第十五話 みわ屋のケーキ
江藤理沙たちの噂はあっという間に町内を駆け巡った。
そりゃまあ親子全員が丸坊主にすれば噂にもなるさ。
北中学や東中学までその噂は走ったそうだ。
みどりのいとこは東中学に通っているが、すでに噂でもちきりだそうだ。
池野中・大野中にも飛び火した。
いわく、強盗したので少年院に入ることになった…
まあ、まちがっちゃいないな。
堂本弁護士から聞いた話でも、そのへんは強調しておいたそうだし。
バカメ
最後までチョーシくれてるからさ。
JCだからって、誰も手加減なんかしてくれないぞ。
私も一切手加減はしていない。
ある限りの証拠を提出して、堂本弁護士の力を借りて法廷に引きずり出してやった。
やつら一人いち法廷にした。
そうして、甘いことぬかす相手の人権派弁護士に、現実を突きつけてやった。
人の尊厳とは、人道とは、聞ける限り弁護士に聞いてやった。
ヤロウ、途中から一言も口にできなかったよ。
人権派弁護士などと看板付けてもその程度さ。
うすっぺらい正義感など、証拠の前にはトイレの紙ほども役に立たない。
梨沙ともども、徹底的に叩いてやった。
まあいい、私はモリーたちのお土産にお菓子を買いに来た。
国道の交差点にある『みわ屋』さんだ。
落ち着いたクリーム色の壁。
ひさしは濃いチョコレート色。
ガラスのショーケース。
落ち着いた雰囲気。
私は麩饅頭が好きだけど。
最近は和菓子だけでなく、ケーキも置いている。
こういう言い方は失礼だけど、スーパーのケーキなんかよりずっとおいしい。
最近のコンビニスイーツもあなどれないけどね。
と言うか、このへんで手作りケーキが買えるのはここだけなんだよ。
隣の池野町に行けば、またケーキ屋さんはあるんだけどね。
あっちよりこっちと思うのは、地元愛か?
とりま、私も『生クリーム分』が枯渇した。
急激に『生クリーム分』を摂取しなければならない。
糖分とか鉄分とかの仲間である。
てなわけで、ケッタマシーンの登場である。
うちからは二キロは走らなければならないが、以前と違って何の苦もない。
坂道も電動アシストのついていない自転車ですいすい走っている。
このへん、フィジカルブーストが勝手に仕事をしているらしい。
筋肉カチカチでもないのに、パワーがすごい。
さすがにこいつ(標準的激安ママチャリ)で、五〇キロも出すわけにはいかないが。
フレームの溶接が離れるだろうな。
タガが外れないよう気を付けよう。
みわ屋のショーケースにはきれいなケーキが並んでいる。
こんなちっこいの、ロンだったら十個でも平気で食べちゃうよ。
ええ、この際だ本当に十個買ってやろう。
「ここからここまで三個ずつ…いや四個だ。四個ずつお願いします。」
う~モンブランは十個ほしい。
「ええ~!そんなに?箱が…二つでもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですから、たくさんいるのよ。」
店員が私のおなかを見る。
「私のじゃなくて、お客様の!」
店員は納得したようにうなずいた。
ホンマか?
まあいい、アイテムボックスに入れておけば腐らない
いきなりケーキ二〇個も三十個も買えば驚くわな。
だからそんな目で見るな、余ったからって全部食べへんわ!
私のおなかは、生クリームでできているなんて思うなよ!
ケーキを仕入れたから、家に戻ってヴィラ=ホーネルに向かう。
今日は余裕をもってコッツウォルズに行けるな。
『やあいらっしゃい』
オスカル、安いかばん買ってきたんだけど、これってマジックバッグにできるかな?
