龍の牙07
一時、お茶を飲んで休んだ。
「ふう。賭け事も大変ね。ルールを覚えて勝てるように考えるのも苦労するわ」
紅茶を一口飲んだレティシアはぼやいた。
「まあ、初めてなんだから、これはこれでよいと思うわ。もう少しルールがちゃんと頭に入ったら楽しめるわよ」
カリーヌは答えた。
「何が一番、勝てるんだ?」
アルノルトは難しい顔で考えていた。
五割に近い確率なら、赤か黒の二択だろう。それでも、五割を切っている。なぜなら、ゼロとゼロゼロがあるからだ。この二つは別に用意されている。そのため、赤と黒でさえ五割を切っている。
「博打って客に優しくないのか?」
アルノルトは僕の考えにがっかりした。
「当たり前だろ。カジノの運営が勝つようにできている。お金がなくては運営できないからな」
エトヴィンは冷静な声で答えた。
初めて尽くしの皆には、慣れるのに時間はかかるようだ。
しかし、皆は若い。というか、幼い。休めば気力の回復も早かった。
紅茶を飲むんで糖分を頭に流すと、やる気はみなぎっていた。
皆はそれぞれ、勝てると思う賭け方になっていた。
僕はそれを見ながら、ディーラーとして球を投げ続けた。
「今日は遅いですが、何かありましたか?」
迎えに来ていたアドフルにいわれた。
遅れた理由は、遊び足りないアルノルトにすがりつかれたからだ。
我がままを全開にして止められた。
ルーレットで球を弾ける人がいなかったのも止める理由の一つである。
僕は仕方なく、メイドさんに球の弾き方を教えることになった。そのため、槍の稽古のために、迎えに来ていたアドフルを待たせることになった。
「そうですか。そのご友人は長男か次男でしょうか?」
アドフルに変なことをきかれた。
「三男といっていました」
僕はアドフルの威圧を感じながら答えた。
「では、将来は騎士か術士ですね。その時、きっちり鍛えてあげます」
アドフルは僕の遅刻を許していなかった。
まあ、アルノルトが騎士になるには、ずいぶん先の話になる。その頃になればアドフルといえど忘れているだろう。
僕は次の仕事のために魔術を覚える。
覚える魔術はアンデットを浄化する魔術だ。
僕には死の概念を越えて動くのは理解できない。だが、この世界には実在している。
そもそも、火葬にすればスケルトンやゾンビのような化け物は生まれない。だが、宗教上の関係なのか、土葬が一般的だった。
僕は以前に習った浄化の魔術よりも、上位の魔術であるピアファイを無詠唱でできるように練習した。
僕はついでに呪いの魔術を習得した。これで、ドラゴンブレスは九種類のままだが、威力は上がる。
だが、まだ、導師には負けているだろう。なのに、他は陰陽しか思いつかない。
これは前世の東洋の考え方で、異世界の魔術にはないと考えている。探せばあるかもしれないが、今のところ見つかっていない。
そもそも、陰陽は動く力の陽と、留まる力の陰を表している。なので、自然現象として表せない。いや、あることはある。太陽という恒星は、光と熱を放って全ての物を動かしている。反対にブラックホールは全てを吸い込んで、一点にとどめている。
これが、実現すれば、ドラゴンブレスの威力は上がるだろう。そのため、これはこれで新たに魔術として開発しなければならなかった。
僕は本を閉じてベットの上に座る。そして、日課となっている腹にたまった魔力を、体の中で巡回させる。それを繰り返して、安定した固体になるように魔力の塊を練った。
「ダンスは上手くなったか?」
僕は昼食の席で導師にいわれた。
スープをすくう手がとまった。
このごろは、アルノルトとエトヴィンが来ているので、遊んでばかりだった。
そもそも、ダンスの練習は十五分も続かない。カリーヌの気分で決まるからだ。
「まあ、社交界デビューは、まだまだ先だ。遊びを優先していいぞ」
導師には僕のしていることがお見通しらしい。だが、許可が下りたのだ。遊んでいる時の罪悪感はなくなるだろう。
「それより、今度、カジノに見学に行くか? ジスランに誘われているんだ。シオンにカジノの雰囲気を知って欲しいといってな」
僕の想像では客がギスギスしている感じしかない。
なぜなら、勝っても周りに嫉妬される。負けても無駄に金を捨てたようなものだ。
だが、僕はジスランに博打を教えながら本物を知らない。だから、異世界でも本物のカジノを知らないとならないと思う。
僕は導師の誘いにうなずいた。
「近々、ルーレットという新しい遊びが発表されるらしい。その時に行こう」
僕は新しい遊びに、客がどんな目で見て楽しむのか興味が湧いた。
「マジでカジノに行くのか? いいなー。オレも行きたい」
アルノルトはすっかり賭け事にはまっていた。
皆がそろうと、必ずといってよいほど、遊戯室のルーレットで遊んでいる。
「一応、僕が提案者なんです。今まで現場を見ていないのが不思議ですよ」
僕はジスランがここまでカジノを大きくするとは思わなかった。最初は大人の遊び程度の気持ちだったのだ。それをジスランは公的なカジノとして運営している。
「オレもついて行っていい?」
アルノルトにきかれた。
「申し訳ありません。未成年の賭け事は禁止です。なので、僕は導師と一緒に行動しないとならないんです」
アルノルトは残念がっていた。
「シオンがカジノに行くのは仕事でもあるの。邪魔しちゃダメよ」
カリーヌはアルノルトにいった。
最近のアルノルトはルーレットにハマっている。それも、一点賭けなど、無謀な挑戦をしていた。
「あなたはスコアを見なさい。一番負けているのは、あなたよ。もっと、考えて賭けないと」
レティシアの言葉はアルノルトに突き刺さったようだ。アルノルトはガックリしている。
「でも、本物のカジノを体験したい」
アルノルトはぼやいた。
「大人になるまでガマンしなさい。それよりも、もっと強くないと、カジノでも勝てないわよ」
レティシアは厳しかった。




