戦略級魔術師と養子03
僕は導師の下に帰された。今後の仕事は全て騎士がするらしい。
だが、僕の身内である父は逃げている。決着は自分の手でつけたかった。
「お帰り」
導師が玄関で迎えてくれた。
「ただいま帰りました」
僕は下を向いたままいった。
「……お前が気に病む必要はない。お前の父は道を踏み外した。それはお前のせいではない。だから、気に病むな」
導師は詳しく知っているようだ。
「でも、肉親です。何かできることがあるはずです」
僕は導師にいった。
「お前の歳はいくつだ?」
「もうすぐ、七歳になります」
「その歳で大人と同じことができると思っているのか?」
「……何かできるはずです」
「それは傲慢だな。前世の記憶があるからといって、大人と同じように考えるのは間違っている。今回、さらわれてよくわかったはずだ」
確かに導師のいう通りだ。魔術を使えても、まだ、幼い体だ。大人と競い合っても勝てるはずがなかった。
「お前はお前のできることをすればいい。お前は背伸びをし過ぎだ」
「でも……」
導師は近寄って僕の頭をなでた。
「今は私に頼れ。親代わりでもあるんだ。それに、お前には笑っていて欲しい。だから、何でも抱え込むな」
「……はい」
僕のほほに冷たいものが流れるのを感じた。
一つの子爵の家が潰れるようだ。
朝の食事の席で導師は語った。
僕をさらった盗賊たちは、逃げて背後にいた貴族の下に行ったようだ。
そこを騎士団に乗り込まれたらしい。
そして、大捕り物になったようだ。
「父はどうなりました?」
僕は導師にきいた。
「捕まえた。……だが、生きていない。抵抗して死んだようだ」
「本当なんですか?」
「ああ。私の情報ではな」
父が死んだ。僕にはそれをどう受け止めたらいいかわからない。僕は売られ、またさらわれて売られる。そんなことをした父を恨んではいない。父は生きるために金が必要だった。しかし、僕を犠牲にするやり方は人とは思えない。だから、もう父とは思っていない。だが、心に引っかかる。父には生きていて欲しかった。なぜ、そう思うのかわからない。だが、その感情は本物だった。
「泣くな。お前の責任ではない。お前の父であった男の生き方の結果だ。責任は男にある」
「……はい」
僕は涙を拭くことしかできなかった。
僕は部屋で何もせずにうずくまっていた。
何もやる気が起きない。ただ、頭の中では父の荒んだ顔だけが浮かんでいた。
ドダドダと音がする。家の中はあわただしくなったようだ。
部屋を出てホールに向かう。だが、ホールには顔を出さずに隠れていた。
「やあ。借りを作りに来たよ」
その声はジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵の声だった。
「堂々というな。少しは隠せ」
導師のあきれた声が聞こえた。
「君に借りを作れる機会なんてなかなかないからね。嬉しくてね」
ジスランの声は本当に嬉しそうだった。
「それより、家に来る必要はないだろう。コールで足りる」
「ダメだよ。シオン君は傷ついている。なぐさめてあげないと」
「ああ。わかっている」
「でも、君は困っている。だから、私たちを家に上げた」
導師の返答は聞こえなかった。
「娘に任せて。遊んでいれば少しは気がまぎれるはずだよ」
「では、失礼してよろしいですか?」
カリーヌの声が聞こえた。
「ノーラ。案内しておくれ。お茶はその後でいい」
導師はノーラに命令した。
ノーラはカリーヌを連れて二階に上がってきた。
僕はあわてて部屋に帰るとベットにもぐりこんだ。
こんな時、どうすればいいかわからないからだ。
ドアがノックされた。
「カリーヌ様がお越しになりました」
ノーラはメイドらしく敬語を使った。だが、僕は返事をしていいか考える。しかし、答えは出ない。
「勝手に入りますよ」
ノーラらしくいつものように勝手に部屋に入ってきた。
「お邪魔するわ」
ノーラの声が聞こえた。
僕は布団から顔を少し出して二人を見た。
「ダメですよ。来客なんですから迎えに出ないと」
ノーラに怒られた。
「別に気にしていないわ。それより、お茶の用意をしてくれないかしら?」
「はい。わかりました」
ノーラは退室した。
「こんにちは。……いや、午前中だからおはようでいいのかしら。でも、どちらでもいいわね。そっちに行っていい?」
カリーヌは近づいてベットの上に座った。
「話は聞いたわ。誘拐されたって。でも、盗賊団は壊滅したから、もう安心よ」
カリーヌは父の話を知らないらしい。
「近々に処刑が行われるわ。それを見に行きましょう?」
父は死んでいる。だから、仲間の公開処刑だろう。だが、人が死ぬところを見るのは怖かった。
「怖いから、嫌です」
僕は何とか言葉に出した。
「処刑が? 皆、見に来るわよ?」
「僕は嫌です」
「お父様がいっていたように繊細なんだ」
カリーヌの手が僕に伸びてきた。
そして、布団越しに頭をなでられた。
「昨夜に逃した盗賊も騎士団は捕まえているわ。だから、三日もすれば、安心して私の家にも来れるわ。それまで、ガマンして」
布団越しになでられるカリーヌの手は優しかった。
「ごめんなさい」
「誘拐されたんだから、仕方ないわよ。よければ、家の衛兵に頼んで護衛をしてもらうわ」
僕は誘拐されたことより、父の死が心に引っかかっていた。しかし、それに触れないカリーヌの言葉はありがたかった。
カリーヌの手は僕の頭をなでる。それは、ノーラがお茶を持ってくるまで続いた。
ドアが勢いよく開いた。
「やあ。元気になったかい」
カリーヌの父であるジスランは無駄に元気だった。
「お父様。邪魔しないで」
カリーヌの対応は冷たかった。
なぜなら、トランプのゲームで負けているからだ。
「何だい? それは?」
ジスランはめげずにきいた。
「トランプというの。カードゲームよ。タロットやカルタと似たようなものなの」
「ん? タロットと違うのかい?」
「ええ。数字とマークで表していて、タロットより簡単なの」
「初めて見るね。最近の流行りかい?」
「違うわ。シオンがタロットが複雑だからゲーム用に簡略化したらしいわ」
ジスランはカードを見て考えている。
「これは売れるかな? タロットと差別化できて、おもちゃとして売れるかもしれない」
「それなら、シオンに遊び方をきくといいわ。遊び方は色々あるらしいから」
「そうなのかい?」
「はい。何種類か知っています。もちろん、博打にも使えます」
僕は答えた。
「教えてくれないかね?」
ジスランに頼まれて、バカラとブラックジャックとポーカーを教えた。
「これが博打用なんだ。どれも客の勝率が高いね」
「はい。五割に近いかと。でも、それでも親が有利です」
「ふむ。それなら、損はしないか……。わかった。遊び方の権利を売ってくれないか?」
「それって売れるんですか?」
僕はきき返した。
「カードはすでに何種類もあって売れるのかわからない。だが、遊び方をセットで売れば売れるかもしれない。だから、権利を売って欲しい」
「それは導師にきかないとならないです。僕が作ったものは導師の許可がないと」
「それなら、許可をもらうだけだ。ちょっと、きいてくる。待っててくれ」
ジスランは風のように部屋を出ていった。
カリーヌは僕の手元からカードを引き抜く。見事にジョーカーだった。
カリーヌはババ抜きは弱いらしい。
その後は導師と入れて四人でカードゲームで遊んだ。
ノーラはメイドらしく側に控えていた。だが、ノーラもやりたそうな目をしていた。僕は心の中でガマンして欲しいと願っていた。