『素材は?なんか、皮のようで革じゃないね。』
合皮だよ、人工的に革に似せて作ってある。
『まあ、特に変わりはないだろうから、やってみたら?』
よっし、やってみよう。
とりあえず五個買ってきた。
通販で買えるやつだから、それほど高くない。
一個七八〇円のメッセンジャーバッグ縦型。
これなら壊れても惜しくないしね。
オスカルのはなしでは、破れたら中身ぶちまけてしまうらしいが。
これは、六畳の倉庫くらいの大きさで、いくよっ。
みょみょみょ
うにゅにゅにゅにゅ
電影クロスゲージ明度二〇
砲雷撃戦よ~い
みょんみょんみょん
魔力を送っても減った気がしない、ヴィラ=ホーネルは魔力庫だから。
やがてふくれる内部、よしよしできたね。
『お、コツをつかんだね、それでいい。』
ふふん
私はメガネのツルを持ち上げて胸を張る。
『いい気になってるな?』
えへへ
『じゃあのこりもやっちゃおうか。』
は~い
コツをつかんだらあとはルーティンワークだよ、すぐ出来上がった。
『五個もどうするんだい?』
知り合いの冒険者たちに分けてやろうかと思ってさ。
『ちゃんと対価をとりなさいよ、タダでくれてやるのはなしね。』
そう?
タダでもいいんだけど。
『だめ、魔法ってのは価値のあるものなんだからね。』
わかった、オスカルの言うとおりにする。
そうして私はヴィラ=ホーネルを出た。
出たんだけど、なにキミは?
「ぎょええええええ」
でかい、むっちゃでかい。
高さが五メートル超えてる。
全長十メートル越えてる。
『む、マイプラプトルか、こんなところに出るような魔物じゃないな。』
つおいの?
『強い、結界があるから入っては来れないけど、すごく強いよ。』
ふうむ、どうすんだ?
『弱点があまりないんんだ、強いて言えばおなかが柔らかいくらいか。』
って、太い脚にかくれてるじゃん。
『下からの攻撃ならいいんだが。』
う~ん、下ねえ。
余裕があるのは結界から中には入れないから。
それでも、こいつが居座っていると町に行けない。
こーこうかな?
そうか、吉幾三。
アイスランス!
ぎゅうんと飛び出すアイスランス、マイプの足元に向かったところで指先をくいっと曲げてみる。
すると、その軌跡に沿って、ランスが急上昇する。
どすどす!
アイスランスがマイプのケツに吸い込まれた。
「ぎゃーう!」
ぼとぼととケツから血を流してマイプがのたうち回る。
おかげで外は血だらけだ。
まだ足りてないか?
私は細い熱線をぎゅうっと一メートル伸ばした。
赤いジリジリを五本ぶち込む。
膝とかを貫いて、横倒しに倒れた。
ザマミロ。
『ぎゃ〜う!』
まだ元気だな。
『早くとどめ刺さないと、肉が臭くなるよ。』
こいつ喰うのか?
『この前遊んでた、クマの魔法は?』
ああ、アレ。
そうね、こうだな。
ファイア
くまくまくま…
ちいさなクマの格好をした火の塊が空中を進む。
手をつないだ人形みたいだ。
でも、色合いがオレンジで、確実に一二〇〇度はありそうな塊。
それが、のたうって吠えるマイプの口に向かって行進していく。
よいしょよいしょ、アンパンマンは粒あんって伝えなきゃ
って、それかい?
しかし、マイプの口から黒い煙が出始めると、マイプは動かなくなった。
『えげつないなあ』
オスカルがやれって言ったんじゃん!
硬くても通用するのが目ン玉と歯ン玉とキ●玉だ。
「ぐあああああ!」
吠えたのは私だ。
全身が痛い!
息ができない!
なにがおこってるんだ!
『あ、レベルが二十五越えたんだ。』
こんどは私が、庭を転げまわる。
芝生に顔がめり込む。
ビキビキビキ
痛い痛い痛い!
バキャバキャバキャン
いたい~!
全身を太いとげで突き刺されるような痛みが走る。
なすすべもなく、全身を苛んでいた痛みは唐突に終わった。
来た時と同じように、突然にだ。
立ち上がると、メガネがずり落ちる。
あれ?
どうしたんだ?
オーバーオールの中で、おばちゃんパンツがずり落ちる。
あやややや
いや~んなカンジだ。
シャツの中でブラが浮いてる。
ガバガバだ。
どうしたんだ?オスカル。
『レベルが二十五を越えたので、体が瘦せたんだ。』
どういうことだよ!
『単純に、魔法体質に移行したってところかな?』
なんで「?」が付いてる?
