龍の牙14
僕はアドフルと打ち合った。だが、いつものようにアドフルにあしらわれる。
やはり、僕は魔術師のようだ。武術の才覚はない。身体向上の魔術も意識しだいで高くも低くもなる。波があり過ぎた。僕は騎士には向かないようだ。
「ちょっと、よろしいですか?」
練習を見ていたエルトンはいった。
僕とアドフルは手を止めた。
「なんですか?」
僕はきいた。
「なぜ、魔術を使わないのですか?」
エルトンは真顔でいった。
僕が魔術を使わないのが不思議のようだ。
「身体能力の向上のための訓練です。なので、魔術は封印しています」
エルトンは首を振った。
「もっと、実戦的な訓練をしてください。アドフルのためにもなりません」
僕はアドフルと比べれば弱いと思っている。だが、魔術を使えば逆転するだろう。それでは、訓練にならない。僕が欲しいのは目の速さや体術だからだ。
「魔術を使うと中距離での戦いになります。僕は求める力ではないです」
「わかりました。私と模擬戦をしてください。もちろん、魔術は使ってください。本当の戦いと思ってください」
僕はアドフルを見る。
アドフルはうなずいた。
「わかりました。お願いします」
僕はエルトンと模擬戦をすることになった。
エルトンは気を使ってか、魔術師の攻撃距離になるように離れる。そして、盾と斧を構えた。
始まりの合図はアドフルに任せている。
僕とエルトンは対面しているが、観客が多かった。騎士団とはヒマらしい。
「始め!」
アドフルの声が上がった。
僕はブレイクブレットを動作発動で放った。
指を指す。それだけで、数十もの弾丸はエルトンを襲った。しかし、エルトンは大きな盾で防いだ。
僕はブレイクブレットを指で指して乱発する。エルトンは盾の陰に隠れて耐えていた。
僕は利き腕でない左腕を上げる。すると、ドラゴンフォースの魔術が形になった。
龍を模した水龍はエルトンに向かって水の球を放った。
エルトンはブレイクブレットの弾丸を盾で受けながら横に飛んだ。
さすがに、水龍の水球は盾では受けられないようだ。
僕はブレイクブレットの弾数を減らしながら、威力を上げた。
何百と放っただろう。エルトンの盾は砕けた。
エルトンは弾丸を受けながら水龍を斧で攻撃した。
水龍は砕けた。だが、そこをブレイクブレットの弾丸が襲う。
十発の威力のある弾丸をまともに受けて倒れた。
「止め!」
アドフルの声が響いた。
救護班がエルトンのもとに走った。
僕は近づこうか迷った。だが、救護班に任せる。模擬戦相手の僕が近づくには早いと思ったからだ。
「大丈夫です」
救護班の一人が声を上げた。
僕はエルトンのもとに走った。
エルトンは肩で息をしている。だが、傷は治っていた。
「問題ありませんよ」
救護班の一人にいわれた。
僕はほっと胸をなでおろす。魔術での戦闘は手加減が難しい。倒すだけならドラゴンブレスを連発すればよいだけだ。
「エルトンさん。大丈夫ですか?」
僕はきいた。
エルトンは上半身を起こした。
「はい。シオン様が魔術を封印する理由がわかりました。剣と同じような速さで、魔術を使われたら太刀打ちできません」
「……まあ、そういう方法ですから」
なにか、ズルをしたような気まずい気持ちになる。
「やはり、私をあなたの騎士にしてください」
エルトンの申し出はうれしいが、王直属の騎士のため引き抜けない。
「……それは時期を見てから決めてください。僕はまだ強くありません。まだまだ、修行が必要なんです」
回復魔術の使用後で、エルトンは疲れている。
「……我がままをいいました。申し訳ありません」
「いえ。気にしないでください」
今日の稽古はこれで終わった。しかし、翌日からアドフルはエルトンに鍛えられる。僕の相手をする余裕があるか心配だった。
夕食後、導師の書斎で報告した。龍の牙を持つ人間に会ったと。
