第十四話 平穏な正月
つんつくつくつくつん
つんつくつくつくつん
ひや〜ひ〜ひらひらほ〜
正月ですな。
お母さんは年末年始出勤で、朝だと言うのにまだ帰ってない。
ビンボーシフトの余波で、年末年始シフトがそのままだったらしい。
お母さんらしいと言えばらしいよね。
金になるからいいよと言ってた。
私はすでに冬休みの宿題をやっつけて、中学生の教科書をだ〜って読んでる。
コタさんは、冬のオトモダチだよね。
一年生から順に読み返すと、足りない情報が補てんされる。
国語・社会なんか、かたっぱしから詰め込む感じ。
超記憶のスキルが働く。
高校受験の希望高校に行くには、学校群ってやつがジャマをするみたいだけど、やはり池野高校がらみを受けることにした。
アカンときは、南高校に割り振りされるらしいよ。
私のラックが仕事をするだろう。
割り振りで、池野高校に行けるさ。
あそこなら自転車で行けるし。
家から離れるのは、やはり不安があるよね。
下宿なんかしたくないし。
とにかく、高校で知識詰め込んで、受験を勝ち取る。
ダラダラ過ごすのもおもしろくないので、母にごはん食べさせたら動こうかな。
どうせ彼女は、寝ちゃうだろうし。
近くの八幡神社に初詣にでも行こう。
今日は、人には会いたくない。
松の内に堂本先生に相談に行こう。
資料とかいっぱい持って。
新年早々、校長にはツルッパゲになるほどショックを与えてやる。
未知やすえの妊娠どころのはなしじゃない。
担任も、学年主任も、大っきらい。
学校つぶれろ。
そのくらい怨みがひどいみたいね。
正月からしょーもないこと考えてる。
大三輪神社まで行くと、高確率で梨沙のグループに当たりそうで怖い。
ひょっとこしたら、まだ家で寝込んでるかもしれないけど。
いまの私だと、手加減したところで、相手が骨折はまぬがれない。
だから、会わないように気をつけている。
ことしは、すべての縁が切れますように。
八幡神社に頼むことではないだろうな。
お母さんごめんよ、巻き込むかもしれないけど、必ず勝つからね。
お母さんは、相変わらずスクーターで通っている。
クルマでも買えばいいのにさ。
二礼二拍手一礼
丁寧に頭を下げた、お賽銭も百円入れてみた。
小さなお宮さんなので、運営に使えるのかな?
「今年は平穏でありますように。」
心を静かにして拝む。
『よう参ってくれたの。』
はあ?
『今年はちゃんと加護するによって、心安んじて暮らすが良いぞ。』
いずこの神様でおわしますか?
『アマテラスじゃ。』
おお!最高神さま!
『てれるの。』
ありがとうございます、がんばります。
『よい子じゃ、健やかにのう。』
神様は唐突に戻られた。
ふう、なんだかこういうのは慣れないなあ。
どこでつながったんだろう?
三が日がすぎて、社会は活動を始めた。
日曜日を挟んで、堂本先生の事務所に向かう。
いままでの嫌がらせの証拠写真
・現物(裂かれた教科書など)
・録画(途中からハイビジョン、DVD化してある)
・録音(私の情けない声入り)
全部持っていく。
「これは大量ですね。」
「ほぼ一年近い記録ですから、」
「よくもまあ、見ただけでも負けはないですね。」
「勝確でお願いします。」
「謝罪は?」
「あいつらの薄っぺらい謝罪などいりませんよ。壊したものの弁済と慰謝料一千万くらいでどうですか?」
「その程度で?」
「ガキのケンカなんて言いやがったら、ケツの毛羽まで。」
「むしりたいですか?」
「はい」
「そうですね、ここまで証拠が揃っていますから、ある程度精査しまして、来週には内容証明郵便を送付できます。」
「その場合、自宅ですか?」
「同じ内容で学校にも送付できますよ。」
「では学校にも送ってください。」
「その反応によって、学校への訪問と訴状の開示を行います。あとは、反応次第ですね。」
「楽しみですね。」
「ふふふ、これを楽しみと言えるサヨさんの精神が頼もしいですね。」
「そうですか?センセにはいろいろお世話になっていますから、本当に足を向けて眠れませんぐらいです。」
「これはこれは、まあ楽しみにしていてくださいよ、吉報をお届けできると思います。」
「あ、これは三年になってからの日記です、もちろん恐喝の記録も入ってます。」
「わかりました。お預かりします。」
校長も教頭も、今後は知らんふりはさせないからな。
お前らにも同じ額の慰謝料請求してやる。
校長も教頭も担任もだ。
一人二百万円。
十一人だよ、ふははは。
幸太郎の件で、町長も巻き込まれてえらい目にあったけど、こんどはその程度ではすまないからな。
県の教育長まで巻き込んで、大スキャンダルにしてやる。
場合によっては教師は県職員だ、それ相応の慰謝料を県から取ってやるぞ。
五百万円くらい?一千万円?
