遺跡と聖霊と勇者05
翌朝、朝食を食べ終わると、採掘した遺物を並べてあるテントに入った。
そこには台の上に、まだ土のついた遺物が並べられていた。
「シオン。解析系の魔術は使えるか? 今まで、教えた覚えがなかったが」
導師はいった。
「前の時に覚えています。無詠唱でできるようになっています」
「なら、心強いな。それで、何種類できる?」
「通常の魔力による透視。四大属性による解析。音波と電磁波による透視です。四つですね」
導師は顔をしかめた。
「音波とは何だ? それに電磁波とは?」
「音波は音による検査ですよ。音の反響で内部構造を検査します。主に肉体とかですね」
「電磁波とは?」
「電波や光と同じものです。これで破壊せずに内部を見れますよ」
導師の顔は難しいものを考えているようだった。
「そんな魔術はない。前世の記憶か?」
「はい。色々、試してみたらできるようになりました」
導師は頭に手をやった。
「忘れていたよ。最近は大人しかったからな」
導師はため息を吐いた。
息を吐くと、遺物に向き直った。
「四大属性の調べ方はわかっているな。それ以外の魔術で調べるな。どんな、弊害があるかわからない。それと、私が調べたものだけを調べるように。全部の責任は私だからな」
「はい」
僕はそう答えて気を引きしめた。
遺物は軍施設の物だ。それゆえ、兵器を調べていることになる。その中には危険なものがあるのは簡単に想像できる。
一つを調べるだけでも多くの時間をかけた。
昼ごはんの時間になる頃、導師は調べるのをやめた。
「魔力に反応しない。前時代の魔道具は魔力を必要としないのか?」
導師にきかれた。
「僕の前世は電気で動いていましたよ」
「それは雷と一緒だったな?」
「ええ。ですが、雷より安定した電気です。電気を通さない物質で銅線を囲んで電気を通していました」
「それは魔術でも可能か?」
「できますが、魔術で再現するには効率は悪いですね。それに、放電しますが、ためることはできました」
「ためた雷は危険ではないのか?」
「龍族がいうような危険はありません。ですが、下手に扱うと、火を噴いたり、雷に打たれたように感電します。もちろん、命の危険がありますが、魔力と違って範囲は小さいです」
「ふむー」
導師はうなって思考の海に入った。
僕は導師が長考から帰ってくるのを待った。
しばらくして、導師は頭を上げる。
「勇者が遺物に魔術で雷を落としたのは電気とやらが関係しているか?」
「おそらく、関係しているかと。ですが、刺激に反応して起動した可能性は外せません」
「そうか。続きは昼食を食べてから考えよう」
導師の後を追って遺物の並んだテントを出た。
昼食を食べ終えて紅茶を飲んでいると、勇者の一団が来た。
「調査は進んでいますか? 必要ならお手伝いしますが」
勇者は貴族の導師に礼もせずにいった。
「気持ちは感謝するが必要ない。平民に手伝ってもらうほど困っていない」
導師は答えた。
「私は勇者です。平民と違います。力を示しましょうか?」
あからさまな言動に僕とノーラは見合わせた。
「勇者とは自己申告だ。職業ではない。それに貴族から勇者が出たとは聞いていない。ゆえに、お前は私からしたら平民でしかない」
導師の答えは素っ気なかった。
「それなら、私の力を見てからいってください」
大人しくいっているが、勇者から怒気を感じた。
勇者は短気らしいと、僕は頭のメモに追記した。
「必要ないな。力は必要としていない。それに遺跡の調査で、何で力が必要なんだ?」
「それは危険が付きまとうからですよ。それぐらいわかりませんか?」
勇者のバカにした物言いを導師は受け流す。
「当然わかっている。その上で受けた依頼だ。だが、戦闘を必要とする事態はない。そのために公爵である私が呼ばれたからな」
「公爵といえど、失敗はあると思いますが?」
まるで失敗して欲しいみたいだ。力を振るいたいと感じる。
「可能性はあるが、平民に力を求めない。それが貴族の自負だ」
「ですが、遺跡の採掘をする平民を危険にさらすのをわかっていないのですか?」
元々危険は承知で仕事をしている。それは他の人も一緒のはずだった。
「そんなのわかっているに決まっているだろう? そんなことを貴族に確かめるのか? それも平民なのに」
導師は確認してくるのがわからないという顔をした。
「貴族なら、平民を助けるのは必然では?」
「そうだな。だから、お前は帰ってくれ。遺跡の採掘にも参加せずに無駄飯を食っている。邪魔でしかないよ」
勇者はほほを引きつらせる。
「……それは、皆を守るためです」
勇者の言い訳は苦しかった。
「だから、何から、守るのだ?」
導師の視線は鋭くなった。
「この遺跡は軍事施設です。以前、遺物が暴走しました」
「その話は聞いている。お前が雷の魔術で起動させたようだな?」
導師はにらむように勇者を見ている。
「いえ、危険だと判断したので攻撃しました」
「何で勝手に攻撃している。指示に従わない平民には出ていって欲しい」
「いえ。伯爵が指示しました」
「ほう。それは私の情報と違うな。自称、勇者が勝手に雷の魔術を打ち込んだと聞いている」
「それは間違いです」
「それは己の命に誓えるか?」
「誓えます」
「なら、誓いの儀式をしよう。ウソなら死ぬけどな」
導師は空間魔術で羊皮紙を取り出した。
「そこまでする必要はありません。私は潔白です」
「なら、誓いの儀式をできるのだな?」
導師は羊皮紙をテーブルに置いて広げる。
「できますが、必要ないでしょう。私は勇者です」
「私にとって勇者は平民と同じだ。それができないのであれば信用できない」
導師は羊皮紙を指さした。
「残念です。私の忠告を無駄にするとは思いもしませんでした。失礼します」
勇者はマントをひるがえして背中を見せた。
「逃げるのか?」
「いえ。あなたの頭の頑固さにあきれただけです」
そういって勇者の一団は帰っていった。だが、遺跡からは動かないようだ。
「口だけは一人前だな」
導師の感想に僕は内心で同意した。
翌日も遺物の調査をしていた。だが、昼前に現場があわただしくなった。
大物が出てきたようだ。
見に行くと、人より大きい卵型の遺物だった。
発掘隊は全部を掘り起こさなかった。土の中に収まっていた。
理由は前に暴れた遺物と似ているようだ。
「これは危険です。今すぐ、逃げてください」
発掘隊の一人がいった。
この遺物は人型に変わるらしい。そして、無差別に魔術で攻撃するようだ。
「なら、何で、お前たちは逃げない?」
導師はきいた。
「私たちに帰る家はありません。なので、ここが家なのです」
導師は目を閉じた。
そして、目を開けると避難するように指示した。




