第十三話 将来の目標
水郷市のJR東海道線乗り場で、四人は集合した。
「みんなちゃんと親の許可取れたね。」
私の声に、みんなが神妙にうなずいた。
「ぼく、お年玉の前借りしちゃったよ。」
幸太郎はぼっちゃんらしく、財布の中身がえげつない。
さすが荻野目に何十万もカツアゲされるわけだ。
(全額返金されたぞ、ちゃんと。)
「私もお小遣い前借り~。」
みどりも財布を持ち上げた。
「あほう、ちゃんとしまえ。誰が見てるかわからんぞ。」
「小夜ちゃんは厳しいなあ。」
さやかは、寒さに鼻のアタマを赤くして言う。
今朝から急に冷え込んできた。
私は意外と平気なんだけど、みんなマフラー巻いて来た。
水郷市から京都駅までは、一九八〇円で、特急はないんだ。
米原市から、新幹線が出てるけど使う必要性を感じない。
いまだに意識は貧乏な時のままなんだよ、困ったもんだ、あはは。
そう言ったら、二人は酢を飲んだような顔をする。
二人には電車の中でゆっくり説明した。
梨沙たちからお金を返してもらったこと。
クソ親父から慰謝料と養育費をもぎとったこと。
今は普通の生活ができること。
「そうなんだ、じゃあもう心配ないんだね。」
みどりはほっと息をついた。
「もうお金を心配して節約したりはないんだ。」
「よかったねえ。」
みどりは心から心配してくれていた。
〇八:〇九発~〇八:四十四米原着乗り換え
〇八:四十八発~〇九:四十三京都駅
バスは206系統(東大路通経由・北大路BT方面) または 17系統(河原町通経由)
降りる場所 京大正門前:206系統で行けます(正門に近い)
約一時間三〇分で、京都に入ってバスに乗っても二〇分くらいで着く。
私のわがままで、先に京大キャンパスを覗きに来た。
「ほえ~、ここが京大なんだ~」
「何も知らないで見に来る、小夜ちゃんも小夜ちゃんよね。」
「いや、一度見て見たかったんだ。」
「小夜ちゃん、京大目指すの?」
言ってなかったっけ?幸太郎はそれも知らなかったらしい。
「行けるなら国立って思ってる。つか、私立なんてもったいないもの。」
「なにを勉強するの?」
「医学科」
「お医者さんになりたいの?」
さやかが意外そうに聞く。
「やってみたい。」
「そうなんだ~。」
「まだ高校の三年間考えることができるし、決めつけてはないよ。」
「そうだね、今年受験する訳じゃないし。」
「よっし、だいたいわかった。あと何回か見に来るよ。」
「一回じゃわからないものね。」
赤本とか読んでみよう、どこまで理解できるのかわからん。
「さよちゃん、おなかがすいたよ。」
幸太郎が、困った顔をしている。
詰襟のカシドス織りを着ていても、ジャニ顔しているから周りの目が集まってる。
薄手のダウンを羽織っているけど、もこもこして見えないスタイルの良さ。
「ごめん、じゃあどっかでごはんにしよう。」
今出川通りに出ると、角の所に餃子の王将がある。
「あそこダメ?」
私が指さして言うと、さやかが不満。
「ちょ、王将やないの、京都に来て王将?」
私は、首をひねった。
「王将って京都が本場じゃないの?」
みどりが隣を指さして言う。
「サイゼもあるよ。」
「なぜに京都に来てサイゼ?」
学生の街だから、安くて量もある店が喜ばれる。
そこで私がもちつかせる。
「もちつけ皆の衆、今日は偵察が主体である。よって、兵糧は普通のものにする。」
「それで?」
「あとで観光地に行くから、ご飯は王将で安くやろう。」
「わかった。」
「そう言うことなら。」
「了解。」
みんなで町中華になった。
食事をとりながら、行き先を話す。
制服の集団がわちゃわちゃしていると、修学旅行みたいだな。
コートだけもこもこしてる。
「はいはい小夜ちゃん。」
みどりが手を上げた。
「はい、みどりちゃん。」
「わたし、清水寺に行きたい。」
「ほかには?」
「私は八坂神社。」
さやか、そこは通り道だよ。
「僕は京都御所。」
「う~ん、京都御所は時間が足りないよ。」
「そうなの?」
「うん、すごく広いんだよ。」
ネットを見ていたみどりが言う。
「ほんとだ、すごく広い。」
午後も帰りの電車まで時間がない。
「今回は、悪いけど祇園バス停から八坂神社を通って、清水寺ルートで行きましょう。」
みんなは、それで納得したようだ。
私のわがままにつき合わせてスマソ。
私たちは、フランス総領事館の前からバスに乗ることにした。
ていうか、京大の前にフランス総領事館が建ってるんだよね。
東大路だから、バスは何本も出ている。
「ボンジュール#&’(&%#」
急にリュックを背負った外人に話しかけられた。
「はあ?祇園の舞子はどこだ?」
つい答えちゃったよ。
「ウイウイなんたらかんらた。」
へいへい、バスで行けるのかって?
