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クラス転移した異世界で、俺だけハーレム冒険者  作者: 猫野 にくきゅう
第二章

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第41話 情報収集と、小者たちとの接触

 交易都市バザルでの二日目の朝。

 太陽が完全に昇りきると、この巨大な都市は昨日にも増して強烈な熱気と喧騒を帯びていた。


 俺は宿を出て、冒険者ギルドに顔を出し――それから色とりどりの天幕がひしめき合う市場の大通りへと足を運んでいた。


 香辛料の鼻を突く匂いと、屋台から漂う焼けた肉の脂の香りが、行き交う人々の熱気と混ざり合って胃袋を刺激してくる。

 商人たちの威勢の良い呼び込みや、客との激しい値引き交渉の怒声が、石畳の通りに絶え間なく響き渡っていた。


 人々の波を縫うようにして進みながら、俺は目当ての場所を探して静かに視線を巡らせる。


 ほどなくして、大通りの一角で小奇麗な布を広げ、商品を並べている見慣れた青年の姿を見つけた。


 * *


「繁盛しているようだな、ルーク」


「あ、トオルさん。おはようございます。おかげさまで、ボチボチといったところですよ」


 日焼けした浅黒い肌に煤けた茶髪のルークは、荷物の整理をする手を止めて、人当たりの良い笑みを浮かべた。


 俺は彼の商売の邪魔にならないよう露店の端に立ち、周囲に聞き耳を立てる者がいないことを確認してから本題を切り出す。


「昨日、ギルドで仲間募集の依頼を出してきたんだが……案の定というべきか、まだ何の音沙汰もない」


 実績も知名度もない新人冒険者の募集に、そう簡単に人が集まるとは思っていなかった。

 だが、全く反応がないとも思わなかった。


 バザルの実情に通じているルークの意見を聞いておくことは、今後の戦略を練る上で有益だと判断したのだ。

 ルークはわずかに困ったような表情を作り、商品を布で磨きながら現実的なアドバイスを口にした。


「そうですね……やはり、初心者の募集には誰も来ないのが普通です。冒険者は命がかかっている仕事ですから」


「ふむ、やはりそうか」


「最初は高額な報酬で雇うか、あるいは冒険者ランクと実績を上げれば応募はあるかもしれませんが……いきなりは厳しいと思いますよ。まずはトオルさんがどこかのパーティに入ってみては?」


 極めて妥当で、合理的な意見だった。

 俺の現状を正確に分析した上での、これ以上ない正論だ。


 集団行動がひどく苦手な俺にとって、見ず知らずの他人の指揮下に入るというのは極めて大きなストレスを伴う。良かれと思って行動していても、それが他者からは意味不明な、和を乱す行為と受け取られることは往々にしてある。


 だが、ソロでの活動に限界を感じている以上、ギルドでの信用を稼ぐための必要なプロセスとして受け入れるべきなのかもしれない。


「なるほどな。急がば回れ、というわけか」


 * * *


 俺がルークの意見に納得し、今後の立ち回りについて思考を巡らせていた、まさにその時だった。


「おい、お前……常盤じゃないか?」


 背後から、ひどく場違いに感じる『知り合い』の声が耳に飛び込んできた。

 振り返ると、そこには薄汚れた装備を身にまとった二人の男が立っていた。


「久しぶりだな。こんなところで会うなんてよ」


 高校のクラスメイト、西村と三木だった。


 彼らは昨日ギルドで見かけた時と同じく、使い古された布服に、手入れの行き届いていない安物のかばんを引っ掛けているだけだ。


 顔には色濃い疲労と生活の苦しさが滲み出ているにもかかわらず、今の彼らはなぜか、ひどく馴れ馴れしい笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。


 俺は表情筋を一切動かさず、極めて冷徹な視線で彼らの挙動と真意を観察し始める。


 * *


(……一体、何の用だ?)


 元の世界において、俺はクラスの中で完全に孤立した存在であり、いわゆるボッチだった。

 西村や三木と親しく言葉を交わした記憶など、学校生活を通じてただの一度も存在しない。


 それにもかかわらず、まるで古くからの友人に再会したかのようなこの態度は、極めて不自然であり、不気味ですらあった。


 俺は警戒心を心の奥底に沈め、相手の出方を窺うために短く無難な返事を返す。


「……ああ、久しぶりだな」


 俺が訝しみながらもそう答えると、彼らの視線は俺の顔から下へと移動し、身につけている装備を舐め回すように見つめてきた。

 微かな魔力を帯びた『疾風の剣』や、上質な生地で仕立てられた『風のマント』。


「ルークさんから少し聞いたんだけどよ。お前、『オルト村の英雄』とか呼ばれてるらしいじゃないか」


 西村が一歩前に出て、探りを入れるような、それでいてどこか卑屈な声色で尋ねてくる。


「ひょっとして、もうモンスターとかと戦えたりするのか? その装備、すげえ高そうじゃねえか」


 三木もそれに同調し、羨望と値踏みするような光を瞳に宿して、ぐいっと顔を近づけてきた。


 どうやら、ルークが雑談として俺の噂を口にしていたらしい。


(俺の現状が気になっているようだな……適当に相槌を打って、情報を引き出してみるか)


