表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/34

龍と人間爆弾10

 珍しく槍の修業を導師にいわれて休みにした。

 その代わり、貴族の屋敷に遊びに行くことになった。

 導師と共に馬車に揺られて導師の友達の屋敷に行く。

 馬車の中では導師に注意された。

 前世の話をするなということだ。

 それは重々承知している。前世の話をしても理解されない。それは導師を相手をしても同じだ。だから、前世の話はしない。

 馬車が屋敷に着くと、門番が御者に話しかけた。

 何やら話し声が聞こえたが、すぐに門が開いた。馬車は門の中に入った。そして、庭の道を回って屋敷の前に着けた。

 導師はすぐには降りなかった。誰かが扉を開けてくれるのを待っているようだった。

「失礼します」

 女の人の声が聞こえて扉が開けられた。

 扉の下には踏み台があった。導師はそれを使って降りた。

 僕も同じように降りた。

「ようこそお出でくださいました。私はここの執事です。よろしくお願いします」

 執事らしい白髪のおじさんが頭を下げた。

「世話になる」

 導師は簡単に答えた。

 執事の先導で館の入り口に向かい玄関の中に入った。

 玄関では屋敷の主に出迎えられた。

 叙任式の祝宴で会った男だ。

 名前はジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵である。妻の名はロズリーヌであり、娘はカリーヌといった。

