第二十一話 リヨン ②
コッツウォルズのギルドでいろいろ聞き込んできたので、なかなか有意義な時間を過ごした。
コッツウォルズの城壁の外には、広々とした農園が広がり、冬の麦がそろそろ実をつける。
春先からGWにかけて、春麦の収穫となる。
ウチの周りでも二毛作で、コメと麦を作っている田んぼがある。
あまり収穫を遅らせると、コメが取れない。
マメを作っている田んぼもある、大豆は貴重なたんぱく質だよね。
コッツウォルズの食料をここだけで賄っているかは不明だが、小麦が足りないとは聞こえてこない。
私に聞こえてこないだけかもしれないけど。
うねるような土地に広々とした畑が連なる様子は、いつまでも見ていたくなるほど美しい。
写真でも撮っておくか。
コッツウォルズは、日本より春が遅いようだ。
みな、畑に出て農作業に忙しい。
麦は連作障害が出るので、サイクル式にするのがいいんだけど、ジャガイモが少ないなあ。
もっと植えればいいのに。
あ・ウチもバローホームでジャガイモの種イモ買ってこよう。
庭で作れるよ。
コッツウォルズの住民は、なぜか庭を飾ることが好きだ。
街の中に緑があふれている。
家も、ベランダに花を飾ったり、壁をアイビーが伝ったりしている。
道端もきれいに清掃されているし、歩くといい匂いがする。
噂によると、ハリー君のロケに使ったこともあるらしい。(そりゃここじゃねーよ)
耕地の間には広葉樹が葉を広げている。
絵にかいたようなとは、このことだろう。
なんだかここに住んでみたくなる。
さて、ロンたちはどこまで行ったかな?
あれから五日、かなり進んだことだろう。
普通に行けば、一〇〇キロ以上は進んでいるはず。
私は、あれからいろいろ試行錯誤して、小型の飛行機を作った。
もちろんハリボテだが、けっこういい感じ。
これに乗って飛べば、よさげに見える。
魔道具と言えば、たいていごまかせるのがこの世界のいいところ。
羽根に取っ手が付いているだけのシロモノで、あっさりしている。
強いて言うなら、バイクの上だけみたいな?
私は、この飛行機もどきに乗って、空に舞い上がった。
こっちだな。
ときどき地面の道しるべを確認しながらキャラバンを追う。
耕地はそのうち森につながる。
森との境には、石を積み上げた一メートルくらいの柵が立ててある。
ウサギやイノシシは入ってこない。
街道は、森を貫くように伸びていて、道から五メートルくらいは木が切ってある。
魔物よけらしいけど、もう少し切ったほうが良いんでなかろうか?
街道の横を、なぞりながら飛ぶ。
旅人がいると、少し迂回してやり過ごす。
やがて、小さな村が見える。
開拓村のようで、丸太で作った粗末な柵が立っている。
特に寄る必要もないのでやり過ごした。
高く飛んでキャラバンをさがす。
まだ向こうか。
ぎゅっとスピードを上げた。
ここにもハーピーの巣があるのか、ひらひら飛んでいる。
まあいい、こっちのスピードには着いてこられない。
ずっと森が続くので、少し心配。
火炎玉が効果を出せば良いけど、使わなくて良いならそれに越したことはない。
中身は、粘着するファイヤーだ。
賢者の弟子としては、魔道具作りも手慣れたものだ。
火炎玉は、ちょこちょこっと作ってみた。
モリーはそこそこ良い魔女だが、継続性がない。
と言うか、つなぎが下手なんだ。
だから、火炎玉を上手く使えば、魔法のつながりが良い感じになるはず。
そしたら、ロンやオリバーとの連携も良くなるはず。
なんてね、偉そうに言ってるよ。
あ〜やってるよ、オークが五体。
今夜のステーキだね。
冒険者が二十人以上いるんだけど、みんな腰が引けてるな。
「こんちくしょ〜!」
ガス!
ロンのソードがオークの眉間を割った。
知らない冒険者が、横のオークを牽制してる。
剣でちくちくしている感じ?
いまだよ、モリー!
ファイヤーを放てって〜外したのかよ!
ジニーとオリバーが、腕に切りつけた。
よし、血が吹き出してる、動脈切った。
つか、ほかの冒険者は、何やってるの?
あっちでわあわあ言って、剣を突きだしてる。
魔法使いが、杖を持ち上げてつっ立っているだけ。
完全にオークになめられてる。
ほら、棒で剣を叩き落とされた。
「あぐう」
見てらんない。
「ファイヤー」
小粒ファイヤーをオークの眉間に飛ばす。
一撃だ。
「エアハンマー」
どすどす!
