遺跡と聖霊と勇者07
僕も導師も立ち昇る火柱を見ていた。
その火柱がなくなると、クレーターの底を見た。
それはクレーターにさらなるクレーターを作っていた。
僕はクレーターの中を見続ける。底では何かが動いているからだ。
それは雲のようである。いや、前世の記憶にあるゆるキャラみたいな理解できない生き物だった。
『起きたー』
頭の中に声が響いた。
雲のゆるキャラがいったようだ。
『シオン。攻撃はするなよ。動かず、待て』
導師のコールが入った。
僕は戦闘態勢のまま、ゆるキャラの動きを見ていた。
ゆるキャラは僕を見た。そして、こっちにゆっくりと浮かんできた。
『聖霊族だ。殺気を感じたら逃げろ』
『殺気はないです。それより、近づいてくるんですが……』
『今、そっちに行く』
導師は僕の隣に転してきた。
『お腹空いたー。魔力ちょうだい』
その言葉には敵意がない。だが、聖霊族だとすると上位の種族である。人間が果物を食べるのに殺気を出さないように、聖霊族も食べ物を食べるのに殺気は出さないだろう。
導師は手から魔力を出した。
『そっちはイヤー。こっちがいい』
こっちとは僕のようだ。
導師のように魔力を手に出すと手の上に乗った。そして、体を震わせながら魔力を食べているようだった。
しばらく、僕はゆるキャラのために魔力を出し続けた。
僕はだるさを感じた。手から魔力を止めた。
『限界です』
『もっと欲しい』
『今は無理です。回復してからにしてください』
『わかったー』
ゆるキャラは手から僕の頭の上に乗った。そして、大人しくなった。
導師は僕を見る。だが、何もいわない。僕と同じで、理解できていない状況のようだ。
「シオン。その状態で変化はあるか?」
導師の心配する声が聞こえた。
「ないです。それより、離れそうもありません。がっちり頭を掴まれています」
「そうか……。聖霊族は滅多に見ない。だから、生態は不明なんだ。ただ、気まぐれなのは言い伝えと一緒だ」
「危ないですか?」
「わからんが、見た目から人を殺すようには見えない。だが、お前は爆弾を抱えている。それに、あの爆発の中で生きていた。最悪の状況を考えないとならない」
それは僕が死んで、貯蔵した魔力で爆発しても聖霊は生き残れる。気分次第では殺される可能性はあった。
「では、龍族の長老にききに行きますか?」
「そうだな。少なくとも私より知識はあるだろう。私は皆に説明と指示をしているから、その間に魔力を回復してくれ」
導師は僕から少し離れると、こめかみに手を当ててコールの魔術を使っていた。
僕は空気中にあるマナを息と共に吸い込んで体内で練る。そして、魔力に変えた。
導師が指示が終わる頃には、体内に流れる魔力は回復した。
「シオン。回復したなら龍族にコールをしてくれ」
僕は導師にいわれてコールの魔術で龍族の迎えの龍に連絡した。
『何だ。急用か?』
『はい。聖霊族に関わって困っています。今、僕の頭の上で動かないのです』
僕はありのまま話した。
『ぶっ。聖霊族だと?』
龍の声は驚いていた。
『はい。遺物から現れました』
『今。長にきく。しばし待て』
つながりが切れた。龍族でも想定していない事態のようだ。
「どうだった?」
導師にきかれた。
「長にきくようです。待てといわれました」
「そうか。こちらは避難したまま待機にした。また、あんなのが出てくるのは困るからな」
遺跡から物騒なロボットが出てくる確率は高いだろう。軍事施設なのだ。まだあっても不思議ではなかった。
コールの魔術が届いた。相手は先ほどの龍だ。
『急だが来てくれ。いつもの場所で待つ』
龍はいった。
『わかりました。向かいます』
コールはあちらから切れた。
「導師。いつもの場所で待つそうです」
僕は導師にいった。
「わかった。移動しよう」
導師はゲートの魔術を使った。
僕と導師はゲートをくぐって正門の外に移動した。
移動すると、正門では城壁内に入ろうとしている旅人や商人が並んでいる。平和な光景だった。
だが、すぐに影が落ちた。
龍族の迎えが着たようだ。正門から離れた場所に三頭の龍が降り立った。
だが、正門では騒ぎになっていた。
「行くぞ」
導師は龍の下に走り出した。
僕も導師を追うように駆けた。
そして、僕たちが龍の手の中に入ると、龍は飛び立った。
浮島にはすぐに着いた。
僕たちは長老の待っている広場に急いだ。
『やあ、待っていたよ。でも、危険なことは慎んで欲しい』
龍族の長老は穏やかにいった。
『申し訳ありません。断れない仕事だったのです』
導師は答えた。
『人族とはこうも窮屈なのか。問題だな』
『もっと文明が進めば変わりますよ。でも、人族である限りしなければならないことはあります』
僕はいった。
『それは君の記憶からかな?』
『はい。効率的に変わってくと思います。それがいいのかわかりませんが……』
僕はそういっておいて不安になった。不条理はいつの世にもあったからだ。
『ふむ。それより、問題は聖霊だな。今は寝ているが話をしないとならない』
『聖霊族をご存じなら教えていただけませんか?』
導師の顔は真剣だった。いや、必死だといってもいいほどだった。
『聖霊族はマナではなく魔力を食べるのが特徴だ。何より、自然現象から現れた存在だ。力は強く竜巻や豪雨など引き起こせる。だが、普段は魔力を求めてふらふらしている無害な種族だ。そのため、過去には人族と魔族が日照りの時に頼ったと記憶している。それから、聖霊族は殺せない。先にいったように自然現象が具現化した種族だからだ。なので、ある程度、距離を取って付き合う必要がある』
『では、追い払う必要はないと?』
導師の声は変わらない。真剣そのものだった。
『ああ。だが、毎日大雨が降ったら困るように、扱いは慎重にならないとならん』
長老がいうには、僕の頭の上の聖霊は、扱い注意の自然現象のようだ。
『シオン自身に害があるのですか?』
導師の顔は真剣なままだ。
『いや。聖霊族に人族の常識は通じない。それゆえに話す必要がある』
『どのように話を進めるのがいいのですか?』
導師と長老のやり取りは剣をぶつけ合うかのようだった。
『それなら、我に任せよ。小さき子は守る』
『ですが、私の子です。長老に全てを任せるわけにはいけません』
導師は抗議した。
『人族の常識は通用しない。ゆえに我が適任なのだ。任せて欲しい』
『もし、変な方向に話が進んだら、間に入ってよろしいですか?』
『おぬしの心配はわかる。だが、必要ないだろう。それでも、構わぬのなら意見を聞こう』
『よろしくお願いします』
導師は不満そうだが引き下がった。




