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第二十三話 ピアノが来た日

まあ夜になってやっと焼肉から解放された。

もう暗いけど、ここで泊まってはヤバいので、結局帰ることにした。

「夜に飛ぶなんて危ないよ。」

モリーは止めるが、そう言うわけにもいかないんだ。

「いい、まだ用事があるんだ。明日も人が来るし。」

ピアノが届くんだよ。

と言うわけで、クレルモンフェランからヴィラ=ホーネルに一気に飛んできた。


ぜいぜい言いながらヴィラ=ホーネルに入ると、オスカルも驚いていた。

雪の中飛んできたからな~。

シールドがあるから、顔に雪は着いてないけど。


明日客があるんだ、だから帰ってきた。

『そう?約束は大事だね。』

そうなんだ、お休み。

すぐにドアをくぐって家に戻り、ソッコーお風呂に入った。

めちゃくちゃ焼肉臭い。

これはお母さんになにか言われそうだよ。

焼肉屋でバイトしてるわけじゃないんだから。


おかげさんでけっこう儲かったけどね。

銀一グラム一七〇円だから、銀貨は二〇グラムぐらいで、三四〇〇円だ。

銀貨はザクザクあるから、数えたことがないけど、買い取りに出したらけっこうな額になりそう。

お肉は現地調達で、持ち出しは生姜焼きのたれだからさ。

しかし、これからはよほどたくさん仕入れておかないとだめだね。

エ●ラ食品さまさまですわ。

ついでに黄金の味も買っておこう。

箱買いするならAm●zonで頼むか。

あとは、サンマのかば焼きとか、あると便利なやつ。


ロンなんか、何喰ってもうまいうまいって言うからよくわからんのよ。


でもジニーはおさかな缶は好きかもね。


そんなこんなで夜は更けていった。

冷えるな~って思ったら、遅い霜が降りていたらしい。

この辺は陽当たりがいいから、すぐ溶けて湯気になってしまう。

お茶の農家さんは困っているかもしれないね。

さて、今日は千恵子先生がピアノ納入してくれる。

特に汚れてもいないが、玄関ホールに雑巾がけしておこう。

うちは、二間玄関と言って、約三百六十センチ幅がある。

要するに畳の縦が二枚分と言うことだ。


土間は四畳ぶんある。

どんだけ広いんだよこの家。

まあいい、この辺に置いてもらおう。

「こんにちは~」

千恵子先生の頭のてっぺんから出るような高い声が聞こえた。

「は~い」

玄関の両開きの引き戸をさっと開ける。

春物のクリーム色したコートの千恵子先生がいた。



「ま~広いおうちねえ。」

「まだなにも置いてないので、よけいにがらんとしてます。」

「いいんじゃないの?ピアノはどこに置きます?」

「こちらに置きたいんです。」

「それじゃこっち向きに置きましょうか。」

「はい。」

玄関に向けて置くことにした。

鍵盤のある方が奥ね。

ウチの周りは田んぼばかりなので、あまり気にしなくても良さそうだ。


そうして、先生にお茶を出しているうちに、ピアノ業者がやってきた。

「あ・来たみたいね。」

改めて見るとでかいよね~。

ピアノは二人で担いでいる。

平たい部分を縦にして、玄関から運び入れる。

ホールに入って、足を取り付けるんだ。

ローラーが付いているんだけど、それを乗せる小さな台がある。

「ここは少し隙間を空けてね。」

先生の指示でてきぱきと設置されていく。


「ほわ~私のピアノだあ~」

「そうね、これからピアノに負けないようがんばりましょう。」

「はい。」

ピアノ屋さんは、設置を済ませるとすぐに帰って行った。

入れ替わりぐらいの時間に、調律の先生が来てくれた。

今度は、コーヒーメーカーでいれたコーヒーを出す。

「先生、モンブラン出してもいいですか?」

「あら、モンブラン大好きよ。」


二人に、コーヒーとモンブランを出す。

一息ついたらすぐに調律に入ってくれた。

一時間ちょっとで調律ができた。

プロすげーな。

耳だけで仕上げちゃうんだよ。