『だって鏡で見てごらん、すごいよ。』
がばがばするシャツとオーバーオールに閉口しながらヴィラ=ホーネルに入る。
パンツ引っ張ってないと、すぐ落ちちゃう。
正面に大きな鏡がある、なんでこんなバカでかい鏡が必要なんだか?
って、だれだこいつ!
っていうか、お母さんに似てるな。
髪型だけ私(三つ編み)にしたお母さんみたいだ。
パンツは寄せて引っ張って、前で結んでる。
ふんどしじゃね~よ。
ブラは…もういい。
身体の後ろで縛った。
『たぶん、魔力が体内でたまっていて、風船みたいに膨れていたんだよ。』
はあああ?
『体質的なものだと思うけど、なにやっても痩せなかっただろう?』
まあそうだね。
走っても絶食してもダメだった。
『それたまにいるんだ、魔力が大きくて体内にため込んじゃう体質の人。』
それがなに?
レベルが上がると抜けるの?
『そう。ほら、庭の君のいたところに、魔力が溜まって精霊が集まってる。』
精霊?
あのぴかぴかしたやつ?
『そうだよ、精霊が好む魔力っていうものがあるのさ。君のがそれだね。』
なんてこったい。
『なんでもいいじゃないか、すっごくきれいになったし。』
身長は変わってないけどな。
『そこはどうにもできない。』
ちぇっ、身長も伸びてすら~っとすればいいのに。
『なんだかな~、ちょっといないタイプの美少女なのに。』
からかうなよ。
痩せたら美人って、漫画じゃあるまいし。
芝生には、私から抜け出した魔力がだばだば溜まっている。
こまったもんだよ。
『ま、ギルドでからまれないといいね。』
はいはい、レベル二十五越えたから、飛翔を教えてくれるんだよね。
『ああそうだね、じゃあそこの棚の一番上、右から四冊目。』
これ?
『それ読んで。』
読めば身につくのかよ!
『読んで練習しないとね。身につかないよ。』
あ~オスカルは、そう言うやつだった。
よしわかった。
本を読んだら、すぐに理解した。
私は鉄人ポーズで立ち上がった。
がおー
レビテーションで浮き上がって、方向を決めて飛翔!
ぎゅう~んと勢いがついて、一気に森の上をすべるように飛ぶ。
こりゃあ楽しいが、首が痛い。
ああ、体を斜めにするのか。
鉄腕アトムみたいには飛べないのか~
人間のカラダは、マンガみたいにうまくは動かない。
それでも飛ぶというのは楽しいものだな。
…「ぎゃぎゃ~」
あ・ハーピーか、邪魔だお前。
がんっと拳を当てたらふらふら落ちていった。
トリだか人だかわかんないし、チチほりだしてるし、恥ずかしい。
空はお前だけのものじゃないぞ。
でも、あまり高いところを飛んでいると、なにが来るかわからない。
森を越えたところで、地面すれすれまで高度を下げた。
飛翔を使用すると、風の結界が発生して空気の壁から身を守る。
そこからヒョイッと浮いて、地上二メートルくらいを街道に沿って飛んでみる。
うひょ~
楽しい〜
気ンもちいい!
飛翔を十分楽しんだ後、いったん家に帰った。
こんなだばだばでは外も歩けない。
せめてパンツくらい履き替えさせてくれ。
こっそりお母さんのパンツをはいて来た。
標準体バンザイ!
うちに帰ってすぐに、自転車を出してモレラに向かう。
すぐに着られるものなんか、その辺じゃ手に入らないから。
なんでもいい、ブラとパンツ。
シャツとジーンズ。
こんなちぃさくなってしまって、まるで着るものがない。
Tシャツだってガバガバなんだよ!