 俺は面倒なトラブルを避けるため、彼らの問いには明確な答えを出さず、淡々と言葉を返すことにした。


 * *


「ああ、まあな。運が良かっただけだ」


「どんな魔物と戦ったんだよ? 俺たちなんて毎日薬草採取や、町の中で日雇い労働ばかりで、魔物と戦うどころじゃねえってのに」


「なあ、お前、どうやって魔物を倒してんだよ。教えろよ」


 彼らの質問は次第に熱を帯び、俺の成功の理由を詮索するような内容へと偏っていく。


(俺から情報を引き出したいのか……だが、教えてやる義理はない)


「どうやって、と聞かれてもな。普通に剣で切って倒してるだけだ」


 これ以上この不毛な会話を続けるメリットはないと判断した俺は、逆にこちらから質問を投げかけることにした。


「それで、そっちはどうなんだ? 昨日ギルドで見かけた時は男四人だったようだが、他の皆はどうしている?」


 これは純粋な現状確認であり、今後のリスクヘッジとクラスメイト達の事情を推測するための情報収集だった。


 しかし、俺がその言葉を口にした瞬間、それまで親しげに笑っていた彼らの顔から、スッと表情が抜け落ちた。


 * * *


「……あ? お前には関係ないだろ……」


 西村の目が吊り上がり、三木は舌打ちをしながら苛立たしげに俺を睨みつけてくる。


「なに調子に乗ってんだ? 気安く話しかけてきてんじゃねーよ」

「いきなり女のことを聞いてくるとか……ひょっとしてクラスの女子の中に好きな奴がいて、そいつのことが気になってるとか? お前、ストーカーかよ。気持ち悪いんだよ」


 つい数秒前までの馴れ馴れしさは完全に消え失せ、あからさまな敵意と暴言が投げつけられる。

 彼らは俺の言葉に過剰なまでに反応し、吐き捨てるようにそう言い放つと、乱暴な足取りで人混みの中へと去っていった。


「……」


 残された俺は、彼らの急激な態度の変化にただ困惑するしかなかった。


(なんだったんだ、あいつらは)


 俺が彼らを侮辱したわけでもなく、ただ近況を尋ねただけだ。

 それなのに、あの異常なまでの逆上ぶりは理解の範疇を超えている。


 理不尽な敵意を向けられた俺が静かに立ち尽くしていると、一部始終を傍で見ていたルークが、苦笑いを浮かべながら口を開いた。


「きっと彼らは、トオルさんに嫉妬しているんですよ」


「……嫉妬? 何に対してだ。俺が彼らを見下すような真似をしたか?」


 俺の問いに対し、ルークは肩をすくめながら、商人の鋭い観察眼に基づく持論を展開し始めた。


 * *


「いい装備や金回りもあるでしょうが……一番は、トオルさんの持つ余裕や魅力への嫉妬でしょうね。なにしろ、あのオルト村で一番の美人であるマリアさんをものにした男ですからね」


「……えっ? あ、ああ」


(気づかれてたのか? まあ、狭い村だからすぐに察せられるか……いや、それはそれとして――)


「彼らからすれば、自分たちが底辺で泥水をすすっているのに、トオルさんが余裕の表情で女の影まで匂わせているのが許せなかったんでしょう」


 ルークの言葉に、俺は微かに眉をひそめた。


(俺がこの異世界で余裕そうだから秘訣を聞き出そうとして、大した答えを返さなかったから逆上して去っていった……ということか。真相は分からんが)


 村人ならいざ知らず、この町で生活しているクラスメイトたちは、俺とマリアの個人的な関係など知る由もない。


 彼らの狙いが何であれ――

 どろどろとした醜い劣等感と嫉妬心が原因であることに変わりはないだろう。


 * *


 それは、それとして――

 おしゃべりなルークには釘を刺しておかねばならない。


「ルーク……俺とマリアさんとのことは、内密にな」


 俺はルークに鋭い視線を向け、それとなく威圧しておいた。


 これ以上、面倒な噂が広まって不必要な妬みを買うのは絶対に避けたい。

 あのクラスメイト達に、マリアとのプライベートな関係を勘繰られるなど御免被る。


 ルークは俺の纏った空気に少しだけ肩をすくめ、「もちろん、誰にも言いませんよ」と苦笑交じりに約束した。


 喧騒に包まれた市場の中で、俺は一人深く息を吐き出した。


 集団に属することで生まれる、見栄、嫉妬、足の引っ張り合い。

 あんな連中とパーティを組んで背中を預け合うなど、想像しただけで反吐が出る。


(やはり、俺はソロの方が気楽でいい。だが、この先を生き抜くための戦力となる仲間は不可欠だ……)


 他人の醜い感情という不確定要素を完全に排除し、俺の命令にだけ絶対服従する存在。

 その究極の合理的な答えは、すでに俺の頭の中で明確な一つの結論として固まりつつあった。

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