向こうのオークを吹っ飛ばす。
オリバーの前のオークに、蹴りを入れてこかす。
「オリバー!首!」
「お、おう」
オリバーは、腰を据えて剣を振り落とした。
「ちっ!なにやってんだ!」
腰抜けどもは、倒れたオークすら攻撃できなかった。
「ロン、やっちまえ!」
「おう」
ふたたびロンの剣が刺さる。
蹴り倒した奴には、小粒ファイヤーを飛ばす。
『ぐえ〜』
「ふん、どうなってるの?こいつら、冒険者じゃないよ。」
私はロンを捕まえて毒づいた。
「わからん、ほかの商人が連れてきた。」
「はん、値切ったね。クソのフタにもならないよ。」
「まったくだ。」
オリバーも、剣を拭って収めた。
「ザクスさん、コイツら役に立たない。」
「そうですね。」
ザクスさんもあきれて見回した。
「たかがオークの五匹にビビって動けないとか、お前ら冒険者やめちまえ!」
私の厳しい声に、まわりの冒険者はさらにビビってる。
「ザクスさんもうしわけない。」
「キルツさん、これは重大な契約違反ですよ。今後は、どうなさるおつもりか?」
「すでに五日来てしまいました。今さら帰れませんので、バルジャックまでは一日です。そこまで行って、冒険者を雇いなおします。」
ヘボたちは、目を見開いた。
「キルツさん、どうか許してください。」
ヘタレが懇願するが、キルツは冷たい。
「オークぐらいに腰が引けてどうするんです?」
そのヘタレのなかには、フリッツの姿もあった。
フリッツは、終始下を向いている。
農村から出てきて、剣を手に入れて、強くなったつもりでいたんだろう。
鍛えているロンたちには、到底かなわない。
私はロンに確かめた。
「今日のうちにバルジャックに着ける?」
「ああ、たぶん。」
ロンがつぶやくように答えた。
「じゃあ、あたしがついていくよ。」
今日はもう予定がないんだ。
「サヨ」
「魔法使いがモリーだけじゃ心もとないじゃない。」
「サヨ〜」
それに、オークだったから良かったものの、これがオーガだったら目も当てられない。
全員死亡で終わりだ。
「ザクスさん、いいですか?」
私は、ザクスさんに顔を向けた。
「サヨさんなら安心です。お願いできますかね?」
「もちろんですよ。時間の都合でバルジャックまでですが、ごいっしょさせてください。」
横からキルツさんが聞いてきた。
「ザクスさん、この子は?」
「ああキルツさん、この子はなかなかいい商品を卸してくれるんです。魔法も人並み以上に使えます。見ていたでしょう?」
「しかしこんな小さな女の子が……」
「私は、賢者の弟子だ。オーガなど、なにほどもない。」
「へえ〜たいしたものだね。」
信じてないな。
「まあいい、オークを収納しよう。」
つぎつぎと、オークを収納する。
最後の一匹をシートのうえに置く。
「ロン、さばくぞ。」
「わかった。」
「マジックバッグ…」
キルツは、小さくつぶやいた。
「金貨二百五十枚なら売ってあげるよ。」
私は、キルツに笑いかけた。
「二百五十?ううむ、千載一遇のチャンスだが、今回の儲けと貯めたカネで……」
「キルツさん、カネができたらザクスさんに言ってもらえれば、マジックバッグは出すよ。くさるもんじゃなし、取り置きはするよ。」
「い・いいのか?」
「大きさにもよるさ。安売りはしないよ。師匠に叱られるからね。」
「最高で?」
「三トンで十メートル。値段は、金貨四百枚。」
「ごくり…」
「高いか安いかは、買い手の度量だね。」
そりゃあ、大きいのが欲しいよね。
「こっちは二トン、一〇メートルで金貨二五〇枚。」
ただし、馬車が空くから、また荷物が積める。
いままでより、たくさん売ることができるから良いよ〜。
平たく言うと、いままでの二倍の量が運べるんだよ。
「それと、バルジャックまでの護衛料はひとり銀貨二枚にまけとく。おーけー?」
他の商人も飛びついた。
「「「それでたのむ!」」」
「そんなに安くていいのか?」
ロンが心配顔で聞いてきた。
「あんまり阿漕なことはしたくないからね。ただし、ギルドの不手際は報告しないとな。それとも、フリッツはモグリなの?」
「そんなことはない。」
フリッツは声を荒げた。
「そう、じゃあ契約違反だねフリッツ、高く付くよ。私の信頼も込みでさ。」
フリッツはバツが悪そうに黙った。
賢者の弟子ってのは伊達じゃない。
レベルが低くて使えない魔法もあるが、魔力量ならだれにも負けない。
足りなきゃ、ヴィラ=ホーネルに貯蔵されている。
レベル二十五は越えてるから、かなりの魔法が使えるんだよ。
上級魔法で使えないのがあるけど、この辺の魔物なら不足はないよ。
ロンと二人、いやジニーも参加して、オークの皮をはぐ。
止まったついでだ、昼飯にしよう。
立ちん坊の魔術師に、かまどを作らせたんだが、いかにも不細工で使えない。
コイツの仲間に薪を探しに行かせたけど、ろくなものがない。
つくづく役に立たないヤツラだ。
その辺の枝をエアカッターで切り落として、水魔法で乾燥させたらマキに使える。
かまどは…不細工なのを修正して、そこそこ使えるようにしてやった。
「練習不足だ、魔力が尽きるまで練習しろ。」
私は冷たく突き放した。
何が魔導士だ、いい年してローブ着こんで杖持てば魔導士とでも思っているのか?
