑う。

「ああ、それがあったね。」

「中京市のむちゃくちゃ厳しい施設だってね。」

みどりが眉尻を下げる。


「自業自得だよ、私に絡んだ時に気を付けろって言っておいたのにね。」

私も極めて冷静に対応した。

しかしメグは笑いながら答える。

「人の意見なんか聞くわけないよ。」

「それもそうか。」

他県に逃げて終わりってわけではないさ。

しかしこの女、できるやつだな。

中三にしておくには惜しい人材だ。


みんなは、三々五々帰って行った。


自分で作ったパンがおいしいね。

午後から大量に焼いておこう。

たくさんあったって、ロンたちがすぐに食べちゃう。

ジニーなんかも、際限がないからね。

焼きたてをアイテムボックスに入れておけば冷めないし。

みんなが、帰ってからが本当の闘いだ。


肌寒い気候だけど、窓全開でパンを焼く。

外が晴れてるからマシだな。

メグにお土産でもらったあんこを埋め込んだあんパンもできた。

さすが菓子慶のあんこ!

ウマー!

あんこだけを貪り食いたいレベル。

「私が炊いてもこの味にはならないんだよ~。おばあちゃんすごい!」

メグは嘆くが、確かにすごい。

おばあちゃんは宝だな。


「なんだかさー、気温とか湿気で塩と砂糖の配合が変わるんだって。それもカンだよ!」

そりゃあムリだ、職人技だ。

ただ、メグだってまだ十五だ。

これからもっと技が上がるだろう。


「ぬおおおおお」

まぜまぜまぜまぜ

一次発酵のボウルが五個も並んでる。

「う~ん、まだ足りないなあ。」

この際鍋も使っちゃえ。

まぜまぜまぜまぜ

まぜまぜまぜまぜ

鍋も五個。

よしよしよし


ケッパーあああああ

しゅぱしゅぱしゅぱ

ほいほいほい

まるめまるめ

ロールロ-ル

うひひひひ


あかん、ハイになってしまった。


ぐーちょきパン店じゃないけど

鉄板を指の上でくるくる回してから、二次発酵のタネを並べてオーブンへ。

焼の時間って準備に比べて早いよね~。

できた順にアイテムボックスに入れて保管。

全部で百個ぐらい焼いただろうか?

そうして、機材を洗浄して(クリーンは効果抜群)しまったところで、母親が帰ってきた。

「なんか外までバターの匂いがするわよ。」

「きょうみんなでパン焼き教室したの。」

「へえ、うまく行ったの?」


「これが完成品。」

ちぎりパンとあんパンを出して見せた。

あんパンは五センチくらいの小さいやつにした。

ちぎりパンは形のまま出した。

「へえ、ちゃんとできてるね。」

「メグのおかげ、あのこすごいね。」

「メグ?」

「菓子慶の孫、三代目だね。」

「あはは、菓子慶がパン作り?」


「世の中多様性の時代だってさ。」

「まんじゅう屋にパンがならぶのかい?」

「みわ屋でケーキ売ってるんだよ。」

「なるほど。」

「メグがいたら私の計画がうまく行きそう。」

「計画って?」

「まだ先の話だけど、駅前デートスポット計画。」

「なによそれ。」

「高校生がカップルで入れるお店つくりたい。」

「おやまあ、遠大な計画ですこと。」

「もうちょっともうけたらね。」

「どんだけ〜」


まだ場所も決まってないからね。

オークとかオーガとかとりまくって、お金貯めるんだ。

でも、マイプ売ったカネはいくらになるかな?


明日は入学式なんだけど、母親は仕事で出られない。

まあ、子どもじゃないんだから、一人でも平気さ。

もらってくる教科書とか入れてくる袋がほしいよね。

隠してアイテムボックスに入れるわけには行かなくて、困るな。

さて、そろそろロンたちがバルジャックに戻ってくるかな?

少し飛んでみようか。


って、まだいない?

クレルモンフェランにいるのかな?

