異世界とコイルガン03
マールの教えもあり、日々、魔術を覚えていった。
マールは水公級の魔術師だ。自然と水の魔術を集中的に教えてもらった。
他にも、近接戦闘用の槍術を練習する。
あくまで、離れて攻撃する。魔術師にとって近接戦闘は死を意味するようだ。
いつものように、マールの空間魔術で人気のいない岩場に転移した。
「今日は水龍を出してもらうよ。イメージはできている?」
マールの言葉に僕はうなずいた。
「水の化身たる水龍よ。その力、その身を顕現し我が前に立つ敵を葬れ。ドラゴンフォース《龍の顕現》」
僕が呪文を唱えると、足元から水が立ち昇り水龍の形になった。
「二小節でできたのは立派ね。早速、岩に攻撃して」
マールの指示で岩に水龍を向かわせた。
そして、水龍は口から水弾を放った。何十という水弾を放った。
岩は原形を留めていない。
「まずまずね。解除していいわよ」
マールの許しが出たので、水龍を消した。
「これなら、ブレイクブレット《破弾》の方が攻撃力があるわね。やっぱり、シオン君は変わっているわ」
ドラゴンフォースは公級の技である。上から二番目だ。しかし、ブレイクブレットは攻撃魔術として、最初に覚える基本中の基本の技である。
水であれば水の弾が飛んでいって、敵にぶつかると破裂する。地や火、風も同じである。
だが、基本中の基本であるため、魔術師なら誰でもできる。しかし、魔術に込める魔力量やイメージで、威力や弾数が飛躍的に変わった。
「やっぱり、無詠唱でブレイクブレット《破弾》を撃った方がいいわね。今日は何十発同時出現できるか計るわよ」
マールにいわれて、ブレイクブレットを周囲に出現させた。
水の弾は無数に体の周りに浮いている。
マールは大まかに数えている。
「あら、三桁に届いたようね。おめでとう。新記録よ」
マールは拍手する。
「威力の方は、どうかな?」
マールが一つの岩を指定する。
僕はその岩に全弾発射した。
水弾はとめどなく岩に当たり破裂した。
弾丸の雨が止むと岩はなくなっていた。
水龍よりも威力がある。これでは、上級の技の意味がない。
「そんなことないわよ。上級の技はちゃんとできている。でも、ブレイクブレット《破弾》の技が飛び抜けて高いだけよ。あれだけの数と威力。普通の魔術師ではできないわ。それに、無詠唱だから瞬時に発射できる。誇っていいわよ。でないと、私が泣くわ。同じ無詠唱でありながら、弟子に抜かれているんだから」
マールは泣いている仕草をみせる。
だが、僕は同情しない。マールが本気なら、もっと攻撃力のある魔術が使えるからだ。
「でも、大技なんてなかなか使えないのよね。害獣駆除だと集団行動でしょ。使ったら仲間に迷惑がかかる。でも、戦場という使える場所はあるけど、戦争をする気はないわ。死ぬのは傭兵ばかり。そして肝心の貴族まで届く時には、勝ったも同然で後衛の魔術師には何もすることがない」
「マールって戦争するの?」
僕はマールには戦争が似合わないと思った。
「それも傭兵の義務だからね。本当なら参加したくないんだけど、一度ギルドに入ると仕方ないのよ。……でも、君は他の可能性がある。傭兵にならない魔術師に成ればいい」
僕は想像できずに頭をひねった。
「作る側になればいいんだ。戦闘とは無縁の研究者や技術者。そういう仕事を選ぶといいよ。シオン君は戦いに向いている性格ではないからね。それに君の家は商家だ。魔術学院に通えるぐらいの資金はあるだろう。私を雇えるからね。でも、まずは十三歳にならないと。学院は最低でも十三歳からだからね。でも、その前に勉強することが多いね。読み書き計算はできないと将来は苦労するよ」
未だに五歳である僕には遠い話だ。
