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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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異世界とコイルガン08

 翌日、導師の魔術で空間転移する。ゲート型ではなく、その場の物質を押し除けて出現する方法だった。そして、出た場所は荒野だった。

「さっそくだが見せてくれ」

 導師の言葉にうなずいて、指の先ぐらいの鉄の球を出す。

「それが必要なのか?」

「はい。鉄を磁力で加速させます。ですから、弾は鉄がいいと思います。銅では柔らかいので」

「そういうものかい? まあ、実験を見てから決めるよ。早速だがやっておくれ」

 僕は前方に磁力のリングを複数展開させる。もちろん無詠唱だ。理由としては磁力に関する詠唱がない。そのため無詠唱になる。

 僕はそのリングに鉄の球を入れた。

 あっという間に加速されて鉄の球は飛んでいく。そして、岩に当たって落ちた。

 コイルガンだが、一人の力では攻撃力はないらしい。

 嫌な沈黙がその場を包んでいる。

 恐る恐る振り向いて導師の顔を見る。驚いている顔だった。

 失敗か、成功か、判断に迷った。

「素晴らしいですねー。これなら王様も納得しますよ」

 アナが小さく拍手した。

「アナ。お前は、どういう結果をもたらすかわかっていないだろう?」

「そうですか? 威力をあげれば攻撃魔術としては優秀だと思います」

 導師が頭を抱えた。

「こいつがいっていただろう。複数でやる魔術だと。……もし、複数人でできたなら、簡単に城壁に穴を開けれる」

「それは凄いですね。これなら、王様も納得するでしょう?」

「これを使うならな」

 導師は疲れたように眉間を押さえた。

「どういう意味でしょう?」

「磁力を魔術として習得する変わり者はいない。だが、この結果を見れば、王自身が命令を出すだろう。磁力を魔術で再現しろと。そうなれば、軍は強化される。しかし、磁力が役に立つと思う魔術師は少ないだろう。磁力が攻撃に使えるなどイメージできないからな。あまり期待はできん」

「それは残念ですね。ですが、研究の進展があったのは確かです。王様にも報告ができます」

「それは、その通りだがな。……その前に、私が習得しなければならない」

 導師はため息を吐いた。

「なぜです?」

「下男が使える魔術を主人が使えないなんて、恥でしかない!」

「あっ。そうでしたね。抜けていました」

 導師の怒りをアナはおどけてかわした。

「ふう」

 導師はため息をつく。

「まったく、お前が来てから退屈しないな」

 導師はそういうと、苦笑いを浮かべた。


 導師が磁力の魔術を習得し、詠唱を作るまで時間が必要だった。

 僕は導師にたびたび、助言した。しかし、導師は宮廷魔導士である。文句をいいながらも、無詠唱の魔力の扱い方はすぐに見抜いた。そして、習得は早かった。だが、詠唱で再現しなければならない。まだ、時間がかかった。

 僕は導師の研究中は、城にいるアドフルと模擬戦をしていた。

 僕の槍術は向上したようだ。アドフルと対等とはいえないが剣をさばいている。時々、発動させる無詠唱の魔術で驚かせることもできた。

 いつしか、他の衛兵が訓練に混ざるようになり、訓練が厳しいものとなった。しかし、二十人を相手に体力を持たせられるほど、体力に恵まれていなかった。

 骨は折れてはいないが、木刀で何度も打ち込まれた体は悲鳴を上げていた。それでも家に帰らなければならい。城の出入りは厳しく取り締められているからだ。

 城下町を歩いて、なんとか導師の家へ向かう。

 帰りは、空中に漂うマナを吸収しながら、回復魔術を使うのが日常だった。

 この世界での回復魔術は肉体を元の形に戻す方法はない。生命力を強化して新陳代謝を活性化させる。本人の治癒能力を強化しているだけだった。なので、目など、傷ついたら元に戻らない器官は失う。そのため、魔術で作られた義眼や義手などがあった。ちなみに、病気は薬師が担当していた。


「今日もしぼられたようだな」

 玄関から入ると、廊下に導師がいた。

「はい。衛兵たちにおもちゃにされてます。ヒマなのか、二十人ぐらい相手をさせられます」

「ふふっ。それでも無事に帰ってくるんだからいい。だけど、気を抜くなよ。一瞬のすきが致命傷になる」

 導師の笑った顔が厳しくなった。

 導師は過去に痛い目にあったのかもしれない。

「もうすぐ夕食だ」

 導師は口を一文字にして僕から目をそらすと、ダイニングへ歩いて行った。

 僕は導師の後を追って家の中を歩いた。

 

「何を作っている?」

 魔術の向上と研究のために義手を作っていると、導師に尋ねられた。

「義手ですが?」

「いや。そうではない。何で作れるんだ。そんな術は教えていないぞ?」

「はい。本を読んで作ってみました」

 この屋敷には書庫がある。導師がいない間は、出入りは自由なため、自由に本が読めた。

「本が読めるのか?」

 導師が不思議なことを言った。

「昔、本の読み方を教えてくれましたよ。忘れたんですか?」

「専門書を解読できるほど、難解な言葉は教えていない。いつから読めるようになった?」

「もう一人の僕と会った頃ですね。なぜか読めるようになりました」

「前世は異世界だ。言葉が違うだろう。読める理由にはならない」

「ですが、その頃ですから、何とも……」

 導師が眉間を押さえる。

「まったく、お前には驚かされることばっかりだ」

 導師のいう通りなのだろう。だが、僕にとってそれは普通のことだった。

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