まずは下着屋、二階にあったよね。
あ、一階にもみっけ。
すぐに飛び込んで、フィッテイングしてもらった。
「着て帰るから、これと同じサイズ五組ください!」
「はい、すぐに。」
あ~よかった、アウターはどこでも買えるだろう。
とりあえずはウニ黒で買ってきた。
隅っこにオーバーオールもあって助かった。
むっちゃくちゃ慌てて着るもの買ってきたから、よくわからんけど。
あとで気に入ったものを買い込んでやる~(泣)
あっと言う間に、コッツウォルズに着いたよ。
「モリー、ジニー、いる?」
「サヨだにゃ」
ジニーが飛び出してきた。
「こんちはジニー。モリーもいる?」
「なんでサヨはやせてるにゃ?」
獣人にとっては匂いで判断しているから、人の太いほそいはあまり気にならないらしい。
「モリーは洗濯してるにゃ」
「あらまあ、たいへんね。」
「ジニー、干すの手伝って。」
「魔法使いが手で洗濯?」
私の声に後ろ向いたまま答える。
「下着は、派手に洗っちゃダメなの。」
「あ〜それな。」
「じゃあ室内干し?」
「そうそう、ジニーひも張って。」
「はいニャ」
二人は部屋の中にひもを張って、洗濯ものをつるし始めた。
うわ、性能悪そうな洗濯ばさみだな。
今度百均で買ってやろう。
私はすみっこの椅子に腰かけてカフェオレ飲んでる。
「にゃ、小夜、うちのぶんもあるにゃ?」
「あるよー。」
「ねえ小夜、あんた痩せたね。」
「いまごろそれ?」
「あはは、まあねー。」
見てなかったなこいつ。
「レベルアップしたらガスが抜けた。」
「え~?そんなに上がったの?」
「ガス抜ける人って多いの?」
「たまに居るんだ、魔素貯蓄症のひと。」
「へえ~、すごいんだなここは。」
カラのかごをもって椅子に座る。
「ん」
カフェオレの缶を置く。
「うにゃ」
「ほっほ~い。」
「ロンは?」
「ん~なんかギルドに行ってるよ。」
「じゃあ、ちょっとお手伝いするね。」
私は、ウインドゥの魔法を使って、下着に温風を吹きつけた。
下着用だから、あまり強く吹かせない。
やわやわとやさしく乾かす。
「すごいねサヨは。こんな魔法の使い方は初めて見たよ。」
「ちょっとした応用だよ、モリーにだってできるさ。」
「そうかなあ?」
「そうさ、実はケーキ持ってきたんだ。」
「「ケーキ?」」
クレクレと両手を出す。
「しょうがないなあ。」
百均で買ってきた無地の皿に乗せてやる。
「ちょっとこの皿すごいいいものだね。」
「そうなん?」
「貴族の家にだって、ここまで薄い奴はないよ。」
「そうなのか?うちにあるやつだけど、これって売れそう?」
「そりゃあ売れるよ、殿さまだって買うさ。」
「へえ~」
そういいながら、アイテムボックスからイチゴのショートケーキを出して乗せてやる。
小さなフォークも添えて。
「うひゃ~、すげえ甘い香り!」
「う・うまそうにゃ!」
「はいめしあがれ。」
「「おお~」にゃ」
二人は三口で食べてしまった。
「しまった~!もうないわ!」
「にゃにゃ!もうないにゃ!」
「あ~あ、早すぎなんだよ。もうちょっと味わって食べたら?」
「「うう」にゃ~」」(泣)
「ただいま~って、あれ?おじゃましました~」
ロンが急に向きを変えた。
「どこ行くのよ。」
「あれ?モリーだ、じゃあここはうちでいいんだな。」
「何言ってるのよ?」
「いや。知らない人がいるから。」
「あほう、これは小夜だ!」
「モリー嘘言うなよ。」
私は、右手を上げる。
「いや、小夜だよ、ちょっとやせちゃったけど。」
「あいや~、小夜なのか?」
「わかったから座れ。」
「はい」
「ほれ」
ロンにもイチゴショートを出してやる。
「うま~い!」
ロンは妙な喜びの踊りを踊っている。
「ふた口で食うなよ。」
「いやうまいんだもん。」
「オリバーは?」
「買い物があるって別れた、じきに来るだろう。」
