第十七話 高校受験
二月十日になって、受験がやってきた。
試験会場は、池野高校だったよ。
ラッキーだよね~。
近いしさ。
幸太郎とみどり、さやかも一緒だよ。
田舎町の本郷中学からは、けっこうこの会場で受けてる模様。
知った顔がちらほら見える。
みんなとは近鉄の駅で待ち合わせた。
馬淵伸二とか、たいがい遅くに来るから一本早く言ってある。
遅刻対策というか、田舎町本郷中学時間というか…
同じクラスの、数吉なんかもいるよ。
「おはよう幸太郎。」
「おはよう数吉くん。」
男の子はあっさりしたもんだね。
「はうう」
みどりは、駅から緊張しているもよう。
「みどり、もちつけ。」
顔が真っ青だよ。
「だって〜」
「だいじょうぶだ、あんたが実力出せば余裕で受かる。いまはとにかく、もちつけ。」
私は、水筒から温かいお茶を出して、みどりに飲ませた。
「はう、あちち」
「もちつけ~(泣)」
「緊張するなとは言わないけど、いまはリラックスが先だし。これ食べて。」
私は、みどりの口にアメちゃんを入れた。
ついでに対錯乱の魔法を使う。
背中を上から下へなぜる。
緊張は下から上に上がらもんだ。
「みんな受験票持っているか確認して。」
幸太郎もさやかも、デイパックのポケットから受験票出して確認した。
「ほら、みどりちゃんも出して確認。」
みどりは、落ち着いたようで、ポケットから受験票を出した。
よし、持ってるな。
ゆうべ電話して、ちゃんとデイパックのポケットにいれさせたんだよ。
「よしよし、落ち着いたね。」
「ありがとう小夜ちゃん。」
こんなこともあろうかと、早く出てきて良かった。
近鉄養老線で二駅、あとは歩き。
引率の教師はいない。
いるわけがないわな、あはは(汗)
「あれ?三輪先生がいるよ?」
さやかが見つける。
「「「三輪先生!」」」
「あ、みんな落ち着いていくのよ。」
「はい、わざわざ来てくれたんですか?」
「そりゃあ、あんたたちのことは気になってるもの。」
「ありがとうございます、えったい合格するから!」
「サヨさんのことは心配してないわよ。ポカやって、問題飛ばさないでね。」
「は~い。」
今日一日で五教科の試験を進められる。
午前中に三教科、お昼ゴハン挟んで二教科。
さすがにみんな、お弁当は忘れてない(笑)
けさは、お母さんもはりきってお弁当作ってくれた。
「普段任せっぱなしだからね、今日くらいはお母さんの出番だよ。」
お母さんが張り切ると、たいてい失敗する。
私は念には念を入れて、駅近くのコンビニでおにぎり二個買っといた。
カラアゲ君も予備で…
使わないことを祈る。
失敗してなかったら、お弁当食べるよ。
おにぎり残っても、アイテムボックスなら腐らない。
試験が始まった。
なんだよ、余裕じゃん。
模試なんかよりずっと優しい。
つか、かんたんすぎる。
三回は見直しする時間があった。
数学なんか、完全に満点取れるべ。
英語?
わかってあたりまえだのクラッカー。
前田さんのクラッカーは、ゲンキーで買えるよ。
魔法の便利さを、あらためて認識したわ。
教室でお弁当広げる。
ちくしょう、暖房ぬるいわ〜。
みんなコート着込んで、お弁当食べることになった。
まあ、あんまりあったかいとアタマ働かんからな。
昼休みは、一時間あるんだが、やることがない。
お母さんの玉子焼きは、砂糖が多かった。
あとは定番の冷食のカラアゲとエビフライ。
あたしゃウシじゃないよ。
こんなに食べられないよ。
みんな、かなり緊張してるみたいだったので、数吉をつかまえた。
「数吉、これ食べて。」
私は、持っていたおにぎりと数品のおかずを出した。
数吉は、よろこんでそれに手をつけた。
横から馬淵伸二が手を出してた。
お前も来てたのかい?
