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第十八話 最後の雨

卒業式をひかえて、二月の終わり。

体育館の裏庭に呼び出された。

もちろん梨沙たちのこと。

バカだよね~接近禁止令って言うのは、電話もダメなんだYO。

もちろん直接会うのもダメ。


「くつき…」

「さんだろ。」

私は不敵に笑ってやった。

梨沙は、目をめいっぱい開いて私を見た。

「だいたいお前ら自宅謹慎中だろう、勝手に外に出たらアカンのやないか?」

「そんなことはどうでもいい。」

梨沙が叫んだ。


どうでもいいねえ?


「センパイ!」

梨沙が後ろに声をかける。


じゃらりとクサリを下げて、大柄な女子が三人出てきた。

一人は木刀持ってる。

お~お~、やくざかよ『センセイおねげえしやす』ってなもんかい?

「梨沙、カネは用意してるのか?」

木刀が梨沙に念押ししてる。

「は・はい」

「よ〜し、お前には恨みはないが、半殺しにさせてもらうよ。」


「お・国語力があるじゃん。」

「なんだ……」

ボコぉ

真ん中のやつに、腹へ右ストレートを打ち込む。

ねじりながらみぞおちを、上に向けて打ち込んでやった。

話してる最中にこれやられると、息ができなくなる。


「ごはあ」

「律儀にゴタク聞くと思うな。」

「このお!」

横合いからデブが、ぶんっと木刀を振り下ろす。

それも、律儀に待つ必要もないので、ぐっと踏み込んで下から掌底でアゴを突き上げる。

手加減なんかしてやるもんか。

がちん!

好い音がした。


一瞬で二人は戦闘不能になって、倒れた。

最初のやつは、ハラかかえてもがき苦しんでいる。

情け容赦なく何度も蹴るから、息ができなくて顔色が紫色になってきた。

しょうがないから、ヒールかける。

死なれちゃ寝覚めが悪い。

三人目は、すでに腰が引けてるから、ドスを効かせてどなる。

「死にたくなけりゃ、コイツら連れて帰れ!」


「あひいいい」


それなりにケンカしてきたのだろう。

だれが強いかわかってる。


「さて、こんなところに呼び出したんだ、なにかモンクでも言いたかったのか?」

「あわわわわ」

「ふん、お前らなんか怖くもなんともなかったんだよ。破滅させるためにしんぼうしてきたのさ。」

ニヤニヤが止まらない。

悪い笑顔だなオイ。

「な、なんで?」

「ば〜か、中学生にもなって、くだらない暴力におぼれるからさ、人生棒に振らせてやったまでさ。」

「ち、ちくしょう!」

梨沙は、まだ自分の手が私に届くと思っていたのか?


振り回した手は空を切る。

私は、しゃがみ込んで張り手を避けて、思いっきり張り倒してやった。

手加減ぬきで、奥歯が飛んだ。

橘和泉は、横から蹴りつけてきたが、そいつをつかんでひっくり返してやった。

パンツ丸出しで、セクスィ~じゃん(笑)

「黒パンはいてこい。」

その足を持ち上げて、みぞおちにつま先を蹴り込んだ。

たぶん、横隔膜が痙攣を始めた。

息ができない。

横腹に蹴りを食らわす。

少し呼吸が戻ってゲホゲホ咳込んでいるが、容赦なく蹴りを重ねる。

こいつも、土気色の顔になったので、密かに軽いヒールでもどす。


横山みずほなんかてんで力もない。

へろへろこぶしを振るから、よけるのもたいへん。

あらぬ方向にあっちこっちする。

しょうがないから、手首つかんでそのまま地面にたたきつける。

「ぐべ!」

「お前は、人の後ろでくだらないこと考えてるだろ。小心者が余計なことするな!」

ぐりぐりと土足で頭を踏みにじると、口の中に泥が入ったのか何も言わなくなった。

坂本澄子とあべ静江は、一発張り倒したら気絶した。


兵頭まこと小柳真理は、後ずさる。

「どうした、普段の威勢のいいのはどこに行った?」

「「あうううう」」

「反撃が来るなんて思ってもいなかっただろう。だがな、世の中にはこういうことが起きるもんだよ。」

がん!

がん!