一に練習二に練習、いざというときには練習の半分も出せないもんだよ。
なにはともあれ、もちつけ。
杖突き出して「やあやあ」なんて言ってても、なんの役にも立たない。
剣士に至っては、剣すら抜いてないやつがいた。
アホか?
オークに叩き落された剣は、ぐにゃりと曲がっているし。
ま・しょうがない、また稼いで買うんだな。
え?直してやらないのかって?
金にならんお節介はしない主義なんだよ。
そこまでお人好しになれないさ。
オーク肉を塩コショウしてさっと焼いてやる。
ロンがよろこんで喰っちまった。
しょうがないから、薄切りにして生姜焼きのたれで焼いてみる。
「ものすごくいいにおいがしますな。」
ザクスさんが覗きに来た。
「うちの秘伝のたれだよ、一皿五〇〇円なら売ってやるよ。」
「買った!」
「じゃあ、白パンもおまけに付けるよ。」
ほわほわのバターロールもつけてやったら、涙流して食べてたよ。
それ、六個一八〇円のやつだぞ。
それを見て、キルツやほかの商人も買いに来た。
うへへ、もうけたぜ。
「「小夜~お代わり~」にゃ」
「ああ?お変わりは五〇〇円とるぞ。」
「それでもいい!おかわり!」
それを見て、フリッツがこそこそと寄ってきた。
「姐さん、俺にも食わせてもらえるか?」
「ん・一皿五〇〇円。」
「うほ~!うめえ!」
素直に五〇〇円出して食ってる。
ほかのヘタレ連中も、五〇〇円持って集まってきた。
「しょうがねえなあ、食ったらちったぁ働けよ!」
「「「「「へい!」」」」」」
返事だけはいっちょまえな奴らだな。
私はからからと笑ってしまった。
別に敵でもない連中だ、しょうがないよ。
今日はちゃんと働かせてやる。
道中・シャドウウルフとか出たけど、ロンが出張るまでもない。
フリッツをこき使ってやった。
上からエアハンマーを叩きつけて、ウルフをべしゃりと抑え込む。
「ほら、眼の前のウルフにとどめだよ。」
「お、おう!」
「次はこっち。」
エアハンマーでふっとばしてやる。
「ほら行ったよ!」
「はええよ!」
「まだまだどんどん行くよ〜」
「ちくしょう!ウルフ何匹いるんだよ。」
「知らねーよ、ウルフに聞け!」
フリッツは、黙ってトドメに専念した。
有象無象に至っては、よってたかってぶっ叩くもんだから、ウルフの毛皮はズタズタで使い物にもなりゃしない。
「お前ら、これは商品になるもんだぞ!こんなにズタズタにして売りもんにならねえじゃねえか!」
やつらはシーンと黙った。
残りのウルフは、私の小粒ファイヤーと、モリーのアイスランスでやっつけた。
「モリー、手際がいいじゃん。」
「サヨのおかげよ。」
ジニーがひょいひょいと魔石を抜いてきた。
「サヨ、しまっとくにゃ。」
「あいよっ」
私はフリッツに魔石を三個渡した。
「ほら、あんたがトドメさしたやつだよ。」
「もらえねえよそんなもん。」
「どうして?」
「あんたがお膳立てしてくれただけじゃないか。」
「あはは、そうは言うがフリッツが剣でトドメささないと、次にいけないじゃん。」
「そうは言うがよう。」
「じゃあ、二個もらっときな。」
私が押し付けると、フリッツはしぶしぶ受け取った。
「お前らは、四人で一個か?みんなで分けろ。」
ずたずたのウルフから魔石を取り出させた。
しょうがないからずたずたウルフは、粘着ファイヤーで灰にした。




