龍の牙11
毎日の日課である魔術とダンスの訓練にカリーヌの家に訪れた。今日も四人はそろっていた。
僕はカリーヌにクンツ・レギーン男爵を知っているかきいた。
「さあ。聞いたことがないわね。でも、冒険者なんでしょ? 平民から男爵になったと思うわ。でも、冒険者で貴族になれるとは思えないわ。それだけの功績を積んだ冒険者は聞いたことがないわ」
カリーヌでも知らないらしい。だが、父親のジスランに尋ねるか考えるがやめた。ジスランには龍に関わって欲しくない。ジスランが龍に関われば、カリーヌにも火の粉が飛ぶからだ。
「オレは知っているぞ。少しだけどな」
エトヴィンはいった。
「それでも話して」
カリーヌは真面目な顔でいった。
「男爵になるほど新天地を開拓したらしい。知らない魔獣や魔物を発見し討伐したときいた。それで、人の踏み込める領地を広げた褒賞に、爵位を与えられたようだ。その他にも、色々な遺跡を発掘している。だが、名前は知られていない。本人の意向で伏せられているようだ。だが、それができるということは、冒険者ギルドにとって特別な冒険者なのだろう」
僕は冒険者という存在が想像できなかった。物語では知っているが、本当の冒険者というものがわからない。
「開拓者と思えばいい。それなら、簡単だろ?」
エトヴィンは笑った。
それなら、わかる。新天地を求めて冒険しているということだ。
だが、同時に国の領地は広がっているということだ。
「ああ。広がっているよ。まだ、知らない世界がある。だから、冒険者ギルドがあるのさ」
エトヴィンの説明に納得ができた。
冒険者ギルドは必要だからある。だが、僕の前世の知識では、冒険者は自称であり物好きのすることだ。だから、ギルドになるほど大きな集団はいないと思っていた。
「何でも屋でもあるのは否定できないよ。力のない冒険者志望が一番の稼ぎ頭だから」
エトヴィンは苦笑いをした。
「何で、そんなに詳しいの?」
カリーヌはきいた。
「父が冒険者に出資しようとして調べたんだ。私もその調べ事に手伝った。それで知っている。だが、表面しかわからない。冒険者は秘密が多いみたいだ」
皆は「うーん」と考えている。
「ところで、冒険者は強いのが当たり前なんですか?」
僕はエトヴィンにきいた。
「最低限の強さは必要だ。初めて会う魔獣を相手にする時もあるから」
でも、王直属の騎士団と同じか、それ以上の力を持っているのは理解できない。
「大きく個人差がある。冒険者はピンキリでわからなかった。だから、騎士団より強い人間はいるはずだ」
エトヴィンの情報からもクンツ・レギーンの正体には近づけないようだ。
「シオンはそのクンツに何がしたいんだ?」
アルノルトにきかれた。
僕は龍の恩恵を受けた人間だとはいえない。それは秘密にするべきと思っている。龍にとって見返りがある人間に、与えている可能性がある。だから、本心はいえなかった。
「騎士団の練習場に来たんです。それで、いつでも力になるといわれました。初対面なのに」
僕はぼやかしていった。
「まあ、シオンは有名人だから仕方ないわね」
レティシアはいった。
僕には意外な言葉だった。これでも、目立たぬように生きてきたつもりだ。
「龍に関わっている時点で変だし有名なの。だから、説得力はないわよ」
レティシアは断定した。
他の皆はその言葉に笑っている。
僕にとっては不本意な言葉だった。
カリーヌ達と別れて、迎えに来たアドフルと城に向かった。もちろん、槍の訓練のためだ。
僕とアドフルは馬車の中で揺られていた。
「クンツ・レギーンのことでわかったことがあります。冒険者なのはわかっていると思いますが、多くの弟子がいるそうです。騎士や傭兵、冒険者と多岐にわたります。その全員が何かしらの専門技術を持っています。一つの集団になると怖いですが、あくまで、弟子と師匠という関係で一集団になっていません。ですが、声をかければ集まるらしいです」
アドフルはクンツの異様さを感じたようだ。騎士であるアドフルでも調べないと気持ちが悪いようだ。
「集団となると危険なのですか?」
「力はあります。ですが、皆が集まった記録はありません。クンツの弟子である騎士に話を聞いたのですが、師であるクンツのグチを聞かされました。ですが、嫌っていないです。試しにクンツの頼みをきくかときいたら、面白そうだからやるといわれました」
クンツに対する求心力は強いらしい。無視できない人間なのはよくわかった。
「アドフルさん。身体向上の魔術を習いますか? 最初は呪文を唱えなければなりませんが、今のままの身体向上より強いはずです。それに、詠唱が慣れれば、無詠唱でもできます。試してみますか?」
僕はアドフルに提案した。
「……少し考えさせてください。戦いに臨むのに詠唱をしている時間はありません。ですので、簡単に答えられません」
僕はわかっていた。騎士は皆、自然体で身体向上の魔術を使っている。なので、改めて、言葉にすれば感覚が狂う。一つの冒険でもあった。
「はい。わかりました。必要ならいってください。待っています」
「はい」
アドフルの目は真剣に考えるように見えた。
夕食の時間になってテーブルに着く。
その席で導師はあからさまに不快な顔をしていた。
「導師。何かあったんですか?」
僕はきいた。
「……それなんだが、クンツ・レギーンの詳しい情報が集まらない。集まるのはウワサや嫌味、グチなどだ。肝心の本人の情報は少ない。これほど、隠ぺいできるのが不思議だ」
ここでも、クンツの異様さはきわだっていた。
クンツを調べれば調べるほど理解できない。だが、反対にそれほど力を持っているということだ。男爵だが公爵と同じように考えないと、足をすくわれそうだ。
導師に龍の牙を持つ人を他にも知らないかときいた。
「その情報も集まらない。龍の牙を自慢にするようなバカはいないようだ」
龍の牙は貴重品だ。王でさえ喜ぶほどの物である。見せびらかして盗まれる可能性をあげる人はいないようだ。
「でも、会えば話を聞けるようですよ」
「今は無理そうだ。龍族の長老には何も聞かされていない。私たちにはまだ早すぎるのだろう」
僕はともかく、導師には早いとは思えない。
「まだ、私には力が足りないのだろう。まあ、シオンが子供の内は面倒ごとに巻き込まれたくない」
僕は大人になっても巻き込まれたくない。カリーヌの家で紅茶を飲んでいたかった。




