異世界とコイルガン07
導師の研究は僕の記憶を思い出すたびに遅くとも進んでいた。しかし、既存の魔術を超える魔術は生み出せていない。理由は、この世界の法則に当てはめなければならないからだ。
前世の物理法則を書いた書類は束になっている。しかし、その知識は上手く使えていないようだった。
僕は導師に隠れて、独自に研究し始めた。どうすれば、魔術で物理法則を再現できるかだ。
それは難問だった。僕が思うイメージに現象を生み出さなければいけない。それを実現させるためには、僕の魔力の扱い方が下手すぎた。そのため、マナと魔力の扱い方を独自で練習するしかなかった。それに、新しい概念である引力などは作らなければならない。研究する課題が山積みだった。
時間は無情にも一刻一刻と進んでいく。導師は新しい魔術の完成させることができずにいた。
城での王との謁見では、導師は疲れて帰ることが多くなった。王様に怒られているようだ。だが、僕から見れば導師は頑張っている。なのに、老体の導師を怒る王にいらだちが増えていった。今までは偉い人だから、したがうのが当然だと思っていたが、違うようだ。王も人間なのだろう。隣国との関係が緊張感が増していると聞いている。だから、導師に辛く当たるのだろう。だが、それは導師をストレスのはけ口にしているだけだ。王の器量も狭いとしか思えなかった。
「そんなことをいったら駄目よ」
アナにたしなめられた。
「王様は苦労しているのよ。導師に求めているのも、解決法の一つであって、全部でないのよ。だから、思っていてもガマンしなさい」
アナにいわれたら、黙るしかなかった。
アナは僕よりも世間を知っている。僕のお手本のような人でもあった。
でも、と反抗したいが黙った。苦労しているのは導師である。それに、僕のグチを聞いたら気分が悪くなるだけだ。
だから、黙ることにした。
槍術を習い始めて半年が経った。ジェフは教えられることがないといった。
「まだ、半年だぞ。教えることは多いだろう?」
導師が練習風景を見ていた。
「後は本人の努力次第です。基本の型は習得しましたし、奥義になる力の受け止め方と力の分散の仕方は、教える必要がありません。もう、できていますから」
「だが、お前が負けた試合はないぞ。手抜きをしていないだろうな?」
「それは攻撃を魔術に頼っているからです」
「だが、槍でも攻撃できないと問題がある」
「それでしたら、攻撃魔術を減らせばいいだけです。その代わり、槍で攻撃すればいい。相手の攻撃をさばいている間に魔術で攻撃するか、槍で攻撃するかの違いでしかありません」
「そうか。でも、練習相手がいなくなるのは困る。せっかく覚えた槍術をサビさせるのはもったいない」
導師はちょっと怒っているようだった。
「私でよければ、空いている日に練習相手になります。ですが、毎日とはいえません。もう、団の方に戻らなければなりません。ですから、城の衛兵をしている者を紹介します。その人物はヒマをしていますから」
「そうか。その者の名は?」
「アドフル・セルウェイといいます。旧知の仲なので、私が頼めば快諾すると思います」
「……わかった。長い間、付き合ってくれてありがとう」
「後日、手紙を書いて持って来ます」
「ああ。頼む」
僕は半年に渡る修行をいったん終え、新しい師匠の下に行くことになった。
新しい師は荒かった。身体能力を極限にまで高めて打ち込んでくる。僕はその攻撃をさばくだけで精一杯だった。
ヒマなのだろう。衛兵が観客として、僕の修業を見て好き勝手にいっていった。
「攻撃魔術なんて頼るな。ズバッと槍で行け」
「さばくだけでは死ぬぞ。スキがあるだろう。それを突けよ」
観客が思い思いにはやし立てた。
アドフルの攻撃が止まった。僕の魔力切れと、体力の限界をわかったのだろう。背中を向けて距離をとった。
「少し休め。回復したら、もう一本行くぞ」
アドフルは容赦がなかった。それから、計五本の模擬戦をした。
僕は城からふらふらになりながら、導師の家に帰った。
アナが僕の様子を見て駆け寄った。
「どうしたの? 練習ではなかったの?」
「うん。練習だよ」
導師がアナの声を聞いたのか顔を出した。
「こりゃ。徹底的にやられたようだね。通過儀礼だ」
「何ですか? 通過儀礼って?」
アナはきいた。
「初めに覚えさせるのさ。オレの方が強いと。あいつらはなめられたら終わりだからね。だから、最初は容赦なくたたかれるのさ」
「だからって、ここまでやりますか?」
「これでも、手を抜いているよ。普通なら立てないほど痛めつけられる。おそらく、私の下男だから手を抜いてくれたのだろう。それに私の奴隷だ。だから、自分の地位を脅かす子供でないとわかっている。まあ、子供なんだ。弱いのはわかっているさ」
アナはわからない顔をしている。
僕は導師の権威は、そんなところまで届いているようだった。
僕は雷の魔術を習得できた。ついでに磁力の魔術も習得できた。二つは親和性があるらしい。
これで、コイルガンが撃てる。
その前に、導師に話した。どんな弊害があるのか、わからないからだ。
「それはどれくらいの威力になるんだい?」
導師が夕食のスープをすすりながらいった。
「規模によります。複数の人数なら城壁に穴を開けれるかと」
「ほう。それでは明日は魔術の実験とするかね。一人でもできるんだろう?」
「はい。その代わり、破壊力は小さくなります」
「ふむ。それを見てから考えよう」
そう答える導師の顔は嬉しそうだった。