食べ過ぎで眠くなるんじゃないか?
まあいい、私は眠くなった。
「あたしゃ寝る。」
机に突っ伏して寝る。
おなかふくれたから、本格的に眠気がきた。
「さすが小夜ちゃんね。」
さやかが鼻から息を吐く。
「小夜ちゃん見てると、緊張してるのが馬鹿みたいに思えるわ、」
みどりはかなり緊張の溶けた顔色をしている。
「こう言う子がいると、まわりは助かるわね。」
みどりが言うと、横から幸太郎がつぶやく。
「そうだね、ボクは助けられてばっかりだよ。」
「うあ~腹いっぱいで眠い。」
数吉のやつ、やっぱり眠気が来たな。
「数吉くんもたいがい神経が太いね。」
幸太郎は、うらやましいと言うように数吉を見た。
「こいつらは特別なのよ・神経ハリガネでできてるんだよ。」
さやかはあきれて言う。
「まあ、数吉は池野高校なんて余裕で通るんだから。」
「そうなの?」
「こいつ、遠いの嫌だって言って、北高校蹴ったんだよ。」
「うへ~、北ってけっこう偏差値高いのに。」
「小夜ちゃんと同じ理由。勉強なんかどこでもできるんだって。」
「周りの環境も大事だと思うなあ。」
みどりとさやかは、勝手なこと言ってるよ。
そんなこんなで、みんな無事入試を終え、結果は二十五日に発表になる。
どうせ受かってるよ。
三月一日の卒業式まで暇になるからコッツウォルズに行くか、みんなと水郷市の本屋に行くか?
もう、私立の二次以外は、だれも学校なんか来ない。
普通なら、教員室も安閑とした空気が漂う季節だが、今年はそうはいかない。
いまだに心無い人からの電話の対応に、経験のない教師はどう対処して良いのかわからない。
噂が田舎町に流れ出し、それは留まることを知らない。
いやな話だが、安全なところから他人を叩きたいやつはいる。
ほっとけと思うけど、みなさん真面目に対応してる。
『だまれ』と言ってやればいいんだ。
梨沙と和泉が丸坊主になったもんだから、横山みずほ・兵頭まこ・あべ静江・小柳真理・坂本澄子たちも丸坊主にされた。
親たちもだったらしい。
そうなると口の軽い床屋は、だれそれが~なんていう話をしてしまう。
七人も八人も女の子が丸坊主にすれば、そりゃあ話にのぼるわ。
あれで荻野目たちは、ボウズにされたのかなあ?
あはは
中京市の港区の施設は、めっさ厳しくて髪の毛切られるらしいぜ。
なかなか人の口には戸は立てられないと言うか、人のうわさも四十九日。
ひと月やそこらで消えたりはしないものだよ。
荻野目姉妹たちのグループは、全員が県外に逃げて少年鑑別所送りは免れたらしい。
逃げたと言うのは、そのものだけど卑怯だよね。
梨沙たちは、完璧に逃げられないように型にはめたからね。
江藤パパの行動力には驚いたが。
だれが見てるか聞いてるかわからない。
壁に耳あり・障子にメアリー
ヤバす。
校長は、ひとクラスから十三人ものスカタンが出てしまって、頭が真っ白になってしまった。
物理的にね。
かろうじて残っていたサイドの髪も、そこはかとなく寂しくなってる。
担任は、県の教職再教育システムに送られることになった。
教頭も飛騨地方にふっとばされることになり、教務主任は格下げになった。
しかも県東部に飛ばされる、日教組の巣窟みたいなところだ、居心地悪いだろうなあ。
あ~、迷惑なことだわ。
だれのせいやねん(笑い)
日差しはまだやわやわと心細いけど、晴れた日は堤防から御嶽山も見える。
もうじき春が来るよ。
町営住宅に引っ越したときに、隣のおばちゃんからもらった赤いママチャリも、そろそろ限界を迎えてきた。
