遺跡と聖霊と勇者03
「シオン。遺跡の調査の件は覚えているか?」
夕食の席で導師はいった。
「はい。誘拐された時のですよね」
あの時は遺跡を調査する前に、睡眠薬入りのお菓子をもらってさらわれた。今でも、無防備だったと思いだす。
「ああ。その仕事がまた、回ってきた」
「……え? また、あの伯爵に会うのですか?」
僕は不快というより怖かった。
「それはない。その伯爵は爵位を取り上げれて、家族離散したと聞いている。堂々と、お前を誘拐したからな」
「それで、回ってきたんですか?」
「いや、後ろ盾の公爵が新しく伯爵を派遣したのだが、問題があったようだ。それが原因で後ろ盾の公爵が手放した。そして、王令で私が属する派閥に流れてきた」
「何の問題があったんですか?」
「遺跡は軍用施設だったようだ。それで、不意に自動式の兵器を起動して、大勢の人間が死んだようだ」
「それで、討伐ですか?」
「いや。勇者が現場にいて壊したようだ」
「勇者?」
僕には理解できない身分だ。前世のゲームの主人公でしかないと思っている。
「ああ。知らないか?」
「絵本で読んだと思いますけど、勇者は最後に死んでハッピーエンドで終わったのを覚えています」
母に読んでもらった絵本は、勇者と魔王が共に死んで平和になったという話だった。
「知っているか。なら、もう少し詳しく話そう。……勇者とはな、周期的に現れる人族のガンだ。人族と魔族が増えすぎた時に現れる間引き役といっていい。魔族が関係するように、魔族にも間引き役が現れる。魔族は勇者でなく魔王と呼んでいる」
導師はそこまでいうとワインを飲んだ。
不愉快な話のようだ。あおるようにワインを流し入れていた。
僕は静かに耳を傾けていた。
「勇者と魔王の共通点は強さが格段に違う。軍隊で追い返しはできるが殺すことはできない。それほど、規格外に強い。だから、どこの国も顔色をうかがいながらも嫌っている。なぜなら、戦争するのが最終目標だからな。勇者と魔王はそれぞれの種族の間引き役として戦争を起こすんだ。だから、人族と魔族との関係は悪いままなのだ」
前世の知識では勇者といえばあこがれるような存在だが、この異世界では迷惑な存在のようだ。前世のゲームなら魔族にやられている人族を救うのが勇者だからだ。
「で、問題なのは勇者がこの国にいる。それも貸しを作ってしまった。王はこれ以上は勇者に貸しを作りたくない。それは、この国が兵を出して魔族と戦争することになるからな。それほど、勇者は無視ができない存在なのだ」
「勇者って悪者なんですか? 魔族は戦争したがっているんですか?」
僕はきいた。
「勇者が悪者か? ……そう割り切れれば困らない。それより、魔族もバカではない。魔王をガンとして認識しているよ。それで、どうやって勇者と魔王を出会わせて潰し合いをさせるか、人族と魔族の間で議論されている。仲が悪くとも話し合いは続いているかならな」
どうやら、勇者と魔王は迷惑な存在のようだ。僕としては平和を壊すのはやめて欲しい。
「他の種族はどう思っているんですか?」
僕はきいた。
「高みの見物だ。手を出しても損でしかない。龍族でも手を出す気ないだろう」
身近である龍族は関係したくないようだ。
「それで遺跡の件と、何の関係があるんですか?」
「勇者は、まだ遺跡にいる。貸しを作りたいようだ」
導師の顔は不快そうだった。
「今は放置していいのでは?」
「ああ。そう進言したいのだが、前時代の軍事施設だ。何が起きるのかわからない。早々に調査して安全を確保したいんだ」
「……もしかして、貧乏くじを引きました?」
「認めたくないが、そうだ」
導師は顔をしかめていた。
「それで、いつ行くのですか?」
「三日後になる。それまで、荷物をそろえておいてくれ」
導師はため息のように息を吐きだした。
「カリーヌ様。勇者って、人族にとってどんな存在なんです?」
カリーヌの無詠唱魔術の練習と僕のダンスの練習に家に訪れていた。
そして、庭のテラス席で紅茶を飲みながらお菓子をつまんでいる。
「貴族にとっては敵でしかないわ。暴力を盾に金とか貴重品を奪っていくからね」
カリーヌは鼻息を荒くしていた。
勇者はここでも嫌われているようだ。
「突然、勇者の話が出たけど、何なの?」
遊びに来ているレティシアはいった。
「勇者が貸しを作ろうとしているんです。今度行く調査の遺跡にいるようです」
僕は答えた。
「えっ? 勇者が出たの? 嫌だわ。この国に関わらなければいいけど……」
「あれ? レティシアは知らなかったの? 今、この国にいるから貴族の皆は警戒しているわよ」
カリーヌはいった。
「それでお母様やお父様はピリピリしていたのね。嫌だわー」
「ランプレヒト公爵もピリピリしているの?」
カリーヌは僕にきいた。
「まあ、そうですね。今度、遺跡の調査で勇者と会わなければならないので」
「それは災難ね。同情するわ。でも、勇者と仲間には心を許してはダメよ。勇者は強いだけでなく魅力があるから。人族を戦争に向かわせる。それだけの求心力があるからね」
カリーヌの忠告に僕はうなずいた
普段、無防備な僕は勇者に会わない方がいいらしい。取り込まれる可能性が高そうだ。
僕は導師に頼んで状態異常を防ぐ魔道具を頼んだ。
導師はすでにいくつも用意していたようだ。話すと同時に渡された。
僕はその魔道具に魔力を流して調べた。すぐに魔道具を理解して魔術として出せるようになった。
僕はそれを身体向上の魔術と組み合わせて、常時発動しているようにした。
それでも、お守りとして魔道具は持っていくのだが。




