第73話 新居の完成
朝の清々しい空気がオルト村を包み込む中、マリアの家の隣にある空き地では、早くも活気ある槌音が響き渡っていた。
村長アルバスが手配してくれた熟練の民兵や男たちが、手際よく地面を押し固め、新居の基礎となる土台の構築を進めている。
木々の香ばしい削り屑の匂いと、掘り返された黒土の湿った匂いが、朝風に乗って鼻腔をくすぐった。
「トオル殿、村の資材置き場から柱用の丸太と、基礎に敷き詰める角石を運んでいただけると助かりますじゃ」
現場を仕切る老民兵の言葉に、俺は無言で首肯する。
村の資材置き場へと向かい、積み上げられた大量の木材と石材に手をかざし、スキル【アイテムボックス】を発動させた。
視界の隅で空間が歪み、一瞬にして膨大な重量の資材が亜空間へと吸い込まれていく。
本来なら荷車を何往復もさせ、大人数で汗を流さねばならない重労働が、俺の数百歩の往復だけで完結する。
この圧倒的な作業効率の高さには、現場の職人たちも驚嘆の声を上げていた。
指定された荷物をすべて施工現場へ運び終えると、俺の直接的な仕事は一旦なくなった。
現場の職人たちに声をかけ、俺はアキラとルミを伴ってバザルの町へと向かうことにした。
オルト村から出発する直前、俺は自身の職業を『遊び人』から『剣士』へと切り替える。
ステータスの補正が移り変わり、身体の芯に確かな武技の感触と剛性が宿るのを感じた。
今日は魔物狩りも行う予定だ。
街の周辺で活動する以上、前線で戦う職業へと変更しておくのは合理的な判断だった。
* * *
バザルの町に到着した俺たちは、資金稼ぎと実戦経験を兼ねて町の西側に広がる街道へと脚を伸ばした。
今日の狙いは、一匹あたりの買取価値が高い『プラトー・ブル(平原大牛)』だ。
だが、青々とした草が生い茂る丘陵地帯を小一時間ほど捜索してみたものの、大牛の群れどころか足跡すら見当たらない。
「トオル君、牛さんはいないね……」
「ああ、もっと奥へと進めば群れが見つかるかもしれないが……。強力なモンスターと出くわす危険も高くなる。深追いはせず、今日は戻るか――」
――帰り道。
不意に街道沿いの茂みが揺れ、鮮やかな緑色の粘液を撒き散らすグリーンスライムと、錆びた短剣を構えたゴブリンが飛び出してきた。
俺は『疾風の剣』を鋭く閃かせ、一瞬で距離を詰めるとゴブリンの首筋を深々と切り裂く。
そのまま立ち止まらずにグリーンスライムへと剣を振るった。
ズシャッ!
緑色の体が弾け飛ぶ。
討伐後のステータスを確認すると、ルミの魔法使いレベルが1から2へと上昇していた。
売却価値のないモンスターばかりだったため金にはならなかったが、経験値の獲得という意味では一応の成果はあったようだ。
帰路につく前、バザルの賑やかな露店街に立ち寄った。
香ばしい焼き菓子や果実の甘い匂いが漂う屋台で、マリアやナンシーの分も含めた五人分の甘い餡入りの焼き菓子を買い求める。
オルト村へと戻り、購入した焼き菓子を差し出すと、ナンシーは目を輝かせて喜び、マリアも控えめな笑みを浮かべて感謝を口にした。
* * *
新居が完成するまでの間、寝泊まりはマリアの家でお世話になる。
温かな野菜スープと干し肉の夕食を五人で囲んだ後、夜の静寂が家全体を包み込んでいった。
狭い自室のベッドにはアキラとルミを休ませ、俺は床に敷いた毛布の上で身体を休める。
二人の規則正しい寝息が部屋に響き始めた頃、俺は静かに体を起こし、足音を殺して台所へと向かった。
月明かりだけが差し込む薄暗い台所に、一人の人影がたたずんでいた。
波打つ亜麻色の髪を解いたマリアが、白磁のカップを手に握りしめたまま、じっと夜の闇を見つめている。
「……マリアさん」
俺が低い声で名を呼ぶと、彼女は肩を跳ねさせ、ゆっくりと振り返った。
その深い琥珀色の瞳は、かすかな熱と寂しさを孕んでうるんでいた。
俺は黙って彼女の細い手首を掴み、そのまま静かに勝手口から屋外へと連れ出した。
ひんやりとした夜風が、火照った肌を撫でていく。
家の裏手、薪が積み上げられた影の中で、俺は彼女の背中を木壁へと押し付けた。
「声を押さえろよ。中に聞こえないように……」
「ん……つ、トオルさま……ッ」
耳元で低く囁くと、マリアの息が途端に荒くなった。
抑えつけられた声が、密やかな甘い喘ぎとなって夜の空気に溶けていく。
自分の男としての欲求を満たしつつ、彼女の身も心も支配しているという圧倒的な征服感が、脳裏を心地よく痺れさせていった。
そして俺の『遊び人』のレベルが、4から5に上がっていた。
