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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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遺跡と聖霊と勇者10

 カリーヌ宅から城の詰め所に行った。槍の訓練のためだ。

 詰め所に来たら衛兵の全員に失笑された。

 聖霊族という上位の種族のため、あからさまに笑わない。それがますます不快にさせる。

 やはり、ゆるキャラは愛でるもので頭に乗せるものではなかった。

「それで、訓練はできるのか?」

 隊長のアドフルは笑いをかみ殺しながらいった。

「どいてもらいます。危ないですから」

 僕は聖霊を頭からどかそうとしたが離れない。

『聖霊さん。訓練をするので危険です。離れていてください』

 僕は聖霊にコールの魔術を飛ばした。

『お風呂?』

 お風呂の時はいつも離れてもらっている。そうでなければ、頭を洗えないからだ。

『いえ。槍の訓練です。剣と槍を打ち合うので当たる可能性があります。なので、離れていてもらえますか?』

 僕は頼んだ。

『わかったー』

 聖霊はいつものようにのん気だった。だが、素直に聞いてくれるとは思わなかった。

 僕は頭から聖霊を掴んで離すと近くの開いたイスの上に置いた。

「魔力を食べるので、余裕があるなら与えてください。喜びますから」

 僕は周りの衛兵にいった。

 そして、僕は槍を出してアドフルと対面した。

 何度も打ち合ていると、外野がうるさくなった。

「よそ見するな」

 そういってアドフルの木刀は僕の体にめり込んだ。

「隊長!」

 誰かの悲鳴のような声が聞こえた。

 僕は痛みをガマンしながら声の方を見る。聖霊が帯電していた。

『ダメ』

 僕はコールを飛ばした。しかし、聖霊から電撃が放たれた。

 アドフルはその電撃に当たった。身を震わせて倒れた。

『練習です。ですから、攻撃しないでください』

 僕は聖霊にコールの魔術を飛ばした。

『守ると約束した』

 聖霊は聖霊のルールに従ったようだ。

『今は練習です。多少のケガは覚悟しています。なので、ここでは攻撃しないでください。僕のためになりません』

『そうなの? それなら。見ている』

 聖霊は帯電するのをやめた。

 それを見て、衛兵たちは安堵していた。

 アドフルを様子を見る衛兵に目を向けた。

「治療を頼む」

 その衛兵にいわれた。

 僕はアドフルに近づいて治療の魔術で新陳代謝を加速させる。ダメージは重くない。すぐにアドフルの呼吸は普通になった。

 練習は打ち切られた。

 聖霊がここまで邪魔になるとは思いもしなかった。だが、捨てるという選択肢はない。なぜか、嫌いになれないからだ。


 僕は導師の書斎にいった。そして、ドアをノックした。

「入れ」

 いつものように導師の声が聞こえた。

 僕はドアを開けて中に入った。

 導師は僕の顔をちらりと見た。

「相談事か? 何だ?」

 導師は僕の顔で悟ったようだ。筆を止めた。

「聖霊が槍の稽古を理解できずにアドフルさんを攻撃しました。僕は後から説明して何とか収まったのですが、また、なにかあると不安です」

 僕はぼそぼそといった。

「……それはしょうがないな。聖霊は小さな子供と一緒だ。人族のルールを知らん。少しずつ教えていくしかない」

 導師の解決策は理解できた。しかし、問題はある。人が死んでからでは遅いからだ。

「ですが、今のままだと皆が離れると思います」

 僕は不安だった。親しくなったのに、聖霊のせいで離れることになるのが怖かった。

「それなら、それだけの関係でしかなかっただけだ。そんな関係なんか捨ててしまえ。本当の関係は助け合うものだ。それをしないのなら、そこにはお前のいるべき場所ではなかっただけだ」

 導師は相変わらず強い。僕にはない強さだ。羨ましく思う。だが、僕は怖い。だから、沈黙した。

「皆の全員に受け入れられると思うな。十人いたら二人にしか好かれない。そして、他の二人には嫌われ、その他はどうでもいい関係だ。友達を選べ。本当に自分を大切に思ってくれる人を助けろ。それ以外はどうでもいい。わかったか?」

 僕は導師の目を見られない。視界には足元しかない。

「……僕はそこまで強くなれません」

 僕はそういうのがやっとだった。

「その聖霊はちょうどいい検査薬になるだろう。そいつも連れても、前と同じく接してくれる人間が、お前の大切にすべき人間だ。手放すなよ」

 そんな優しくて強い人は僕の友達にならないだろう。僕は臆病だ。そんな僕と友達になるのは同じ臆病な人しかいない。だが、臆病なので友達でいる可能性はない。

「……はい」

 僕はそう答えたが、納得はできていない。怖いのは変わらなかった。


 翌日、カリーヌの家に訪れた。

 相変わらず、頭の上に聖霊が乗っている。それに苦笑いするのは夫婦そろって一緒だった。

「遅いわよ」

 レティシアは少し怒っていた。

「すいません」

 そういったものの僕の気分は沈んでいた。

「どうしたの?」

 カリーヌに心配された。

 僕は詰め所で起きたことを話した。

「子供をいじめている罰よ。天罰でしかないわ」

 レティシアは怒っていた。

「まあ、やりすぎだっていう話は回っていたからね。レティシアがそういうのはわかるわ」

 カリーヌは僕の槍の練習の話を知っているようだ。

「まあ、これで槍の練習をやめれば、ただのいじめでしかなかったということよ。でも、それでも稽古をつけるなら本物ね」

 レティシアはまだ九歳にしては悟っていた。

「そうなんですか?」

 僕にはわからない判断だった。

「そうよ。自分が損をしても付き合う人間はいない。でも、それをしてくれるのは本当に思ってくれる相手よ」

 レティシアは断定していた。自信があるようだ。

「シオン。レティシアの言葉は本当よ。その場限りの友人なら、そんなことはいわないわ。だから、自分を信じて。そして、見極めて。自分の友達を」

 カリーヌは僕の手を取って握っていた。そして、僕を見る目は澄んでいた。


 僕は城の詰め所に行った。

 詰め所に来ている衛兵の数は少なくなっていた。だが、アドフルは待っていたようだ。

 感電によるケガがあるにも関わらず木刀を持っていた。

「何をしている。今日もすぐに始めるぞ。聖霊をイスに置け」

 アドフルはいつものようにいった。

「はい」

 僕は聖霊をイスに置いて、喜んで木の棒を構えた。

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