私が最初に相談したときに、真面目に対処していたらこんな目には遭わなかったのにな。
時は今雨が下知る五月かな(明智光秀)
担任の不幸だよ。
あ~あ、あたしゃしらね〜。
堂本先生は、猛烈なスピードで資料を読み、映像も確認したようだ。
週明けにはしっかり書面にして、ガッツリ資料も製本されていた。
そのうえで、内容証明郵便を発送したので、即日配達されたらしい。
梨沙の自宅で受け取ったのは、その日まだ休みだった父親だった。
内容証明郵便という物騒なモノに、父親はすぐに開封してしまった。
中からは出るわ出るわ、娘の不行状が事細かに羅列されていた。
これを見て、父親の怒ろうことか怒らまいことか。
専業主婦の母親は、その不行状を知って泣き伏した。
「泣いていてはわからん!お前はこんなことも知らずにいたのか?」
母親は泣いて話にならない。
パパさんそれは無茶だって。
梨沙にしても、そんな下手うつとは思ってないよ。
上手の手から水と言うやつだよ。
まさか私が、こんな手に出るとは思ってないし。
お釈迦様でもご存知あるメェってやつよ。
毎回びしょびしょに濡れて、ドロドロにされた制服の写真が数十枚から百枚。
これだけでも目を覆うほどの行状だ。
また、カツアゲの現場では、私のマヤりかたがすさまじい。
ひいひいと泣きを入れて、ガラスの仮面の北島マヤを彷彿とさせる。
別にたいして痛くもないんだけどね。
ただ、カネがないときに取られるのは厳しいんだよ。
毎回給食も食えんくて、水飲んで過ごすこともあった。
そのこともきっちり日記に書いてある。
「どどどどうしましょう!こんなにお金をとって!」
「どうなっているかわからん、本人に聞くしかないが。」
そこへ、折悪く学校からの電話があった。
「はい・はい、主人は在宅でございます。」
ママ上は、家電の受話器をパパ上に渡した。
「はいはい、わかりましたすぐ伺います、本人もでしょうか?……わかりました、すぐ伺います。」
パパさんは梨沙と二人で学校へ向かった。
お屠蘇気分もふっとぼうと言うものだ。
常識人らしく、パパさんはクルマではなくタクシーを使った。
校長室に案内されて、パパさん唖然。
そこには他の父兄も六人いたのだ。
江藤梨沙・橘和泉・横山みずほ・兵頭まこ・あべ静江・小柳真理・坂本澄子たまにしったぱが混じるが。
子供たちは部屋の隅に並ばされている。
みな所在なさげに下を向いていた。
「みなさまおそろいのようですな。」
見知らぬ男が口を開いた。
きっちりとグレーのスーツを着こなして、よく磨いたウイングチップの靴が威圧的だ。
「私は朽木小夜さまに依頼を受けました、弁護士の堂本と申します。」
「弁護士…」
江藤父は、名刺を受け取って渋い顔をする。
「すでに内容証明郵便にてお知らせしましたが、本日お集りの父兄の皆様には賠償責任を取っていただきます。」
「せきにん?」
「未成年の監督責任です。」
「…」
「朽木小夜さまの衣服の汚損棄損につきましては、添付の写真のとおりであります。また、教科書・体操着・靴などの汚損につきましても同様であり、これらの損害には賠償責任が伴います。」
「また、こちらの動画にございますように、恐喝を行い金品の強奪を行っております。」
「こ・子供のしたことで!」
「十五歳と言えば、十分ことの善悪について判断のできるものと判例にも出ております。」
「強奪とは過剰な表現では?」
橘和泉の母親が口をはさむ。
「では、あなたは朽木小夜さまの生活状態をご存じですか?」
堂本弁護士の冷たい声が響く。
「いえそれは…」
「彼女は、母親との二人暮らし。父親は蒸発、そのうえ闇金に借金をして母親に押し付けて逃走。その返済に収入の大半を取られて毎日の食費にも苦労しておりました。」
子供たちはびくりと背を震わせた。
「そして、毎日の給食もこの子達に破棄され、水を飲んで暮らす生活。」
橘和泉の母親に怒りの目を向ける。
「人間の生活ですか?あなたはどう思いますか?」
「…」
「ここまで我慢してきましたが、今回縁あって私に相談されました。 義憤ですよ。 人としての尊厳を、ど・そ・く・で踏みにじる行為です。」
「私は、人道的立場で彼女の人間としての尊厳を取り戻すことといたしました。」
もうだれも口を開かない。
まるで息をしていないようにさえ思える。
校長も押し黙って下を向いている。
担任に至っては真っ青で立ち尽くしている。
「この件については、県教育長にも通達し、警察にも悪質な恐喝として通報いたしました。」
いたしました・だよ。
全員の目が、堂本弁護士を見つめた。
「ち・中学生のしたことに警察ですと!」
校長が悲鳴のように叫んだ。
「校長先生、あなたの監督責任でもあります。」
「ひう!」
「それから担任教諭・あなたは相談を受けたにもかかわらず、この話を黙殺した。」
担任の膝が、それとわかるようにがくがくと震えている。
「うう」
「重大な職務違反であります。」
「教務主任教諭は、いかがか?」
「教頭先生・いかがですかな?」
「以上がことの経緯でありますが、なにかご質問は?」
堂本弁護士の説明を聞いて、江藤パパが不安げにたずねた。
「われわれはどうすれば?」
「もちろん、その道筋は準備してございます。全員に対し慰謝料の請求を行います。また、長く押し付けていた教室の掃除についても、その期間はかならず実施していただきます。昼食をとることを禁じます。」
「それはあまりにも…」
誰の声だろうか?
