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戦略級魔法使いの日常  作者: 平画久遠
第一部

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龍の牙08

 ルーレットの公開は早かった。なぜなら、ウワサが飛び交っていたからだ。

 すでにルールを知っている人もいる。

 僕はジスランの情報網と大衆操作の手腕に怖くなった。これほど、上手く情報を流布させるのだから。

「まあ、それが、あいつの力だ。間違っても敵にするなよ」

 導師は僕の顔を見て笑った。

「しませんよ」

 僕はそういったが、本当はもっといいたかった、だが、的確な言葉が出てこなかった。

 僕たちを乗せる馬車はカジノに着いた。

 門扉は広く玄関前には他の貴族の馬車が止まっていた。順番に馬車から降りているようだ。

 僕たちは順番を馬車の中で待つ。そして、順番が来ると馬車を降りてカジノに入った。

 ドアの向こうは広かった。

 二階建ての高さがあり、天井を感じない。開放感を感じるホールはストレスを感じさせなかった。

 導師はカツカツといつものように歩いた。ドレスであっても変わらないらしい。

「やあ、待っていたよ」

 ジスランが現れた。

 ずっと待っていたようだった。

 僕たちはジスランに連れられて二階のVIP席に案内された。

「ここなら、一望できるな。面白い仕掛けだな」

 導師は感心して喜んでいた。

「でも、あちらからも見られるから気を付けてね」

 ジスランは注意した。

 マジックミラーは存在しないようだ。

 ジスランはメイドのようなホールスタッフに、飲み物を持ってくるように頼んだ。

「それで、肝心のルーレットというのは?」

 導師はジスランにきいた。

「あっちだよ。人が群がってよくわからいけどね」

 二台あるルーレットには賭ける人以外に観客が多かった。それほど、興味を集めているようだった。

「しばらくは見学だな」

 導師は人気を集めているルーレットを見て判断したようだ。

「カードゲームなら空いているよ。そっちはどうなんだい?」

「カードゲームならシオンと遊んでいる。だから、金を賭ける気にはならないな」

「それは残念。ルーレットの席が空いたら呼びに来るよ。それまで、見物なり、自由にしていてくれ」

「ああ。わかった」

 ジスランは退席した。

 僕はホールの全体を見る。

 やはり、同じカードゲームでも人気は違う。後ろで見ている人数も違った。

 ゲームは簡単な方がいよいらしい。ルールをすぐに把握できて簡単に手が出せる。そうなると、一番簡単な丁半ちょうはん博打がいいだろう。あれなら、偶数か奇数の二択である。

 だが、イメージは半裸の男が緊迫した雰囲気の中で、「ちょう」と「はん」といっている場面しか思いつかなかった。和風は嫌われるかもしれない。だが、西洋のサイコロのルールは知らなかった。

「どうした? 緊張でもしたのか?」

 導師にいわれた。

 確かにこの会場は豪勢である。調度品の壺や絵画は高そうだ。それに呼ばれた場所は大衆の賭博場でなく、貴族用の賭博会場だ。緊張するなという方が無理がある。

 ドアが叩かれた。

「入れ」

 導師はいった。

 ドアが開くと、ホールスタッフが飲み物を持ってきた。

 僕と導師はトレーに乗ったグラスを取った。僕はもちろんジュースである。七歳の体ではアルコールは不味いだけでなく、危険だからだ。

「乾杯」

 導師はグラスを僕のグラスに寄せた。僕も近寄せる。だが、ぶつけはしない。グラスをぶつけるのはマナーに反するからだ。

 僕はソファーに座って眼下を眺める。VIP席は特別な光景を見られる。人の動きがよく見られる。それはアリの行列を見るようなものだった。

「ふう。高みの見物とは、こんな感じか? 人を見ているだけであきないよ」

 導師は笑った。

 僕も同じように感じていた。

「導師は賭け事をしないんですか?」

 僕は導師にきいた。

「基本的にしないな。確率を考えてしまって、気分が萎えるんだ。ルーレットのルールをきいたときも、やっぱりかと思ったよ」

「それは勝つ確率よりも負ける確率が高いからですか?」

 僕はきいた。

「ああ。素直に賭け事を楽しめる性格ではなかった」

 そういう導師は不満そうだ。

 頭が良いので、すぐに理解できるのだろう。だから、賭け事に希望を見いだせない。それは、仕方ないのかもしれない。

 僕たちはしばらくの間、人の流れを注目していた。


「やあ。どうかな? シオン君は何か意見はないかい?」

 ジスランは変わらず元気である。

「……それですが、ルールが簡単な方が人気がありそうです。それで、一つサイコロの博打を思い出しました」

「ほう。それは何なんだね?」

「サイコロを二つ転がすゲームです。出た目を足して、奇数か偶数かを賭けます。そのままだと、確率は五割なので、一のゾロ目と一と六を親の勝ちにすればいいかと」

 僕はジスランの返答がないので、ジスランを見た。

 何やらメモをしている。僕が導師に教えたクレヨンのようだ。それで、この世界は貴重な紙に書いていた。熱心なのはいいが、貴重な紙を消費する価値があるかわからなかった。

「参考になったよ。それ以外に気付いたことはあるかな?」

「やはり、一人でできるゲームが欲しいですね。他人を気にせずに遊びたい人はいると思います」

「うん。でも、それは最後でいい。話は聞いたが時計を作るように難しすぎるから。それより、会場はどうだね?」

「はい。吹き抜けになっているのがいいですね。天井の圧迫感がないです。それに柱しかないのがいいです。会場が広く感じます。それと、このVIP席はいいですね。優越感を刺激します。ところでこちらからは見えて、あちらから見えないようなガラスはないですか?」

「ん-。残念ながらない。それはあきらめて欲しい」

「では、仕方ないですね。会場はよく考え込まれて作られていると思います。あとは音楽が流れているといいと思います。……僕ではこれ以上の意見はいえません」

「うん。ありがとう。参考になったよ。では、ルーレットの席が空いたから行こうか?」

「わかった」

 導師は返事をして席を立った。

 僕たちはジスランに連れられてルーレットの席に座った。

「では、楽しんでいってね」

 ジスランはチップを置いて去った。

 僕は導師を見る。

「せっかく、遊びに来たんだ。楽しもう」

 導師は笑った。

 僕と導師は勝ったり負けたりしながらルーレットで遊んだ。

 成果はビギナーズラックなのか勝った。


 カジノに行った話を振られて、皆に話した。

「いいなー」

 アルノルトがうらやましそうにぼやいた。

「シオンは仕事に行ったんだ。それぐらい理解しろ」

 エトヴィンにアルノルトは怒られていた。

「そうなのか?」

「まあ、そうですね。導師と共に誘ったのは建前で、会場を見て欲しかったようです。色々と意見を求められました」

 僕は答えた。

「シオンは大変だな」

 そういったアルノルトは何も考えていないようだ。

「そう思うなら、少しはガマンしろ。今度、わがままでシオンを止めたら切るからな」

 エトヴィンは怒っていたようだ。

「もうしないって。でも、トランプで賭け事ができるとは知らなかったぞ」

「当り前よ。あんたにいったら、やりたいってわがままをいうのがわかるから」

 レティシアの目線は怒っていた。

「でも、それを知っていたら、メイドに球を投げさせる必要はなかったと思う」

 アルノルトは縮こまりながら弁明した。

「その前にガマンを覚えなさいよ。それで、丸く収まるのだから」

「ちょっと考える」

 アルノルトは変わらないようだ。

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