ヴィラ=ホーネルでの酷使で、とうとうフレームの溶接が折れた。
黒い森の出口でぼっきり折れた。
真ん中から、真っ二つだよ。
こうなるとどうしようもない。
もともと弱い所だし、これを魔法でどうこうは難しい。
(オケラスレパーロで治るとも思えん。)
…ということで、新しい自転車を買おうと思う。
思うんだが、こいつらなんとかしてくれ。
みどりは無難に、新しいのもママチャリがいいと言う。
さやかは、もう少し頑丈なのがいいと言い、幸太郎はこの際ロードバイクをなどと鼻息が荒い。
近鉄駅前の杉原自転車屋で、わいわい騒いでいる。
「あのさあ、通学に使うんだから、スカートで乗るんだよ。」
私も、幸太郎には反対意見。
「だって、今はフレームも改良されてるよ。」
「女子のりできるの?」
「そうそう、だいたい自転車乗るときなんか、みんな『黒パン』はいてるじゃないか。」
「そりゃそうかもしれないけど。」
「フレームを頑丈なのにして、酷使に耐えるのがいいよ。」
「あんたは私をどこに行かせるつもりだ。」
う~ん、ヴィラ=ホーネルでの酷使に耐えるやつってのは魅力だなあ。
「通学には普通のママチャリがいいのよ。」
みどりは一貫してぶれない。
「じゃあさ、この際だからしっかりメーカー製のママチャリ。」
さやかが手を上げた。
「溶接が折れない?」
「メーカー製ならその辺は保証でしょ。」
「ふむふむ、その線がいいかな。」
ダウンヒル対応は、別の日に買うことにする。
それでも保証は一年ぐらいしかつかないらしい。
池野高校に行くようになったら、どうせ買わなければならないんだから、杉原サイクルで買って池野高校の登録をする。
発表前にそんなことするのは、私ぐらいのものだよ。
不合格なんて、これっぽっちも思ってない。
どうやらそれは、みどりたちも同じようだ。
「じゃあメーカーカタログから選ぶよ。」
「そうしよう。」
てなわけで、店のおっちゃんにカタログ見せてもらって、頑丈そうなやつを選んだ。
鍵とか厳重に付けて、〆て五万三千円。
高けえ!
安いのなら、その辺のホムセンで一万円で売ってるぞ。
しかも、注文してから届くまでに時間がかかる。
到着は、合格発表後だよ。
それまで、ケッタなし生活かよ。
まあ、それもやむなし。
ヴィラ=ホーネル用に、マウンテンバイクの太めのフレームに、しっかりオフロードのタイヤがいいな。
本当はオートバイが良いんだけど、乗り方がわからない。
だれか教えてくれないかなあ?
あ!
ユーチューブ見たらわかるんちゃう?
アカン、ろくなものがない。
でも収穫があった。
自動車教習所にいけば、バイクの免許が取れるらしい。
えっと、近いところ?
養老鉄道の駅から生徒用のバスが出てる?
これじゃん、よし聞きに行こう。
私は無鉄砲にも、自動車学校の送迎バスに乗せてもらって、申し込みに向かうことにした。
結果は、十六歳になってから来いだって。
がっくし。
でも、収穫はあった。
なんと、今から予約しておけば、十六歳になったら優先的に入校できるらしい。
よし、たのまい!
八月になったら入るぞ。
バイクにはマニュアルミッションとオートマチックがあるんだって。
なんだそりゃ?
難しい方を頼むと言ったら、マニュアルに振り分けられた。
これだと、どんな奴でも乗れるらしい。
どうやらサヨは、普通自動二輪の免許に振り分けられているようですね~。
モノを知らない恐ろしさですわ。




