遺跡と聖霊と勇者02
使いの龍たちに運ばれて、正門にたどり着いた。
そこでは野次馬が殺到していたが、龍たちが降りると波のように引いていった。
そんな中、一人の男が衛兵を二人連れて歩いて来る。
宰相だ。
顔を見ると怒っている。また、置いてけぼりにされたのに怒っているようだ。
僕と導師は地面に降ろしてもらうと、龍たちに手を振って別れた。
「ランプレヒト公。何で待ってくれないんだ?」
宰相は本気で怒っているようだった。
「申し訳ありません。ですが、コールを飛ばした時の対応を考えると、席を外せないようでした。なので、龍族を待たせないように配慮しました。龍族にへそを曲げられては困りますから」
導師はすまなそうな顔をして答えた。
「……確かに仕事中で席を外せなかった。だが、待ってもらえないのか?」
宰相はまだ怒っていた。
「龍族の連絡は急です。それにシオンのところに届きます。いつ何時届くのかわからないのです。それから動くとなると待たせることになります」
導師はそういうが、本音は違うだろう。人族で僕が爆弾だと知っているのは、僕と導師だけである。もし、宰相に知られたら大問題になる。少なくとも僕は街にいられなくなる。なので、意図的に置いてきぼりにしているのだろう。
「そうか。なら、仕方ないか……。馬車に乗って城までの道中で説明してくれ」
宰相はだまされているという自覚はなさそうだった。
「はい。わかりました」
導師はいった。
その後は、馬車の中で話し合い、王へ報告する内容を決めた。
王は謁見の間で龍の牙を渡すと大いに喜ばれた。
僕は宰相との別れ際に声をかけられた。
「戦略級の攻撃魔道具を作ったら、君はどうするんだい?」
宰相に尋ねられた。
「もちろん、封印します。誰にも使えないように」
僕の答えは決まりきっていた。すでにある魔力の貯蔵は人体でできる。それは人間爆弾を作ることと同じだ。死ぬのが前提の人間を作る気はない。
「うん。その決心を破らないでくれ」
宰相は僕の心を知らずとも微笑んでくれた。
「やっと、見れたわ」
カリーヌの教師兼生徒として僕は訪れていた。
そして、練習前のお茶の時間でカリーヌは喜びに浸っていた。
龍を見られたのが嬉しいようだ。
「私は龍を見れなかったわ」
レティシアは反対に不満そうだ。
「正門に龍を見に行ったのですか?」
僕はテラス席独特の外の空気を感じ、紅茶を飲みながらきいた。
「ええ。やっぱり、大きくってたくましかったわ」
カリーヌは思い出しているようだ。
妄想というか記憶に浸っている。
「シオン。今度来たら私にコールを送りなさい」
レティシアは僕にいった。
「いつ来るかわからなんですよ。それに僕はコールを送っても、馬車より早く正門にいきますよ」
「それでもいいわ。帰ってきたところを見るから」
「それなら、コールを送る必要がないですよ。貴族なら龍族が来た時に警鐘が鳴るんですから」
僕は緊急事態の時にいらぬ仕事を増やしたくなかった。
何より、一秒でも早く動かなければならないからだ。僕と導師がすぐに行動するのは、宰相に実態を見せられないからだ。
「そうね。でも、何度も見逃しているのよ。いつもお稽古や勉強の最中。時間を選んで欲しいわ」
「その内、見れますよ。まだ、付き合いは続きますから」
僕は苦しいが笑ってみせた。
「でも、龍族が危険視する魔道具って、何なの?」
カリーヌにきかれた。
「魔力をためる道具です。本来、魔力は流れて留まるものではありません。それに反して留めると大きな爆発を起こすようです」
「ふーん。それをシオンが作るんだ?」
「まあ、龍族の未来予知ではそうなっています。ですが、まだ僕は魔道具を作れません。今、家庭教師から習っている最中ですから」
「そうなの? 龍族って意外とせっかちなのね」
レティシアはいった。
「龍族は長寿ですから、十年は短いみたいです。だから、すぐにできる感覚かと」
「なるほどねー。ところで、浮島って、どんなところなの?」
カリーヌにきかれた。
「浮遊石の結晶が草木みたいに生えているのが特徴ですね。その他は地上と変わらないかと」
「そうなんだ。でも、一度は行ってみたいわ」
カリーヌは目を輝かした。
「観光には行けませんよ。龍族と有翼族の縄張りですから。観光に来ていいかきいたら、断れましたし」
「そっか。なら、誰もいない浮島はないの?」
「それは聞いたことはありません。でも、あってもいいと思いますが、龍族に確認しないと危ないです。龍族でも攻撃的な龍はいますから」
「それなら、龍族は危ない魔道具を開発するシオンを消そうとしないの?」
レティシアがきいてきた。
「幼い龍ですが、いますよ。何回か、攻撃し合ってます」
「えっ?」
二人が驚いて硬直した。
「僕を消した方が早いといって攻撃されます。今のところ、返り討ちにできていますが……」