「ま・昼食は冗談です。」
「彼女は、お昼も抜きで過ごしていたんですよ、その気持ちはおわかりですか?」
あべ静江の母親が呑気な質問、アホか?
「も・もうじき卒業なんです。」
「それがなにか?」
「ええっ?」
「だからなんだというのです?罪とその償いに、なんの関りがあるのです?ありませんよそんなものは。なぜなら、この子達は矯正施設・そう少年院に行くのですから。」
「「「「「「「えええ~!」」」」」」」
「なんの疑問がありますか?それほどの罪を犯したのです。反省するのはあたりまえでしょう。」
「いや、ですが、まだ子供ですよ!」
「子供ですが、大人と同等の『犯罪』をおかしたのです。」
はんざいに力を入れて話した。
「あなたは、なんの罪も犯していないのに、ごはんを取り上げられ、お金を取り上げられてにこにこできるのですか?」
「あなたは、あたまから水をかけられて、わらってありがとうと言うのですか?」
父兄に向ける堂本弁護士の目は、氷のように冷たい。
「いやああああ!高校に行けないなんて!」
「少年院なんていやー!」
「お母さん助けて!」
「やめてええええ!」
「こわいこわいこわい!あああああ!」
堂本弁護士は、黙ってそれを聞いていた。
「この録音の中には、小夜さんが泣きながら返して、やめてと言っておりますが、あなたたちは止めましたか?」
堂本弁護士の質問に全員が顔を向けた。
ぴたりと泣き言がやんだ。
「ではそう言うことです。校長先生、以後は家庭裁判所・もしくは地方裁判所でお会いすることになります。」
それだけ言って、堂本弁護士は部屋を出た。
江藤パパは、無言で梨沙を張り倒した。
びしい!と派手な音がして、梨沙はその場にもんどりうった。
母親たちの悲鳴。
「ひいいい」
「毎日…まいにちか?それに気づけない情けない父親だ。慰謝料にも文句はない。親の務めだ、しかし梨沙!おまえのしたことは許されない。朽木さんにどう謝ったらいいのか!」
江藤パパは、膝から床に崩れた。
「江藤さん…」
橘母は、和泉を見ようともしなかった。
「慰謝料については、帰って主人と相談しますが…朽木さんにはどうしましょう?」
鉛のように重い空気が、その場を支配した。
「直接お会いして、誠心誠意お詫びさせていただきます。そのうえで、娘も私も頭を丸めます。」
「あ、頭を?坊主にされるのですか?娘さんなのに?」
「橘さん、なにをひとごとのようにおっしゃるのですか?あなたがたも、同罪だ。私は自分が情けない。一度も疑ったこともなかった。」
江藤パパさんは、慟哭に苛まれていた。
「娘の教育にしくじりました。こんな、人の道に外れた娘になるとは、情けないを通り越しています。」
「お・おとうさん…」
「父親などと呼ぶな!汚らわしい!お前に小遣いも渡さなかったか?食事も取らせなかったか?なぜ、こんな恥知らずな…うっ」
江藤パパは、口を押さえてうずくまる。
周りの大人も、一様にハンカチで顔を押さえている。
「こうなれば、一刻も早く謝罪に伺わなくては。担任、すぐにお母さまに電話で確認をお願いします。」
担任は、手が震えてスマホのボタンが押せない。
顔は、真っ青のままだ。
「何をしている!君も、うちの娘と同罪なんだぞ!」
担任は、ひいひいと泣きながら、震える手で電話をかけた。
学校からの電話なので、仕事中だが母は電話に出た。
ことの内容に、自分も気づいていなかったことを吐露した。
もちろん、担任はまともに説明もできないから、江藤パパさんが話した。
「私の立場として、こんなお願いをす?のは筋違いとは存じますが、ぜひ直接謝罪いたしたく、その機会をいただけませんでしょうか。」
「かしこまりました。今日は昼勤ですので、十七時には仕事は終わります。その後でしたら、けっこうでございます。」
全員が、再度学校に集まることになった。
江藤パパは、娘を引きずって床屋に向かい、無理矢理バリカンで丸坊主にした。
梨沙は、泣き叫んであばれたらしいが、三発張り倒したら黙った。
さらに、江藤パパは、自分も同様に頭を丸めて出てきた。
何という潔い漢だろうか。
さすがに、江藤ママには…って、あなたもですか?