「ふうん、ロンに相談があるんだけど。」
「なんだい?」
「これなんだけどさ。」
私は出来立てのマジックバッグを出して見せた。
「きれいなバッグだな、このへんじゃ見たこともない。」
「これがどうしたの?」
モリーも指先でつついてみる。
「これ、いくらぐらいになるかと思ってさ。」
「いくらって…これ、マジックバッグなのか?」
「まあ中身はちょっとした倉庫?小屋くらいの大きさ。」
いきなりシーンとしてしまった。
「ただいま~ってみんなどうしたの?」
「「「うひゃ~!!」」」
いきなり帰ったオリバーの声に、全員が飛び上がる。
「うわあああ」
オリバーもつられて叫ぶ。
「はあはあはあ、びっくりした~。」
「びっくりしたのは俺のほうだよ。」
「き・キンチョ-が高まっていた瞬間だったのよ。」
モリーが胸を押さえて荒い息をつく。
「もちつけ皆の衆。」
「原因はサヨでしょうが。」
「わたし?」
「そうだよ、こんなもの持ち出して。」
「いや~、そう言うならこれはナイナイするよ。」
「いやまて!ナイナイするな。」
ロンが必死になって止めた。
「どっちなんだい!」
「いやいや、で・これを売るのか?」
「そうだよ。」
「相場で?」
「相手による。」
ロンは真面目な顔をしている。
モリーは、そんなロンの葛藤に水を差す。
「まさかあんたが買うって言うの?」
「う~」
「相場じゃ、安くても金貨一五〇枚か二〇〇枚だよ。」
「いまいくらある?」
「あたしたちの貯金なら、金貨六十八枚。」
「ぐあ~」
ロンは頭を抱えた。
「サヨ~」
ロンは、なさけない表情で、アゴに梅干し作って泣きそうな顔をする。
「じゃあ、金貨五〇枚でいいよ。」
日本円にして五十万円くらい。
金貨を日本円に換金した方が価値は高いな~。
モリーの顔がぱっと明るくなる。
「ほんとにいいの?」
「師匠もタダでくれてやるなとは言ったけど、まけてやるなとは言ってないし。」
「サヨ~!」
ロンが抱き着いてきた、むさくるしい。
「くっつくな。」
軽く右フックくれてやったら、がくりと膝をついた。
脳が揺れたらしい。
「ちょ!効きすぎだよ小夜。」
ロンが悲鳴のようにわめく。
「だってむさくるしいんだもん。」
「あれ?騒動で気が付かなかった、サヨ痩せた?」
オリバーが真顔で言った。
すんっ
「いまさらかい。」
「すげー、ものすごい美人じゃん。」
「そ・そうか?」
私だってテレるぞ。
「け・結婚して!」
「「「オリバー!!!」」」
「アホウ、私は十五だぞ。」
「なら結婚できる年じゃん。」
「うちの国では、十六歳にならないと結婚できないの!」
ぽかりと頭をたたく。
「う~、でもさあ。」
「男なんて信用できるか。」
モリーが不思議そうな顔をする。
「私が太っているときは、ゴミ見るみたいな顔してるくせに、ちょっと痩せたらこれだ。」
「う」
オリバーはばつの悪そうな顔をした。
「まあ、あんたたちはいいやつだと知ってるから、ひどいことは言わない。」
「サヨ」
「それで?ロンはこれ買う?」
「買う!」
飛びつくように言う。
「モリーもジニーも、私は好きだからな。」
「「サヨ~」」
みんなしばらく喜びの踊りを踊っていた。
そろそろみんな落ち着いてきたようだ。
私は、ロンに聞いてみた。
「そういえば、ギルドはなんて?」
私が聞くと、ロンは真面目な顔になった。
「おお、そうだ。マイプが出たらしい。」
「マイプって、あの?ヤバいドラゴン?」
モリーも、乗り出して聞く。
「そうだ、黒の森から顔が出ていたって報告があったそうだ。」
ふうん、マイプねえ…
「マイプ?」
四人が私を見る。
「ああ、すげえ凶暴で危険なドラゴンだ。」
「えっと、高さが五メートルくらいで、長さが十メートルくらいの、足の太い奴?」
「…まあ、そんな感じだな。」
「ぎゃおーって吠えると、口が一メートルくらいある。」
