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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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龍と人間爆弾03

 数日後、伝令が来て登城した。

 なぜか僕は導師と一緒に謁見の間にいる。そして、問題になっていた話の審判をきいていた。

「前例がなく異例だったが、特許は二人のものとする。今後も同じようなことがあれば、連名でも受け付けるようにした。異存はないか?」

 宰相はいった。

「はい。ありません」

 導師はいった。

 宰相は僕を見る。なぜ見られているのかわからない。

「シオン。同じように答えろ」

 導師がボソッといった。

「はい。ありません」

 僕はあわてて答えた。

「うむ。盗作騒ぎはこれでお終いだ。二人ともさらなる精進を期待する」

 僕たちは頭を下げ退室した。

 あっけない結末に導師に尋ねた。

「今回は王の度量を見せたんだ。平民でも魔術の特許を取れると。……だが、謁見の間に平民はお前しかいない。だから、この話は貴族しか知らない。今後も特許は貴族が独占することになる。……まあ、特権を手放す貴族はいないということさ」

 納得できないが、この世界では仕方ないことのようだ。

「ところで、アナはどうなったの?」

「わからん。ベルルーティ侯爵はいなかったからな」

「そうですか……」

「お前が貴族の闇を見る必要はない。貴族でないお前は闇を見なくていい。貴族のことは貴族に任せろ」

「……はい」

 貴族の戦いは闇が深いらしい。僕がのぞくのは危険のようだった。


 新しい使用人は女の人だった。歳は二十三で、メイドらしく家事全般はできる。

 それに紹介先は導師の仲の良い貴族のようだ。身元はしっかりしているらしい。

「ノーラ・ロドリと申します。ノーラとお呼びください」

「私の家は他の貴族と違って決まりごとが違う。シオンにいわせると平民と似ているらしい。今すぐには慣れないだろうが、慣れるように」

「わかりました」

 ノーラは返事は堅かった。

「では、飯にしよう」

 導師がダイニングのテーブルに着くと、僕も席に座った。

 ノーラが怖い顔をして近づいてきた。そして、耳打ちする。

「下男なんだから、主人と同じ席についてはなりません」

 ノーラは席から降りるようにいった。

「構わん。それどころか、私の家では普通だ。私一人の食事では寂しいからな」

 導師はいった。

「ですが……」

 ノーラの判断は違うらしい。

「お前も食事を配ったら席につけ。これは主人の命令でもある」

 当然とばかりに導師はいった。

「使用人が主人と同じ席にはつけません」

「先ほどいっただろう。私の家は他の貴族と違うと。それに、使用人としての立場を理解していればいい。それ以外は私のわがままに付き合ってくれ」

「……はい。わかりました」

 ノーラはあきらめたようにキッチンから料理を運んだ。

 僕も手伝いにいったが拒まれた。落とさないか心配らしい。仕方なく、ノーラに任せて僕は席に着いた。

「……失礼します」

 ノーラは恐る恐るイスに座った。

「ノーラは貴族と同じ食事の経験ないのか?」

 導師はノーラにきいた。

「ありません。普段は主人の食事を見守っているだけです」

 ノーラは恐縮していた。

「まあ、それが普通だな。だけど、この家は違う。私がルールだからな」

「ですが、他の貴族様と会食する時に困りませんか?」

「今のところ、困ったことはない。この家に来る貴族はいないからな。あるとしたら私が行く時ぐらいだ。作法は学んだが、貴族のしきたりは堅苦しい」

「そうですか……。ですが、私はこんなに贅沢ぜいたくをしていいのでしょうか?」

「料理を作る時に味見をするだろう。その味見が多くなったと考えればいい」

「はあ……。努力します」

 ノーラの努力はメイドの仕事でなく、導師のルールに慣れるのに使われそうだった。


 書庫で魔術の本を読んでいるとノーラが入ってきた。

 ノーラは怒った顔をして近づいてくる。

「下男なのに、主人の書物を読んではダメよ」

 ノーラには僕のしていることは悪いことのようだ。

「僕は導師の魔術の研究を手伝うために雇われています。だから、書庫は導師がいなければ好きに使っていいといわれています」

「本当?」

 ノーラの理解を得られないようだ。

「では、導師にききましょう。それで、わかるはずです」

「ええ。いいわ」

 ノーラは挑戦を受けたように鼻息が荒くなった。

 ノーラを連れて移動し、導師の研究室のドアを叩いた。

「入れ」

 導師の声が聞こえた。

 僕は扉を開けて中に入った。

「どうした?」

 導師は並べた書類から目を離してこっちを向いた。

「書庫の件です。ノーラさんが理解してくれません」

 僕はいった。

「ん? どういうことだ?」

 導師にきき返された。

「下男でありながら、貴重な本を読んでいました。なので、注意したのですが、主人の許可はもらっているといっているのです」

 ノーラが僕の代わりに答えた。

「それなら、許可は出している。シオンは私の共同研究者だ。本を読んでもとがめることはない。そればかりか、新しい発想を出して欲しいと思っている」

 ノーラは僕と導師を見比べた。

「もしかして、シオン君は貴族ですか?」

「いや。平民だ。お前と一緒だよ」

「平民が魔術の研究ですか? この歳で?」

「ああ。シオンには特別な記憶がある。だから、雇っている。もちろん、それ以外にも理由があるけどな」

「記憶とは何でしょうか?」

 導師はクスリと笑った。

「その内にわかる。知りたければ、この家に慣れろ」

「はあ……」

 ノーラには導師のルールがわからないようだ。


 突然、研究室のドアが開いた。

 僕は入り口を見た。

「ご主人。大変です。龍族が攻めてきました」

 ノーラはあわただしげに研究室に入ってきた。

「そうなのか? それで外がうるさいのか?」

 導師は平静のままでいった。

「はい。逃げる準備をしてください」

 ノーラは急がせるが、導師はマイペースだった。

「早くしてください」

 ノーラは落ち着きなく行ったり来たりしている。

「落ち着け。龍族は人族に関わらない。関わる時は龍族にも関わる話がある時だけだ」

「ですが、城壁の外にいるようです」

「それで、何かしたのか?」

「いえ。そんな話はききません。ですが、攻撃してくるのは時間の問題です」

「それはないな。話の分かる国の重要人物を待っているだけだろう。平民に話して意味がないからな」

「ですが……」

 ノーラは落ち着くことはできなかった。

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