異世界とコイルガン05
今日は登城する日だった。王様に会わなければならないらしい。僕は下男という雑用係なので義務はない。それどころか、空気と同じ扱いだ。それにも関わらず、僕は導師に連れて行った。
導師を先頭にアナと僕が続いて歩く。普通の貴族なら馬車で登城する。しかし、導師は徒歩を選んだ。
城に入る門を目の前に、守衛さんに止められた。
「私の顔をお忘れかな?」
導師が守衛さんに作り笑いの顔を向けた。
「申し訳ありません。通例なので、お止めしました」
そういう守衛さんの顔はぎこちない。
僕は守衛が失敗したのか疑問に思った。
「そうか。なら、通っていいんだね?」
「はい。どうぞ」
守衛さんがへこへことあやまりながら道を空けた。
そのまま、石畳を通って城内に入る。
城は要塞であり、最後のかなめだ。街は守れなくても、城と中にいる要人を守り切れば復興できると考えているらしい。そのため、複雑な造りになっている。それを導師は迷いもなく歩いていく。僕は覚えられず、いつも導師の後を追うだけだった。
赤いじゅうたんの廊下を歩く。どこに続きているかはわかっている。王様に会うために来ているから、謁見の間である。
僕はキョロキョロするなと、過去にしかられたので、周りを観察せずに歩いた。
そして一つの部屋に入る。謁見の間につながる隣の隣の部屋である。僕とアナはここで待たされる。導師だけが謁見の間に入れた。
扉が開くと偉い人が導師を呼びに来た。導師は威厳ある足取りで扉の前に行く。守衛さんが扉を開けると中に入っていった。
前に、「王様って誰?」ってきいたら、アナに怒られた。そして、部屋の壁を指した。
そこには肖像画があった。ひげは長く鋭い目をしている。王冠は金色で大きく、色とりどりに光っているようだ。本物は宝石で埋められているらしい。とても威厳があって、すごそうな人だった。
導師はそんな人と何を話しているんだろう? 魔導士だから魔術の話だろうか?
わからないことばかりだった。
どれくらい待っただろうか。待ちくたびれた頃に、導師が僕たちがいる部屋に帰ってきた。
導師は足取りは重く疲れているようだった。
「城で休憩させてもらいますか?」
アナが導師にいった。
「いや、大丈夫だ。外の空気を吸えば治る」
アナは導師の脇に付き従いながら、来た道を帰っていった。
導師の家は門番がいる。公爵家であるため、一目で偉い人が住んでいるとわかる家だ。門番にあいさつしながら、門を通り家に入った。
導師はリビングのイスにドスンと腰を下ろした。
「まったく。嫌になる。ここ最近の研究が進んでないからって催促してきた。高度な問題になれば時間がかかるのはわかっているのに。せっつくとはよほど余裕がない」
「そうなんですか? 上は何を期待しているんです?」
そういいながら、アナが紅茶を出す。
「何でもいいんだ。外交問題を打破できるものなら」
「最近、うわさになってますね。お隣の国と関係が悪化しているって」
「ああ。本当のことだ。外交官の無能さを魔術で何とかしようとしている。無理な問題だ」
「確かに、無理な話ですね」
アナは苦笑いをしていた。
その後も導師のグチは続いた。アナは苦笑いと共に話を聞いていた。
前世の人格との統合はなくなった。催眠状態の前世の僕がいったらしい。今の僕が記憶を引き継いでいると。
それからは導師にしつこく尋ねられることが多かった。
「前世のお前は誰だったんだ?」
導師にきかれた。
「前世の人格で僕の一面であるらしいです。だから、あの僕も僕なんです」
「そうか、統合は危険だったようだね。すまないな。お前を精神的に壊すことになるかもしれなかった」
導師はいった。
「生きているから問題ないです」
「そういってもらえると助かる。こっちも追いつめられて、危ない橋を渡るところだった」
導師は申し訳なさそうな顔をしていた。
遅れていた研究は、僕の知識を教えることで進んだ。だが、世界の法則が違うゆえに利用できる知識も限られてしまった。
この世界は四隅に神獣が大地を支えていると考えられていた。地面平面説だった。そのため、重力の概念をいくら伝えても信じられない。
バカでかい球体の引力によって地面に足がついているとわからない。そればかりではない。魔術という存在がないのが信じられないようだった。
「魔術など、神様に与えられた力だろう。その男は神を信じていなかったのか?」
無神論など、導師は信じられないようだった。
理解できない会話を繰り返しながら研究は進んだ。だが、王の求める研究結果はなかった。
「ふーむ。どうだかな?」
導師は独り言を言いながら、部屋を歩き回っている。
「どうしたんですか?」
助手のアナは尋ねた。
「魔術を教えようか、迷っている」
「もっと魔術を扱えた方が、研究が進むと思いますよ。それに生活で使う魔術は使えているでしょう?」
「そっちではない。軍用の無詠唱での魔術だ」
アナは納得できたようだ。
「それは迷いますね。一歩間違えれば、危険な魔術ができる可能性がありますね」
「うむ。だが、このままでは、らちが明かない。しかし、危険性はある。進むべきか、引くべきか迷う」
「あのー。いつか僕が必要にならなくなった時のために、技術を身に着けておきたいのですが……」
導師が僕をにらんだ。
「そんなことを言うな! お前の前世だけで、お前を買った訳ではない!」
導師に一喝されて話は終わった。




