遺跡と聖霊と勇者12
レティシアは相変わらずテラスで外を眺めていた。
「まだ、パーティーには慣れない?」
カリーヌはきいた。
「それもあるけど、なんか貴族ぽくって、イヤ」
レティシアは口を尖らせた。
「でも、ドレスは似合っているわ」
「そう?」
レティシアは恥ずかしそうにいった。
「うん。似合ってる」
僕もうなずいた。
「何か恥ずかしい」
レティシアは顔を赤くした。
「すぐに慣れるわよ。それより、シオンが子爵よ。公爵になる日は近いわ」
カリーヌは上を向いて想像していた。
「それはないから。平民からでは公爵になれないわ」
レティシアはいつものように冷静だった。
「そうなの?」
「ええ。王に近い親戚ぐらいしかなれないわ。貴族は血でなるものだと忘れた?」
「そうなんだ……」
カリーヌは肩を落としていた。
「でも、伯爵ぐらいにはなれると思うわ。でも、それだけの功績を積まないとならないわね」
「それなら、もう一つだからなれるわ」
「そんな簡単ではないから」
レティシアは否定した。
「そうなの? シオンは簡単に登っているわ」
「シオンが普通でないの。この歳で爵位をもらっている。それ自体が普通でないのよ」
「それって、私には爵位がないの?」
カリーヌは驚いていた。
「私たちは公爵の子という立場であって爵位はないわ。爵位がもらえるのは親が死んだ時よ」
「そうなの? 今まで気付かなかったわ」
「シオンが変なだけ。公爵の養子だけど、爵位がある。普通は考えられないのよ。爵位は親から子に受け継がれるものだから」
「そうなんだ」
カリーヌはがっかりしている。
「……そうすると、シオンの方が偉いの?」
カリーヌはレティシアにきいた。
「私たちは公爵の娘だから立場では上のはず。それにカリーヌは気にしないでしょう?」
「まあ、そうだけど。相手の立場を考えなさいといわれているから」
カリーヌは不安そうにしていた。
「僕は偉くはないです。だから、気にしないでください」
僕はいったが、二人の不安を解消できたと思えなかった。
「そうね。公爵の養子ですもの。私たちと立場は一緒よ」
レティシアはあわてていった。
今の気まずい雰囲気を変えたいのがわかった。
「でも、養子では引き継げないよ」
カリーヌの気分は沈んでいた。
「それをいったら、私たちだってそうよ。家長が引き継ぐんだから、兄が公爵になるのよ」
レティシアはいった。
「そうね。忘れていたわ。私も爵位をもらうような働きをしないとならないかしら?」
「必要ないわよ。シオンが変なの。こんなにも短期間で新しい爵位をもらえるんだから」
「そうなんだ……。でも、良いことなのよね?」
カリーヌは確認するようにきいた。
「まあね」
レティシアは仏頂面で答えた。
反対にカリーヌは喜んでいた。
槍の稽古に城の詰所に訪れてた。
詰所ではアドフルに片膝立ちであいさつされた。
「子爵様ようこそお出でくださいました」
僕はアドフルから異様なものを感じた。
「何か悪いものを食べたんですか?」
「子爵様。こちらに」
アドフルに招かれて詰所に入った。そして、内緒話をするように小声でいう。
「お前は何で出世しているんだ? それよりもわかっているだろう? オレたちが教えるには身分が高すぎる」
アドフルは気まずそうだった。
「槍の稽古をやめる気はないですよ。それに家庭教師は間に合っています」
僕の言葉に周囲はあきれた顔をしている。
「オレたち衛兵に習っていると知られたら、ランプレヒト公爵の立場がない。今まで幼いから許されていたが、もう無理だ。だから、お前を指南するとしたら、王や公爵直属の騎士団しかいない。だから、もうここには来るな」
僕は不快だった。
ようやく信頼できる騎士に会えたのに離れるのは嫌だった。
「アドフルさんが騎士団に入ってください」
「無理をいうな。オレの生まれは農家だ。騎士団には入れない」
アドフルは焦りながら弁明した。
「なら、導師に相談します」
「ああ。そうしてくれ。オレでは何もできないからな」
アドフルはすまなそうな顔をしていた。
僕は詰所から出て不満を隠しもせずに帰った。
「導師。槍の稽古でアドフルさんが協力してくれません」
僕は食事の席で導師にいった。
自分自身でもわかるように、そういった声は怒っていた。
「まあ、そうだろうな。公爵の子で子爵の爵位がある。衛兵では不相応だろう。今後は騎士団に頼むか?」
導師には反対にきかれた。
「アドフルさんがいいです。信頼できます」
「そうか……。なら、私が何とかしよう。どうなるかわからんが、覚悟はしておいてくれ」
「はい。お願いします」
導師はクスリと笑った。
僕は首をかしげた。
「いや。よほど気に入ったようだな?」
「はい。僕に対して対等に相手をしてくれますから」
導師は優しく微笑んだ。
僕は導師の本心はわからなかった。
後日、アドフルは王直属の騎士団に昇進したようだ。もう、衛兵ではなくなり、王の剣と盾になることになった。
僕は城にある騎士団の訓練場に行った。
「子爵様。感謝します」
訓練場に入るなり、アドフルに頭を下げられた。
「僕は導師に相談しただけですよ。それよりも敬語はやめてください。気持ち悪いです」
僕はアドフルの態度が違うのが嫌だった。
「子爵様。それはガマンしてください。立場があるのです。騎士団では子爵に乱暴な言葉を使えないのです」
そういうものかと僕は思う。僕も貴族としてガマンしなければならないようだ。
「わかりました。ですが、変な手加減はしないでください。僕は信頼していますから」
アドフルは驚いた顔をした。そして、また頭を下げる。
「ご期待に応えられるように精進します」
そういうアドフルは喜んでいたようだった。
槍の修業に騎士団の練習場に通うようになった。すると、騎士団長にあいさつされた。
「ランプレヒト子爵。励んでおいでですね。感心します」
騎士団長のロルダン・ペルニーアはいった。
「明確に敵がいるので、休んでいられません」
僕は手を止めて騎士団長にいった。
「敵ですか? 誰か聞いてもいいですか?」
僕は迷った。実の父が敵だというには、僕の内面をえぐるからだ。
「申し訳ありません。今はいえません。ですが、犯罪者といえます」
「そうですか。なら、送り向かいに団員をつけましょうか?」
団長は横にいるアドフルを見た。
「いえ。家の門番が警護してくれています。それに僕のために団員を使わせるのは大げさです」
「いえ。これも仕事です。アドフル。警護を頼む」
「わかりました」
話は進んで勝手に決まってしまった。