「千恵子先生、ちょっと弾いてみてください。」

千恵子先生はピノの前に座って、すっと手を出す。


さすがだねえ、譜面もなしにすぐ弾けるんだ。

ショパンのノクターン一番だ。

これはyou tubeで聞いたからわかる。

「良さそうですね。」

「さすが先生ですね。」

二人の空気がどっちか言うと、刀で向かい合っているようにも見える。

プロ同志のせめぎあいのような。

「じゃあ、バイエルの練習を始めましょう。」

「では私はこれで失礼しますね。」


ここで教室が始まった。

右手と左手が別々に動くと言うのを体現できない。

なかなか難物ですよこれは。

とりま五番まで反復練習。

やはり音が出るとよくわかるね。

スキル超記憶と超理解の出番だ。

楽譜と音がリンクしてきた。


うん、わかる。

こうだろ?

「あら、急に音が良くなったわ。」

さもあろうさもあろう。

私の才能は、勉強だけじゃないんですよ〜(笑)

右手・左手

リズム

おーと


「五番まではだいじょうぶみたい。もっと進む?」

「はい、早く一〇八番まで進みたいです。」

「あわてちゃだめよ、ゆっくりしっかり体に覚えさせて。」

「はい」

うん、覚え易い。


ピアノも、弾いてもらわなきゃ、存在意義がないよね。

活用しますとも。

高校では、音楽関係の部活にすべ〜か。

まだわからんけど。

「あんまりボール使ったクラブはダメよ〜ユビ傷つけたら弾けなくなるから。」

「あ〜そうゆうことあるのか。」

「そもそも、指の形が変わると弾けなくなるのよ。」

そうか〜、まあ、ヒールで治るけど。

「わかりました。」


ひとコマ習って、今日は終了。

「先生、お月謝です。」

私は、封筒に入れた月謝を出した。

「はい、ありがとうございます。」

あ・この人おカネの大切さを知っている。

好感あるね。


ひと休みしてから、モレラ岐阜に向かう。

五万三千円のケッタマシーンは早いよ。

私の脚力にも耐える仕様だし。

ほっとけば、時速八十キロくらいは出せる。

普段は三十キロ前後で止めてる。

それでもかなり早いけど。

LDKに置くソファセットと私の勉強机。

あとなんだ?

ベッドとセンターラグ。


なにかと物入りだよね。

届けてもらえるように家具屋に頼んだ。

電気屋に行って、冷蔵庫とテレビ洗濯機を買い込む。

みんな小さいから使えないわけじゃないけど不満。

店員の勧めを聞きながら、冷蔵庫の大きさを決める。

置き場所はちゃんと計ってきたからね。

エアコンはまだ使えそうだからいいや。

コタさんはどうする?

LDKに置くなら大きいやつがいいな。

この際セットで買っちゃえ。


なんだかすげえ買い物だなあ。

それを現金で買っちゃう豪気なことさ。

でもベッドないと寝られないしね。

フードコ-トでハンバーガー齧りながらふと思いついた。

「お布団、新しいのにするか?いやいや、シーツを新調しようか?」

面倒だ、全部新品にすべえ。

コーラを飲み干して、もう一度一階に降りた。

わくわくするなあ。


電気屋で買った小さいCD付きラジオはママチャリのかごに入れた。

お母さんのシュークリームも買ったし。

まあいい帰ろう、レッツゴーヤングって産まれてないし。

高いママチャリは高いだけあって、軽快に走る。

タイヤも少し太めで、路面の凸凹をうまく消している。

高かったけど、良い買い物した。

この自転車なら高校三年間、頑張ってくれるにちまいない。


少し暖かい南風を感じながら、三寒四温なんて言葉を思い出していた。


家に帰ったところで、LDKでCDを出した。

リチャードさんのCD。

これ、弾けるとかっこいいよね。

モレラ二階のしまむら楽器で、楽譜も買ってきた。

これで、CDと楽譜を見比べるんだ。

どうかな?

渚のアデリーヌさんですよ。


ほうほう、こんな感じなのか~わかる・わかるぞ。

私には時が見える。

美しいものがキライな人がいて?