導師の顔はこわばった。
導師でも、龍の牙を持つ意味はわからない。慎重にならざるを得ない。
「それで、そいつは王直属の騎士団なんだな?」
導師に確認された。
「はい。なぜか、僕の騎士になりたいといわれました」
導師は口元をゆがめた。
導師には面白い話らしい。
「モテるようだな。だが、本当のことをいわないのは気になる。私たちは何かが足りないのはわかった。だが、何が足りないのかわからない」
「はい。龍族の長老にききに行きますか?」
導師は両手にあごを置いて考え込む。
「……まだ、きかなくていいだろう。知ることで危険になる。クンツ・レギーンとエルトン・カールトンの関連性を調べる。それぐらいでいいだろう。闇をのぞけば、闇に見返されられる。今は危険を排除したい」
導師にはクンツとエルトンは関係していると考えているようだ。
「わかりました。余計なことはきかないです」
「そうしてくれ」
僕はうなずいて書斎を出た。
書斎ではいつも導師は緊張感を出す。それは仕事場だからなのかわからない。ただ、日常と一線を引きたいようだ。
この頃、導師と昼食を共にしていない。導師は朝から外出している。帰るのも遅い。夕食に間に合うように急いで帰ってくる。
どこで、何をしているのかきくのだが、内緒らしい。
それよりも、お土産で野菜をもらってくる。農家にでもいっているのだろうか。しかし、ここは王都であり、農家は少ない。街と城は壁に囲まれているから、他の村から野菜など食料は運ばれている。
「カリーヌ様なら、何だと思いますか?」
僕はカリーヌにきいた。
「ちょっとそれだけだとわからないわ。でも、ランプレヒト公爵は大人よ。詮索しないのがいいと思うわ。後ろめたいことなら、シオンに『内緒』なんていわないから」
カリーヌの言葉に少し安心した。
「カリーヌはシオンに様付で呼ばせているのか?」
アルノルトは疑問を持ったようだ。
「そういえば、そうね。最初に会った時から、そう呼ばれていたから気にしなかったわ。シオン。ごめんね。今度からは呼び捨てでいいわ」
カリーヌは笑った。
僕には呼び捨ては馴染まない。年上でもあるし礼儀は損ないたくなかった。
「では、カリーヌさんでいいですか?」
カリーヌはクスリと笑う。
「カリーヌと呼んで」
カリーヌは微笑む。
その顔に僕の顔が熱くなった。
「呼び捨ては無理です」
僕は顔を隠すように背けた。
「私は様付でいいわよ。私を様付で呼ぶ貴族はいないから」
レティシアは意地の悪そうな顔をした。
「おい。そこは『私も』とかいうところだろ」
アルノルトはツッコんだ。
「いいでしょ。その方が面白いわ」
レティシアは楽しんでいた。
その後はレティシアとアルノルトの漫才が始まった。
エトヴィンはそれを笑いながら眺めている。カリーヌも笑っていた。
僕の午後の一時は平和だった。
アドフルが迎えに来た。今は馬車は導師が使っている。なので、徒歩での移動になった。
アドフルは疲れているのか背中が丸まっている。それより、意外なのはエルトンも同行している。
話をきくと、エルトンは騎士団長の命令ではなく、送り迎えを志願したようだ。
それは後日に騎士団長にぼやかれる。何でも、頼み込む顔が怖かったから許したと。
「エルトンさん。よいのですか? 貴重な訓練の時間を使って?」
僕はきいた。
「問題ありません。送迎の時間はアドフルの休憩の時間です。一時も無駄な時間を使っていません」
エルトンはアドフルと反対に元気が有り余っているようだ。
「今期のブドウは良い出来であるそうですよ。熟成されたワインが待ち遠しいです。シオン様はまだ飲めませんが、大人になる頃には美味しいワインになっていると思います」
エルトンはご機嫌のようだ。
僕はエルトンの話をききながら、城にある訓練場に向かって歩いた。