「なんで知ってるんだ?」
「え~っとお…」
みなたらりと額に汗が…
「まさか…」
「やった…とか?」
「てへ」
「ほんとかよおい!」
ロンが頭を抱えて叫ぶ。
「どうしよう?」
私が言うと、モリーが立ち上がった。
「やっちまったもんはしょうがないよ、ギルドに行こう。」
「そ・そうだよ、早く報告しないと。」
オリバーもわたわたしている。
「とにかく行くにゃ。」
「あ、バッグ忘れるな。」
「おおっといけねえ。ひもが短くてかけられない。」
ロンの胸板は厚いんだ。
「あたしがかけてくよ。」
モリーが斜めがけにバッグを下げた。
玄関に鍵をかけて慌ててギルドを目指す。
ロンに押されて、私も駆け足になる。
わちゃわちゃと、ギルドの入り口をくぐる。
スイングドアだから、みんなが一気に通れる
「ミネルバ!」
「なによ、さっき帰ったばかりなのに。」
ロンがちょいちょいと手招きした。
「なによもう。」
「たのむ、ギルマスんとこ行きたい。サヨが…」
「なにがあったの?マイプの情報?」
「たのむよ。」
「わかったわ、着いてきて。」
ギルドの机の中を泳ぐように、奥のドアに向かう。
こんこんとノックの音がする。
「だれだあ?」
「ミネルバです、マイプの情報が。」
「入れ」
みんな、なだれ込むようにギルマスの部屋に入る。
私も引きずられて中に入った。
「なんだ、ロンも一緒か。」
「ああ、ジニー・ドア閉めてくれ。」
「はいにゃ。」
マスターの部屋は、人口密度が増した。
「で?ロンよ、なにがあった?」
ギルドマスターは、彼のデスクに着いて、ロンとその仲間を見回した。
いかつい風貌ではあるが、荒いだけではない思慮がうかがえる。
「説明するより見たほうが早い、サヨ少し出せるか?」
「まあ鼻面くらいなら。」
小夜は、アイテムボックスからマイプの頭を出して見せた。
「げえ!」
ギルマスにしても、マイプなど三〇年も前に見た程度だ。
目の前に顔を見て、絶句した。
「本当にマイプラプトルだな。」
ギルドマスターも現物を前にして、言いようがない。
「俺たちも初めて見るからわからんが、どう見てもさっき説明を受けたやつだと思う。」
ロンも凶悪な顔を見て、震える声で言った。
「サヨしまってくれ。」
ギルドマスターは、まっすぐサヨを見て言った。
「はい。」
「これは、どこで獲った?」
「ああ、黒の森の中だよ。」
「く・黒の森?」
「ああ、うちの近くなんだよ。たださ、皮が硬くてね、なかなか刺さらなかったんだ。」
「な・なにが刺さるんだ?」
「え?アイスランスだよ、二回目でやっと刺さってさ、顔が地面に来たから口のなかにファイヤー入れた。だから、ハラの中は焦げてるな。」
「な・なんだと?」
「サヨそんなことしてたのか?」
「まぁね、硬いって聞いたから弱点さがしたのさ。」
ギルマスは、アゴが落ちそうな顔をした。
「弱点?」
「そうだよ、腹は背中より柔らかそうじゃない。」
「そ・そうだな。」
「こいつ、うまいんだって?ギルドに降ろすから、お肉十キロちょうだい。あんたたちもほしい?」
「う、うん、じゃあ十キロちょうだい。」
モリーは、あきれ半分の顔で言った。
「じゃあフィルチんとこに行こう。後のことは、ギルマスがやるんだろ。」
「お、おい」
ギルマスが手を持ち上げるが、サヨはかまわず歩き出した。
解体倉庫に移動してフィルチを呼ぶ。
「フィルチ〜獲物見て〜」
「なんだよ嬢ちゃん。こんどは、どんな大物だい?」
フィルチはにやにや笑いながらやってきた。
小夜はすみっコに移動して振り向いた。
「これだよ。」
ズルリと顔を出した、マイプラプトル。
その凶悪な顔は、苦痛にゆがんでいる。
「うええ!」
フィルチは変な格好で後ずさった。
「こりゃあ、マイプラプトルじゃねえか。さっき通達したばかりだぞ。」
「通達前に狩っちゃった。」
テヘッと笑う。