もう一歩飛んでみた。

ああ、いたいた。

バルジャックまであと少しだね。

あ〜後ろから着いてくるのは、オークとゴブリンの集団だな。

オーク五、ゴブリン十二。

知らせてやるか。


「ロン!後ろからオークが来るよ!」

「なにぃ〜、後ろの警戒はどうしてる?」

「まだ一キロくらい離れてるから、心配ない。防御態勢をとって。」

「がってんだ。」

馬車に合わせて走りながら、シンガリの馬車に声をかけた。

「後ろからオークが追いかけてくる!防御態勢をとって!」

「お、おう」

「魔術師は、攻撃魔法用意!」


馬車は、速度を落とさずに走る。

後ろの魔物は、負けじと速度を上げる。

まったく奴らは無尽蔵なスタミナだよ。

そのうち最後尾の馬車に迫ってきた。

「いまだ!魔術師撃て!」

ぎゅう〜ん

一斉に得意な攻撃魔法が集中すると、あおりを食らったやつが、二匹直撃を受けてひっくり返る。

そいつを、はしからトドメを刺していく。


私の足を舐めるな。


そのすきに、ゴブリンを蹂躙する。

端から農場フォークで串刺しにしていく。

「うぎゃが!」

「がぼ!」

倒れたやつは、アイテムボックスに入れてまた走る。

身体強化かけてなくても、マジで走れば楽勝だ。


一匹のオークが右から側面へ攻撃をしてきた。

アタマあるじゃん。

『ファイヤーボール!』

知らないやつが杖を向けた。

クレルモンフェランで雇ったやつだろう。

右側のオークが炎を纏ってひっくり返る。

そこを見逃さず、まっ縦にフォークで突き刺すと、すぐにぐったりした。

走りながら、それを収納する。


「マジックアロー!」

私は無詠唱で無属性魔法をぶっ放す。

十本の短い矢が後方のゴブリンを突き抜ける。

足が遅くて、オークから遅れたようだ。

まあ足も短いけどね。

一気に五匹が後ろに倒れる。

ぎゅうんと円を描いて、回収に走る。

そのまに、馬車の速度が落ちて、オークを迎撃する体制ができたようだ。

残り二匹ならロンたちには楽勝だろう。


私は後から駆けてくる五匹ぐらいを引き受けた。

農業フォークアタック!

がんがんがんがん

若い命が真っ赤に燃えて~

歌うな!

もう、一般的なゴブリンなど相手にならない。

あっという間に叩き伏せてしまった。

「しゅうの~う」

ま、カネにはならんがしょうがない。


オークなら肉代になるからマシだ。


『マジックアロー!』

お・モリーがぶっ放したな。

『おらあああ!!』

ロンの咆哮である。

『せいっ!』

オリバーが剣を振り下ろしたようだ。

『にゃっ』

ジニーじゃん、なにやったんだ?


「ザクスさん!ご無事ですか?」

「おお、サヨさん。おかげさまで何もありませんよ。」

「よかった。上空から監視して良かったです。」

「たすかりましたよ、先に見つけると楽に討伐できますな。」

「そうですね、ほかのみなさんもお怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫ですよ。」

「サヨさんのおかげですよ。」


「サヨ!助かったぜ。」

「「「ありがとうね、サヨ。」にゃ」

「サヨ、腹減った。」

オリバーあんただけ感謝が足らんぞ。

「そんな奴には、私のパンはやらんぞ。」

「しょ!しょんなあ」

「ふはははは、あがめよ、たてまつるがいい。」

「へへ~」」


「あの、サヨさん?」

「ああどうも、うちらのお遊びですから。」

商人たちがドン引きである。

「よくやった、ほらご褒美。」

私はアイテムボックスに入れてあったあんパンを出した。

「うへへ~、あったかいじゃん。」

「焼きたてだ、ありがたくいただけ。」

「わお、甘い!」

「ほんとだ、甘いよ。」

「にゃっ」


ロンなんか一口で食べてしまった。

「さっサヨさん!私にもください。」

ザクスさんが勢いつけて駆け寄ってきた。

「は・はあ、どうぞ。」

「ぬおお、うまい!」

「そうですか?これは私がやいたんですよ~。」

「ほほう、すばらしい技ですな。」

「いやいや、おはずかしい。」


「サヨ~、やっぱりコッツウォルズで店だしてくれよ、オレ毎日買いに行くから。」

「あほう、私のパンなんざまだまだだよ。」

「そんなことないわよ、すっごくおいしい。」

「そうかい?」

先生がいいからな。

おいしいと言ってもらえるなら万々歳だ。

じゃあ、もいっこ出そうかな。

あまり金にゃあならないが、これはこれでいい感じの時間だよ。


ロンは、相変わらず一口で食べてしまって喉に詰まらせた。

毎回毎回…学習しろよ。

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