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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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28/37

戦略級魔術師と養子02

 夕食の席で導師にジスラン宅であった話をした。

「まあ、あいつの武器は情報だ。だから、自然とそういう教育になる。マネするなよ」

 導師は簡潔に話を終わらせた。

「カリーヌ様のお願いはきいてもらえないんですか?」

 僕はきいた。

「無理だ。あいつの家が存続できる理由だからだ。だから、子供の頼みはきけないな」

「そうですか……」

「お前が気に病む必要はない。それに貴族をやっていればわかる。情報の大切さが」

「はい……」

 僕は沈黙した。

「……それより、貴族らしい公爵家を見た感想は?」

 導師はにやけていた。

 僕の感想が楽しみみたいだ。

「お茶の時間が多いですね。でも、くつろいでいるようで、バタバタしている感じがします」

「まあ、あの家の子は若いからな。元気だからだろう。だが、お茶が多いのは貴族らしいぞ。貴族は基本的にヒマを持て余しているからな」

「そうなのですか? 導師はいつも忙しそうですけど違いは何なのですか?」

「私はヒマな時間を研究に割いている。おしゃべりに使わないだけだよ。一生は短い。だから、趣味に打ち込んでいるのさ。お前は魔術を習って何をするつもりなんだ?」

 導師は僕をそういうふうに見ているようだ。

「まだ、わかりません」

「そうか? お前には目的がある。それは前世の男が持っていた願望だ。知らないとはいわせないぞ」

「あの人にきいたんですか?」

「きいたが、答えてくれなかった。だが、何かをしたかったのはわかる。それと成就はできなかったようだ」

「……今はいいたくありません」

 神様になりたいなどいえるわけがなかった。

 導師はクスリと笑う。

「……まあ、いい。気が向いたら教えてくれ」

 導師は簡単に引き下がった。


 午前中は魔術の本を読んで過ごす。そして、昼食を食べるとカリーヌの下に行って魔術を教える。午後三時になると城に行ってアドフルに槍の稽古をつけてもらう。

 そのサイクルが日常になった。

 だが、その日は城から帰る道の雰囲気が違った。

 夕陽の落ちるオレンジ色の光に黒い影が見えた。その影は僕に鋭い視線を投げていた。

 僕はいつでも魔術を展開できるようにして歩いた。

 ふと、背後に気配を感じた。

 振り返ると大きな男が立っていた。

「なんだ。ガキはガキか」

 男はあきれたようにいうと、僕の腹をすくうように殴りに来た。

 僕は両腕で防御する。だが、拳の威力は殺しきれなかった。

 体が宙に浮いた。

 男は大柄なのに動きは速い。男は僕の横に体を動かす。

 僕は宙に浮いたままだ。体を動かすことはできない。その代わり、ブレイクブレットの魔術を展開した。

 僕の後頭部に痛みが走った。それと共に目の前が闇に染まった。


 騒がしい音に僕は目を開けた。

 前にある扉は薄く開いている。その隙間から男たちの騒ぐ声が聞こえた。

 僕はことのいきさつを思い出す。

 道を歩いていたら男に襲われた。そして、気絶させられた。そこまでは思い出せる。だが、汚い部屋にたどり着いた記憶はない。

 手足を動かそうとしたが鉄の鎖で縛られていた。

 どうやら、誘拐されたようだ。だが、僕を誘拐する目的がわからなかった。

「本当に公爵が金を出すと思うか?」

 男の声が聞こえた。

「こいつを買うのに大金を払っている。今回も払う」

 聞き知った男の声が聞こえた。

 扉の隙間から男たちのを見る。五人ほど男が見えた。

 その男の中に父がいた。身なりは変わらないが、表情はやさぐれていた。

「まあ、金を出さなくても隣国で奴隷として売ればいい。無詠唱の魔術師だ。きっと、大金になる」

 父はそういってにやりと笑った。

 久しぶりに見る父は変わっていた。母が生きていたら、きっと泣いていただろう。それほど、父は変わってしまった。

「おい。ガキが起きたようだぞ。顔を見にいかないのか?」

 男がはやし立てた。

「必要ない」

 父は僕をちらりと見て顔を背けた。そして、ワインらしき酒をあおった。

 もう、父とは道を違えたようだ。もう、親子に戻ることはない。だが、それは奴隷として売られた時にわかっていたはずだった。

 

 ドゴンと音が鳴った。何かが破裂したようだ。

 男たちはあわてて武器を掴んだ。

 全身装甲の何者かが入ってきた。

 僕は火の弾を出して高温にした。そして、それで鎖を焼き切った。だが、両手は自由にならなかった。

 父が僕がいる部屋に入ってきた。

 僕はクラッシュ《粉砕》の魔術で横の壁に穴を開けた。そして、そこに飛び込んだ。

 そこは裏路地だった。

 人が二人いる。片方は騎士のようなかっこうをしている。そして、反対側は盗賊みたいだった。

 僕は盗賊らしき男にブレイクブレットの魔術を放った。間違えた時の保険として威力は弱い。だが、盗賊らしき男は倒れた。

「坊主。大丈夫か?」

 騎士らしき男の声に覚えがあった。

 アドフルとの槍の稽古に参加したヒマな騎士だった。

「はい。ケガはありません」

 僕は答えた

「今、鎖を解く」

 騎士は僕の鎖に手をかけた。

「チッ」

 舌打ちが聞こえた。

 穴から顔を出していたのは父だった。だが、すぐに顔は隠れた。

 騎士は鎖を解けないみたいだ。あきらめて僕を担いだ。そして、裏路地から逃げるように走った。


「隊長。目標を保護しました」

 僕を担いだ騎士はいった。

「ご苦労。ここで待て」

 隊長であるアドフルはいった。

「裏路地の囲いが薄くなりますが、いいのですか?」

 騎士は僕を下ろしながらいった。

「今は保護が目的だ。掃除が目的ではない」

 アドフルは答えた。

「わかりました」

 騎士は答えた。

「ありがとうございます」

 僕はアドフルに頭を下げた。

「礼はいらない。今回の行動は予定した仕事である」

「それって、僕が誘拐されるのがわかっていたのですか?」

 僕は驚きながらもきいた。

「もちろん。いつも屋敷の行き帰りに尾行を付けていた。ヤツらが動くのを見越してな」

「それって、父が動くとわかっていたんですか?」

「団長は確信していた。だから、エサとなってもらった。すまないな」

「いえ。家庭のことは自分でケリを付けないとならないことです。他人の手をわずらわせるのは間違っています」

「……それは間違っている。オレたちは仕事をしているに過ぎない。お前の家庭の話に興味はない。だから、気にするな。それにオレたちを信用して欲しいぞ。盗賊ぐらい壊滅してみせる」

 アドフルは頼もしかった。

「……はい。申し訳ありません」

 僕のできることは謝ることしかなかった。

「それより、鎖を解いてもらえ。窮屈きゅうくつだろう」

 僕は騎士に腕の鎖を解いてもらった。

 しばらくして、鎧を着た騎士が駆けて来た。

「隊長。三人は捕まえました。ですが、四人ほど逃げられました」

「それなら、構わない。追いつめるのはこれからだ。ヤツらは必ずヤツの下に向かう。その時が本番だ」

 アドフルの眠れない夜は続くようだった。

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