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クラス転移した異世界で、俺だけハーレム冒険者  作者: 猫野 にくきゅう
第二章

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第52話 冒険の準備と、害虫の排除

 『銀貨の止まり木』亭を出て少し歩いた場所に、重厚な石造りの大建築が見えてきた。

 朝の冷たい空気を切り裂くように立てかけられた看板には、剣と盾を交差させた冒険者ギルドの紋章が刻まれている。


 扉を開けて足を踏み入れると、酒と古びた木材、そして男たちの汗と鉄の匂いが混じり合った独特の重苦しい熱気が肌にまとわりついてきた。


 早朝だというのに、ギルドの広場にはすでに数十人の冒険者たちが集まっていた。

 酒杯を傾ける者、武器の手入れに没頭する者、依頼の貼り出された掲示板を睨みつける者。


 俺とアキラが足を踏み入れた瞬間、ガヤガヤと騒がしかった室内の空気がわずかに固まり、刺すような視線が一斉にこちらへと向けられた。


 蔑み、警戒、そして露骨な敵意。


 称号【バザルの卑劣漢】がもたらすマイナスの感情が、ギルド内に伝播していくのが肌で理解できた。


 アキラが小さく息を呑み、俺のマントの裾をぎゅっと掴んで背後に身を隠す。

 俺は意に介することなく、冷徹に周囲の配置と視線の向きを観察しながら、目的の掲示板へと一直線に歩を進めた。


 * * *


 この都市バザルの周辺には、いくつかのダンジョンが存在する。

 その中で、俺たちが最初に向かうべき目的地として定めたのは、街の東側に広がる平原に位置する『巨石遺跡』だ。


 掲示板に貼られた羊皮紙、そして手前の机に置かれた資料集には、ギルドが無料で公開している遺跡の基本情報が記載されていた。


 ダンジョンまでの道中に出現する主なモンスターは、ゴブリン、ホーンラビット、グリーンスライムなど。

 読み込みながら情報を頭に入れていく。


 ダンジョン内で出現する敵も、そう強くはない。

 構造も単純で、地下二層までの広浅な遺跡型ダンジョンだと書かれている。


 受付で料金を支払えば、より詳細なマップや攻略情報を閲覧できるようだったが、俺はその必要はないと判断した。

 このダンジョンの場合、マップは単純構造のため、そもそも販売されていない。


 攻略情報についても、モンスターごとのおすすめの戦い方を教えてくれるらしいが、銀貨を数枚払ってまで知る必要はない。

 難易度の低いダンジョンに無駄な銀貨を支払うのは合理的ではないし、今の俺のスペックとスキル『ダブル』があれば、未知のトラブルにも十分に対処できる。


「必要な情報は手に入れた。出ようか」


「うん……っ」


 俺はアキラの肩を抱くようにして庇いながら、長居は無用とばかりに素早くギルドの重いオーク材の扉を押し開けた。

 背後から投げかけられる不快な視線や陰口を完全に遮断し、朝の光が差し込むバザルの街路へと戻る。


 * * *


 次に向かったのは、職人街の一角に店を構える防具屋だった。

 軒先に吊るされた各種の鎧や盾が、朝日に照らされて無骨な光沢を放っている。


 店内に足を踏み入れると、革を鞣す油の匂いと、乾いた木材の香りが鼻腔を突いた。


「アキラの装備を整えておきたい」


「えっ、私の……?」


 驚いたように目を見開くアキラに、俺は店内を見渡しながら淡々と説明を続けた。

 彼女を直接戦闘に参加させるつもりは毛頭ない。だが、だからといって丸腰のままダンジョン内部へ連れ込むほど愚かでもない。


 魔物の不意打ちや、跳ね返った攻撃の破片から身を守る最低限の防護性能は必須だ。

 すでに俺のお下がりである『革のブーツ』を履かせてはいるが、上半身と頭部の保護、そして牽制用の武具が必要になる。


 俺は並べられた商品の中から、アキラの細身な体格に合うものを手際よく選別していった。


「これと、これ。それからこれもだ」


 店主に差し出したのは四つの装備だった。


 一つ目は『木の丸盾(バックラー)』。

 木組みの表面に頑丈ななめし革を貼り付けた小ぶりの軽量盾。

 価格は銀貨4枚。


 二つ目は『革の胸当て(レザーベスト)』。

 柔軟性のある革を重ね合わせた簡易的な胸部防具。

 価格は銀貨5枚。


 三つ目は『兜(ヘッドギア風)』。

 頭部および側頭部への衝撃や落石を防ぐための頑丈な革製防具。

 価格は銀貨3枚。


 最後は『鉄の短剣』。

 自衛用の小ぶりな刃物。

 価格は銀貨5枚。


「合計で銀貨17枚だ」


 店主の提示した金額に対し、俺は無言で財布から銀貨を取り出して支払った。

 オルト村のように『英雄の称号』による値引きはないが、相場通りの適正価格だ。『卑劣漢の称号』で吊り上げられなかっただけでも十分と言えた。


 残金は、金貨10枚、銀貨52枚、銅貨76枚。