「私たちも祇園に行くから一緒にバスに乗ろう。」
「おお、ありがとう、ちいさなおじょうさん。」
「いいってことよ、ほらバスが来たよ。」
206系統だ。
二百三十円。
そのくらいは自分で払えよ。
十五分くらいで着いた。
「小夜ちゃん、あのひとたち何人?」
さやかが袖を引いた。
「ああ、フランス人。」
「ほえ~、なんで話せるの?」
「イヌHKの教育番組見てたもん。旅するフランス語。」
「なんじゃそりゃ~!」
ホントは言語理解のスキルのせいだな。
バスは祇園で止まった。
朱色の壁の向こうが石畳のギオンコーナー。
外人には向こうに行くように説明した。
さやかがそっちへ行こうとするので、こっちだよって呼んだ。
「みんな迷子になったら、この八坂神社の石柱前に来るんだよ。」
丁字路の信号を渡って、石柱を指さす。
「「「は~い」」」
八坂神社の西門、東大路に面してでっかい石柱が立ってるんだ。
これなら迷うこともないだろう。
「西門だからね。」
わかってんだろうなあ。
私もネットで調べただけだからわからんが。
ぐー地図見ればわかるよ。
みどりが寄ってきて聞く。
「こっちにも食べ物屋さんがいっぱいあるじゃない。」
「このへんは、観光地値段で五割増し高いねん。」
「ええ~?」
「ラーメン一杯千五百円とかするんだよ。」
「そりゃすごいね。」
「あんたたちの懐具合を考えると、この辺はパスしたい。」
「恐れ入りました。」
幸太郎がおどけて言う。
「ホンマだよ、清水寺の拝観料は、中学生二〇〇円だよ、安いだろ。」
私は学生手帳を出して言う。
そのために制服着て来いって言ったんだ。
ウチはセーラー服で、男子は詰襟だからわかりやすい。
ともに、中野万吉商店で買ってきたやつ。
私のは、先輩のおさがりで、どこか引っ掛かる。
制服着てたら、学生扱いしてくれるさ。
一般は五〇〇円だよ。
ふつう夜明けから日没まで開けてるそうだ。
清水寺すげえな。
チューボーのガキだけでも入れるのは、ここが修学旅行のメッカだからだろうな。
それが証拠に、八坂神社の西門付近から制服着たガキがわらわら歩いてる。
それがむちゃくちゃ人があふれているもんだから、歩くのもたいへんなんだ。
夏の海辺みたいにイモ洗いだね。
「これは迷いそうだよ、ほら幸太郎、手ェ出せよ。」
「う・うん。」
私は幸太郎の手をつかんで人ごみに入る。
祭りでもないのに、露店がずっとつながっている。
露店で焼いてた肉って、オークじゃないだろうな。
(ちがうにきまっとるやん、かなり異世界に染まってるな。)
すげえな、ホルモンとか平気で焼いてる。
ひとくし八〇〇円?たけーな、オークなんか三〇〇円だぞ。
やっぱ牛は高いな。
豚串ないもんな。
境内まで出ると、やっと人ごみが途切れた。
「こっちだよ。」
さすがに年末は人が多いので、鈴の緒が賽銭箱の向こう側に持ち上げてある。
こいつでいたずらしたガイジンがいたんだよ、日本の文化なめやがって。
本殿前に鈴の緒は三本並んでいる。
真ん中が素戔嗚尊さまで、こっちがクシナダヒメさまと、あっちが八柱の御子神さまだ。
カミサマは大事だよ。
私も少しは痩せたいものだよ、神様頑張るから少し助けてください。
仁礼二拍手一礼
はいちゃんとお参り…ぶ!
『ようきたのう』
か・神様?
『ようお参りしてくれはって』
『身体健康じゃ』
『わしらも加護するでの』
『健康で』
『健やかで』
あ・ありがとうございます!
がんばって痩せます!
『心配ない』
『あんしんせよ』
『すこやかに』
うわ~、涙が出るよ。
「小夜ちゃん小夜ちゃん」
幸太郎が袖を引いた。
「はっ、なに?」
「急に黙るからびっくりした、二人も来たよ。」
「ああ、そうだね。」
合流できたので、参拝のあとにお守りを見に行った。
『母にはこれを持ってまいれ』
『おまえにはこれじゃ』
また神様だ。
交通安全と学業成就?