* * *
オルト村に滞在してから三日が経過した。
バザルの西の平原を再び探索していた俺たちは、ついに草を食む『プラトー・ブル』の小規模な群れを発見した。
街道を離れ、気づかれないように接近して煙幕弾を放り投げる。
群れの中から一体の大牛がこちらへ突進してきた。
俺は新調した『鉄の小盾』で敵の攻撃を受け流しつつ、『疾風の剣』で脚の腱を正確に叩き切る。
盾と身のこなしで突進をいなし、行動不能にしたところへ止めを刺す。
一匹の狩獲に成功した。
町へ帰還後、バザルの解体屋へと持ち込む。
獲物の肉を自分たちの食用として、その場で急ぎ切り取ってもらった。
オルト村の住人におすそ分けをしても、数日分になる量だ。
村に帰ってからマリアに焼いてもらおう。
自分で狩った肉を自分で食すというのも、冒険者の醍醐味だろう。
受け取った肉を【アイテムボックス】に保管する。
解体料を引いた最終的な買取額は銀貨十九枚というまとまった金額になった。
この戦闘を通じてルミの魔法使いレベルも3へと上昇し、パーティとしての戦力は着実に底上げされていた。
* *
そして、オルト村に足を運んでから五日目の昼。
「トオル殿、見事に完成いたしましたぞ!」
アルバス村長の誇らしげな声とともに、完成した新居がお披露目された。
しっかりとした木の温もりが漂う平屋の離れと、その奥に併設された強固な石造りの風呂場。
俺のアイテムボックスによる大量運搬のサポートがあったからこそ、わずか5日という超短期間で理想通りの拠点が姿を現したのだ。
俺たちはすぐさまバザルの町へと飛び、大型のベッドを二つ、銀貨15枚で購入した。
さらに、魔法道具店で奮発し、金貨二枚を支払って『温水給湯機』を手に入れた。
【アイテムボックス】に収めて持ち帰り、新居の寝室と風呂場へと手際よく設置していく。
* *
「今日からは、ここで寝泊まりする」
俺が宣言すると、アキラとルミは感銘を受けたように完成した室内を見回していた。飾り気のない殺風景な部屋だが、自分たちで手に入れた家だ。
さっそく風呂場へ向かい、『温水給湯機』の魔石回路へ魔力を注ぎ込む。
石造りの大きな浴槽に注がれた湯は瞬く間に白い湯気を立ち上らせ、ちょうど四十度前後の心地よい温度へと変わっていった。
「マリア、ナンシー、アキラ、ルミ。まずは入ってくるといい」
声をかけると、女性四人は歓声を上げて風呂場へと向かっていった。
木扉の向こうから聞こえてくる、楽しげな湯音と女たちの笑い声。
それらを耳にしながら、俺は静かに椅子へ腰かけ、満ち足りた気分に浸る。
この世界で散々苦労し、戦闘で死にかける目にも遭ってきたが――ようやく彼女たちを満足させられる安定した生活基盤を整えることができたのだ。
四人が風呂から上がり、しっとりと肌を濡らしたマリアとナンシーは「おやすみなさい」と深く頭を下げて隣の自宅へ戻っていった。
その後、俺は一人で風呂に入り、広い石造りの浴槽へ身を沈めた。
温かな湯が全身の筋肉を解きほぐし、これまでの旅と戦闘の疲労がじわじわと湯の中へ溶けていくのを感じる。
湯を上がり、衣服を整えて寝室へ戻る。
* *
新居には、髪を乾かし終えたアキラとルミの二人だけが待っていた。
室内にはほんのりと薬草石鹸の甘い香りが漂い、二人の頬は風呂上がり特有の朱に染まっている。
俺は二人に向き直り、誤魔化しのない真っ直ぐな視線を向けた。
「今日、お前たちの初めてをもらうぞ」
一瞬の静寂の後、二人の肩がかすかに揺れた。
アキラは照れくさそうに破顔し、ルミは恥ずかしそうに瞳を伏せながらも、二人揃って力強く「こくん」と頷いた。
俺は深く息を吐き出し、内なる魔力を練り上げる。
固有スキル【ダブル】
――発動。
すぐ隣に俺と寸分違わぬ肉体と意識を持った「もう一人の俺」が生成された。
俺たちはそれぞれの腕でアキラとルミを引き寄せ、ふくよかな肩や背中を丹念に撫で擦りながら、二人の緊張をじっくりと解きほぐしていった。
耳元で甘い囁きを送り、全身の熱が最高潮に達したところで、俺たちは二人を並べ、四つん這いの体勢をとらせる。
「トオル君……っ」
「トオル……くん……」
しなやかな背中のラインと、艶やかに持ち上げられた二人分の腰元。
二つの意識を持つ俺は、それぞれの背後へと位置につき、同時に腰を押し進めた。
熱く狭い穿ちの感覚と、二人分の初めてを同時に奪い去るという絶頂の所有感が、脳髄を激しく揺さぶる。
新居を満たす二人の高い喘ぎ声を聞きながら、俺たちの密やかな夜はどこまでも深まっていった。




