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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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龍と人間爆弾02

「その子に興味がある。話を聞きたい」

 王は静かにいった。

 宰相は言葉を受けて口を開く。

「買われたといったが、お前は奴隷か?」

「はい」

「それで、魔術の権利を売ったのか?」

「権利があるのですか? 特許が存在しているのですか?」

「特許はある。その特許を取れば自分を買い戻せるだけでなく、金に困らない生活ができるぞ」

「ですが、形にしたのは導師です。僕は前世で他人から習ったものを導師に伝えただけです。ほめるなら導師にしてください」

「金はいらんのか?」

「衣食住は満足しています。それに僕では新しい魔術を発表する機会はありません。ですので、僕が作ったと主張しても笑われるだけです」

「確かに貴族でない一般人が魔術を作っても、貴族の後ろ盾がないと盗られるだろう。ランプレヒト公爵。何かいうことはあるか?」

 宰相は導師を見た。

「あります」

「許す。話せ」

「まず、シオンは私の所有物ではなくなっています。契約によりその身は平民と同じです。魔術の完成でシオン自身の身は買い戻しています。そして、魔術は共同制作者として名前は連ねています。ただ、例外がないため書類は通っていません」

「そんなことはないわ。私は知っている。まだ、前世の記憶を教えろといっていたわ」

 アナは導師を指を指さしながらいった。

 アナは導師をなじっている。僕はアナの変わりように驚いた。

「そうなのか?」

 宰相は導師にきいた。

「はい。下男として雇い続けるつもりです」

「だが、奴隷から解放されたんだ。この子は家に帰すのが筋だろう?」

「そうなのですが、彼の両親に問題があります。母親は自殺で亡くなっています。そして、父親は商人として働いていますが、盗賊と通じています。シオンを売った金で商売を再開しましたが、失敗したのです。そして、裏稼業に手を染めています。ですので、シオンをそんな家庭には帰せません」

 導師は静かにいった。

 父が悪いことをしているとは想像もできていなかった。しかし、僕を売る時の顔を見れば納得はできる。父は犠牲を払うことにためらわなかったからだ。

「でも、魔術を自分の物と主張したのは変わらないわ。盗作なのは変わらないわよ」

 アナは叫ぶようにいった。

「黙れ。ここは謁見の間である。王の許しがなければ発言はできない」

 宰相はいった。

 だが、アナは騒いでいる。導師は盗作をしたと何度も繰り返している。

 宰相の近くの兵に合図を送った。

 兵は歩いてくる。だが、向かっているのはアナの方だった。

 そして、アナを掴む。アナは嫌がっていた。そして、ベルルーティ侯爵の名前を叫んでいた。だが、謁見の間から連れ出された。

 一時の騒動がやみ、沈黙が訪れた。

「シオンよ。お前はどうしたい?」

 宰相にきかれた。

 僕は考える。やりたいことはあった。

「あの空に浮かんでいる島に行ってみたいです」

 くすくすと笑い声が謁見の間に広がった。

 宰相も笑っている。

「そうではない。家に帰りたいかきいているんだ」

 間違えた。やりたいことをきかれたわけではなかった。

「今の生活を続けたいです。父には僕も商品に見えるようなので」

 父は怖い。自分のために他人を犠牲にするからだ。

「そうか、理解した。ランプレヒト公爵。何かいうことはあるか?」

 宰相は導師を見た。

「いえ。ないです」

「後日、使いを出す。それまでは謹慎しているように」

「わかりました」

 導師は頭を下げた。

 僕もならってあわてて頭を下げた。

「下がって良し」

 導師と僕は謁見の間から退出した。


 城を出て街を歩いている。

 導師は何も話さない。ただ下を向いて歩いている。

 話しかけづらい雰囲気に包まれているが、きかなければならないことがあった。

「……導師。アナは悪者だったんですか?」

 僕はきいた。

 導師はピクリと頭が動いたが歩き続けた。

 いいたくないようだ。きかない方がいいらしい。

 僕は導師の後を歩いた。

「……アナはな。悪いというか私の敵の仲間だった。つまり、ベルルーティ侯爵のスパイだ。私をよく思わない公爵がベルルーティ侯爵を使ったんだろう。まあ、これも貴族の戦いだ。わかっていたんだが、どうも哀れに思えてな。ズルズルと雇ってしまったよ。だが、あんな形で別れるのは不本意でな」

 そういった導師の顔は暗かった。

 導師はアナを嫌っていなかったようだ。だが、アナは導師を告発する機会を待っていたようだ。それを含めて導師は雇っていたようだ。

 飼い犬に手を噛まれたといえば早いが、そう簡単に割り切れないのだろう。

 僕はというと、アナとは会えないという実感がない。さよならしたとは思っていない。だが、頭ではもう会えないのは理解していた。

「さて、今日の飯は外食だ。料理を作る人間がいない。お前は作れるか?」

 導師の顔には先ほどまでの暗さはなかった。

「……たぶんですが、レシピがあれば作れます。でも、包丁で切るのは苦手なので、料理に時間がかかってしまうと思います」

 前世で自炊は時々していたのを思い出した。

「アナがメモでも残してくれていたらいいが、期待はできないな。だが、メモがあっても、すぐにでも新しい使用人を雇わないとならん。まあ、それまではガマンしてくれ」

「美味しければ、何でもいいですよ」

 僕は答えた。

「なら、助かる。……それと、もうお前は奴隷ではない。帰りたくなったら帰っていいぞ」

 実家に帰れということだろうか?

 僕は判断に迷った。

「それって、クビですか?」

 僕はきいた。

「違う。私はお前を放り出す気はない。それどころか新しい魔術のためにはお前の知識が必要だ。だから、私に雇われていて欲しい。だが、お前は奴隷ではなくなった。今は自由の身だ。私が強制的に引き止めることができないんだ」

 導師は苦笑いをしていた。

「お城でもいいましたが、やめるつもりはないですよ。それどころか放り出されたら生きていけません」

「ん? そうか? お前なら生きていけるだろう?」

 導師は首をかしげた。

「僕はまだ六歳ですよ。もうすぐ七歳になりますけど」

「そうだったな。お前と話していると歳を忘れる。前世の知識も考えものだな」

「はい。でも、自意識が芽生える九歳か十歳には、前世を忘れているかもしれませんよ」

「それはないな。今のお前には自意識がある。ただ、時間で忘れないようにしていればいい。紙を渡す。思い出したことは書き留めてくれ」

「わかりました。あっ。クレヨンを作ってください」

「何だ? クレヨンとは?」

「ろうに顔料を混ぜて作った棒です。それで、インクではなくこすり付けるだけで字が書けます」

「試作してみよう。もちろん手伝ってくれるな」

「はい」

 導師を見ると、もう陰りはなくなっていた。その代わり、いつものように僕の言動にあきれた苦笑いをしていた。

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