 確実に手持ちの資金は減っているが、アキラというパートナーの生存率を高めるための必要な投資だと割り切る。


「着けてみろ」


「あ、うん……ありがとう、トオル君……!」


 買い与えた胸当てと兜を身につけ、小盾を手首に固定したアキラは、どこか面痒そうに、だが心底嬉しそうに微笑んだ。

 自分が庇護され、大切に扱われているという実感が、彼女の表情を明るくさせている。


 防具の革紐をしっかりと締め直してやった後、俺たちはバザルの東門を目指して街の大通りを歩き始めた。


 * * *


 石畳の通りには少しずつ人が増え始め、活気が戻りつつある。

 目的地へのルートを頭の中で反芻しながら歩を進めていた、その時だった。


「おい、渡辺! 渡辺だろ!?」


 背後から、遠慮のないぶしつけな声が通りに響いた。

 聞き覚えのある声に俺が足を止めると、すぐ隣を歩いていたアキラの体がビクッと跳ね上がり、一瞬でガチガチに硬直した。


 振り返ると、そこに立っていたのは見覚えのある顔――

 クラスメイトの西村と三木の二人組だった。


 彼らはこの町で冒険者をしている佐藤翔太や木村健一のパーティに腰巾着のように身を寄せていた男たちだ。


 アキラの顔から一気に血の気が引いていくのが目に見えてわかった。


 それも当然だ。

 アキラはパーティの借金のシワ寄せとして、奴隷商に引き渡されたのだから。


 佐藤たち、そしてそれを黙認・助長した西村たちこそが、彼女を奈落の底へ突き落とした当事者だった。


 西村と三木は、俺の存在などまるで目に入っていないかのように無視し、ニヤニヤとした不快な笑みを浮かべながらアキラへと近づいてきた。


「やっぱり渡辺だ! 奴隷商から逃げてきたのか? よかったよかった。また、俺たちとパーティ組もうぜ。他のみんなも買い戻さなきゃな。一緒に頑張ろう!」


 どこまでも自分勝手で、自己保身に満ちた無神経な言葉。

 自分たちが彼女を見捨てたという事実を綺麗に忘れ去り、善人ぶった態度で手伸べてくる彼らの図々しさに、根が明るいアキラでさえ恐怖と呆れで言葉を失い、完全に凍りついていた。


 アキラの代わりに、俺が一歩前へと踏み出し、二人の視線を遮るように立ちふさがった。


「こいつは俺が買い取ったんだ。失せろ」


 冷たく吐き捨てた俺の言葉を聞いた瞬間、西村の顔からヘラヘラとした笑みが消え、醜い怒りと蔑みが浮かび上がった。


「なんだと、てめぇ……! 常盤かよ。クラスメイトを自分の奴隷にするとか、どんな神経してんだ! このクズが――キモいんだよ、お前は!」


「この人でなしが! おい、渡辺、こっち来いよ。俺たちが助けてやるからさ。安心しろって、俺たち、実はお前のこと良いなって思ってたんだ。だからさ、お前のこと絶対に買い戻すって頑張ってたんだぞ。それを裏切らないよな!」


 三木が自己正当化の欲望を隠そうともせず、俺の後ろにいるアキラへ手を伸ばそうとする。


 都合の良い幻想に浸り、他者を不当に貶めることで自分たちの正当性を保とうとする浅はかな思考。


 こいつらには、どれほど論理的に説明したところで言葉など通じない。

 害虫を前にして話し合いを試みるのが無駄であるのと同じだ。


 思考を切り替えるのに、一秒もかからなかった。


 俺は無言のまま、一歩踏み込んだ。


 * * *


 『敏捷15(+6)』のスピードに『筋力18(+3)』の破壊力を乗せ、腰の捻りと共に右拳を音もなく振り抜く。


 ――どっ!


 重い破砕音が響き、西村の顎に俺の拳が深く突き刺さった。

 歯の砕ける音と共に西村の首が跳ね上がり、視界から光を失った彼の身体が、まるで糸の切れた人形のように石畳へと崩れ落ちる。


「え――」


 状況を理解できず、三木が間抜けな声を漏らした瞬間、俺の体さばきはすでに次の動作へ移行していた。

 振り切った右腕を引き戻す反動を利用し、流れるような動作で左拳を三木の鼻腔の真ん中へ叩き込む。


 ――どごっ!


 顔面を陥没させるほどの強烈な一撃。

 鼻血を噴き上げながら、三木の巨体が後ろへ吹き飛び、頭から激しく石畳に叩きつけられて動かなくなった。


 二人を倒すのにかかった時間は、わずか二秒足らず。

 悲鳴を上げる暇すら与えなかった。


 静まり返った通りの中で、俺は拳についたわずかな脂を拭い、地面に転がる二つの肉塊を一瞥もせずアキラへと振り向いた。


「さあ、いくぞ」


「あ……う、うん……っ!」


 眼前で起きた圧倒的な暴力の行使と、自分を苛んでいた過去のトラウマが一瞬で粉砕された光景に、アキラは息を呑みながらも、その瞳に強い熱を宿して大きく頷いた。


 倒れた二人の体を一瞥もせず、俺たちはバザルの東門へ向かう。


 頭上に広がる青空の下、最初のダンジョン『巨石遺跡』が待つ東の平原を目指し、俺たちは力強い足取りで街を後にした。

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