二人の頭を上からこぶしでどやしつけた。

「「ぎゃん!」」

私の拳は、石で殴られたくらい痛かっただろう。

二人は頭を押さえて、その場でのたうち回る。

その腹に、容赦なく蹴りを繰り出す。


全員張り倒して、地面を舐めさせた。

「あのなあ(笑)お前らなんか、ただのガキなんだよ。避けようと思ったら、簡単なんだ。」

「うう」

私は、コイツらの顎を土足で蹴る。

「ぐっ」

「がっ」

「ぐへ」

「わかったか、バカどもが。」

私は無造作に、梨沙の下腹部に靴先を蹴り込んだ。

恥骨の上の下腹部にに、深く喰い込む。


「ぎゃ‼」


なんだ、まだ意識があるのか。


彼女の股間から、無様に経血がほとばしり、土くれの上に赤い模様を広げた。

女生徒たちは、一人として声を上げるものもいない。

「もう終わりかな?」

誰も答えない。

その上に、遠慮会釈も無く土砂降りの雨が降り注ぐ。

全員、泥水にまみれてドロドロだ。

体育館裏は、土も細かくて水を吸うと田植え状態になる。

顔も髪も、泥に浸かっている。


「私はいつもぐしょ濡れだったよ。」


私は足元が悪くなる体育館裏に、別れを告げる。

ようやく長年の憂さが晴れた。


「いっちょまえの女の幸せなんか来ると思うなよ。」

私は、積年の恨みから抜けたとも思えなかった。

執念深いやつだよね。

今回一度で済むと思われても困る。

暗い感情だけが支配する。

もしまた襲ってきたら、もっと怖い目に合うのはお前らさ。


「終わった…なにもかも」


私の中学生生活は、これでケリがついた。


明けて三月一日、田舎町本郷中学では卒業式が行われた。

私は、制服を詰めに詰めて、なんとか見られるようにした。

みどりとさやかに手伝ってもらって、ほぼ立体裁断みたいにマチ針だらけになってた。

見かねてみどりが自分の予備を出してきた。

それでも一日かけて形を整えて今日にのぞんだ。

なにしろ、体積が半分になったのだから、そりゃあ小さい。

みどりよりずっと小さいのだ、あいつは中学生のクセに巨乳だからな。

身長も小さいので、制服に着られている感じ。

スカートもどうやってもみんなと同じにはならない。


それでも大きかったのだが。

詰めてなんとか形になった。

スカート長っが!

腰でくるくる巻いてなんとか膝すれすれになった。


仰げば尊しわが師の恩?

ねーよそんなもん。

担任にはろくな目にあわされてない。

裏切られただけだよ。

破滅しろ。

幸いにも、アレなやつなので妻子もない。

生徒の中で、アレのために泣くやつもいない。

教務主任も同罪だ。


校長も教頭も、髪の毛が真っ白になってしまった。

ほほもげっそりコケて、ガイコツみたいな風貌になってる。

卒業式に来た町長も、顔色が悪く、落ち武者風情がめっきり濃い。

アタマの真ん中だけが、異様にギラギラ光っている。

教育長に至っては、どす黒い顔になって今にも肝硬変起こしそう。

きっと、昨日のことが報告されたのだろう。


あと、末成由美の母親が半狂乱で職員室に怒鳴り込んだ一幕もあったそうだ。

そりゃまあ、十五で妊娠はキッツい。

かと言って、先生方にどうにかできるスキルがあるわけじゃない。

彼らにもどうしようもなかったよね。

発覚から二か月も経ってるんだよ。

親たちはどうしたんだ?

末成由美は、ばれた時点で両親から殴られた。

即座に産婦人科に追い立てられたらしいが。

医者には、どうやって説明したんだろうね?

未知やすえもそうだよ。


そんなこんなで、私たち一〇〇人あまりは体育館を放り出されて、教室に戻った。

担任がいないから、養護教諭の三輪先生が、細かい連絡をしてくれた。

あいかわらずの、爆乳だな。

肌の白さが美人を際立たせる。

引く手あまたとはこのことだよ。

あとは、小さい荷物と卒業証書を持って帰るだけだ。


感慨も何もあったもんじゃない。

思えば、散々な中学生活だったな。

中京市では、少しはまともだったんだが、田舎町に引っ越してこの方ろくなもんじゃない。

最後に、みどりとさやか、幸太郎という友人ができたことを喜ぼう。

あと、数吉もおまけだ。


「朽木さん」

養護教諭の三輪先生が呼ぶ。

「はい」

「ちょっといい?」

「はい」

三輪先生は、ちょいちょいと手招きする。

ざわつく教室から廊下に出た。

リノリウムの緑色が冷たい。


「きのう体育館の裏でなにかあったそうなんですけど、あなた知らない?」

「さあ?私は一日家にいたので知りませんよ。」

「そう?」

「なにがあったんですか?」

「いえあのう…」

「たいしたことじゃないなら、もういいですか?」

「ええ、ありがとう。」

三輪先生は黙って私を見送ってくれた。


戻った私を心配して、みどりたちが集まってきた。

「なんでもないよ、さ・写真撮ろう。」

みんなでかわりばんこに自分のスマホを預ける。

よこあいから、馬淵慎二が写真に割り込んできた。

次々とクラスメイトがやってくる。

「ごめんなさい朽木さん。」

「彼女たちをとめることができなくてすみません。」

「俺たちもムシしてた、ごめんなさい。」

彼らも、謝りたかったらしい。

もう良いよ。

全部許す。


ここに戻ることはもうない。

そう思うと、なんだか感慨深いものがこみ上げてきた。

私も、ふつうのJCだったんだな。


四月からは、池野高校に通う。

みんな合格だった。

数吉も、もちろん合格した。


みんないい顔してるね。


これで私の『中学生編』は終わり。

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