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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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異世界とコイルガン04

 僕はマールとの約束を守り魔術の修業を続けていた。もちろん、槍術の修行も続けている。

「勉強しているか?」

 父は魔術に一生懸命になるのに反対のようだ。

 読み書き計算を習えという。

 もちろん、母に習っているが、父は足りないといった。

 だが、母は順調と答える。

 父は仕事ができなくてストレスが溜まっているようだ。

 そんな父を見た母は仕事の再開を進めた。お腹は安定期に入り、僕のめんどうは見られるらしい。

 父は二、三日考えた結果、商売で街を出るといった。

 母は笑顔で父を見送った。

 だが、父の商売は失敗した。

 だまされたようだ。仕入れた品物はゴミくずで無価値だった。

 父は落ち込んでいた。だが、商売をする限り失敗はある。父は取り返すように借金をして、商売を成功させようとした。

 しかし、次の取り引きも失敗した。

 借金の取り立て屋は家にやってくる。毎日のように玄関を叩かれた。

 母は心労からか流産してしまった。

 不幸が重なった家には誰も近づかなかった。父の商売仲間は来ることもなかった。

「すまんが、売られてくれ」

 父は僕にいった。

 僕は話の内容がわからなかった。

「まだ、幼いのよ。奴隷どれいにしたくはない」

 母は父に反抗した。

 父は母のほほを殴った。

「他に道はないんだ。一人の子供でオレたち二人は救われる。それにやり直せばすぐに買い戻せる。お前だって奴隷にはなりたくないだろう? それにこの子なら無詠唱の魔術が使える。高く売れるんだ。わかってくれ」

