龍の牙09
僕と導師は公爵家御用達の墓地に来た。
日は落ちてオレンジ色の空を青色に変えていた。
「シオン。怖いのか?」
導師にいわれて、僕はうなずいた。
僕は導師のズボンを掴んでいる。
僕は手を放したくはない。
僕にはオバケが出るかもしれない墓地は、怖い場所だ。夜の仕事なので、なおさら怖かった。
「相手は魔物だぞ。倒せるのに、なんで怖がるんだ?」
導師には僕の心境は理解できないようだ。
わからないから怖い。それが、理解できないようだ。
「本で読んだのだろう。確かに存在している。想像の産物ではないぞ?」
僕は首を振った。
相手がわからないから怖いのだ。だから、知っている魔物は怖くはない。それは倒せばいいだけだから。
「それで、怖がる意味が分からない」
導師には考えがおよばないらしい。
ふくらんだ想像が僕を恐怖させるのだと。
「おっ、さっそく出た」
僕は導師の足に巻き付いた。
墓の下から骨だけの手が出てくる。そして、土を押しのけて出てきた。
骨だけの人間だ。いや、死んでいるから魔物である。
「あれが、怖いのか?」
導師は頭をかたむけた。
「出てくる瞬間は怖いです。でも、あからさまに歩いてくるのは怖くはないです」
僕は答えた。
導師には理解できないようだ。
導師は簡単にサンライト《陽光》の魔術で、ただの骨に変えた。
「お前が怖がる基準がわからん」
認識の違いがはっきり出た。
導師には想像で怖がることはないようだ。現実主義といえばいい。だが、僕は怖い想像をふくらまして怖がる人間だった。
「まあ、この仕事は簡単だ。親玉のテナイデス《死の否定》を倒せば終わる。今日は勉強として見学でいい」
導師一人でもよゆうな仕事のようだ。
僕の力は必要ないらしい。だが、いつか仕事になるかもしれない。そのための見学でもあるのだろう。
『我々の復讐をはばむのは、お前か?』
頭に声が響いた。
ディナイルブデスが現れたようだ。
スケルトンと違って存在感がある。人の形をしてぼうっと光っていた。
その光は、人を憎んでいるような攻撃的な気配を感じさせた。
「ピアファイ」
僕は光を放った。
ディナイルブデスは光に包まれて形を崩していく。そして、光の中で存在が消えた。
「終わったな」
導師は僕に笑顔を見せた。
今日の仕事は終わったようだ。
僕は帰れると思うと安心した。だが、僕は導師のズボンを離さなかった。
「おはようございます」
僕は朝食の席て導師にあいさつをした。
「うん。おはよう。夜は寝れたか?」
「はい。でも、夢に出ました」
「亡霊か?」
僕は夢の内容を話した。
僕が墓地にいると、足元から手が出て掴む。そして、動けないところに後ろから「こっちにおいで」とささやかれる。僕は逃げようとしたが、足を掴む手は離さない。そして、血に染まった大きな女が、ゆっくりと刃物を持って近づいてくる。そういう夢だった。
「それは、仕事とは違い過ぎる。何でそんな夢を見るんだ」
導師には理解されなかった。
僕でもそんな夢になったのかわからない。だが、夢でも怖いのは変わらなかった。
「ふむ。想像力が豊かなのはいいが、すぎると危険だな」
導師はいつものように解析していた。
「まあ、シオンはそれでいい。魔物の存在を知れば怖がる必要はなくなるだろう。あいつらは確かに存在しているからな」
導師は言い切ったが、僕は慣れそうもない。
「まあ、経験でカバーできる。……でも、お前にも苦手なものがあるのだな。安心したよ」
導師は当たり前のことをいった。
僕はカリーヌに墓地での話をした。
「シオン。怖いわ。でも、倒せるのね。やっぱりすごいわ」
カリーヌは話の始めは怖がっていたが、最後には喜んでいた。
他の三人も怖がっていた。
「ディナイルブデスといえば、上級の魔物だろう? よく討伐できたな」
エトヴィンの言葉は僕には意外なものだった。
「魔物としては、それほど強くないですよ。それより、墓地にいる方が怖いです」
僕はいった。
「え? ディナイルブデスが怖くないの? 下手したら、死者のお仲間になっているのよ」
レティシアは驚いていた。
「魔物としては弱いと思いますよ。一撃で倒せましたから。それより、何か出そうな雰囲気の方が怖くないですか?」
僕はいうと、四人は考え出した。
「魔物としてのディナイルブデスは怖いわ。でも、墓地にいるだけは怖くないわね。ただ、いるだけだから」
レティシアの話から考えると、僕の感性は違うらしい。
何もないところに想像して怖がる。それがないようだ。
「いつ、死人に足を掴まれたり、後ろにオバケが現れたりしたらと思うと怖くないですか?」
僕はきいた。
「シオンが想像力が豊かなのはわかったわ。でも、ゴーストも元は人間。怖がる要素はないわ」
カリーヌには恐れる要素は違うらしい。
魔物としての恐ろしさ。つまり、魔獣とかと一緒らしい。物理的な危険があるのが怖いらしい。
異世界では僕の感性は違うらしい。やはり、前世の記憶は良くも悪くもあった。