「ようこそ」

 館の主人であるジスランに招かれて奥へと進んだ。

 今は兄である双子はいないらしい。貴族のたしなみで剣を習いに行っているようだった。

 客間に通されて、ソファーに座る。

 導師は主人と妻と談笑をしている。しかし、娘のカリーヌは僕を険しい顔で見ていた。

「カリーヌ。シオン君と遊んでおいで」

 ジスランはいった。

「わかりました。お父様」

 カリーヌは答えた。

「行っておいで」

 僕も導師にうながされて席を立った。

「こっちよ」

 カリーヌに案内されて屋敷の廊下を歩く。そして、中庭に出た。

「あなたって、魔術が得意と聞いたわ。本当?」

 カリーヌの態度には何かトゲがあった。

 何か不満らしい。

「ええ。武術よりも魔術の方が得意です」

「なら、私がどれくらいできるか見てあげるわ」

 カリーヌは得意げにほほ笑んだ。

 カリーヌは僕より背が高い。しかし、何年も離れていないようだ。手を伸ばせば頭をなでられる。

 そんな歳で使う魔法は初級ぐらいと推測した。

「では、ブレイクブレットでいいですか?」

「ん? 初級中の初級ね。でも、見てあげる」

「では」

 僕は無言で魔法を展開する。

 以前、無詠唱の魔術の教えて欲しいといわれたのを思い出したからだ。

 水の弾を三十ほど展開した。

 カリーヌは驚いていた。

 少し待ったが言葉は出てこなかった。

 カリーヌは我に返ると中庭から家の中に駆けていった。

 魔術を解いてカリーヌの反応を考える。

 驚いたのはわかった。しかし、逃げるようなことではない。弾はカリーヌに向けていない。だから、逃げられる理由はないはずだった。

 しばらく、中庭にいるとカリーヌは執事を連れて来た。

「あなた、また魔術を見せて」

 カリーヌはいった。

 今度は執事に見せたいらしい。

 僕は魔法を無詠唱で展開した。

 三十ほどの水の弾を見た執事は感心していた。

「これは見事ですね。闘技場で魔獣と戦って勝った理由がわかります」

 執事はいった。

「闘技場って、何の話?」

 カリーヌは執事に質問した。

「シオン様は士爵になる前に闘技場で魔獣と戦っています。その時、無詠唱の魔術で魔獣を倒したのです」

「本当?」

「はい。ご主人は観戦していましたので、確かかと」

「ちょっと待ってなさい」

 カリーヌはあわただし気に家の中に入っていった。

「申し訳ありませんが、お待ち願いませんか?」

 執事は僕にいった。

「かまいませんけど、お嬢様はどこに行ったのですか?」

「主人のもとかと思います。お嬢様には信じられないことなので」

 執事がいうにはカリーヌの常識内ではないらしい。僕が無詠唱で複数の弾を出したのは普通ではなかったようだ。

 マールは中級の魔術なら無詠唱でできた。だから、無詠唱とは当然の技術のはずだ。もちろん、導師も無詠唱の魔術を使っていた。

 カリーヌは父であるジスランを引き連れてやって来た。

 ジスランは笑っていた。

 娘の反応がおかしいのかもしれない。

「また、ブレイクブレットの魔術を見せて」

 カリーヌはいった。

「それなら、この子は水子級魔術師だ。もっと強い魔術が使えるよ」

 ジスランはいった。

 どこで知ったのかわからない。だが、貴族の情報網は広いのはわかった。

「そうなの?」

 カリーヌにきかれた。

「ええ。水子級魔術師ですので」

「なら、見せて」

「ドラゴンフォース」

 僕は水龍を出した。

 水でできた龍がそびえ立っている。中庭は狭くなった。

「驚いたね。この魔術も無詠唱か。私の情報は古いみたいだ」

 ジスランは驚いていた。

「お父様。無詠唱でドラゴンフォースを出せるのは普通なの?」

 カリーヌはジスランにきいた。

「私が知る範囲では少ないね。召し抱えている公爵は少ないだろう。貴重な人材だよ」

「なら、私の家に召し上げてよ」

「残念ながら、ランプレヒト公爵から引き抜けないよ。彼女とは仲良くしたいから」

「なら、家庭教師は?」

「うん? やる気になったのかい?」

「ええ。魔術師なんて口ばかりで、実際の力はないんだもの。でも、この子は本物よ。習うなら、このような魔術師がいいわ」

「でも、彼の身分は低いよ。それでもいいの?」

「ええ。構わないわ」

 親子で勝手に話が進んでいる。

「それでしたら、僕の師を教えますよ?」

 僕はいった。

 このままでは家庭教師をやらされるからだ。

「いや、身元が確かな人に頼みたい。君の師である傭兵たちには悪いけど安心できないからね」

 ジスランの情報網が怖くなった。

 二人の師はジスランのいった通り傭兵だった。ジスランはそれを知っている。下男の子供の情報まで、調べ上げているのは普通ではない。

「それより、いつまで水龍を出しているんだい? 体がだるくならないのかい?」

 ジスランにいわれて、ドラゴンフォースを解いた。

「どうやら、魔力量も規格外のようだ。改めて感嘆するよ」

 ジスランは笑っていた。

「お父様。私も無詠唱を使いたい」

 カリーヌはいった。

「そうだね。それには魔術の基本を習い直さなければならない。それでも、いいのかい?」

「はい」

 カリーヌは興奮しながらうなずいた。


 後日、正式にカリーヌの魔術の家庭教師になった。

 これで、午後は家庭教師と槍の修業で埋められた。そのため、魔術の研究の時間が少なくなった。本来なら、魔道具の術式を覚えたかった。

「貴族のたしなみと思いな。貴族同士の付き合いをおろそかにするんではないよ」

 導師はそんなことをいった。

 導師の方が貴族の付き合いを軽んじている気がする。だが、それは言葉になることはなかった。


「ねえねえ。術士になりたかったの?」

 庭のテラスの席でカリーヌにきかれた。

「いえ、傭兵になるだろうと漠然ばくぜんと思っていました」

 僕は答えた。

 僕は紅茶を飲んで、クッキーをかじった。

「そうなの? あれだけ、魔術が使えるのに?」

「元々、僕に魔術を教えてくれたのは傭兵をしている人です。だから、傭兵になると思っていました」

「貴族より、傭兵の方が強いの?」

「さあ? ただ、魔術の師は優秀でした。無詠唱で魔術を使うのは当たり前みたいでしたから」

「へー。だから、シオンも使えるのね」

「ええ。そうだと思います。カリーヌ様の魔術の師は無詠唱を使わないんですか?」

「そうなのよ。そればかりか、呪文を正しく覚えろとうるさいのよ。無詠唱があるのを知っているから、そんな努力は無駄とわかるのに」

「それで、無詠唱にこだわっていたんですか?」

「ええ。だから、シオンが来てうれしくなったの。私の考えは間違っていなかったと」

 カリーヌはカリーヌらしい苦労をしていたようだ。

 だが、練習が始まるまでは長い。

 なぜか、お茶を飲んでくつろぐ時間をもうけないと、やる気にならないらしい。

 やる気になると集中力は高いのだが、それまでの時間が長かった。

 僕は貴族のたしなみと思ってガマンした。


 カリーヌの魔術の練習を終えると、城の詰め所に行った。

「最近、貴族の魔術の先生をしているときいている。槍術はやめたのか?」

 アドフルにきかれた。

 アドフルの顔は怖かった。

「導師の付き合いの延長です。断れなかったんです」

「まあ、相手は公爵だ。そんな時もあるだろう。だが、練習の時間が短くする気はない。わかっているな?」

 どこでこんな情報が漏れたのだろう? 公爵の家庭の事情が騎士にもれていいのか考えものだ。

「相手の公爵にも許可は頂いています」

 僕は答えた。

「なら、いい」

 いつものように徹底的にしごかれる毎日は続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