「小夜ちゃん二つも買うの?」
「ああ、こっちはお母さん。」
「ふうん、そうなんだ。」
「あんたたち、ご両親に買って行きなさい、絶対必要だから。」
私の迫力に負けて、三人は両親にお守りを買った。
「ほら、受験生にはコレ!」
私はみんなの分も合わせて手で包んだ。
「神さま、これいただきます。」
『心得たり』
「神様、よろしくお願いいたします。」
『うむ、父母を大切にせよ。』
見る人が見たら、私の手は光っていただろう。
大宮司様には見えたそうだ。
あとで聞いた。
これも言語理解のスキルのせいかな?
南の正門から出て、古臭い道を歩く。
石塀小路…ここだ、ネットで見たのといっしょだ。
「小夜ちゃん、ここは?」
さやかが聞く、鼻が赤くなっているよ。
「石塀小路って言うんだよ。」
「「へえ~」」
このくらい、ネットで調べておくと便利だよね。
ねねの道にでると、石段の上に高台寺がある。
木々が茂って鬱蒼とした感じ。
「寧々の道ってなに?」
さやかが見上げながら聞いた。
「この上にあるお寺が、ヒデヨシさんの奥方のお寺なんだ。」
「へ~、小夜ちゃん物知り。」
「そんくらい、これですぐわかるっしょ。」
さやかにスマホを振って見せる。
「ああ、そうか。」
寧々の道の突き当りから横断歩道を渡ると一年坂。
すごく短い。
五〇メートルくらい。
突き当りを右に、二年坂。
人がごちゃごちゃで、人種の見本市みたいだよ。
ここも、そう長くはないんだ。
一〇〇メートルとちょっと。
突き当りから階段になってる。
突き当りを左に、三年坂。
にぎやかに湯豆腐のお店があって、お土産屋さんが並んでる。
こっちにも人力車さんがいるよ。
「あ!サヨちゃん!舞子さんだよ。」
みどりが私の袖を引いた。
「ありゃあコスプレ舞子ちゃんだよ。」
「え?そうなん?」
「だって、こめかみにかつらの線がある。」
「へえ~」
さらに階段を上り、突き当たって左に清水坂だ。
ここからさらににぎやかになる。
両側はびっしりお土産屋さん。
お土産屋さんを見るたびに、みどりとさやかが止まるので、幸太郎の手が私を引っ張る。
かくんと止まる。
「ちょっと~、買うならあとにしようよ、先にお参りに行こう。」
「「は~い」」
だって、帰りの電車の時間もあるんだから。
今日は五時には電車に乗りたい。
遅くなると、親によっては次に出してくれなくなる。
中学生は不自由な子供なんだよ。
次は、だれか保護者連れてくるといいかもな。
清水の舞台から遠く京都タワーが見えた。
すごい、高いんだね。
本堂は、長年の煤でマックロクロスケになってる。
みんなちゃんとお参りしろよ。
本堂を抜けて、階段を下りた。
「音羽の滝だ~」
私が言うと、さやかが聞いた。
「さよちゃん、ここは?」
「音羽の滝のお水を飲むと、ご利益があるんだって。」
「へえ~どんな?」
「さやか~そんくらい調べろ、向かって左から『学業成就』『恋愛成就』『延命長寿』だよ。」
「じゃあまんなか」
「アホウ!」
ぽかり
「いった~」
「受験生なら左やろ。」
「とぅんまてん」
「あはは、まあ好きなやつ飲みな。」
行列が長かったけど、みんなで並んで水を飲む。
あ、さやかのやつ、真ん中にしやがった。
欲張って全部飲むやつは、なにもご利益もらえないんだよ。
回ってきたら、小屋の前になにやらノートみたいなやつがある。
「お姉さん、これなに?」
「これはねえ、御朱印帳って言うんよ。」
「御朱印帳…」
「こうやって、参拝しましたっていう記録みたいなもんやよ。」
「おお!これほしい。」
「ほなこれ?」
柄がいろいろある、赤いのがいいな。
「赤いの下さい。」
「ほなちょっと待っといやす。」
すげえ、手書きで書いてくれる。
日付も入ってるからわかりやすい。
お値段はちと高めだが、なにゴブリン一頭でおつりがくる。
なにより、この表紙が気に入った。
私は赤い表紙の御朱印帳を買い込んで、最初に書き込んでもらった。
次はいつ来られるかわかんないけど、大事にしよう。
幸太郎たちは買わなかったようだ。
ま、中学生の懐には高いよな。
「さあ、お土産見に行こうか。」
「「「は~い」」」
みんな、それを楽しみにしていたらしい。
三年坂界隈でお土産を見て回り、買い食いをして満喫している。
牛まん五〇〇円とかボリすぎだろ!
きゅうり串にさして三五〇円とか。
ビンボーが顔話出すよ。
マテヨ、考えたらまだお金はあるんだから、こっちでマンションとか買っちゃだめか?
大学通うのも楽じゃんね。
お母さんに相談してみよう。




