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戦略級魔法使いの日常  作者: 平画久遠
第一部

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88/97

魔術と魔法01

 玄関の方からドタドタとあわただしい足音が聞こえた。

 導師が帰ってきたにしては、マナーがなっていない。客が来たのかもしれない。

 僕は側に付いているノーラを見た。

 ノーラは首を振る。ノーラもわからないようだ。

 玄関に迎えに行ったのはマーシアのようだ。だが、導師は留守である。追い返されるだけだろう。

 だが、足音は食事の部屋に来た。

「やったぞ。シオン。これで、元に戻せる」

 来客だと思ったのは、導師だった。

 導師にしては足音はおかしかった。

「導師。家の中を走ってはいけないと、よくいっていたではないですか?」

 僕は導師のマナーの悪さを責める。

 少しでも興奮を収めて欲しかった。

「それより、再生の魔術が完成した。これで、手は元に戻る」

 導師は興奮している。周りが見えていないようだった。

 僕のもとに来ると両肩を掴んで揺らした。

「ご主人。落ち着いてください。シオン様はとまどっています。最初から話してください」

 執事のロドリグは導師をとめた。

 導師は我に返ったのか、周りを見てコホンと咳をして体裁を整えた。

「お話は食事をしながらなさってください」

 ロドリグは導師の席のイスを引いた。

 導師は恥ずかしそうに僕から離れてイスに座った。

 席に着くと、導師は改めて僕を見た。

「再生の魔術が完成した。食事をしたら手を元に戻す」

 僕は導師の言葉に賛成はできない。導師の目は充血している。そして、目の下にクマを作っていた。

 体調が悪いのが一目でわかる。

「それはうれしいです。ですが、それは明日でいいです。急ぐと事を仕損じます。導師の頑張りはうれしいですが、導師の身を切る姿はみたくありません」

 導師に僕の言葉が伝わったのか、うつむいた。

「すまん。有頂天になっていた」

 導師はそれだけ答えた。

「では、食事にしましょう」

 ロドリグは優しい声でいった。

「いや。部屋で休む」

 導師は食事もせずに食事をせずに部屋を出ていった。


 朝食の席で僕は謝った。導師が読めない本を解読して、失われた魔術を再現した。それは、すごくて立派だ。だが、僕は導師が浮かれているのをとめた。

「いや、いい」

 導師は一晩明けて冷静になったようだ。言葉に力がある。

「お前の言葉で気が付いた。私はこれほど疲れていたのだと。あのまま、再生の魔術を使っていたら、魔力切れで中途半端に再生することになっていた。すまない」

 導師はいつもの威厳を取り戻していた。

「いえ。僕がすぎた口でいったのです。怒られるのは僕です」

 導師がふと笑った。

「そんなところは変わらないな」

 導師の微笑みは理解できなかった。

「でも、食事が済んだら、始めるぞ。体は一晩で回復したからな」

「……はい」

 僕は導師の強引さにあきれるだけだった。


「風と共に吹かれ、水と共に流れる。火と共に燃え上がり、土と共に命をはぐくむ。命の初元なるマナよ。世界に満ちるマナよ。命のかけらを一滴、我に与え給え。新たに芽吹くように、失われた形を取り戻せ。リプロダクション《再生》」

 導師は確かめるようにはっきりと唱える。すると、僕の失われた手にマナが集まる。そして、僕に手は生えるかのように形を作った。

 導師は僕の左手を動かして観察する。

「爪はないが形はできている。動かしてみろ」

 僕は左手を握ってみる。爪がないためか違和感を感じる。しかし、自分の手として感触はあった。

「違和感はないか?」

 導師は僕の顔を覗き込んだ。

「義手とは違う感覚です。しばらくしたら馴染むと思います」

 導師は左手を揉むように触った。

「感触はあるか?」

「あります。でも、義手と違ってくすぐったいです」

 導師は安心していた。

 僕は生えてきた左手を見る。

 なくしたものが戻ってきた。それは嬉しい。だが、まだ実感は持てなかった。

「よかった。これで安心できる」

 導師は僕の左手を両手で包んで顔にそえた。

 僕はされるがままになる。導師の気持ちは僕にも嬉しい。

 しばらく、気持ちの良い静寂と生えた手から伝わる暖かさに浸った。

 導師は僕の手をゆっくり離した。

「爪がないから重いものは持つなよ」

 導師の注意は意外なものだった。

「槍の稽古は休んだ方がいいですか?」

 僕はきいた。

「ああ。動物には何度も使ったが、人に使ったのは三回目だ。だから、様子を見る。少なくとも爪が生えるまで休んでくれ」

 導師が留守にしていた理由がわかった。

 導師は再生の魔術を実験していた。だから、実験のために馬車で出かけていたようだ。

「わかりました。でも、騎士団には見学に行きます。アドフルさんの休むヒマがなくなりますから」

 導師は苦笑する。

「エルトンも気になるのだろう?」

 導師にはお見通しのようだ。

「これでも保護者だ。お前の考えることぐらいわかってみせるよ」

 導師は嬉しそうに微笑んだ。


 昼食の席で左手を使う。やはり、爪がないため力を入れられない。力を入れると抜けるような感触があって、手を止めてしまう。

 ノーラはそれを察してか、肉や魚などナイフを入れるものは、一口サイズに切ってくれた。

 僕は礼をいって食事を再開した。

「再生の魔術はできたが、まだ、完成としたといえない。再生した経過を見ているからな。親しい人間以外には話すなよ」

 導師はそう僕に忠告した。しかし、僕の手を見ればすぐにわかる。すぐにウワサが回るのは簡単にわかった。

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