江藤ママも、同様に頭を丸めていた。
そのことを電話で聞いた橘ママは、父親に連絡して判断を仰いだ。
橘パパは、公務員である。
さらに、非常に評判を気にする気の小さい男だ。
あわてて家に戻り、娘と妻を連れて床屋に走った。
泣きわめく娘をロープで縛り、無理矢理バリカンを入れた。
自身も妻もである。
こうして、その日の夕刻に関係者全員がそろった。
江藤家・橘家のほかは、特に変わったところはない。
むしろ、横山みずほなどは、梨沙のアタマを見てひきつっていた。
ほかの面々は、そこまで重要に思ってなかったのかもしれないけど。
江藤パパの様子に、全員が反省したようだ。
校長に呼ばれて、私と母は校長室に入った。
ドアを開けて中に入ると、江藤パパが梨沙の首をつかんで、自分と一緒に土下座させた。
梨沙の頭が『ゴン!』と音を立てた。
江藤ママもそれを見てあわてて、横で膝を着いたよ。
それを見て、ほかの人たちも膝を着いた。
どこまでやるのか、様子見してたんだけど、江藤パパの覚悟が伝わってきた。
「このたびは、まことに申し訳ありませんでした。」
丸坊主の頭は、地肌まではっきり見える。
はっきりと、しかも律儀に江藤パパは言葉にした。
その誠心誠意は伝わってきた。
梨沙とみずほのほかは、髪を切っていない。
たぶん戸惑っているのだろう。
今更ながら坊主にされても大した感慨はないだろう
梨沙なんかは、なにに対して泣いているのか私には理解できない。
ただ髪を切られたことが悲しいのか…
自分の将来が閉ざされたことが悲しいのか?
全員の謝罪は聞いたけど、それだけって感じ。
私は、口を開いた。
「お父さま方の謝罪は受け取りました。梨沙さんたちにつきましては、堂本弁護士に一任してございますので、法に従って対処いたします。」
私は冷たい声で、それだけ言って部屋を出た。
江藤パパの顔は、信じられないものを見たと言うように目を見開いていた。
そりゃあ中学生の言葉には聞こえまいよ。
薄っぺらい謝罪など、聞く気もない。
あとは、お母さんの気持ちだけだよ。
お母さんがどう謝罪を受け取るかだけど、たぶん私にかずけるな。
梨沙は、いきなり痩せた私を見て、パニックになっているようだし。
制服が間に合わないので、ぶかぶかだ。
担任は青い顔が、はっきりと『ぜつぼう』と読めた。
この時点であんたが髪を切っていないことに、覚悟のなさが見て取れる。
士道不覚悟!
県の教職員再教育指導施設で反省しろ。
そのことは、堂本弁護士にも伝えておこう。
校長なんか、アタマ丸めても今と変わりないか。
すでにツルッパゲ一直線だもんな。
生徒は、一年二年遅れても、高校生活はできるだろう。
受け入れる高校があるかどうかは知らんが。
私立なら行けるかもだよな。
だが、教職員に至っては、このままの職にとどまれるかは不明だ。
教職にいられるかは私の関知するところではない。
校長は辞職する気だしね。
「梨沙・あんたたちは、私が死んでたらどうした?笑ってそのまま何ごともなかったように卒業して、アホ高校にかよったんだろう。悪びれもせず、そんなことすら忘れてね。そんなこと、許すと思うか。娑婆はそんなに甘くはないさ。」
本当は、作者はこの話はこんなに長く書く気はなかった。
ただ、今のいじめの構造が、指導者側に起因していることに対して、なんらかの一歩が必要と感じたのだ。
サヨの受けたいじめとは、幸太郎の受けたいじめとは、明らかに犯罪である。
ぬるいマスゴミの言うような、生易しいものではない。
その昔、体操マットにくるまれて亡くなった子もいた。
マスゴミが表面だけなぞって終わらせたそれが、どれほどの地獄であったかを知ってほしい。
梨沙のしたことは『いじめ』では断じてない、それは『はんざい』である。




