龍の牙04
『なぜ、家にいない』
しばらくすると、父からのコールが入った。
『あなたがばら撒いた殺りく兵器の排除をしていたんです。家にいるはずがないでしょう?』
『他人など関係ないのではなかったのか?』
『人の心を持っているんです。動くのは当然でしょう? それに、あなたがそれをいいます? 人の心を失ったんですか?』
『なら、家族を殺すまで』
『使用人は他人ですよ。あなたの家族の線引きが理解できません。本当に狂ったのですか?』
『口だけは立派になったな。だが、どうでもいい。人を気取るなら、屋敷に来い。来なければ屋敷ごと使用人を殺す』
『呼べば行きますよ。あなたは賞金首です。お小遣いになりますから』
僕は父が怒って怒鳴る前にコールの魔術を切った。
僕はすぐに導師にコールの魔術で連絡を取った。そして、作戦を練った。
僕は一人で自分の屋敷の前に転移した。
玄関から執事を連れた父が現れた。執事の首にはナイフが当てられている。
父は僕を確認すると執事を乱暴に離した。もう、執事には価値がないようだ。
「お前は何なのだ。オレにはお前のいうことがわかん。何を考えている?」
父は怒鳴るようにいった。
「それぐらい察するのが親でしょう。それぐらいわかりません?」
父は僕をにらんだ。
だが、一人の男が奥から現れた。
こちらは剣士のようだ。魔剣らしき物騒な形の剣を履いている。
「こいつがお前の子供か?」
剣士は僕を見ながらいった。
「ああ。そうだ。失敗作だがな」
剣士には父の怒りには興味がないようだ。
玄関から出ると真直ぐ僕の方に歩いてきた。
「悪いが死んでもらう。いいかな?」
剣士は当たり前のようにいった。
「死ぬ気はないのでいいですよ」
僕は剣士が殺気がないのが気になった。
剣士は剣を抜く。そして、僕に向けた。
僕も杖を出している。しかし、石付きの杖だ。
精神感応金属のノクラヒロでできた杖でないので不安だった。
「では、死ね」
剣士が上段に構えると、剣から膨大な魔力が発した。それは天を突くような巨大な光の柱になった。
剣士はそれを僕に倒すように切ってきた。
僕はドラゴンシールドでそれを受け止めた。
剣士は驚くが、剣に力を入れて押し込んできた。
だが、ドラゴンブレスに比べたら弱い。九つの魔術を同時発動しているのだ。一属性の力より強かった。
僕と剣士が力比べをすると、周囲に気配を感じた。
「シオン!」
導師と騎士団がタイミングよく現れた。
「ちっ」
剣士は力比べから身を引いた。だが、騎士団に囲まれている。剣士は囲まれたまま転移した。騎士団の数人が追うように転移した。
僕は玄関を見て父を探す。その時にはすでに姿はなかった。
二人の捜索は騎士団に任せた。
僕と導師は罠に気を付けながら屋敷を確認した。
父が捕まえていたのは執事だけだった。他のメイドと家庭教師には目もくれなかったようだ。
「すまない。私の家を狙うとは思わなかった」
導師は使用人と家庭教師に謝った。
「いえ。これも貴族であるのなら仕方ないことです。海千山千の猛者が徘徊するのです。覚悟はできています」
執事は胸を張っていた。
その様は父に捕らわれた恐怖を感じさせなかった。
「すまないな」
導師は泣きそうな顔でいった。
「いえ。私たちが不甲斐ないだけです」
門番の二人の騎士がいった。
二人は傷ついていた。だが、生きている。死傷者がいないだけよかった。
「こんな私に付いて来てくれて助かる」
導師の目から涙が流れた。
執事を始めとして、皆が導師を慰めていた。
僕もその輪に近づく。すると、皆は間を開けた。
僕にここに来いといっているようだ。
僕は歩いて導師の側に行った。
導師は僕を見ると抱きしめた。
結局、父は捕まえられず逃がしたようだ。そして、剣士の方も同様である。
騎士団は悔しさをにじませていたが、静かに自分の力を上げるために練習していた。
「申し訳ありません。またしても、逃げられました」
僕はアドフルに謝られた。
僕はアドフルが悪いと思っていない。悪いのは父であり僕だ。親子としてまっとうな関係を作れなかったのだ。責任は僕にあった。
「すみません。僕のせいで多くの人を傷つけています」
僕は導師に謝った。
すべては僕と僕の父との争いだ。導師は関係ないからだ。
「勘違いするな。傷つけているのは、お前の父だ。シオンではない」
「ですが、僕に関わる限り、父の暴挙にさらされます。今回は死んでいませんが、死んだとしたら僕はここに居られません」
もし、人が死んだら僕のせいだ。父の狙いは僕である。だから、僕が消えればよいだけだ。
「それが、敵の狙いだ。戦略級魔術師はお前しかいない。だから、私の敵対する貴族は、お前を私から引きはがそうとしている。そのための嫌がらせであり、策略でもある。お前が罪悪感を持つほど敵は喜ぶ。お前の件は私の貴族としての戦いでもある。だから、自分を責めるな。そんな顔をされると、私が責められているように感じる」
「すみません」
僕は謝ることしかできなかった。
「これは貴族としての争いだ。それに息子を巻き添えにしている。……まあ、貴族に生まれた限り当たり前なのだがな。だから、自分一人を責めるな。家族であり、貴族である私たち二人の問題だ。わかったか?」
「……はい」
導師は僕を子供として一緒に考えているようだ。
これが家族なのかもしれない。
僕は温かいものを感じていた。
数日して、騒動が沈静化し、いつもの日常が戻ってきた。
僕はカリーヌの下に向かった。しかし、カリーヌの父に捕まった。
「試作品ができた。また、見てくれないか?」
僕は断ることもできずに、新しいルーレットの試作品を見た。
見た目から様になっている。これで、十分と思うぐらい作り込まれていた。
僕はチップを置くテーブルを触った。手触りはいい。これなら、チップの移動に問題はないだろう。それに、数と図柄は前よりしっかりと描かれている。問題はない。
肝心のホイールに触る。試しに回してみると、重いがスムーズに動いた。僕は止まるまで眺めた。目標の三分は越えている。これなら、ホイールを回してから賭ける余裕はある。
「球を弾いてよいですか?」
僕は家長のジスランに球をもらった。
僕は弾いて調子を見る。何度も溝を回る。そして、しばらくすると、ルーレットの一つの数字のポケットに落ちた。
最低限の作りにはなっていた。
「後は高級そうにできれば、問題ないと思います」
僕はジスランにいった。
ジスランは微笑んでいた。
「テーブルの素材だが、私がいいと思った物を使った。それは問題ないか?」
ジスランは見本を何個も出した。
僕はそれらを触って確かめた。
「お父様が選んだのが一番いいです」
「そうか。良かった」
ジスランは微笑んでいた。
「今度は試作品でなく見本を見せるよ。それを見て意見をもらいたい。何度も手直ししても限りはないのはわかっているが、必要でね」
「はい。僕でよければ」
僕は仕事の終わりを感じた。
「うん。……それより、ザンドラの家に賊が入ったようだね」
ジスランの声が低くなった。
「はい。留守を狙われました」
僕は素直に答えた。
ジスランの情報網は広いからだ。知っていて当たり前だった。
「うん。僕も本気を出すよ。期待して待ってくれ」
ジスランの目は怒っているようだった。