僕は思い出すとため息しか出ない。
僕は温かい紅茶を飲んでリラックスすることに意識を向けた。
「龍を相手にケンカができるの?」
カリーヌにきかれた。
「三十年ほどの幼い龍です。知力も力も幼いですよ。この前行った時に、やっと龍の攻撃であるブレスを習得したぐらいです。まあ、そのブレスで消されそうになりましたが」
「ブレスって、龍の咆哮といわれる攻撃よね。それって防げるの?」
レティシアにきかれた。
「ええ。長老に教えてもらいました。魔力を四大属性に同時変換するとブレスと同じことができます。それを使って盾を作って防ぎました。まあ、受け止め切れたので、ブレスで反撃しました。龍族の長老は笑っていましたよ」
「えっ?」
二人が驚いて、また硬直した。
二人の沈黙に紅茶から目を離して二人を見た。
「……ちょっと待ってね。ツッコみどころが多すぎて整理するわ。……まず、命の危険はあったのは、確か?」
カリーヌはいった。
「ええ。でも、長老は未来視で死なないと確信しているようなのです」
「うん。でも、他の龍は止めないの?」
「止めませんね。笑って見ています。じゃれ合っているように見えるみたいです」
「でも、今回は龍の咆哮で攻撃されたんでしょ?」
「ええ。そうですよ」
僕はカリーヌが何を気にしているのかわからなかった。
「それで、長老にブレスと防ぎ方を教えてもらった」
「はい。そうです」
「それで、すぐにできるような魔術なの?」
「しないと死んでいましたから、必死でしたよ。四大属性を同時変換するんですから」
「でも、シオンはできたのよね」
「ええ。できないと導師と一緒に消えています」
「でも、できたんだ」
「ええ。長老の未来視の通りらしいです」
「うん。そろそろ、シオンは自分のデタラメさに気が付いてもいいと思うんだ」
そういうカリーヌの声は低く怖かった。
「まず、龍の咆哮を使える龍族以外の種族はいないから」
カリーヌは確かめるようにいった。
「そうなんですか? 長老は簡単にいっていましたよ」
僕は答えた。
「四大属性に同時変換なんて人族ではできた人がいないから」
「そういえば、導師は四つは難しいといっていましたね。でも、二つなら簡単にできていましたよ」
「普通は無理。それにランプレヒト公爵は天才で通っているのよ。知らなかった?」
「そうなんですか? 初めて聞きました」
変わり者と聞いている理由は天才ゆえの偏りのようだ。
「その天才でも難しいのよ。シオンはデタラメよ」
「そういわれましても、できたものはできましたから……」
「それと外交よ」
カリーヌの声は強かった。怒ったといってもいい。
「幼くても龍なのよ。攻撃するなんて外交としては失敗よ。もっと、穏便にできない?」
カリーヌには僕が龍族との関わり方に不満があるらしい。
「あちらが、一方的に排除しようとするんです。それに長老はわざと自由にさせてますよ。僕が死なないのがわかっているようなので」
「でも、攻撃はいけないわ」
「そうですか? 長老には感謝されましたよ。痛い目にあって、こりただろうと」
カリーヌは少し考えてから口を開けた。
「……導師はどう思っているの?」
「わかりません。ですが、問題ないといっています。それに幼い龍が人族に復讐するとしたら、まだ力が足りません。少なくとも、もう五十年ほど必要かと」
カリーヌは頭が痛いのか唸った。そして、確かめるかのように口を開ける。
「シオンは龍を倒せると思っているの?」
「普通なら無理ですね。大人になった龍の防御膜を破れませんから。だから、敵にしないように振る舞っているつもりですよ」
カリーヌは息を吐いて、上がった腰をイスに下ろした。
「龍族には龍族の常識があるようね。人族とはズレているわ」
レティシアはいった。
「……そうね。龍族が人族を滅ぼしてもメリットはない。これはこれで正常な外交なのかな?」
カリーヌはレティシアにきいた。
「そうね。今まで問題がないから大丈夫と思いたいわ。王にいつもお土産を持たせてくれるようだし」
「龍の牙ね。あんな物、献上されたら文句はいえないわね。国宝になったそうよ」
僕は龍の牙は国宝になったのに驚いた。
しかし、国宝になるほど希少な物のようだ。使い道は色々ありそうだが、宝物庫に眠るようだ。
「でも、シオンが来てから退屈しないわね。他にトラブルを抱えていない?」
レティシアにジッと見られた。
僕は目線をそらすことで答えにした。
「まあ、それはそれで対処しましょう。だから、シオンは問題があったら、私たちに相談しなさい。ランプレヒト公爵にいえないこともあるでしょうから」
カリーヌはいった。
どうやら、二人は二人で僕の心配をしてくれているようだ。
「うん」
僕はありがたく二人の気持ちを受け取った。