 父は僕の前でそんなことをいった。

「まだ、幼い。売られても理解ができないだろう。だから、今のうちに売ればいい」

 父はたたみかけるかのようにいった。

「……少し考えさせて」

 母は寝室に引っ込んだ。

 翌日、母は冷たくなっていた。

 自殺したらしい。ベットの下に小瓶が転がっている。毒薬を飲んだようだ。

 母はただ寝ているだけにしか見えなかった。

 父は遺書を読む。

 母はお腹の子の流産と子供を奴隷にする罪悪感で死を選んだらしい。

「バカ者が」

 父は母をなじった。

 父は僕を見る。

 その目は人を見る目ではなかった。


 奴隷になってから二週間がたった。

 衣服はいつでも脱げるように簡素な服だった。だが、部屋は寒くないので一枚の服で過ごしていた。

 奴隷になっても日課になっている魔術と槍術の修行は続けていた。

 鎖につながれていても、やることはあった。より高く売られるために色々な技能を持っていた方がいいからだ。

 修行をするとご飯は普通に食べられた。理由は奴隷は見た目を重視しているかららしい。

 客が奴隷を選ぶ時は、まず見た目から入るからだ。そのため、魅力のないやせた体では困るらしい。

 僕はもう他人には期待できなくなった。愛されていたと思ったら、金の前では意味がなかった。金で買える愛情だったようだ。

 だから、これからは自分の身は自分で守ると決めた。しかし、希望はなかった。どんな客が僕を買うかで運命が変わるからだ。


「こやつが例の子か?」

 そういった女性は、おねえさんというか、前世でいうところのキャリアウーマンというのが当てはまっている。

 そのおねえさんの目は、おりの中で丸まっている僕の目を見ていた。

「はい。私の情報なら無詠唱の魔術を使えます」

 隣にいた若い女の人が答えた。

 こちらの女性は若くて家庭的に見えた。

「それで、肝心の方は?」

「おそらくとしかいえません。ですが、それを抜きにしても掘り出し物なのは確かです」

「無詠唱の魔術を習いたい貴族は多い。買っても損はしないな」

「はい」

 おねえさんは僕をジッと見ていた。

 ふと、おねえさんは笑った。

 僕にはその笑顔の意味は分からない。だが、暖かいものを感じた。

 そして、僕は奴隷として簡単に売れた。


 僕は奴隷として貴族に仕えることになった。

 下男という雑用係である。特に家の掃除など家事が多かった。

 僕を買ったのはザンドラ・フォン・ランプレヒトといった。貴族であり宮廷魔術師である。

 とても偉い人らしい。導師と呼ぶようにと命令された。

 そして、助手はジョージアナ・メレディス。通称でアナと呼ばれていた。

 二人は新しい魔術の研究をしている。そのための材料が僕らしい。

 導師は僕の前世が別世界だと思って買ったらしい。買った理由は別世界の技術を知るためのようだ。

 いつも、ソファーに横になって催眠状態にされる。

 僕は何を引き出したのか知らないのは、魔術で睡眠状態にされて起きていないからだろう。だから、導師が何を知ったのか、僕は知らない。


「もう、いいだろう。前世と対面してもらう」

 導師が意外なことをいった。

 僕は前世の記憶を引き継いでいる。会う必要などなかった。

「めんどくさいヤツでな。今のお前と統合すればちょうどいい」

 催眠状態の僕はめんどうくさいらしい。だが、僕にはわからない。

 導師はソファーに横になるようにいった。

 僕は指示に従って横になる。

 導師が何やら呪文を唱えている。目を閉じると暗闇に吸い込まれた。

 暗闇の中に一人の男が立っていた。

 男はおじさんのような見た目だった。

「よう。あのねえさんにたらしこまれて、お前と会ってはいない。純粋に興味からだ」

「あなたは、誰ですか?」

 男はあきれたような仕草をした後、仕方なさそうに口を開く。

「お前の前世だった時の人格だよ。人間の精神には多面性がある。その一つが表に出ているだけだ。僕とお前の根っこは一緒だ」

「そうなんだ。それで、僕と会って何するの?」

 男は意外そうな顔をする。

「あのねえさんに聞いていないのか?」

 僕はうなずいた。

 男はあきれたように、首を振った。

「精神が幼稚すぎる。そもそも統合なんてできない。ねえさんは無駄な期待をしていたようだな。その前に統合する必要さえないのにな。どこの方向から僕を見ているかの違いでしかないのに」

 男はあきれたようにいった。

「……前世の世界って、どんな世界?」

 僕は興味から尋ねた。

「ん? 知っているだろう。魔術がなく、科学で成り立っていた世界だったよ」

「そうだったね」

 僕は記憶を思い出して同意した。

「それが、わからないんだよな。あのおねえさんは」

「難しいの?」

「程度による。最先端の科学になれば、魔術のような出来事が起こる。だが、この世界の人間には理解ができない。なぜなら、この世界は、僕がいた世界の法則と違う法則で動いているから」

「そうだね。でも、魔術にできない?」

「……僕らしいな。まったく疑いがない。バカ、そのままだ。それが僕を……」

 男は黙った。

 そして、苦い顔をして顔をそむけた。

「どうしたの?」

 急な態度の変わり方が不思議だった。

「別に何でもない。……もう帰れ」

 男は嫌がるように背中を向けた。

「ごめんなさい。導師の指示で、また来なければならないと思う」

 しばしの沈黙が走った。

「……無駄だと伝えておけ。概念と法則が違うといえば、少しはわかるだろう」

「わかった。では、またね」

 僕の男の背中にいった。

 僕は頭上を見る。光があった。

 僕は意識して光を見ると、光の中に昇っていった。

 目を開くと、導師の顔が僕をのぞいていた。

「何かわかったか?」

 寝起きのように頭がぼうっとする。

「概念が違うっていわれました。そういえば、少しはわかると」

「そうか……」

 導師は難しい顔をして黙った。

「それと、法則も違うといわれました」

 僕はどこを見ているかわからない導師に、付け加えるようにいった。

「そうか、わかったよ。……今日の実験は終わりだ。夕食の準備を始めてくれ」

「はい」

 僕はベットから降りて床に立ち上がると、台所に向かった。

 台所に行くと、助手のアナが料理を作っていた。鍋をかき回している。野菜と肉の煮込み料理のようだ。

「今日の調子は?」

 アナがいつものようにいった。

「駄目みたい。導師は難しい顔をしてた」

「そうなの。なかなか上手くいかないわね。でも、大丈夫? 気分が悪いとかない?」

「特にないよ。統合するとかいってたけど、それもできなかったし」

「そう。もう、料理ができたから、導師を呼んできて」

「うん。わかった」

 僕は夕食の支度ができたのをいうべく、導師の部屋に向かった。

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