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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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27/34

戦略級魔術師と養子01

 カリーヌと共に庭のテラス席でお茶をしていると、屋敷が騒がしくなった。

 そして、甲冑を着た二人が現れた。

 身長は僕より高いが、大人としては小さかった。

「やい。カリーヌをたぶらかしているそうだな」

 声からして男だった。

 甲冑の男が僕に何かを投げた。

 僕は反射的にそれを手で払った。

「貴族の決闘を払うとは何ごとだ?」

 甲冑の男はいった。

 僕は払った物を見る。それは手袋だった。

 騎士の決闘では手袋を相手に投げるという習慣がある。僕は決闘を申し込まれたということだ。

「お兄様。やめてください。私の家庭教師です」

 カリーヌはいった。

「カリーヌ。この歳で家庭教師はできない。それはわかるだろう?」

「シオンは別です」

「無詠唱を使えるから調子に乗っているときいている。貴族として見捨てておけん」

 甲冑の男の一人は剣を抜いた。

 僕は空間から杖を取り出す。導師からもらった。宝石も付いていない無骨な金属の棒である。だが、ノクラヒロという精神感応金属であり普通の杖より魔力を増幅した。

「ふん。貧乏貴族にはお似合いな武器だな。だが、手加減はする気はない。かかってこい」

 剣を抜いた甲冑の男はいった。

 相手は僕の杖の価値をわかっていない。物を見る目は低いようだ。

「ブレイクブレット」

 僕は水の弾を百ほど展開した。そのため、威力は低い。だが、相手はカリーヌの兄のようだ。公爵の跡継ぎでもある。だから、傷つけるわけにはいかなかった。

「ちょっといいかな?」

 親であるジスランの声が聞こえた。

「父上。これは私たちの問題です。手を出さないでください」

 剣を抜いていない甲冑の男はいった。

「もちろん、手は出さないよ。でも、確認しておきたくって。手袋を投げつけたということは決闘だ。それは命を賭けたということ。それは、自分が死んでも構わないと宣言したことになる。死ぬ覚悟はあるの?」

 ジスランの声は厳しいものだった。

「も、もちろんです」

 剣を抜いた甲冑の男はいった。

「なら、私は何もいわない。たとえ、息子が殺されてもね。だから、シオン君。殺しても構わないよ」

 ジスランは微笑んでいた。

 僕の周りの貴族は厳しい人が多いようだ。

「おらー」

 もう一人も剣を抜いた。そして、襲いかかってきた。

 僕は弾を二人に飛ばした。

 二人には防御膜はなかった。二人とも防御は甲冑に任せているようだった。

 弾が当たるたびに甲冑はへこんでいった。そして、中の人にもダメージが届くようになった。二人は次々に襲いかかる弾に腰が砕けてひざをついた。だが、弾は残っている。

 僕は構わず弾を放った。すると、二人は地に伏した。弾は二人の体を叩く。叩かれた金属音と共に唸る声が聞こえるが、全弾放つ前に静かになった。

「うん。シオン君。よくやった」

 なぜか倒された息子たちの親であるジスランにほめられた。

 ジスランは手を叩く。

 すると、執事が出てきた。

「この子たちの治療をお願い」

「はい」

 執事は返事をすると、他のお手伝いと共に二人を運んでいった。

「シオン君。ごめんねー。息子たちがちょっと調子に乗っていたからお仕置きしたかったんだ。だから、ウソの情報を流したんだ。そうしたら、簡単に釣れてね。おかげで、私が手を出さなくてもすんだ。でも、親としては偽の情報に踊らされるのはいただけない。まだまだ、教育が必要みたいだ」

 僕はジスランを敵に回すのは怖いと感じた。

 情報一つで人を振り回せる。それは、相手の情報を集めて性格などをよく理解しているということだ。そして、理解しているから言葉で誘導できる。手広い情報収集能力と、それを上手く扱う頭脳。普通ではない。

 同じ貴族である導師でさえ、ここまで怖くはない。いや、導師の方が優しい。

 僕は震えを隠した。

「お兄様たちは平気なの?」

 カリーヌは父親にきいた。

「大丈夫だよ。シオン君が上手く手加減をした。打撲程度のケガだよ」

 ジスランはいった。

「でも、ケガをしたの?」

「決闘を申し込んだんだ。本当なら殺されても文句はいえない。生きているだけでありがたいのさ。それに、二対一。反則だよ」

「そう。……お父様はお兄様を怒るの?」

「当然。貴族としてあるまじき行為だからね。何よりも、偽の情報に踊らされた。これでは跡継ぎとはいえない。教育が必要なんだ」

 僕は本当に殺した時の話がきいてみたかった。しかし、それをいうのは危険と感じた。ジスランの口調は軽いが本心では怒っているようだからだ。

「では、邪魔をしたね。カリーヌ。シオン君を攻めてはダメだよ。悪いのは、私と息子たちなんだから」

 そういってジスランは去っていった。

 ジスランは悪いことをした自覚はあったようだ。


「ごめんなさい」

 カリーヌにいわれた。

「お父様がいっていたように、ウソに踊らされただけですよ。ちょっとした勘違いだと思います」

「でも、お父様がウソをついた」

「うん。僕は上手く使われただけですね。でも、気にしてないですよ。……ですから、反対にそれだけ信頼しているとも考えられます。僕が手加減するのを見越していたと思いますから」

「……うん」

 カリーヌは落ち込んでいる。

「もしかして、よくあることなんですか?」

「……お父様がウソをいって、お兄様たちを振り回すの。でも、それも教育といっているわ」

 ジスランのウソは日常らしい。だが、貴族社会で生き残るための知恵だろう。変なうわさで下手を打たないために。

「カリーヌ様もウソをつかれるの?」

「……私にはないわ。でも、いつもお兄様たちが振り回されるの。その度に怒られるの。お父様がついたウソなのに」

「それは情報というものを大切にしているからだと思いますよ。他人のウソに騙されないように」

「でも、家族でウソのいい合いはしたくはないの」

「……はい、そうですね。……それはお父様にいいましたか?」

「……うん。何度もいっているんだけど、聞いてくれなくって」

 ジスランは教育方針を曲げないようだ。

 僕のような子供の意見は通らないだろう。だから、僕はカリーヌの言葉を聞くしかなかった。

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