だが、勉強とは積み重ねだ。特に算数は一度つまずいたら、その後の計算方法が理解できない。この世界はファンタジーだが、現実は身近にあった。
世界が変われば計算も違う。救われたのは十進法で計算されることだ。
二進法や八進法が基準になっている種族もあるらしい。人族はどの国でも、お金の計算は十進法だった。
指の数が両手で十本だかららしい。魔族では両手で八本なので八進法のようだ。
「シオン。お前は商家の子だ。計算ができんと大成できんぞ」
父は勉強を中心に学んで欲しいようだ。
マールが来てから魔術の勉強ばかりで、母から勉強を習う時間は少なくなっていた。
「でも、魔術を使えれば、旅の途中で盗賊に会っても退治できるんでしょう?」
僕はきいた。
「盗賊をなめてはならない。十人以上の団体で襲ってくるのだから。だから、魔術で攻撃などしたら、荷物を奪われるどころか殺されてしまう。命が惜しかったら逃げるか、降参するしかないんだ」
父は真剣な顔でいった。
「でも、荷物を奪われるよ」
僕はいった。
「それでもいい。生きていればやり直せる。だから、魔術は自分が死にそうになった時に使いなさい。暴力に暴力で対抗しても損するだけだからだ」
父は自分自身に確認するかのようにいった。
商売は命懸けらしい。だが、街中での商売なら危険はないだろう。しかし、父はよく街を出て商売に走り回っていた。
今、家にいるのは母のお腹が大きいからだ。新しい子供が生まれる今だけは父は家にいた。
魔術の修業は順調に進んだ。いや、進み過ぎているようだ。
最初は魔術の基本を教えるためだけだったのだが、予定と違ったようだ。
「優秀なのはいい。だが、毎日の積み重ねをおろそかにしてはいけない。努力をやめた時、それは停滞するどころか後退してしまう。だから、才能に甘えないで欲しい。それは、肉体でも同じだ。体を鍛えるのをやめた時、筋肉は減るばかりか上手く体を動かせなくなる。もちろん、頭にもいえる。頭を使わないとすぐにサビるからね。だから、日課は毎日こなして欲しい。毎日をこなすのは苦痛を感じる。だけど、その辛さに慣れて欲しい。わかったかな?」
マールは優しく微笑んだ。
僕はうなずいた。
「うん。わかってくれたようだね。でも、君の歳では私を忘れるだろう。だから、後でわかるように本を置いていく。……まあ、本というには、私が書いたつたない指南書だ。後になって笑わないでくれ」
マールは小さな本を出した。
僕は両手で受け取った。
それは大切なものだからだ。
「うれしいよ。そんな顔でもらってくれるなんて」
マールは恥ずかしそうに笑った。
僕は空間魔術を使って僕専用の空間にマールの本を入れた。
「その歳で無詠唱の空間魔術師か。将来が怖いよ」
マールの苦笑いは続いていた。
マールも同じなので、僕にとっては普通であるが、世間一般では違うらしい。
「誰かとパーティーを組む時は魔術の名前はいった方がいい。無詠唱では誰が何の魔術を使ったかわからないからね」
僕はうなずいた。
「最後になるが、君にこれをあげる。これは水子級魔術師だと私の名で証明している。魔術師に会ったら見せると通じるだろう」
僕は紐が通った鉄でできた名刺のようなものもらった。
「これで、君は立派な魔術師だ。頑張ってね」
マールに頭をなでられた。
それはマールとの別れだった。
マールは傭兵だ。ヒマな時間は限られている。留まった期間は三か月だが、それでも長いらしい。
マールは両親に頭を下げると、空間からボードを取り出した。
それは浮遊するスケートボードだった。魔力を注ぐと浮遊して進む。新しい乗り物だった。
僕はマールに手を振った。
マールは微笑んで手を振り返し、ボードに乗ると街中に消えていった。




