龍と人間爆弾05
待機室から出て正門をくぐった。
そこには龍がいた。西洋の龍が三頭も並んで立っている。
どっしりした足に細い腕。背後には羽が生えている。そして、首は長く、顔はカッコよかった。
東洋の龍でなく西洋の龍。ワイバーンとは違って魔獣ではない。それに、意志ある目で見られた。
『その者が例の者か』
先頭に立つ龍の言葉が頭に流れた。
コールという魔術だ。遠く離れた人に連絡する魔術である。
宰相は返事を返しているようだ。
龍はうなずいていた。
『わかった。では、運ぶのでこちらに来い』
龍は前かがみになった。
導師が宰相を抜いて龍の前に立った。
僕も続いて龍の前に行った。
龍は導師と僕を手で包むようにつかんだ。
龍の手には空きがない。だから、宰相は他の龍が連れて行くみたいだ。
宰相が龍の手に包まれると龍は飛んだ。
大きな翼で羽ばたいている。しかし、翼だけで飛べるほど龍の胴体は重そうだった。
おそらく、無意識に魔術を使っていると思った。
浮島にはすぐに着いた。
それだけ、龍の飛ぶ速度は速いということだ。
浮島の地面に立たせられた。
ここでは普通に立つことができるらしい。
浮島がどういう原理で浮いているか疑問に思った。だが、それを解消してくれる人はいないと感じた。
導師は興味深げに周囲を見ている。導師らしく知的欲求を刺激するものばかりのようだ。
「行くぞ」
宰相は龍が歩くのを見て、僕たちをうながした。
導師は我に返って宰相の後に続いた。
僕も遅れないように導師の後に続いた。
浮島を歩いていると、結晶した石が多いのに気が付いた。地上では見られない鉱石だ。だが、無駄話をする機会はないようだ。二人とも黙って歩いているからだ。
ふと、龍は止まった。
『ここから先は小さき子だけで行ってもらう。用があるのは、その子供だけだから』
龍のコールが聞こえた。
宰相は何かを伝えている。だが、顔をゆがめた。
交渉は失敗したのかもしれない。
『小さき子よ。この先に長がいる。そこまで一人で行ってくれ。連れはなしだ』
僕は導師と宰相を見た。
「力がなくて申し訳ない。一人で行ってくれ」
宰相はいった。
「すまない。私も立ち会いたかったが、無理そうだ」
導師はいった。
「ん-。僕の問題でもありそうなので、責任を感じないでください。では、行ってきます」
僕は歩を進めた。
やがて、龍族が集まっているのが見えた。
数では二十を超すだろう。だが、僕を待つようにぽっかりと中心は空いていた。
僕は開いたところに進んだ。
『ようこそ、龍族の島へ』
目の前の白い龍のコールが届いた。
『初めまして。シオンといいます』
僕は答えた。
『小さき子よ。今回、君を呼んだのは他でもない。人族の滅びの危機が近づいていることを警告するためだ』
『話が見えません。どういうことでしょうか?』
『過去、人族は自分自身が作った魔術によって滅びかけた。その魔術を君は作っている。それゆえに君を呼んだ』
『コイルガンのことでしょうか?』
『違う。もう何年か前に作られている』
僕には思い当たる節はない。だが、龍は断定的に話している。知らぬ間に何か物騒なものを作ったのかもしれない。
『すいません。心当たりがありません。教えていただけませんか?』
『うむ。君の腹の中に作られている。そういえばわかるかね?』
腹の中といえば、仙道の要領で作った魔力の貯蔵庫だ。だが、それが危険だとは思えなかった。
『腹の中には魔力をためています。ですが、魔力の貯蔵量なら龍族であるあなたの方が多いと思います』
僕は答えた。
『ふむ。認識が違うようだね。私たちは魔力を貯蔵しない。普段は自然体で魔力をまとっている。魔力が必要ならマナを吸い込んで魔力に変える。だが、魔力として無理やり体内に貯蔵しない。わかるかな?』
『はい。普段は魔力を自然体で持っているんですよね。でも、魔力を必要とする時にマナを吸い込んで魔力にする。ですが、僕の考えでは、普段から魔力を体内にためて持っている方が、いざという時に対応できると思います』
『それが間違えだ』
白い龍でなく脇にいた龍が話に入った。
『よせ。この子はわかっていない。だが、理性はある』
脇にいた龍は不満そうに顔を背けた。
『我々が事前に魔力をためない理由がある。それは魔力が爆発物と同じで危険だからだ。マナを油に例えれば、魔力は揮発した燃焼ガスと同じだ。着火すれば爆発を起こす。だが、君はガスのまま体内にためて持っている。それは人間爆弾と同じだ』
シオンは意外な言葉に言葉が出てこなかった。
『今の君を殺せば、魔力が暴走して爆発を起こす。それは君の住む街を飲み込んで焦土に帰すだろう』
僕が死ぬと爆発する。理解ができない。
『君はこの世界の住人ではなかったから、本能が危険信号を出さなかったようだ。だが、君のしていることは危険なのだ』
僕が危険?
僕は危険を避けて生きてきたつもりだ。
『君は体が魔力に染まっている。それは龍族を越えるほど魔力に染まっている。だが、その小さい体にためているのは危険なのだ』
『……では、どうすればいいのですか?』
僕はきいた。
『君が死ななければいいだけだ』
『死ぬと爆発するんですか?』
『する』
『でも、魔力を放出すればいいだけでは?』
『それは無理だ。君の体が自然と魔力を求めてしまう。だから、意味はない』
僕の頭には疑問しかなかった。
『だが、他にも方法はある。爆発しないように体内で固めればいい。今は、気体の状態だが、固体にすれば、死んだ時に爆発はしない』
僕は解決策を聞いて顔を上げた。
『それなら、普通の生活に戻れますか?』
『できるだろう。だが、本題はこれからだ』
僕はわからず首をひねった。
『遠からず、君は魔力の貯蔵装置を作る。それは今の君のように爆弾になる。もちろん威力も同じだ。いや、それよりも強いだろう。だから、君に忠告しに呼んだのだ』
『それは予知ですか?』
『予知ではなく未来視だ。その力でわかった。だから、発明しても作らんで欲しい。滅んだ前の文明と同じ道を歩いて欲しくない』
『人族は滅んだんですか?』
『厳密には違う。少数は生き残った。そして、今は地に満ちて新しい文明を作っている』
『同じ轍を踏むのでしょうか?』
『人族が聡明なら繁栄するだろう。しかし、愚かなら滅びる。人類の未来は私にもわからん。ただ、人族には未来があって欲しいと思っているだけだ』
『なぜ、肩入れをしてくれるのでしょうか?』
『うむ。それはわからん。ただ、一生懸命に生きる命には、生きて欲しいという願望があるだけだ。特別視はしていない』
『それは特別視ですよ』
『ふむ。そうなのか?』
周りがざわめいた。
長がぼけたと騒いでいる。龍たちは騒いでいる。だが、笑い声が多かった。