てってってってててて~

ふんふん、こうか。

いける、いけるな。


「サヨちゃ~ン、CDの音大きいね。」

みどりとさやかがやってきたようだ。

私はピアノの前で、二人を迎えた。

「ごめ~ん、入って入って。」

夕方だが、二人はそろって来たらしい。

さやかが目を丸くしている。

「ちょっと、今の小夜ちゃんが弾いてたの?」

「あ、練習中。」


「だって、この前から始めたのに。」

「だからバイエルとは別に、練習してたんだよ。ほかに人に聞かれるとはずかしいじゃん。」

「練習って、私より弾けてない?」

「んなこたねーでしょ、私は始めたばっかだよ。」

「ほわ~、小夜ちゃんのピアノすごいね。」

「あんまり大きいのはやだったんだけど、なにしろここがさみしいんでさ。」

「アップライトよりはいいかもね。」

「さやかちゃん、子犬のワルツ弾いてよ。」


「え~、でもこのピアノ弾いてみたいわ。」

私はさやかに席を譲った。

さやかは気持ちよさそうに弾いている。

「はや~い。」

「おお、すげ~。」

私は紅茶をいれながらさやかの演奏に聞き入る。

ケーキなにがいいかな?

フルーツタルトがいいな。


「こっちでケーキ食べようよ。」


「「食べる~」」

貧相なキッチンテーブルに紅茶とケーキを並べた。

椅子が足りなくて、丸るいスツールを出して座った。

「いや~、二人暮らしが長かったから、何もないんだよ。」

「おうちは大きいのにね。」

「この前、親父から慰謝料もらったから、家具買ってきた。」

「慰謝料?」

さやかが妙な顔している。

「ああうん、いきなり蒸発してさ、お母さんも離婚できなくて困ってた。」

「ふんふん」


「この年末に捕まえて、慰謝料ぶんどって、私の養育費もぶんどってきたんだ。」

「へえ~」

「その慰謝料でこの家買ったんだよ。」

そんなことぶっちゃけていいのかね?

いいんだよ、ふたりともそんなことふれて回るようなやつじゃない。

言われてもたいしたことじゃないしね。

みどりは手を叩いて笑っている。

「すごーい。」

「すごかろ?」

私は豪快に笑って見せた。


「ま、そんな訳で、ウチは貧乏生活を脱出したのだ。」

「へえ~、でもみわ屋のケーキ?」

「だって、これじゃなかったらバローのケーキだぞ。」

「それはちょっと…」

「…まあ、商売の邪魔したいわけじゃないから、今のはなしね。」

「う、うん。」


この町はみんながドンツキだと思い込んでいるのがネック。

べつにそんなことはないんだ。

道路は滋賀県にも福井県にもつながっている。

みんな、中京市がいちばんだと刷り込まれている。

そこが、この町の発展しない原因なんだよ。

中学生にだってわかる理屈が、じいさまたちには理解できない。

山に当ると行き止まりだと思っているんだ。

田舎町はきっと、じいさまの精神が田舎なんだと思う。


ただなあ、ここではだれもデートしたいと思わないよなあ。

どこもかかしこもこぎたねえ。

家の周りは田んぼしかない。

駅の周りは駐車場しかない。

ジジババがやってる、駅の横の寄り合い所なんかも、バスの待合だもんさ。

う~ん、考えてしまうよ。

「サヨちゃん、ケーキ屋さんやるの?」

「ああ?さやか、私は医者になるんだ。」


「だよねえ、びっくりしたよ。」

「あでも、オーナーならなってもいいな。」

「おーなー?」

「カネは出す、口は出さない。」

「でも稼げ?」

「みーどーりー」

「稼がないと、出資が返せないよね。」

「それもそうか。」


「じゃあ、あんたら二人でパン屋さんとか、クレープ屋さんとかやれよ。」

「小夜ちゃんがオーナーで?」

「そうそう、あでもパン焼いてみたい。」

「あたしもー。」

「よし、オーブン買おう!」

「あれ?でもここにあるやつ、オーブンだよ。」

「みどりが、台所のシンク下を見て言った。

「うわ~、気づいてなかった!」

なんかすげえ損した気分。

でも買わなくていいんだから、得したね。

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